【完結済み】追放された貴族は、村で運命の愛を見つける

ゆうな

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第63話:決意と試練、愛が強さに変わる時

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 翌朝、リリアナは目を覚ました瞬間、昨日セスと話した言葉が胸の中で生々しく蘇った。彼が自分を支えたいと言ってくれたこと、そして、共に村を守るために戦っていきたいと言ってくれたこと――その全てが、リリアナの心を大きく揺さぶっていた。

(私は彼と共に歩んでいくと決めた……でも、私に本当にできるのかしら)

 不安が完全に消えたわけではない。村を守るという大きな使命と、セスに対する深い愛情、そのどちらも彼女にとってかけがえのないものであり、どちらも譲れない――だからこそ、彼女はそれをどう両立させるべきか、まだ完全には答えが出せていなかった。

 リリアナはベッドを降り、窓から朝の村の様子を見下ろした。村人たちは今日もそれぞれの生活を営んでいる。リリアナが守るべき平和が、こうして日常の中に息づいている。それを見るたびに、彼女の使命感が強く胸に迫った。

(私は、この村を守らなければならない。それが私に課された役割……)

 リリアナは自分に言い聞かせるようにそう思いながら、深く息を吐いた。セスと過ごす時間が増えるたびに、自分の気持ちは少しずつ変わってきているのを感じる。彼と共にいることで、心が安らぎ、力が湧いてくる――それは確かに感じている。

(でも、それが本当に正しいのかどうか、まだ分からない)

 心の中でその葛藤が渦巻き続けている。彼女は、自分が村を守るという使命をどこまで貫けるのか、そしてそれがセスとの関係にどう影響するのか、答えを探し続けていた。

 その日の午後、リリアナは診療所に向かった。診療所にはエマがいつも通り、優しい笑顔でリリアナを迎えてくれた。エマはリリアナの顔を見て、何かを感じ取ったようだったが、あえてすぐには問いかけなかった。リリアナが話すのを待っているようだった。

「エマ、少し話を聞いてもらえるかしら」

 リリアナが静かに切り出すと、エマは頷いて椅子に腰を下ろした。彼女の優しい眼差しが、リリアナの心を少しだけ落ち着かせてくれた。

「もちろんです、リリアナ様。どんなお話でもお聞きしますよ」

 リリアナはしばらくの間、どう言葉にすればいいのかを考えていたが、やがて口を開いた。

「セスと過ごす時間が増えるにつれて、私の心の中で何かが変わってきているの。それが愛だということは分かっているわ。でも……私はこの村を守るためにここにいる。それが私の使命。セスと一緒にいることで、私がその使命を果たせなくなるんじゃないかって、不安なの」

 エマはその言葉にじっと耳を傾け、静かに頷いた。彼女はいつも、リリアナの心の中にある迷いや不安を的確に見抜き、それを温かく受け止めてくれる存在だった。

「リリアナ様、その気持ちはとても自然なものだと思います。あなたが村を守るために生きてきたのだから、今、セス様との関係があなたの使命に影響を与えるのではないかと感じるのは当然のことです」

 エマの言葉は、リリアナの心に深く染み込んだ。彼女が感じている不安や迷いを、エマは理解してくれている。リリアナは少しだけ肩の力を抜き、続けて話した。

「私は、セスを愛しているわ。でも、その愛が私を弱くしてしまうんじゃないかって、怖いの。村を守るためには、強くなければならない。それなのに……」

 リリアナの声は次第に弱くなっていったが、エマは彼女の手をそっと握り、力強い言葉で励ました。

「リリアナ様、愛は決して弱さではありません。むしろ、愛することであなたはもっと強くなれるんです。セス様と共にいることで、あなたが持つ力はさらに大きくなるはずです」

 その言葉に、リリアナは驚いた。エマは、リリアナが感じている愛が彼女を強くするものだと信じている。リリアナはその可能性について、今まで深く考えたことはなかった。しかし、エマの言葉に少しずつ希望が見えてきた。

「強くなれる……私がセスと共にいることで?」

 エマは頷き、優しく微笑んだ。

「はい、リリアナ様。あなたはこれまで一人で多くのことを背負ってきました。でも、セス様があなたのそばにいることで、あなたの力は分かち合えるんです。それが愛の力です」

 リリアナはその言葉に胸が熱くなった。セスと共にいることで、自分がもっと強くなれるという可能性が見えてきたのだ。

 その夜、リリアナは再びセスと会うために村の外れに向かった。彼女の心の中には、エマの言葉が響き続けていた。愛が自分を強くする――その考えが、リリアナの中で少しずつ現実味を帯びてきていた。

 セスが待っていたのは、村の端にある小さな丘だった。彼はリリアナの姿を見つけると、すぐに微笑んで彼女を迎え入れた。

「リリアナ様、今日も来てくれてありがとう」

 セスの優しい声が、リリアナの心を温かく包み込んだ。彼の存在が、今や自分にとってどれほど大切なものになっているか、リリアナは改めて感じていた。

「セス、今日は……私の気持ちを伝えたくて来たの」

 リリアナは静かにそう言い、彼の方に向き直った。彼女の瞳には、真剣な決意が込められていた。

「私は、あなたのことを本当に大切に思っているわ。そして……あなたと共に歩んでいくことを決めた。でも、同時に私には村を守る使命がある。それを果たさなければならない」

 セスはリリアナの言葉に耳を傾け、静かに頷いた。彼はリリアナが抱えている使命を理解していたし、その使命に対する彼女の強い思いもよく分かっていた。

「リリアナ様、あなたの使命は重いものだと分かっています。でも、僕もあなたと共にその使命を果たしたい。あなたが一人で背負う必要はないんです。僕があなたのそばで共に戦います」

 セスの言葉に、リリアナの心は大きく揺れた。彼が自分と共に戦う決意を持ってくれている――それが何よりも心強かった。彼と一緒にいることで、自分の力がさらに大きくなる――その可能性を、今は確かに信じることができた。

「ありがとう、セス。あなたがそばにいてくれることで、私はもっと強くなれる気がするわ。これからも、あなたと共に村を守っていく」

 リリアナは静かにそう言い、セスの手をそっと握りしめた。彼の手の温もりが、彼女の心に安らぎと力を与えてくれた。

 二人は夜空を見上げ、星々が輝くその景色を共に眺めていた。彼らの間には、言葉にしなくても伝わる深い絆が確かに存在していた。そして、その絆がこれからも彼らを強く結びつけていくのだと、リリアナは信じていた。

(私は彼と共に生きていく……それが私の選んだ未来)

 リリアナの心には、セスに対する愛情と、村を守るための使命がしっかりと結びついていた。そして、その両方を共に持つことで、彼女はこれまで以上に強くなれる――その確信が、彼女の中で揺るぎないものとなっていた。
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