6 / 80
第6話:信頼の芽生え
しおりを挟む
村の診療所での手伝いが始まり、リリアナは次第に村人たちからの信頼を得るようになった。彼女が診療に取り組む姿勢は真剣そのもので、村人たちの間で彼女の評判が少しずつ広がっていた。
ある日の夕方、リリアナは疲れた体を癒すために、村の小さな川沿いを歩いていた。川のせせらぎと共に、彼女の心は少しずつ落ち着きを取り戻していく。村の中では感じられない静けさが、ここにはあった。
(この村での生活にも、少しずつ慣れてきたかもしれない)
そう自分に言い聞かせるものの、まだ完全に馴染んだわけではなかった。心の奥には、今も貴族としての自分に対する複雑な感情が残っていた。かつての豪華な生活が懐かしいという思いはないが、失った名誉と地位は彼女の中で未だに大きな存在感を持っていた。
(私がここでやっていることは、正しいのだろうか)
リリアナは立ち止まり、ゆっくりと川の水面を見つめた。自分がこの村に追放された理由――それを完全に受け入れることができているのか、時折自問自答することがあった。
その時、後ろから足音が近づいてきた。
「リリアナ様、ここにいらしたんですね」
振り返ると、エマが立っていた。彼女はリリアナに微笑みながら、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「エマ……どうしてここに?」
「お疲れだろうと思って、少し話でもしようかと。私もこの川沿いが好きで、よく来るんですよ」
エマはリリアナの隣に立ち、川の流れをじっと見つめた。二人の間にしばしの沈黙が流れたが、その静けさが心地よかった。
「リリアナ様、この村での生活、どうですか?」
ふとエマが口を開いた。その言葉には、単なる興味以上に、リリアナの心情を理解しようとする思いやりが感じられた。
「最初は大変でした。でも……少しずつ、この村で自分の居場所を見つけられるようになってきたと思います」
リリアナは素直な気持ちを口にした。彼女が感じている不安や迷いは、まだ完全には解消されていなかったが、少しずつ前向きに進んでいることをエマに伝えたかった。
「そうですか。それを聞いて安心しました。リリアナ様はとても強い方だと思います。追放されて、この村に来て、普通の人なら心が折れてしまうでしょう。でも、リリアナ様はそうじゃない」
エマの言葉に、リリアナは驚いた。そして、少し照れくさそうに微笑んだ。
「そんなことはないわ。私だって、心が折れそうなときは何度もあった。でも、今はここでできることをやっていくしかないから」
エマはその言葉を聞いて、満足そうに頷いた。
「そうですね。それがリリアナ様の強さなんだと思います」
エマはそう言って、リリアナの手を軽く握った。その手の温かさが、リリアナの心にじんわりと染み込んでいく。
翌日、リリアナは再び診療所に足を運んだ。朝早くから、患者たちが集まっている。彼女がここに来てからというもの、診療所はますます忙しくなっていた。それは、リリアナが自ら進んで医療を提供し、村人たちがその真摯な姿勢に心を開き始めたからだった。
その日も、リリアナは多くの患者を診察し、処置を施していった。村人たちの信頼は少しずつ深まり、彼女を頼りにする者も増えてきた。
診療所の窓から外を眺めると、まだ太陽が高く輝いていた。だが、彼女の体には疲労が蓄積していた。リリアナは椅子に座り、しばしの休息を取ることにした。
ふと、扉が開いて一人の男性が入ってきた。彼はリリアナを見るなり、軽く頭を下げて話しかけてきた。
「リリアナ様、少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
その声にはどこか緊張感があった。リリアナは姿勢を正し、彼に向かって穏やかに答えた。
「どうぞ、何かご用ですか?」
男性は深く息を吸い込み、ゆっくりと話し始めた。
「実は……この村で最近、少し不穏な動きがあるという話を耳にしました。私自身、詳しいことはわからないのですが、何か大きな陰謀が動いているのではないかと……」
その言葉に、リリアナの心は大きく揺れた。陰謀――その言葉は、彼女にとってあまりにも深い意味を持っていた。彼女が追放される原因となったものも、陰謀であったからだ。
「それは……どのような話ですか?」
リリアナは慎重に問いかけた。村での生活が少しずつ安定し始めた今、何か新たな問題が起きているというのは気がかりだった。
男性はさらに口を開こうとしたが、言葉を飲み込むようにして、首を振った。
「すみません。まだ噂程度ですので、詳しいことは分かりません。ただ、何か気をつけていただければと思いまして……」
その言葉に、リリアナは頷いた。彼がどれだけ正確な情報を持っているかはわからないが、何かが起きつつあるという直感が彼女の中で強まっていた。
(私がここに来てから、何かが動き始めているのかもしれない)
彼女は再び村の診療所の窓から外を見つめた。村の風景は穏やかで、何事も起きていないように見える。しかし、その静けさの裏に隠された何かがあるのだろうか――彼女の心に、一抹の不安が広がっていった。
