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思い出は美化されるもの
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彼とは同じ高校で卓球部で一緒だった。
彼はスポーツ万能で、卓球部に来る前にバスケット部に遊びに行ってから来るような。
3年の時には、生徒会長までしていた。
とにかく目立ちたがり屋だった。
私は、卓球部にいながら部室でたまにギターを弾いて軽音部を兼ねていた。
とはいっても、人前で歌うのを嫌っていた。だから好きなギーターに触れるだけでよかった。
私は、目立たず生きていたかったので、そんな彼とは真逆の人生を生きてきた。
最初の印象は最悪。
なれなれしいし、嫌いなタイプだった。
実際、私は同じ卓球部のほかの男子と付き合っていたし、まったく好きになれる人じゃなかった。
付き合ったきっかけは、私の推しの弱さだ。
ずっと好きだの、付き合ってほしいといわれ続け、もうお手上げの状態だった。
そしてある日、試合をして俺が勝ったら付き合ってくださいといわれ、あの日、私はわざと負けてあげた。
高校生活の大半を、彼と過ごした。
学校の行き帰り、お昼ご飯、部活、放課後、休日。
高校最後の文化祭で、歌を歌う人集めてるんだけど出ない?と友達に声をかけられ、大勢の前で歌を歌うことに迷っていた。
そんな時も彼の
「大丈夫!見守ってるからな!」
単純なので、その言葉一つで出ることを決めた。
体育館は舞台以外真っ暗で、正面からスポットライトが当てられている。
顔を上げると、スポットライトの所に彼がいてブンブン手を振っている。
会場は笑いでざわついた。
(ばか…私より目立たないでよ)
そういいながらも、嬉しくて緊張を忘れて歌った。
いつもは照れくさくて言葉にできない気持ちを歌に込めて。
その数か月後に別れてしまうなんて思っていなかったけど。
私が20歳の時、夜のコンビニで地元に帰ってきた元カレとばったり出会ってしまった。
いつもの後輩たちを連れていた。
お互いびっくりしたけど、いっきに懐かしくなって、思い出話をした。
「結局さ、俺のどこが悪くて別れたの?」
「いやいや、自己中すぎるところじゃん?振り回されまくってたし」
「いやいや、全然悪いことした記憶ないんだけど」
「記憶喪失か?思い出させてあげようか?」
そんな会話をニヤニヤ見ながら後輩たちが口を開く。
「俺たち、二人は絶対結婚すると思ってました!」
その言葉に、笑顔がひきつる。
うまく笑えない。
お互い目も合わせず黙り込んでしまった。
元カレにも、私と別れてから遠距離恋愛していた彼女がいる。
いまも現在形だ。
その緊張した空気を感じ取ったのか後輩が口を開いた。
「僕ら、先に行ってるんで、今日はとことん話したらいいじゃないですか?久しぶりに会えたんだし」
「ただ、ほんとに僕らは二人は結婚してしまうんじゃないかなって思ってたんです。これは、マジで言いたくて」
「…お前、いい加減空気読め!」
そういってヘッドロックされながら連れていかれるのを爆笑して見送った。
「あいつ変わらないよな、空気読めないとこ」
「うん!久しぶりにこんなに笑った」
笑い声が消えて、緊張感の少し残った空気の中、彼が口をひらく。
「…なぁ、俺と結婚したかった?」
意地悪そうな顔で覗き込んできたので、すかさず言い返す。
「もう!恥ずかしいからさ!この話は、そろそろおしまいにしませんか?」
そしてまた笑った。
こんなに楽しいのは、きっとまた普通に話せてるのが嬉しかったからだ。
彼は高校を卒業して、バイクの専門学校に行くため大阪に行くことを決めていた。
お互い離れたくなくて、話し合った結果、遠距離になるから一緒に暮らそうと盛り上がった冬もあったけど、
不安から相手のことが信じれなくなったりで、1月に別れてしまった。
別れたくないと掴まれた手を離してしまったのは私だ。
彼はそのまま、大阪に行って。
私は地元で就職した。
あれから2年後の二人は、会うこともなくそれぞれの人生を歩いてきた。
「俺たちがまだ続いていたら、どうなってた?やっぱり結婚とかしてたかな」
