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しおりを挟む向かう先は実験室じゃない。二段飛ばしで階段を駆け上がり、鉄扉を開く。
熱風が僕の顔にかかり、汗が滲んだ。足は自然と屋上の縁へと向かっていた。霞む視界の中、アスファルトが揺れている。
「ホッシーじゃん。どうしたの?」
背後からなーこの声がする。それでも僕の足は止まらない。
「ねぇーってば、どうしたの? なんか変だし」
不安を滲ませた、なーこの声がすぐ近くに聞こえる。
憎らしい程に眩しい光がすぐ近くに迫る。屋上の縁で足を止め、眼前を見下ろす。すぐ下には校庭が広がり、奥には校門が見えた。
一番最初に来た時には届かなかった景色が今、すぐ目の前に迫っていた。
「僕は幽霊なんだ」
「えっ」
なーこの戸惑う声が背後でした。
「みんなが僕をそう呼んでる。だからホンモノになったとしても、誰も驚かないし、そうあるべきなんだ」
「なに言ってんの?」
「だったら、僕はずっとここにいたい。あんなところで彷徨って、都合の良いときだけ現れる存在でいたくなんかないっ」
僕は叫ぶ。涙が止めどなく溢れ出していた。
頬から滑り落ちた粒達が、途中で存在を消す。落ちていくところは見ていない。だけど行く先は僕も同じ場所だ。
「僕も、二人とずっと一緒にいたいっ」
きっと、なーこも眼鏡くんも受け入れてくれるはずだ。
今が一番楽しいとなーこは言っていた。僕が楽しいと言ったら、嬉しいとも言ってくれた。
あの教室に戻るぐらいだったら、僕はこのままこの場所に呪縛霊として存在する方がマシだ。
地面を見下ろす。
不思議と怖くない。ただ、頭がクラクラするぐらい熱くて、沸騰してるみたいだった。
一歩踏み出そうとした僕に、「ばっかじゃないのっ」となーこが叫んだ。
「ホッシーがこんなに馬鹿だって、思わなかった。ばかばかばか」
なーこの声が震えていた。最後に言った馬鹿は掠れていて、僕は振り返る。
なーこは泣いていた。目を真っ黒にして。ぐちゃぐちゃになるのも構わず、目元を擦っている。眼鏡くんがなーこのすぐ隣に立っていて、僕を険しい目で見ていた。
「ホッシーは間違ってる。あたしは死んで良かったなんて、一度も思ったことないし」
僕は愕然として、立ち尽くす。
何か大きな勘違いをしている。そしてそれは、自分の思っている以上に最低な事だった。
「ずっとここにいたいとも思ってないし。早く生まれ変わって、好きなこといっぱいしたい。マリトッツォも食べたいし、クリーム入りのメロンパンも食べたいんだからっ」
それからなーこが、僕の腕を掴もうと勢いよく手を伸ばす。だけど、どんなにチャレンジしても、僕の腕をすり抜け空を掴んでしまう。
「それにあたしたちは、ホッシーが落ちていくのをただ、見ているしか出来ないんだよ。友達が落ちていくのを止められない、あたしたちの気持ちが分からないの?」
ホッシーのバカ。
もう何度目か分からない馬鹿という言葉を繰り返し、なーこが走り去って姿を消す。
眼鏡くんと僕だけが取り残される。僕は足元に視線を落とした。
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