【完結済み】追放された貴族は、村で運命の愛を見つける

ゆうな

文字の大きさ
上 下
38 / 80

第38話:封じられた契約

しおりを挟む
 リリアナは祠での出来事を振り返りながら、森を後にして村へと戻った。謎めいた人物の言葉が、頭の中で何度も繰り返される。「古い契約」――それがこの村にどのような影響を与えているのか、彼女にはまだ分からなかったが、その言葉の持つ意味が村全体に関わる重大なものであることだけは理解できた。

 その朝、リリアナはエマにすぐに森での出来事を伝えることにした。診療所に向かう道中、彼女の心の中には、不安と使命感が入り混じり、さらに高まっていた。エマがいつものように笑顔でリリアナを迎えてくれたが、リリアナの顔にはいつもとは違う深刻な表情が浮かんでいた。

「リリアナ様、どうしたんですか? 昨日は森で何か見つけましたか?」

 エマの問いかけに、リリアナは静かに頷いた。

「エマ、昨日、森の奥で何かを見つけたの。古びた祠があって、その中に一冊の本が置かれていたわ。そして、そこで……誰かに会ったの」

 その言葉に、エマは目を見開き、驚きを隠せなかった。

「誰か……ですか? 森の中で? それは……村の人ではなかったんですか?」

 リリアナは軽く首を振り、少し間を置いてから答えた。

「違うわ。彼は……まるで魂の抜け殻のようだった。そして、彼はこう言ったの。『この村には古い契約が存在する。その契約が破られる時、すべてが終わる』……」

 エマはその言葉にさらに驚き、言葉を失ってしまったようだった。

「契約……? そんなこと、初めて聞きました……」

 リリアナもまた、彼女の驚きと同じ気持ちだった。村に住んでいる間、そんな「契約」について一度も聞いたことがなかった。それがどういう意味を持つのか、リリアナはまだ答えを見つけられていなかったが、彼女はこのまま何もせずにいることはできないと感じていた。

 その後、リリアナは守護者たちと再び集まり、祠での出来事を伝えることにした。守護者たちは、リリアナの話を聞きながら深刻な表情を浮かべていた。

「リリアナ、お前が見つけた『契約』という言葉、それが何を意味するのかはまだ分からないが、この村にとって非常に重要なものであることは確かだ。我々も、今までそんな話を聞いたことはないが、これは何か大きな謎に繋がっているかもしれない」

 リーダーの言葉に、他の守護者たちも静かに頷いていた。

「我々はこれからも村を守るために動かなければならないが、その契約について何か情報が見つかるなら、できる限り早くそれを明らかにしなければならない」

 リリアナはその言葉に同意し、再び深い決意を抱いた。

「私もその契約の真実を解き明かすために動きます。この村に何が隠されているのか、必ず突き止めてみせます」

 リリアナは、村の古い記録を調べることにした。村にはいくつかの歴史的な書物や文書が保存されている場所があり、そこに何か手がかりが残されているかもしれないと考えたのだ。村の長老たちに協力を仰ぎながら、彼女はその文書を一つ一つ丁寧に読み解いていった。

 しかし、最初に目を通した書物には特に「契約」について言及されているものはなかった。古い記録には、村の創設にまつわる話や、過去にあった小さな紛争や災害について書かれているものばかりだった。

(この村には、もっと大きな秘密があるのかもしれない……)

 その考えが、リリアナの胸に強く響いた。彼女は焦らずに調べを続けることにした。彼女がどれだけ時間をかけても、この村を守るために必要な情報を見つけることができれば、それでいいのだ。

 数時間が経ち、リリアナはようやく一冊の古い書物にたどり着いた。それは、他の書物よりもはるかに傷んでいて、扱うのに慎重を要するほどの古さを感じさせるものだった。彼女はその本を慎重に開き、ページをめくり始めた。

 そこに記されていたのは、村の歴史に関する古い記録だったが、他の書物にはなかった不思議な内容がいくつか記されていた。

「……この村は、遥か昔に『守り手』と呼ばれる者によって守られてきた。その守り手たちは、古い契約のもとに……」

 リリアナは目を凝らし、さらに読み進めた。

「……その契約は、村を守るための強力な魔力を封じ込めるために作られた。契約が破られる時、その力は再び目覚め、村に災いをもたらすであろう……」

 リリアナはその言葉に息を呑んだ。古い契約――それは、この村を守るためのものであり、同時に大きな災厄を封じ込めているものだったのだ。彼女の胸の中に、これまで以上に大きな不安が広がった。

(もしその契約が破られたら……この村はどうなってしまうの?)

 彼女の手がわずかに震えた。彼女がこの村を守るために発揮した力は、もしかするとその契約と何らかの関係があるのかもしれない。だが、それが村にとってどういう意味を持つのかは、まだ分からなかった。

 その夜、リリアナは自室に戻り、窓の外を見つめながら考え込んでいた。満月が夜空に浮かび、静かな夜の中で、彼女の心にはいくつもの思いが渦巻いていた。

(私の力と、この村の契約は……どんな繋がりがあるの? 私がこの力を持つことは、村を救うためのものなのか、それとも……)

 その答えを見つけることは、彼女にとって大きな課題となっていた。彼女はただ村を守りたいという一心で力を使ってきたが、それがこの契約とどのように繋がっているのかを解明しなければ、彼女は村を本当の意味で守り抜くことができないと感じていた。

 しかし、彼女の中には強い信念があった。どんな困難が待ち受けていようとも、彼女は村を守るために戦い続けると心に決めていた。

 翌朝、リリアナは再び守護者たちと集まり、昨夜見つけた古い記録について話をした。守護者たちは、リリアナの話を真剣に聞き、彼女の見つけた情報をもとにさらに協力を深めようと決意した。

「リリアナ、お前が見つけたその契約が、この村にとって非常に重要なものだというのは確かだ。我々も今後、その契約に関わる情報をさらに調べていく必要がある」

 リーダーの言葉に、リリアナは深く頷いた。

「私もこれ以上調べを進めて、この村に何が起こっているのかを明らかにします。私たちが直面している脅威が何であれ、それを防ぐために全力を尽くします」

 守護者たちはリリアナの決意を感じ取り、共に村を守るための行動を取ることを約束した。

 その日の午後、リリアナは再び森へと向かう決意を固めた。彼女が見つけた古い契約が、どのように村に影響を与えるのかを解き明かすために、再び祠を調べる必要があると感じていた。

 森の中は静かで、冷たい風が彼女の頬を撫でる。リリアナは慎重に足を進め、祠の前に再び立った。扉は昨日開けたままで、冷たい空気が彼女を迎えた。祠の中に足を踏み入れると、昨夜と同じ静寂が広がっていた。

 リリアナは再び祭壇の前に立ち、古びた本に手を伸ばした。契約の秘密を解き明かすためには、この本をさらに読み解く必要がある。彼女は静かに息を吸い込み、心を落ち着かせて本のページをめくり始めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...