「え?わからないけど、やっぱり私たちは別れて正解だったと思うよ」
「そうかな?」
「そうなんだって」
いつまでも、思い出は思い出のままにしておきたかった。
お互いが前に進むために。
おもむろに彼が携帯を出してきた。
「…俺さ、電話番号もアドレスも変わったんだけど、連絡先交換しとく?」
「…ううん、大丈夫!」
「…そっか…ほんとに?」
「ほんとに!!」
強がり半分、後悔もちょっと。
「…ならいいけど」
その表情に同情しないように畳みかけて話す。
「ねぇ!私、夢が叶ったんだよ!バンド組んでギターまだ弾いてるの!明日ライブ!」
「え?そうなんだ!」
「うん、おもいっきりさ、あなたをネタにして歌を作ってそれ歌ってるから」
「おい!まじか!どんな曲?」
「悲しい歌ばっかりに決まってるじゃん?バラードしか歌えない身体になってしまったじゃん!ばか!」
「俺のせい?いやほんとにどんな曲なのか気になる」
「絶対聞かせたくないけどね?夢が叶う前の日に会えるなんて、思ってないからびっくり!明日のライブでネタにして話そっと!」
ぎょっとした顔を一瞬見せたけど、満足そうに笑う私を見て、彼が笑った。
「ネタって!!…良いように話せよ?カッコイイとか素敵なとか!…けど、まぁ夢をかなえたんだな!おめでとう!」
「お互い様でしょ?バイク勉強できてよかったね!あの時に行かないでって引き留めてなくてよかったよ」
気が付けば、空が明るくなっていた。
さよならをちゃんと言えた気がした、いい朝だった。
「そろそろ帰りますか?」
「おう!ライブ頑張れよ!」
「そっちこそ」
なんか、もう会えない気がした。
いま離れたらきっと、また偶然とか運命とかそんなものに頼らないかぎり、
二度と会えない気がして、胸がキュッとした。
それをかき消すように、
「それじゃ、おやすみ!!」
彼が別れ際に言った。
「え?うん、おやすみなさい…」
私も言い返した。
それは、バイバイよりも、涙が出ちゃうくらい特別な言葉のような気がした。
さよならを言わないんだ…
寂しさやせつなさが、和らいで行くのがわかった。
あぁ彼はこんなヤツだったなって帰りの車で思い出して、涙が出た。
彼はスポーツ万能で、卓球部に来る前にバスケット部に遊びに行ってから来るような。
3年の時には、生徒会長までしていた。
とにかく目立ちたがり屋だった。
私は、卓球部にいながら部室でたまにギターを弾いて軽音部を兼ねていた。
とはいっても、人前で歌うのを嫌っていた。だから好きなギーターに触れるだけでよかった。
私は、目立たず生きていたかったので、そんな彼とは真逆の人生を生きてきた。
最初の印象は最悪。
なれなれしいし、嫌いなタイプだった。
実際、私は同じ卓球部のほかの男子と付き合っていたし、まったく好きになれる人じゃなかった。
付き合ったきっかけは、私の推しの弱さだ。
ずっと好きだの、付き合ってほしいといわれ続け、もうお手上げの状態だった。
そしてある日、試合をして俺が勝ったら付き合ってくださいといわれ、あの日、私はわざと負けてあげた。
高校生活の大半を、彼と過ごした。
学校の行き帰り、お昼ご飯、部活、放課後、休日。
高校最後の文化祭で、歌を歌う人集めてるんだけど出ない?と友達に声をかけられ、大勢の前で歌を歌うことに迷っていた。
そんな時も彼の
「大丈夫!見守ってるからな!」
単純なので、その言葉一つで出ることを決めた。
体育館は舞台以外真っ暗で、正面からスポットライトが当てられている。
顔を上げると、スポットライトの所に彼がいてブンブン手を振っている。
会場は笑いでざわついた。
(ばか…私より目立たないでよ)
そういいながらも、嬉しくて緊張を忘れて歌った。
いつもは照れくさくて言葉にできない気持ちを歌に込めて。
その数か月後に別れてしまうなんて思っていなかったけど。
私が20歳の時、夜のコンビニで地元に帰ってきた元カレとばったり出会ってしまった。
いつもの後輩たちを連れていた。
お互いびっくりしたけど、いっきに懐かしくなって、思い出話をした。
「結局さ、俺のどこが悪くて別れたの?」
「いやいや、自己中すぎるところじゃん?振り回されまくってたし」
