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Chapter 1
49*王弟は双子について学ぶ
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「義姉上、どうかそれぐらいで…」
そう言って、チラッと移した視線の先には、父ライオネルに急かされて必死に書類に目を通している陛下がいた。
そして、その陛下を見つめる目には"兄上が居た堪れません"とでも言いたいような、王弟アレキサンダーの表情が見て取れた。
母と共に、クスクスと笑い言いながら「分かりましたわ!」と、話を切り上げる王妃シャーロットからは、なんとも言えない愛おしさが感じられた。
要するに、自他とも認めるおしどり夫婦なのである。
そんな、おしどり夫婦の弟であるアレキサンダーは、常にこの2人に『結婚!結婚!』と言われて過ごしてきた。正直なところ、家臣以上に結婚を勧めてくるのは、間違いなく陛下と王妃なのだ。
だからこそ、今現在…
ただの衣装合わせの、この場に2人がいるのだ。
普段、滅多なことでは他人と接触しないアレキサンダーが、自ら辺境伯家の双子に衣装の依頼をしたと聞いて、今度の夜会で心を射止めたい女性がいるのではないか?と、考えたのだ。
もちろん、実際そんな女性はいない。
でも、興味を惹かれる双子なら目の前にいた。
アレキサンダーは、採寸をされている間、書類に目を通しながらも、テキパキと動くアシュリーの動きを感心するかのように眺めていた。
漸く、衣装合わせも終えた頃、アシュリーは最後の仕上げに入るといい、何人もの針子を連れ立って部屋を出て行った。
アレキサンダーは、執事から「お寛ぎ下さい」とお茶を出され、ソファーへと腰掛けた。辺境伯家へ来てから、初めて座れた瞬間だった。
「ふぅ~」と、息を吐き肩の力を抜いたところで、待ってました!とばかりに、今度はネイルを終えたナタリーがアレキサンダーの背後へとやってきた。
「殿下、髪型なんですけど…」
そう言うなり、ナタリーはコームを取り出しアレキサンダーの髪をいじり始めた。もはや、"着せ替え人形"の様な衣装合わせを終えたばかりのアレキサンダーに、抵抗する気力は持ち合わせていなかった。頭上では、ナタリーがブツブツと何かを唱えている。
アレキサンダーは、そんなナタリーに「好きにしてくれ」と、一言伝えると先ほどまで目を通していた書類へと視線を戻した。
それから、暫くナタリーはアレキサンダーの髪を好き勝手に弄っていた。その為、気付くのが遅れたのだ。
シャキーン!
耳元で、金属が重なる様な異質な音が聞こえたと思った瞬間…
アレキサンダーの手元の書類の上に、パラパラと煌めく様な金髪が落ちてきた。
「「「「!!!!!」」」」
静まり返る部屋中の視線が、一気にアレキサンダーへと集まった。
すぐさま、振り返ろうとしたアレキサンダーの頭を、ナタリーがガシッと抑えながら「動かないで!」と言われれば、髪を切られたことは間違いではなく、意図的なことだと理解できた。
「私に任せて!いい感じにするから♪」
もはや、殿下に対してタメ口で言い放ったナタリーは止まらなかった。
そもそも、王族の髪を本人の許可なく切った時点で、王族侮辱罪とかに問われてもおかしく無いのだが…
当の本人は、ノリノリでハサミを動かしていた。アレキサンダーは、何も言えないまま自身の髪が切られていくのを呆然と見ていた。
シャキン、シャキン、っと心地の良い音が部屋中に響き渡る。
そして、ハサミの音が止むのとほぼ同時に、アシュリーが「終わったよ~!」と、部屋に戻ってきた。
「あれ?やっぱ結局切ったんだ!」
「うん!こっちの方がいい感じでしょっ!」
「うん!イケメン増しだね!
