【完結済み】追放された貴族は、村で運命の愛を見つける

ゆうな

文字の大きさ
上 下
45 / 80

第45話:選ばれし者の道

しおりを挟む
 リリアナは、祠の前に立っていた。彼女の手には、まだ冷たく光る「命の石」が握られている。その石に込められた力は、間違いなく村を救うものだ。しかし、使えば使うほど彼女の命が削られていく――それが、この石の恐ろしい代償だった。

 風が静かに森を吹き抜け、リリアナの髪を揺らす。彼女は深呼吸をし、心を落ち着かせようとした。謎の人物の言葉が、彼女の胸の中に深く刺さっていた。

(この石を使わずに、村を救う方法……本当にそんな道があるのだろうか?)

 リリアナはその問いを胸に抱えながらも、まだ答えを見つけることができずにいた。命の石の力は確かに強大だが、彼女が求めているのは、村を守るための犠牲ではない。彼女が望むのは、誰もが無事に、そして平和に暮らせる未来だ。そのために、自分の命を懸ける必要があるのか――その答えを見つけなければならない。

 祠から村へと戻る道中、リリアナはこれまでの出来事を思い返していた。彼女は多くの戦いを乗り越え、仲間たちと共に数々の困難に立ち向かってきた。だが今、彼女が直面しているのは、村全体の運命を左右する大きな選択だった。

(私は、守り手として選ばれた存在……この村を守るための使命を与えられている。けれど、命を犠牲にすることが本当にその使命を果たすための唯一の方法なのか……)

 その疑問が彼女の中で何度も巡り、答えが見つからないまま、リリアナは村にたどり着いた。

 村では、いつものように人々が平和な日常を送っていた。子どもたちが走り回り、大人たちはそれぞれの仕事に精を出している。リリアナはその光景を見て、少しだけ微笑んだ。

(この村のために、私は何ができるのだろう……)

 その思いが、彼女の胸に温かい灯火をともした。彼女が守ろうとしているのは、この何気ない日常だ。それを守るために、自分の命を削ることが本当に正しいのか、まだ答えは出ていなかったが、彼女は決してあきらめるつもりはなかった。

 リリアナは広場を歩いていると、エマが彼女を見つけて駆け寄ってきた。

「リリアナ様、お帰りなさい。森で何か新しいことを見つけられたのですか?」

 エマの問いかけに、リリアナは少し微笑んで答えた。

「まだ答えは見つかっていないわ。でも、少しずつ何かが見えてきた気がするの」

 エマは心配そうにリリアナを見つめたが、彼女の微笑みに少しだけ安心したようだった。

「リリアナ様、何かあったらすぐに私に言ってくださいね。私も、村のみんなも、リリアナ様を支えたいんです」

 その言葉に、リリアナは深く頷いた。彼女が一人で抱え込む必要はないのだと、エマの言葉が改めて彼女に気づかせてくれた。

 その日の午後、リリアナは再び守護者たちと会合を開いた。彼女が「命の石」について知っていることをすべて話し、その上で、どうすべきかを共に考えるためだった。

 リーダーをはじめとする守護者たちは、リリアナの話に真剣な表情で耳を傾けた。彼らもまた、村を守るためにどのように行動すべきかを常に考えていたが、今はリリアナの持つ力に大きな期待を寄せていた。

「リリアナ、その石が持つ力は確かに村を救うためのものだが、君の命が削られるというのは……我々もその代償を軽視することはできない」

 リーダーの言葉に、リリアナは静かに頷いた。

「私も、命を懸けることが最良の選択だとは思っていない。でも、この村を守るために他にどんな道があるのか、まだ見つけられていないの」

 守護者たちは皆、深く考え込んだ。村を救うためにリリアナが持つ力を使うべきか、それとも別の方法を見つけるべきか――その選択肢はどちらも簡単ではなかった。

 その時、リーダーがふと思い出したように口を開いた。

「実は、私たちの記録にはもう一つ、古い言い伝えが残っているんだ。村を守るための儀式以外にも、もう一つの『道』が存在するとされている。それは、村の中心にある『聖なる泉』だ」

 リリアナはその言葉に驚き、リーダーに尋ねた。

「聖なる泉……それが何かの鍵になるのですか?」

 リーダーは少し考え込みながら答えた。

「泉は、村が建てられた当初から守られてきた場所で、誰もその力の本質を知らない。ただ、そこには大きな力が秘められていると言われているんだ。その力が村を守るために使われることがあるのかもしれない」

 リリアナはその話を聞いて、再び希望を感じ始めた。命の石を使わずに村を救う方法――それが聖なる泉にあるかもしれない。彼女はその可能性を探るために、すぐに泉を訪れる決意を固めた。

「聖なる泉に行ってみます。そこに何か手がかりがあるのなら、私はその力を見つけたい」

 リーダーと他の守護者たちは頷き、彼女の決断を支持した。

 翌朝、リリアナは聖なる泉へと向かった。村の中央に位置するその場所は、長い間守られてきたが、誰もその力を確かめたことはなかった。彼女は静かに泉の前に立ち、その透き通った水面を見つめた。

(ここに、村を救うための力があるのだろうか……)

 リリアナはそっと手を泉に伸ばし、その冷たい水に触れた。すると、彼女の中で何かが反応し、体が一瞬震えた。

(この感覚……何かが私を呼んでいる)

 リリアナは泉にもう一度手を浸し、さらに深く心を集中させた。すると、突然水面がゆらぎ、光が現れた。彼女は驚きながらも、その光の中に引き寄せられるように手を伸ばした。

 光の中から現れたのは、小さな水の精霊だった。透き通った姿で、柔らかな光を放ちながら、リリアナに微笑みかけた。

「あなたが私を呼び覚ましたのですね。私はこの泉を守る精霊です。長い間眠り続けていましたが、あなたの強い意志が私を目覚めさせました」

 リリアナはその声に驚きながらも、冷静に精霊に問いかけた。

「私は、この村を守るために力を探しています。あなたは、その力を持っているのですか?」

 精霊は優しく微笑みながら答えた。

「そうです。この泉には、村を守るための力が眠っています。ただ、その力を使うには、あなた自身の決意と力が必要です。命の石の力ではなく、あなた自身が村を守る意志を示すことで、この力は目覚めます」

 リリアナはその言葉に心を揺さぶられた。命の石の力ではなく、自分自身の意志と力――それがこの村を守る鍵になるというのだ。

「私が……村を守るために、意志を示す?」

 精霊は頷き、静かに続けた。

「そうです。命の石は確かに強力な力ですが、それは代償を伴います。しかし、あなた自身が持つ意志と心が、この泉の力を引き出す鍵なのです」

 リリアナはその言葉を受け止め、静かに決意を固めた。

(私は、この村を守るために選ばれた。それならば、私の意志でこの力を目覚めさせるべきだ)

 彼女は精霊に向かって深く頷き、自分の中にある強い使命感を再確認した。

「私は、この村を守ります。命の石の力ではなく、私自身の力で」

 その瞬間、泉から強い光が溢れ出し、リリアナの体を包み込んだ。彼女の心に宿る決意が、泉の力と共鳴し、村を守るための新たな力が目覚めたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...