「いやいや、全然悪いことした記憶ないんだけど」
「記憶喪失か?思い出させてあげようか?」
そんな会話をニヤニヤ見ながら後輩たちが口を開く。
「俺たち、二人は絶対結婚すると思ってました!」
その言葉に、笑顔がひきつる。
うまく笑えない。
お互い目も合わせず黙り込んでしまった。
元カレにも、私と別れてから遠距離恋愛していた彼女がいる。
いまも現在形だ。
その緊張した空気を感じ取ったのか後輩が口を開いた。
「僕ら、先に行ってるんで、今日はとことん話したらいいじゃないですか?久しぶりに会えたんだし」
「ただ、ほんとに僕らは二人は結婚してしまうんじゃないかなって思ってたんです。これは、マジで言いたくて」
「…お前、いい加減空気読め!」
そういってヘッドロックされながら連れていかれるのを爆笑して見送った。
「あいつ変わらないよな、空気読めないとこ」
「うん!久しぶりにこんなに笑った」
笑い声が消えて、緊張感の少し残った空気の中、彼が口をひらく。
「…なぁ、俺と結婚したかった?」
意地悪そうな顔で覗き込んできたので、すかさず言い返す。
「もう!恥ずかしいからさ!この話は、そろそろおしまいにしませんか?」
そしてまた笑った。
こんなに楽しいのは、きっとまた普通に話せてるのが嬉しかったからだ。
彼は高校を卒業して、バイクの専門学校に行くため大阪に行くことを決めていた。
お互い離れたくなくて、話し合った結果、遠距離になるから一緒に暮らそうと盛り上がった冬もあったけど、
不安から相手のことが信じれなくなったりで、1月に別れてしまった。
別れたくないと掴まれた手を離してしまったのは私だ。
彼はそのまま、大阪に行って。
私は地元で就職した。
あれから2年後の二人は、会うこともなくそれぞれの人生を歩いてきた。
「俺たちがまだ続いていたら、どうなってた?やっぱり結婚とかしてたかな」
「え?わからないけど、やっぱり私たちは別れて正解だったと思うよ」
「そうかな?」
「そうなんだって」
いつまでも、思い出は思い出のままにしておきたかった。
お互いが前に進むために。
おもむろに彼が携帯を出してきた。
「…俺さ、電話番号もアドレスも変わったんだけど、連絡先交換しとく?」
「…ううん、大丈夫!」
「…そっか…ほんとに?」
「ほんとに!!」
強がり半分、後悔もちょっと。
「…ならいいけど」
その表情に同情しないように畳みかけて話す。
「ねぇ!私、夢が叶ったんだよ!バンド組んでギターまだ弾いてるの!明日ライブ!」
「え?そうなんだ!」
「うん、おもいっきりさ、あなたをネタにして歌を作ってそれ歌ってるから」
「おい!まじか!どんな曲?」
「悲しい歌ばっかりに決まってるじゃん?バラードしか歌えない身体になってしまったじゃん!ばか!」
「俺のせい?いやほんとにどんな曲なのか気になる」
「絶対聞かせたくないけどね?夢が叶う前の日に会えるなんて、思ってないからびっくり!明日のライブでネタにして話そっと!」
ぎょっとした顔を一瞬見せたけど、満足そうに笑う私を見て、彼が笑った。
「ネタって!!…良いように話せよ?カッコイイとか素敵なとか!…けど、まぁ夢をかなえたんだな!おめでとう!」
「お互い様でしょ?バイク勉強できてよかったね!あの時に行かないでって引き留めてなくてよかったよ」
気が付けば、空が明るくなっていた。
さよならをちゃんと言えた気がした、いい朝だった。
「そろそろ帰りますか?」
「おう!ライブ頑張れよ!」
「そっちこそ」
なんか、もう会えない気がした。
いま離れたらきっと、また偶然とか運命とかそんなものに頼らないかぎり、
二度と会えない気がして、胸がキュッとした。
それをかき消すように、
「それじゃ、おやすみ!!」
彼が別れ際に言った。
「え?うん、おやすみなさい…」
私も言い返した。
それは、バイバイよりも、涙が出ちゃうくらい特別な言葉のような気がした。
さよならを言わないんだ…
寂しさやせつなさが、和らいで行くのがわかった。
あぁ彼はこんなヤツだったなって帰りの車で思い出して、涙が出た。
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