ある日の夕方、リリアナは疲れた体を癒すために、村の小さな川沿いを歩いていた。川のせせらぎと共に、彼女の心は少しずつ落ち着きを取り戻していく。村の中では感じられない静けさが、ここにはあった。
(この村での生活にも、少しずつ慣れてきたかもしれない)
そう自分に言い聞かせるものの、まだ完全に馴染んだわけではなかった。心の奥には、今も貴族としての自分に対する複雑な感情が残っていた。かつての豪華な生活が懐かしいという思いはないが、失った名誉と地位は彼女の中で未だに大きな存在感を持っていた。
(私がここでやっていることは、正しいのだろうか)
リリアナは立ち止まり、ゆっくりと川の水面を見つめた。自分がこの村に追放された理由――それを完全に受け入れることができているのか、時折自問自答することがあった。
その時、後ろから足音が近づいてきた。
「リリアナ様、ここにいらしたんですね」
振り返ると、エマが立っていた。彼女はリリアナに微笑みながら、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「エマ……どうしてここに?」
「お疲れだろうと思って、少し話でもしようかと。私もこの川沿いが好きで、よく来るんですよ」
エマはリリアナの隣に立ち、川の流れをじっと見つめた。二人の間にしばしの沈黙が流れたが、その静けさが心地よかった。
「リリアナ様、この村での生活、どうですか?」
ふとエマが口を開いた。その言葉には、単なる興味以上に、リリアナの心情を理解しようとする思いやりが感じられた。
「最初は大変でした。でも……少しずつ、この村で自分の居場所を見つけられるようになってきたと思います」
リリアナは素直な気持ちを口にした。彼女が感じている不安や迷いは、まだ完全には解消されていなかったが、少しずつ前向きに進んでいることをエマに伝えたかった。
「そうですか。それを聞いて安心しました。リリアナ様はとても強い方だと思います。追放されて、この村に来て、普通の人なら心が折れてしまうでしょう。でも、リリアナ様はそうじゃない」
エマの言葉に、リリアナは驚いた。そして、少し照れくさそうに微笑んだ。
「そんなことはないわ。私だって、心が折れそうなときは何度もあった。でも、今はここでできることをやっていくしかないから」
エマはその言葉を聞いて、満足そうに頷いた。
「そうですね。それがリリアナ様の強さなんだと思います」
エマはそう言って、リリアナの手を軽く握った。その手の温かさが、リリアナの心にじんわりと染み込んでいく。
翌日、リリアナは再び診療所に足を運んだ。朝早くから、患者たちが集まっている。彼女がここに来てからというもの、診療所はますます忙しくなっていた。それは、リリアナが自ら進んで医療を提供し、村人たちがその真摯な姿勢に心を開き始めたからだった。
その日も、リリアナは多くの患者を診察し、処置を施していった。村人たちの信頼は少しずつ深まり、彼女を頼りにする者も増えてきた。
診療所の窓から外を眺めると、まだ太陽が高く輝いていた。だが、彼女の体には疲労が蓄積していた。リリアナは椅子に座り、しばしの休息を取ることにした。
ふと、扉が開いて一人の男性が入ってきた。彼はリリアナを見るなり、軽く頭を下げて話しかけてきた。
「リリアナ様、少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
その声にはどこか緊張感があった。リリアナは姿勢を正し、彼に向かって穏やかに答えた。
「どうぞ、何かご用ですか?」
男性は深く息を吸い込み、ゆっくりと話し始めた。
「実は……この村で最近、少し不穏な動きがあるという話を耳にしました。私自身、詳しいことはわからないのですが、何か大きな陰謀が動いているのではないかと……」
その言葉に、リリアナの心は大きく揺れた。陰謀――その言葉は、彼女にとってあまりにも深い意味を持っていた。彼女が追放される原因となったものも、陰謀であったからだ。
「それは……どのような話ですか?」
リリアナは慎重に問いかけた。村での生活が少しずつ安定し始めた今、何か新たな問題が起きているというのは気がかりだった。
男性はさらに口を開こうとしたが、言葉を飲み込むようにして、首を振った。
「すみません。まだ噂程度ですので、詳しいことは分かりません。ただ、何か気をつけていただければと思いまして……」
その言葉に、リリアナは頷いた。彼がどれだけ正確な情報を持っているかはわからないが、何かが起きつつあるという直感が彼女の中で強まっていた。
(私がここに来てから、何かが動き始めているのかもしれない)
彼女は再び村の診療所の窓から外を見つめた。村の風景は穏やかで、何事も起きていないように見える。しかし、その静けさの裏に隠された何かがあるのだろうか――彼女の心に、一抹の不安が広がっていった。
22
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。

嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる