7 / 80
第7話:不穏な兆し
しおりを挟む
村での診療所の仕事が軌道に乗り、リリアナは毎日忙しく過ごしていた。患者たちはリリアナの手厚い世話と、真摯に向き合う姿勢に信頼を寄せ、彼女を頼るようになっていた。彼女がこの村に来た当初の冷たい視線や不信感は次第に薄れ、今ではその多くが彼女を感謝と敬意の眼差しで見つめていた。
しかし、そんな平和な日常にも、どこか不穏な影が差し込んでいた。診療所での仕事を終え、夜の静かな家に戻ると、リリアナは先日村の男性から聞いた「陰謀」という言葉が頭を離れなかった。
(また陰謀……。私は再び、そんなものに巻き込まれるのかしら)
彼女は灯りのともる家の中で、静かにため息をついた。かつて、彼女が追放されるきっかけとなった陰謀。あの時の無力感と、裏切られた心の痛みが再び彼女の胸を締め付けた。
リリアナは自分がまだ完全に過去の出来事を克服できていないことに気づき、苦笑した。村での新しい生活が順調に進んでいるように見えても、心の奥底にはまだ消えない不安が残っている。あの時のように、またすべてを失ってしまうのではないか――そんな恐怖が、彼女をじわじわと支配し始めていた。
(でも、今度は違う。私はもう、ただ守られるだけの存在じゃない)
リリアナは、自分自身を励ますように心の中でつぶやいた。診療所での仕事や、村の人々との信頼関係を築き上げてきたことが、彼女に少しずつ自信を与えていた。もう一度、自分の力で状況を乗り越えられるはずだと。
そんな思いを巡らせながら、彼女は外に出て、静かな夜風に当たった。冷たい風が彼女の頬を撫で、星が瞬く夜空が広がっていた。自然の美しさが彼女の心を少しだけ癒やしてくれる。
翌日、リリアナはいつものように診療所で患者たちの診察をしていた。今日は朝から特に多くの患者が押し寄せており、彼女は一日中忙しく動き回っていた。疲労が体に蓄積していたが、それでも彼女は一人一人に対して真摯に向き合い、手当てを施していった。
その時、扉が開いて、一人の村人が駆け込んできた。彼の顔は蒼白で、何か緊急の事態が起きたことを知らせているようだった。
「リリアナ様、助けてください! 村の外で、何人かの人が怪我をしているんです!」
その言葉に、リリアナの心は緊張で締め付けられた。彼女はすぐに立ち上がり、応急処置のための道具を手に取った。
「わかりました。すぐに向かいます」
リリアナは村人に案内され、急いで村の外へと向かった。村を囲む森の中で何が起きているのか、彼女はわからなかったが、緊迫した状況を感じ取り、足を早めた。
森の中に入ると、数人の村人たちが倒れているのが見えた。何が原因で怪我をしたのかはわからないが、彼らの表情からは痛みと恐怖が読み取れた。
「リリアナ様、どうか……どうか助けてください!」
彼女はすぐに膝をつき、一人一人の状態を確認した。彼らの傷は深く、何か鋭利なもので切りつけられたようだった。リリアナは応急処置を施しながら、彼らに何が起きたのかを尋ねた。
「何があったんですか? どうしてこんな傷を……」
一人の村人が、恐怖に震えながら答えた。
「森の奥で……何かに襲われたんです。人の姿をしているけれど、まるで獣のような……何かが……」
その言葉を聞いた瞬間、リリアナの背筋に冷たいものが走った。村の外で何か異常な事態が起きている――それは間違いなかった。しかし、それが何なのか、まだ彼女には全く見当がつかなかった。
(この村に何が起きているの?)
