【完結済み】追放された貴族は、村で運命の愛を見つける

ゆうな

文字の大きさ
上 下
79 / 80

第79話:最後の試練、未来への選択

しおりを挟む
 使節団が去った後、村は再び静けさを取り戻していた。リリアナは自室で静かに考え込んでいた。過去との完全な決別――それは彼女が長らく抱えていた心のしこりを解き放つ瞬間でもあった。しかし、彼女の心の中には、まだ完全には消えない不安の影が残っていた。

(本当にこれで良かったのかしら? あの国を見捨てることで、私の選択が間違っていたと後悔することはないのか……)

 彼女はすでに自分の決断に迷いはないと何度も言い聞かせてきたが、その胸の奥にわずかな疑念があることは否定できなかった。故国は確かに彼女を裏切ったが、それでも、あの国で育った彼女にとって、それは決して無関係ではない場所だった。

 その夜、リリアナはなかなか眠れずにベッドに横たわっていた。窓の外には、淡い月明かりが差し込んでいる。風が穏やかに吹き、外の静けさが彼女の耳に心地よく響いていた。だが、その静けさとは裏腹に、彼女の心の中は騒がしいままだった。

(セスがいてくれる……それだけで私は強くなれる。でも……)

 ふと、リリアナはベッドから起き上がり、窓の外に目を向けた。彼女が見つめる先には、村全体が静かに眠りについている光景が広がっていた。村の人々が安全に過ごしていること、それが彼女にとっての最大の安らぎであり、使命でもあった。

(私はこの村を守ると決めた……そのためには、セスと共に全てを賭けるわ)

 リリアナはもう一度、そう心に誓いながら、静かに深呼吸をした。彼女は、過去を捨てることで未来を選び取ったのだ。その選択を信じて、今は前に進むしかない。

 翌朝、リリアナは広場に向かった。村の防衛体制を確認し、村人たちが日常を取り戻している様子を目にしたことで、彼女の心に少しずつ安堵が広がっていった。セスはすでに広場に立っており、村の人々と話をしていた。彼の姿を見ると、リリアナは自然と微笑みがこぼれた。

(セスがいる。それが私にとって、どれだけ心強いことか……)

 彼女が近づくと、セスもリリアナに気づいて歩み寄ってきた。彼の穏やかな笑顔は、リリアナにとって心の支えそのものだった。

「リリアナ様、村は落ち着きを取り戻しています。皆、あなたが守ってくれると信じているんです」

 セスの言葉に、リリアナは胸が熱くなった。彼がそばにいてくれることで、彼女は何度も自分の力を信じることができた。

「ありがとう、セス。私も皆を信じているわ。これからも、もっと強くなっていかなければいけないわね」

 リリアナはそう言いながら、セスに向かって微笑んだ。だが、彼女の胸の奥には、まだ何かが解決されていない感覚が残っていた。

 その時、村の外から再び異変が起こった。遠くの山から、またしても黒い煙が立ち上り、風に乗って村に迫ってきた。リリアナの心臓が一瞬大きく跳ね上がった。昨日の使節団が去った後、何も起こらないと信じていたのに――再び不穏な兆しが訪れたのだ。

(また……何が起こるの?)

 リリアナはすぐに村の入り口に向かい、セスも彼女と共に駆け出した。二人は村の門の前で立ち止まり、遠くの黒い煙を見つめた。その中に何が潜んでいるのか――それはまだ分からなかったが、ただならぬ気配が漂っていることは確かだった。

 煙の中からゆっくりと現れたのは、巨大な影だった。それは前日の怪物とは異なり、人間のような姿をしていたが、その体は不自然に大きく、異様な雰囲気を醸し出していた。リリアナはその姿を見た瞬間、胸に警戒心が高まった。

「これは……ただの敵ではない。もっと大きな力が働いている」

 リリアナはすぐに魔法の力を呼び起こし、セスに向かって指示を出した。

「セス、私はこの敵と直接対決するわ。あなたは村の守りを強化して。村にこれ以上被害を出すわけにはいかない」

 セスは一瞬戸惑いの表情を浮かべたが、リリアナの強い決意を感じ取り、すぐに頷いた。

「リリアナ様、気をつけてください。僕はいつでもあなたのそばにいますから」

 その言葉に、リリアナは胸が温かくなった。彼がそばにいることが、彼女にとって何よりも大きな力になっていることを感じた。

 リリアナは静かに深呼吸をし、自分の中にある魔力を高めた。彼女の手のひらから光が放たれ、その力がさらに強まっていくのを感じた。目の前にいる巨大な敵は、その力に気づいたかのように、一瞬動きを止めた。

「私は、この村を守るために戦う。過去には戻らない……私は、未来を選ぶわ」

 リリアナの声は冷静でありながらも、強い決意が込められていた。彼女の中には、もう迷いはなかった。彼女はこの村を守り、セスと共に未来を切り開くために戦うと決めたのだ。

 巨大な影がリリアナに向かって動き出した。彼女はすぐに反応し、魔法の力を放った。その光が敵に直撃し、彼の動きを鈍らせたが、それでも完全には止まらなかった。リリアナはさらに力を込め、次の一撃に全てを賭ける覚悟を決めた。

(私の力を信じる……そして、セスとの未来を信じる。それが私の使命よ)

 彼女は両手を広げ、全ての魔力を集めた。その瞬間、彼女の体から放たれた光が眩いばかりに輝き、敵の体を包み込んだ。巨大な影が悲鳴を上げると共に、その姿は徐々に消え去り、風のように消散していった。

 リリアナは息を切らしながら、その場に立ち尽くしていた。彼女が倒れかけた瞬間、セスがすぐに駆け寄り、彼女の体を支えた。

「リリアナ様、大丈夫ですか?」

 セスの声に、リリアナはゆっくりと頷いた。彼の優しい声と温もりが、彼女に再び力を与えてくれた。

「ええ、私は大丈夫。あなたがいてくれるから……」

 リリアナはそう言いながら、セスの腕の中で安堵の息をついた。彼がそばにいることで、彼女は再び立ち上がることができた。

 村に戻ると、村人たちはリリアナとセスに感謝の言葉を送り、彼らの勝利を喜んでいた。村は再び平穏を取り戻し、リリアナの心の中にも、ようやく安らぎが広がっていった。

(これで、本当に全てが終わったのかもしれない……)

 彼女はそう感じながら、セスと共に村の広場に立ち尽くしていた。二人の未来には、もう迷いはなかった。リリアナは過去と完全に決別し、今度こそセスと共に新しい未来を歩んでいく決意を固めていた。

 その夜、リリアナはセスと共に夜空を見上げていた。星々が輝き、風が静かに吹き抜ける中で、彼女はこれまでの全てを振り返り、感謝の気持ちを抱いていた。

「セス……私は、本当にこれで良かったのかしら?」

 リリアナの問いに、セスは静かに微笑んで答えた。

「リリアナ様、あなたの選択は間違っていません。あなたが過去を捨て、未来を選んだからこそ、僕たちはこうして一緒にいることができるんです」

 その言葉に、リリアナは再び胸が温かくなった。彼がそばにいてくれることが、彼女にとって何よりの支えであり、幸せだった。

 リリアナはセスの手をそっと握り、微笑んだ。

「ありがとう、セス。あなたと共に未来を選ぶことができて、本当に良かったわ」

 その言葉に、セスは優しく頷いた。

「僕もです、リリアナ様。これからも、ずっとあなたと共に歩んでいきます」

 二人はそのまま夜空を見上げ、静かに未来への決意を新たにした。リリアナはもう過去に囚われることなく、セスと共に新しい未来を築くことを誓っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...