4 / 67
4
しおりを挟む化粧品メーカーに就職して2年。
碧は24歳になり忙しい毎日を送っていた。
ようやく営業の仕事も慣れてきた頃、営業を担当している化粧品ブランドの年に一度行われる泊まりがけの表彰式パーティーに碧は来ていた。
(またまだこれには慣れないな~)
昼から夕方までは勉強会や、役員達による挨拶や年度の売り上げ報告などをし、夜からは食事会と表彰式などが行われるのだ。
営業の自分は表彰式の準備や挨拶回りなどでバタバタしていた。
やっと夜になり食事会が始まりゆっくりできた。
「成田くん、お疲れ。疲れたよね?さ、飲んで」
声かけてくれたのは隣に座る同じ営業の上司である日並さん。
30代後半でガタイのいい日並は碧に優しく指導してくれる優しい上司だ。
「日並さんもお疲れ様です!」
日並さんはコップにお酒を注いでくれ、碧も日並さんのコップにお酒を注ぐ。
そしてテーブルにいる同じ営業の同期や上司と世間話や近況などを話す。
表彰式はもう半ばまで進んでおり、個人売上の表彰まできていた。
「今年も個人売り1位は影山くんかな~?」
と日並が言う。
ちらっと彼の方をみる。
肩につくかつかないかのゆるいパーマのかかった黒髪をハーフアップにし、同じ店舗のスタッフと歓談しながらお酒を飲んでいた。
影山朝也は都内の人気路面店の副店長であり、ブランド専属のメイクアップチームの筆頭アーティストでファッションショーなどでも活躍している。
腕はもちろんだが、影山朝也は顔もかなり男前なのだ。キリッとした切れ長の二重とスッとした鼻に薄い唇。クールな印象にみえる彼だが中身は優しく丁寧だそうで大人と言う感じだ。
そして175cmある碧でも少し見上げる180cmを超えるだろう身長の彼は芸能一家に育った自分でもドキッとさせる美貌で魅力的だ。
まだ2年目の碧は都内の数店でしか担当はしていないのでシーズントレーニングや本社などで会った時に挨拶くらいしか関わりはないのだが、毎回会う度にじっと見つめられ時があって妙な気持ちになるのだ。
彼の方をぼーっと見ていると視線を感じたのかバチっと目が合ってしまった。
笑顔でぺこっとお辞儀をされて内心焦りながら丁寧にお辞儀を返し視線を外す。
(びっくりした~相変わらずかっこいいな…)
まだあちらから視線を感じるが気づいていないフリをする。
(俺なんか変な事したかな?)
と思いつつパーティーを楽しんでいた。
そのまま表彰式が進みついついお酒を飲んでしまっていた。
(まずいな、飲み過ぎた…少し気持ち悪い…)
表彰式は終わりに近づき個人売上の発表をしている。
そして個人売上1位は予想通り影山だったのだ。
表彰台にあがり社長から記念品をもらい写真撮影をしている。
「影山かっこいいな~、でも女の噂聞かないな~」と日並が言う。
「確かに。そうっすねー」「選り取り見取りだろうに。」「付き合って長い彼女とかいるんじゃない?」とかそれぞれにテーブルにいる皆が話していた。
(どんな人と付き合ってるんだろう。なんか恋愛してる姿想像できないな。)と碧は思っていた。
(彼はどんな愛情表現をするんだろう。)
そんな事を考えていると
「成田も人気だよな~お前みたいな綺麗な男なかなか見ないよ。よく女性スタッフにお前に彼女がいるか聞かれるよ。」
急に自分の話になりびっくりした。
「確かに、お前どうなんだよ。お前自分の事あんまり話さないよな。」と同期に言われる。
「仕事に忙しくて恋愛してる余裕ないですよ。」と当たり障りなく返す。
「なんだよ~もったいないな~」と皆からからかわれる。
正直、ゲイなのを自覚してもなかなか自分を認められず恋愛やらを避けてきた。
そもそも自分に好きな人ができるのだろうか。
そして好きって言えるのか。
取り繕ってばっかの自分を好きになってくれる人はいるのだろうか。
(まだまだ自分には難しいな…)
そうこうしてるうちに表彰式は終わりを迎えまだ飲みたい人は2次会へ向かう。
次の日も店舗スタッフはメイクトレーニングの日程があり、営業や本社スタッフはミーティングなど朝から忙しい。
なので2次会は自分の判断で休みたい人は会場のホテルに戻っていいのだ。
泊まりがけの表彰式なので2人1部屋の同室で営業の碧は上司の日並と同じ部屋だった。
日並はお酒好きなので2次会に行くようだ。
(俺は部屋に戻ろう…明日の為に早く寝よう)
「日並さん、俺先に戻って休みますね。」
と一言声をかける。
「おー、気をつけて戻れよ。俺朝まで飲むかもしれないしゆっくりしろよ。」
(日並さん、元気だな。俺には無理だ。)
ご機嫌の日並さんを見送り碧は部屋に戻った。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる