日本異世界召喚

Alice In

文字の大きさ
上 下
30 / 33

キャルツ魔法学校の日常

しおりを挟む
アンゴラス帝国 帝都キャルツ

灰色の建物が建ち並ぶ中心部より少し離れた所に、幾つもの建造物が複雑な1つの巨大建造物を構成している。この建物こそ、帝国のエリートを生み出してきたキャルツ魔道学校である。

「アリシアさん、アリシアさん、起きてください。授業中ですよ。」片眼鏡をかけた女性教師、ベラは叱咤する。

「むにゃ?ふぁーー。寝てません。起きてます。」アリシアはビクリと顔を上げる。

「アリシアさん?」ベラはアリシアを睨み付ける。アリシアの肩が小さく震える。

「ごめんなさい、寝てました。」

「そうですか、アリシアさん。授業中に寝るだなんて、しかも先生に向かって嘘をつくだなんて罰が必要だと思いませんか?」ベラの冷たい声が響く。

「おっ、思いません。」アリシアは震えた声で答える。

「本当にそう思いますか?」

「うっ、えっと、必要かもしれません。」アリシアは観念したかのようにボソボソ言う。

「そうですよね、アリシアさん。問題集の53ページから78ページを週末の間にやって来ること。」アリシアは授業態度が非常に悪く、人よりたくさんの宿題をやらされる。それがアリシアの成績が良好な理由だということを、父は知らない。

「そんな!23ページは多過ぎますよ!鬼!悪魔!オーガ!」アリシアは頬を膨らませ言う。しかし、無駄な抵抗だった。

「先生をオーガ呼ばわりするなんて随分勇気がおありですね。アリシアさん?」声色がますます冷えていく。それだけで人を殺せそうだ。

「ごめんなさい、ごめんなさい、これ以上増やさないで!」アリシアは懇願する。

「どうしましょうかね?」ベラは、口角を上げながら言う。

「リーンドーン、リーンドーン。」時計塔から授業の終わりを告げる鐘がなる。

「すかさずアリシアはドアへ向かって脱出する。」

「アリシアさん。まだ話は終わってませんよ。待ちなさい!」



----------------------

キャルツ魔道学校 食堂

「ゼェ、ハァ、疲れた。もーだめ。」

「アリシア、後ろにベラ先生が…」級友のクローディアが言う。

「ギャアー!ごめんなさい先生、あれ?」慌てて振り向くも誰もいない。

「うそだよー♪」

「クローディア、世の中にはついていい嘘とついてはいけない嘘っていうのがあるの。知ってる?」アリシアは淡々とした口調で言う。

「そんな怒んないでよ。私のポテト少し分けてあげるから。」

「やったー♪もーらい♪」アリシアはクローディアの皿に乗ったポテトを全て平らげる。

「あーー!少しって言ったよね!ちょっとアリシア、出しなさいよ!」

「モグモグ♪ゴックン♪」

「アリシアのバカー!」クローディアはアリシアの髪を引っ張る。

「アリシアに嘘をつくだなんて罰が必要だと思いませんか?」ベラの声色を真似てアリシアが言う。

「微妙に似てるのが余計むかつくー。」

「さぁ、早く戻らないと授業に遅れちゃうよ。」

「お前が言うなー。」

「リーンドーン、リーンドーン。」

「あっ、ヤバい!」クローディアが言う。

「それー!」アリシアは学年1位、2位を争う健脚を持ってダッシュする。

「ちょっと待ってよアリシア!二人で怒られようよ。」クローディアは息を切らせながらアリシアの後を追うのだった。

結局、アリシアだけが授業に間に合い、クローディアだけが怒られ、宿題をたっぷり出された。

「ひどいよアリシア、抜け駆けするなんて!」

「足の速さの違いでしょ。私のせいじゃないよ。」

「アリシア、後ろにベラ先生が…」クローディアが小声で言う。

「もうその手には乗りません。オーガがそこらじゅうにいてたまんないもんね。」

「アリシアさん、オーガがどうかしましたか?」殺気を感じさせるような冷たい声が響く。

「ベ、ベラ先生。ちょ、ちょっと、オーガの生態に興味がありまして…」アリシアは詰まりながら言う。

「そうですか、魔道生物に興味を持つことは魔道学校の生徒として素晴らしいことです。」ベラはアリシアの目を見つめながら言う。

「ですよね。では私はこれで失礼致しま…。」アリシアは足早に立ち去ろうとするが、今回はそうもいかなかった。

「ですから、オーガの生態についてレポートを描いて来てください。」

「そんな!ひどい!このオーガ!」



「あなたがオーガの生態に興味があるといったのでしょう。」



「うぁーん、うぁーん!」アリシアは泣き叫ぶ。



「嘘泣きを止めなさい。」



「えっ?何でばれたの!お父さんにもバレたことないのに。」アリシアは顔を上げてキョトンとする。

「あなたの考えそうなことはすぐに分かります。それより次の授業に行かなくていいのですか?」

「あわっ!そうだ、行かなくちゃ!」アリシアは再びダッシュする。

「アリシア待ってー!」クローディアが続く。

「廊下を走ってはいけません!」ベラの声がするが、お構いなしに走り続ける。

---------------------



カルバール公園、噴水前

第23代皇帝、カルバールの生誕を祝われて作られたこの公園の噴水は、主に帝都の住民の待ち合わせ場所として機能している。今日は1年に1度の国王誕生日とあって人が多い。屋台もたくさん出ている。

「クローディア、待った?」おめかしした、アリシアが全力疾走しながら登場する。白いカッターに黒い上着を合わせた大人びた衣装だが、全力疾走のせいで台無しだ。

「今は何時何分?」少し声色を下げて言ってみる。

「7時45分です。」アリシアはびくつきながら言う。ちょっとかわいいかも。

「待ち合わせ時間は何時何分?」

「7時…です。」目の焦点が合ってない。

「なにか言うことはない?」

「えーと、あーと、今日は楽しもう♪」少しムカついたので綺麗な髪を引っ張ってみる。

「痛い、痛い、やめてよ。謝るから。そうだ、クレープ奢るから、ねっ!」クレープに釣られて髪を放す。

「せっかく髪を整えてきたのに台無しじゃん。クローディアのせいだ。」アリシアは頬を膨らませる。

「その前に全力疾走のせいで、汗まみれになってたけどね。」

「じゃあレッツゴー♪」アリシアはまた、走り始める。

「待ってよアリシア、はぐれるよ。アリシア!」クローディアはまた後を追うはめとなった。まぁ、いいか。今日はアリシアと過ごせる最後の日。精一杯楽しまないと。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。 歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。 そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。 「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。 そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。 制刻を始めとする異質な隊員等。 そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。 元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。 〇案内と注意 1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。 3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。 4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。 5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

処理中です...