リリアナは傷ついた村人たちを手当てしながら、心の中で不安が広がるのを感じていた。何かが動き出している――それが良い方向ではないことは、すぐにわかった。村で囁かれていた「陰謀」の噂が、現実のものとなりつつあるのだろうか。
応急処置を終えた後、リリアナは村の長老たちに報告をした。彼らも事態の深刻さを感じ取り、顔を見合わせながら困惑した表情を浮かべていた。
「リリアナ様、あなたの力で村を守っていただけないでしょうか?」
長老の一人が、リリアナにそう頼んできた。彼女は一瞬、戸惑った。貴族としての地位や力を失い、ただの一人の追放者である彼女に、村を守る責任があるのかと。
しかし、リリアナはすぐに決意を固めた。村人たちの信頼を得るためにここまで努力してきた今、自分がこの状況から目を背けるわけにはいかない。
「わかりました。できる限りのことをいたします」
その言葉に、長老たちは安心した表情を浮かべた。リリアナは自分自身に対しても、村人たちに対しても、強い責任感を感じていた。彼女はこれから、村に迫る脅威に立ち向かわなければならないという覚悟を固めた。
しかし、そんな平和な日常にも、どこか不穏な影が差し込んでいた。診療所での仕事を終え、夜の静かな家に戻ると、リリアナは先日村の男性から聞いた「陰謀」という言葉が頭を離れなかった。
(また陰謀……。私は再び、そんなものに巻き込まれるのかしら)
彼女は灯りのともる家の中で、静かにため息をついた。かつて、彼女が追放されるきっかけとなった陰謀。あの時の無力感と、裏切られた心の痛みが再び彼女の胸を締め付けた。
リリアナは自分がまだ完全に過去の出来事を克服できていないことに気づき、苦笑した。村での新しい生活が順調に進んでいるように見えても、心の奥底にはまだ消えない不安が残っている。あの時のように、またすべてを失ってしまうのではないか――そんな恐怖が、彼女をじわじわと支配し始めていた。
(でも、今度は違う。私はもう、ただ守られるだけの存在じゃない)
リリアナは、自分自身を励ますように心の中でつぶやいた。診療所での仕事や、村の人々との信頼関係を築き上げてきたことが、彼女に少しずつ自信を与えていた。もう一度、自分の力で状況を乗り越えられるはずだと。
そんな思いを巡らせながら、彼女は外に出て、静かな夜風に当たった。冷たい風が彼女の頬を撫で、星が瞬く夜空が広がっていた。自然の美しさが彼女の心を少しだけ癒やしてくれる。
翌日、リリアナはいつものように診療所で患者たちの診察をしていた。今日は朝から特に多くの患者が押し寄せており、彼女は一日中忙しく動き回っていた。疲労が体に蓄積していたが、それでも彼女は一人一人に対して真摯に向き合い、手当てを施していった。
その時、扉が開いて、一人の村人が駆け込んできた。彼の顔は蒼白で、何か緊急の事態が起きたことを知らせているようだった。
「リリアナ様、助けてください! 村の外で、何人かの人が怪我をしているんです!」
その言葉に、リリアナの心は緊張で締め付けられた。彼女はすぐに立ち上がり、応急処置のための道具を手に取った。
「わかりました。すぐに向かいます」
リリアナは村人に案内され、急いで村の外へと向かった。村を囲む森の中で何が起きているのか、彼女はわからなかったが、緊迫した状況を感じ取り、足を早めた。
森の中に入ると、数人の村人たちが倒れているのが見えた。何が原因で怪我をしたのかはわからないが、彼らの表情からは痛みと恐怖が読み取れた。
「リリアナ様、どうか……どうか助けてください!」
彼女はすぐに膝をつき、一人一人の状態を確認した。彼らの傷は深く、何か鋭利なもので切りつけられたようだった。リリアナは応急処置を施しながら、彼らに何が起きたのかを尋ねた。
「何があったんですか? どうしてこんな傷を……」
一人の村人が、恐怖に震えながら答えた。
「森の奥で……何かに襲われたんです。人の姿をしているけれど、まるで獣のような……何かが……」
その言葉を聞いた瞬間、リリアナの背筋に冷たいものが走った。村の外で何か異常な事態が起きている――それは間違いなかった。しかし、それが何なのか、まだ彼女には全く見当がつかなかった。
(この村に何が起きているの?)
リリアナは傷ついた村人たちを手当てしながら、心の中で不安が広がるのを感じていた。何かが動き出している――それが良い方向ではないことは、すぐにわかった。村で囁かれていた「陰謀」の噂が、現実のものとなりつつあるのだろうか。
応急処置を終えた後、リリアナは村の長老たちに報告をした。彼らも事態の深刻さを感じ取り、顔を見合わせながら困惑した表情を浮かべていた。
「リリアナ様、あなたの力で村を守っていただけないでしょうか?」
長老の一人が、リリアナにそう頼んできた。彼女は一瞬、戸惑った。貴族としての地位や力を失い、ただの一人の追放者である彼女に、村を守る責任があるのかと。
しかし、リリアナはすぐに決意を固めた。村人たちの信頼を得るためにここまで努力してきた今、自分がこの状況から目を背けるわけにはいかない。
「わかりました。できる限りのことをいたします」
その言葉に、長老たちは安心した表情を浮かべた。リリアナは自分自身に対しても、村人たちに対しても、強い責任感を感じていた。彼女はこれから、村に迫る脅威に立ち向かわなければならないという覚悟を固めた。
22
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】
男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。
少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。
けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。
少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。
それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。
その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。
そこには残酷な現実が待っていた――
*他サイトでも投稿中
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる