青空サークル

箕田 はる

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「ホッシーって、そんな風に思ってくれてたんだぁ」
 なーこが大袈裟なぐらいに目を大きく見開き、口に手を当てた。
「全然そういう風に見えなかったから、実は嫌だったんじゃないかって」
「そんなことはないよ……初めて学校に行きたいと思えたから」
「そうなんだぁ。あたしも今が一番楽しいかも。生きてた時も楽しかったけど、死んだ後にそう思えるって、凄くラッキーだし」
 僕はなーこの一言に、はっとした。すっかり忘れていたけれど、二人は死んでいるのだ。
 僕が卒業したら、もう二度と二人には会えない。それも一生だ。その事実に気付かされ、僕は強烈な寂しさに襲われていた。
「どうしたの? ホッシー」
 なーこが首を傾げる。眼鏡くんは黙ったまま、僕を見つめてくる。
「……なんでもない」
 屋上の縁を見て僕は答えた。
 次が理科で実験室への移動がある為、僕は早めに教室へと戻った。
 ドアを開けると、教室が何だか騒がしい。嫌な胸騒ぎに、僕の足は入り口で止まった。
 みんなの視線が僕に向けられ、その目に好奇の色が混じっている。
 今度は何だろうか。過去に僕が唯一、エキストラとして出演しているドラマがバレたのだろうか。
 とにかく僕は自席に向かった。
 立ち止まってしまえば、まるで自分が注目されていると自ら言っているようなものだからだ。それに自意識過剰の可能性だってある。
 だけど僕の悪い想像は正しいようで、ザワつく教室内でのみんなの視線は僕を捉えていた。
 そして僕が席に座るなり、前の席の賀成が戸部との会話を切り上げて、横向きのまま僕の方に顔を向けてくる。
 戸部も嫌な笑みを貼り付けたまま、僕の方を見ていた。
「なぁ、星河 トップって弟?」
 全員が成り行きを見守っているようで、さっきまでの雑音は消え去り静まり返っていた。
 どうやらこのクラスは僕を除いて、みんな一致団結しているようだった。この一時間足らずの間に流布し、みんなが周知の事実へと変わるのだから。
「月九ドラマに出てんじゃん。ちょい役なのに、注目されてて調べたら、星河って名字も一緒だし、もしかしてって思ってさぁ」
 黙っている僕に、賀成がさらに重ねる。
「もしそうなら、遥菜はるなが好きみたいだからサインとか貰ってきてくれると、助かるんだけど」
 賀成の視線が、三人組で固まっている女子グループに向けられる。机に座っている遥菜という子が、両手を合わせて「お願い」と口を動かす。
「すげーよな。お前の弟。SNSとかでも、話題に上がってるしさ。てか、お前も眼鏡外して、髪型とか整えれば――」
「ふざけんなっ」
 僕は大声で叫んでいた。堪えきれない感情が爆発し、気付けば両手を机に叩きつけていた。
「僕は幽霊なんだろ。みんなから見えない存在じゃなかったのかよ」
 握った拳が震えていた。目に力を込めていないと涙が溢れそうになる。
 予鈴が鳴る。それでも僕は教室を飛び出していた。
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