【完結済み】追放された貴族は、村で運命の愛を見つける

ゆうな

文字の大きさ
上 下
9 / 80

第9話:決意の時

しおりを挟む
 夜が明けると、村は重苦しい静けさに包まれていた。村の境界で見張りをしていた人々は、恐怖に顔を引きつらせながら、何事も起こらないことを祈っていた。だが、彼らの祈りも虚しく、昨日見た「獣のような人影」が再び村に近づいていることがわかった。

 リリアナは緊張した面持ちで、村の中央に立っていた。彼女の心臓は早鐘のように鳴り響いていたが、表情にはその動揺を一切表さなかった。村人たちは彼女の周りに集まり、彼女がどのような指示を出すのかを待っていた。

「これ以上、村に脅威が迫るのを見過ごすわけにはいかない」

 リリアナはそう心に決め、村人たちに冷静な声で語りかけた。

「まずは、全員が家の中に避難し、外に出ないようにしてください。私たちが協力して、村を守る準備をします」

 その言葉に、村人たちはリリアナの強い意志を感じ取り、すぐに動き出した。彼女が発する言葉には、不思議な力があった。村人たちの恐怖を少しずつ和らげ、リーダーとしての彼女を信頼させる力だ。

 エマもまた、リリアナの隣に立ち、不安そうに村の外を見つめていた。彼女の顔には明らかに恐怖が浮かんでいたが、それでもリリアナを信じて行動していた。

「リリアナ様、本当に大丈夫なんでしょうか……あれは、人間じゃないように見えました。私たちに立ち向かう力があるんでしょうか」

 エマの声には、隠しきれない不安が滲んでいた。リリアナはそんな彼女に優しく微笑み、彼女の手を握った。

「大丈夫よ、エマ。私たちにはみんながいる。どんなに強い脅威が迫っても、みんなで協力すればきっと乗り越えられるわ」

 リリアナの言葉にエマは少し安心したようだったが、それでも彼女の表情にはまだ恐怖が残っていた。リリアナはその表情を見て、心の中で自分に対して決意を新たにした。彼女がこの村を守るためには、まず自分が恐れを克服し、みんなの前に立たなければならない。

 リリアナは村の防衛の準備を進めるため、村の周囲を見回り始めた。村人たちが手に持つのは簡素な武器や農具ばかりで、戦うための装備には到底ならなかった。しかし、彼らはリリアナを信じ、彼女の指示に従って一生懸命に準備をしていた。

 村の外からは、奇妙な低い唸り声が風に乗って響いてきた。リリアナの心臓はその音に反応し、鼓動が速まる。しかし、彼女は冷静を保ち、何とかして村を守るための策を考え続けた。

(これが本当に脅威であるなら、私たちはどうやって立ち向かえばいいのか……)

 彼女の頭の中には様々な考えが駆け巡っていた。もしかすると、村の外にいる「獣のような者たち」はただの噂に過ぎないのかもしれない。しかし、その思いとは裏腹に、彼女の心の奥底では何かが大きく動き始めているのを感じていた。

 その時、見張りに立っていた村人の一人が慌てて駆け寄ってきた。

「リリアナ様! 村の外で大きな動きがありました!」

 彼の言葉にリリアナはすぐに駆け出した。彼女の心臓は早鐘のように打ち、身体は本能的に緊張していた。村の外に広がる風景を目にした瞬間、彼女の体は一瞬凍りついた。

 そこには、再び現れた獣のような人影があった。彼らは村の周囲をうろつきながら、鋭い声で吠え、何かを探しているようだった。リリアナはその姿をじっと見つめ、何かを感じ取ろうとした。

(何かが……おかしい)

 リリアナはその瞬間、何か異様な感覚を覚えた。彼らは確かに恐ろしい存在だが、どこかに理性が残っているようにも感じられた。それはただの野獣とは違う、何かもっと複雑なものだった。

(もしかして、彼らも……)

 その考えが頭をよぎった瞬間、リリアナは村人たちに指示を出した。

「絶対に彼らを刺激しないで! 彼らを見つめるだけで、こちらから攻撃してはいけません」

 村人たちは彼女の言葉に驚きつつも、その指示に従った。リリアナは冷静さを失わず、何とかして彼らと接触するための方法を考えていた。

 しばらくして、獣のような人影たちは村の外れで立ち止まり、何かをじっと見つめているようだった。リリアナはその様子を観察しながら、慎重に行動を開始した。

(もし彼らに理性が残っているなら、話し合いで解決できるかもしれない……)

 彼女はそう思い、勇気を振り絞って一歩前に出た。村人たちは驚いた表情でリリアナを見つめたが、彼女は自分の行動に自信を持っていた。恐怖を克服し、彼女は今、村を守るために新たな一歩を踏み出そうとしていた。

「私が行ってみます。皆さんはここで見守ってください」

 リリアナはそう言って、村人たちに優しく微笑んだ。彼女の姿は強く、そして決意に満ちていた。村人たちは彼女の言葉に従い、静かに見守りながら彼女が前に進むのを見つめた。

 リリアナは一歩一歩、慎重に獣のような者たちに近づいていった。彼らは彼女に気づき、じっと彼女を見つめ返していた。彼らの瞳には、何かが宿っている――それは、ただの獣のものではなく、確かな意志のようなものだった。

 リリアナの心臓は激しく打ち続けていたが、彼女は恐怖を抑え、冷静に彼らの前に立った。そして、優しい声で話しかけた。

「あなたたちは……何を求めているの?」

 彼女の言葉に、獣のような者たちは動きを止め、じっとリリアナを見つめた。その瞬間、リリアナは彼らがただの脅威ではないことを確信した。彼らは何かを求めている――そして、それが村にとって何か重要な意味を持つのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...