【完結済み】追放された貴族は、村で運命の愛を見つける

ゆうな

文字の大きさ
上 下
67 / 80

第67話:覚悟の光、新たなる決意

しおりを挟む
 湖を後にしたリリアナは、ゆっくりと村に向かって歩きながら自分の心を見つめ続けていた。自分の中に何かが目覚めた――そう感じたのはほんの一瞬だったが、その感覚は確かに彼女の中で新しい力の兆しとなって残っていた。

(これが、私の力なの?)

 リリアナは自問自答しながら、村の景色が少し違って見えるような気がした。今までは、何か大きな責任感に押し潰されそうだった。しかし、今は違う。彼女は自分の中に力を感じ、それを信じ始めていた。

 村に戻る頃には、夕陽がオレンジ色の光を村全体に投げかけていた。リリアナはふと立ち止まり、夕陽に照らされた村を見つめた。

(私はこの村を守るためにいる。これからも、ずっとここでみんなと一緒に戦っていく……)

 その決意が彼女の心の中にしっかりと根を下ろし、リリアナは今まで以上に強くなった自分を感じた。

 村の広場に戻ると、リーダーがすぐにリリアナに気づき、彼女のもとへ駆け寄ってきた。彼の表情はどこか緊張感を帯びており、何かがあったことをリリアナはすぐに感じ取った。

「リリアナ様、お帰りなさい。実は、少し問題が起きまして……」

 リーダーの言葉に、リリアナは静かに頷きながら話の続きを待った。

「森の方で、また新たな異変が確認されました。どうやらあの影が消えた後も、まだ完全に解決していないようなんです。村の周囲にも不穏な気配が漂い始めていて、村人たちが不安を感じ始めています」

 リリアナの胸に再び緊張が走った。あの影との戦いが終わったと思っていたが、森にはまだ何かが潜んでいる。彼女はその事実に直面し、再び覚悟を決めなければならないことを感じた。

「分かりました。私たちでその異変を確認しに行きましょう」

 リーダーはリリアナの冷静な返答に安心したように頷いたが、その表情にはまだ不安が残っていた。リリアナも同様に、完全には安心できないまま準備を始めることにした。

 その夜、リリアナは自室に戻り、心を静かに落ち着かせていた。彼女は森での新たな異変に備えて、明日セスと共に行動することを決めていたが、同時に自分がもっと強くならなければならないという思いが彼女を支配していた。

(私はもっと自分の力を信じていいのよね……でも、それをどうやって引き出せばいいのか)

 リリアナはベッドに横たわりながら、目を閉じて考え込んでいた。彼女の心の中では、自分自身の力をどうやって活かしていけばいいのかという迷いが渦巻いていた。

 その時、ふとセスの顔が思い浮かんだ。彼がそばにいることで、彼女は確かに力を感じている。しかし、今求められているのは自分自身の力。セスとの絆は強いが、それに頼りすぎてはいけない――そう思いながらも、彼が自分に与えてくれる安心感は何よりも大きかった。

(彼と一緒にいると、心が落ち着くわ。でも、今はそれだけじゃ足りない……私は、私自身の力を信じなければならない)

 リリアナはその思いを抱きながら、静かに目を閉じた。明日、何が待っているのかは分からないが、彼女は自分の力を試す時が来たことを感じていた。

 翌朝、リリアナは早くから準備を整え、セスを呼びに行った。彼もまたすぐに準備を終え、リリアナのもとに駆け寄ってきた。

「リリアナ様、今日は何か手伝えることはありますか?」

 セスの真剣な表情を見て、リリアナは微笑んだ。彼の存在が、今は何よりも心強かったが、同時に彼女は自分の力で戦わなければならないことも理解していた。

「セス、今日は一緒に森へ行きましょう。また異変が起こっているみたいなの。でも、今回は私が先に立って戦いたいの」

 セスは一瞬驚いたようだったが、すぐに彼女の意図を理解したようで静かに頷いた。

「分かりました、リリアナ様。僕はあなたのそばでサポートします。でも、何かあったらすぐに言ってくださいね」

 リリアナはその言葉に感謝しながらも、今回は自分の力を試す時だと心に誓った。彼女は、セスが自分を守りたいという思いを感じつつも、自分自身で戦うことが必要だと強く感じていた。

 二人は森の入り口にたどり着き、再びその不穏な空気を感じた。森は静まり返り、まるで何かが待ち伏せしているかのような異様な雰囲気を漂わせていた。リリアナはその空気に負けないよう、深く息を吸い込んで心を落ち着かせた。

「行きましょう、セス。私たちでこの森の異変を解決するのよ」

 リリアナは静かにそう言い、セスと共に森の奥へと足を進めた。木々の間を抜けるたびに、その静けさが次第に重くのしかかってくるのを感じた。風の音もなく、まるで時間が止まってしまったかのような感覚だった。

 やがて、二人は森の奥にある開けた場所にたどり着いた。そこには前回と同じような黒い影が漂っており、その存在感が以前よりもさらに強まっているように感じられた。

(これが……原因なの?)

 リリアナはその影に目を凝らしながら、再び心を引き締めた。今回はセスに頼らず、自分の力でこの異変を解決しなければならない――その決意が彼女の胸に強く宿っていた。

「リリアナ様、気をつけてください。この影は以前のものよりも強力に見えます」

 セスの声が聞こえたが、リリアナは静かに頷くだけだった。彼女の心の中には、すでに強い覚悟ができていた。影が再び動き出した瞬間、リリアナは一歩前に進み、自分の魔力を集中させた。

 彼女の手から放たれた光の奔流が影に直撃した。しかし、影は前回よりも強く、その一撃では完全に消滅させることができなかった。リリアナはさらに力を込め、もう一度強力な魔法を放った。

 その瞬間、影が一瞬だけ大きく揺れ、まるでその姿を歪ませるかのように動き出した。しかし、完全に消えることはなく、再びリリアナに向かって攻撃を仕掛けてきた。

「リリアナ様、後ろへ!」

 セスが叫び、彼女を守ろうと動いたが、リリアナは冷静にその攻撃をかわし、自分の力を信じてさらに前へと踏み出した。彼女はこれまで以上に自分の力を信じ、影に向かって全力で魔法を放った。

 リリアナの全力の一撃が影に命中し、ついにその存在が消え去った。森には再び静けさが戻り、リリアナは静かに息を整えながらその場に立ち尽くしていた。彼女は自分の力で戦い抜いたことに対して、今までにない達成感を感じていた。

「リリアナ様……素晴らしかったです」

 セスが彼女に近づき、優しく微笑んだ。その表情には、リリアナに対する深い信頼と尊敬の念が込められていた。リリアナはその言葉に頷きながら、セスの存在に感謝しつつも、自分が一歩前進したことを強く実感していた。

「ありがとう、セス。これで一つ、私も強くなれた気がするわ」

 リリアナは静かにそう言いながら、セスと共に森を後にした。彼女の心の中には、これまでにないほどの自信と力が満ちていた。そしてその力は、彼女がこれからも村を守り、セスと共に未来を歩んでいくために必要なものだと確信していた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...