でも、絶対切らせてくれないかと思ってた!良く切らせてくれたね?」
「あぁ、先に『好きにしていい』って言われてたの!」
「そっかそっか!でも、こっちの方がコレに絶対似合うわ!!」
「でしょっ!!決めた衣装見た時に、絶対切ろうと思ったもん!」
自身の頭上で、楽しそうに繰り広げられる会話を聞きながら、今後は安易に「好きにしていい」等とは口に出さないと決めたアレキサンダーだった。
そう言って、チラッと移した視線の先には、父ライオネルに急かされて必死に書類に目を通している陛下がいた。
そして、その陛下を見つめる目には"兄上が居た堪れません"とでも言いたいような、王弟アレキサンダーの表情が見て取れた。
母と共に、クスクスと笑い言いながら「分かりましたわ!」と、話を切り上げる王妃シャーロットからは、なんとも言えない愛おしさが感じられた。
要するに、自他とも認めるおしどり夫婦なのである。
そんな、おしどり夫婦の弟であるアレキサンダーは、常にこの2人に『結婚!結婚!』と言われて過ごしてきた。正直なところ、家臣以上に結婚を勧めてくるのは、間違いなく陛下と王妃なのだ。
だからこそ、今現在…
ただの衣装合わせの、この場に2人がいるのだ。
普段、滅多なことでは他人と接触しないアレキサンダーが、自ら辺境伯家の双子に衣装の依頼をしたと聞いて、今度の夜会で心を射止めたい女性がいるのではないか?と、考えたのだ。
もちろん、実際そんな女性はいない。
でも、興味を惹かれる双子なら目の前にいた。
アレキサンダーは、採寸をされている間、書類に目を通しながらも、テキパキと動くアシュリーの動きを感心するかのように眺めていた。
漸く、衣装合わせも終えた頃、アシュリーは最後の仕上げに入るといい、何人もの針子を連れ立って部屋を出て行った。
アレキサンダーは、執事から「お寛ぎ下さい」とお茶を出され、ソファーへと腰掛けた。辺境伯家へ来てから、初めて座れた瞬間だった。
「ふぅ~」と、息を吐き肩の力を抜いたところで、待ってました!とばかりに、今度はネイルを終えたナタリーがアレキサンダーの背後へとやってきた。
「殿下、髪型なんですけど…」
そう言うなり、ナタリーはコームを取り出しアレキサンダーの髪をいじり始めた。もはや、"着せ替え人形"の様な衣装合わせを終えたばかりのアレキサンダーに、抵抗する気力は持ち合わせていなかった。頭上では、ナタリーがブツブツと何かを唱えている。
アレキサンダーは、そんなナタリーに「好きにしてくれ」と、一言伝えると先ほどまで目を通していた書類へと視線を戻した。
それから、暫くナタリーはアレキサンダーの髪を好き勝手に弄っていた。その為、気付くのが遅れたのだ。
シャキーン!
耳元で、金属が重なる様な異質な音が聞こえたと思った瞬間…
アレキサンダーの手元の書類の上に、パラパラと煌めく様な金髪が落ちてきた。
「「「「!!!!!」」」」
静まり返る部屋中の視線が、一気にアレキサンダーへと集まった。
すぐさま、振り返ろうとしたアレキサンダーの頭を、ナタリーがガシッと抑えながら「動かないで!」と言われれば、髪を切られたことは間違いではなく、意図的なことだと理解できた。
「私に任せて!いい感じにするから♪」
もはや、殿下に対してタメ口で言い放ったナタリーは止まらなかった。
そもそも、王族の髪を本人の許可なく切った時点で、王族侮辱罪とかに問われてもおかしく無いのだが…
当の本人は、ノリノリでハサミを動かしていた。アレキサンダーは、何も言えないまま自身の髪が切られていくのを呆然と見ていた。
シャキン、シャキン、っと心地の良い音が部屋中に響き渡る。
そして、ハサミの音が止むのとほぼ同時に、アシュリーが「終わったよ~!」と、部屋に戻ってきた。
「あれ?やっぱ結局切ったんだ!」
「うん!こっちの方がいい感じでしょっ!」
「うん!イケメン増しだね!
でも、絶対切らせてくれないかと思ってた!良く切らせてくれたね?」
「あぁ、先に『好きにしていい』って言われてたの!」
「そっかそっか!でも、こっちの方がコレに絶対似合うわ!!」
「でしょっ!!決めた衣装見た時に、絶対切ろうと思ったもん!」
自身の頭上で、楽しそうに繰り広げられる会話を聞きながら、今後は安易に「好きにしていい」等とは口に出さないと決めたアレキサンダーだった。
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