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番外編
〜アーリアとリカルドその後Ⅱ〜
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それから、結婚式が行われるまでの日々は特にこれといった問題もなく、表向き当主としての執務に追われる毎日となった。
もちろん、契約魔術を結んだ後、しばらくは女性が近づくたびに怯えていた。
正直、下心がどれほどまでの事を言うのか判断つかないこともあり、ただただ不安だったのだ。
だってそうだろう?
道ですれ違いざまに、「あ、この子可愛い!」と思っただけで、あそこが爛れるかもしれないのだ。
そんな恐ろしい事が、今のリカルドにとってはとても身近にある。
しかし、不安はありつつも今まで以上にアーリアと過ごす時間が増えて気づいたこともあった。
彼女は、本当に優秀で素晴らしいということだ。
そして、何より…美しい。
婚約者として、何故今まで彼女と交流を持ってこなかったのか…
そう自分自身が、不思議に思えるほど彼女は魅力的だった。
今では、彼女と2人で庭でお茶をする事が日課となりつつある。公爵令嬢として完璧な所作でお茶を嗜む姿に惚れ惚れしてしまった。
(本当に美しい…)
会うたびに彼女に惹かれていくリカルドが、アーリアを強く求めるようになるまでに時間は掛からなかった。
日を追うごとにアーリアへ対する想いは、膨れ上がっていく。
しかし、それを伝えられる資格など無い事はリカルド自身が一番よく分かっていた。
そして、愛おしい想いと比例するかのように、不安も募っていく。
自分は、アーリアを抱きしめることさえ許されないのでは無いかと…
今更、何と言えばいい?
君が好きだ!と伝えたところで、アーリアは信じてくれるだろうか?
あの日、彼女はリカルドに対し『どうしても許せない』と言っていたのだから…
結局、リカルドからは何も言い出せないまま、アーリアへの恋慕だけが大きくなっていった。
そして、その想いは次第に今まで躊躇していた男の部分にまで熱を持つようになる。
(くっ…っそ!ダメだ、眠れない)
夜な夜な、ベッドに入るなりリカルドはアーリアを想うようになっていった。
そして、アーリアとの初夜を想像しながら自分の欲望を吐き出すのだ。
結婚式まで、あと数ヶ月…
それは、リカルドの日課となりつつあった。
一方で、アーリア自身もリカルドから放たれる熱い視線に頭を悩ませていた。
正直なところ、アーリアはリカルドが好きではない。
それもそうだろう。
昼間から娼館で、好き勝手に女を抱き、婚約者である自分のことは放置し娼婦を妻にするなどと言っていた馬鹿なのだから…
でも、そんなどうしようもないリカルドではあるが、婚約した当初はアーリアを大切に思っていてくれたことも知っていた。婚約が決まって直ぐ、顔合わせが終わり親同士が話しをしている間に、アーリアはリカルドに手を引かれフォード公爵家を案内して貰っていた。その際、リカルドは会う使用人一人一人に嬉しそうにアーリアを紹介したのだ。
『僕の婚約者になった、アーリア・レイノルズ嬢だ!綺麗な子だろう?皆僕がいなくても彼女を守ってくれよ!』
『アーリア嬢だよ!僕の婚約者なんだ!妖精みたいだろう?』
そして、リカルドはアーリアが側に居ないときでも、まるで惚気るかのように皆にアーリアの話しをするのだ。
『彼女は、とっても可愛く笑うんだ!』
『今度、来たときには愛称で呼んでもいいかな?まだ、早いって嫌がられると思うか?』
『早くアーリアって呼びたいな!』
これは、忘れ物に気づき取りに戻ったときに、偶然耳にした会話だった。
その時のリカルドの気持ちに、アーリアが喜んだことは今でも覚えている。
そしてその時に、きっと彼とならお母様やお父様のようにいつまでも仲の良い家族になれる!と思ったことも…
彼は…
恐らく、
きっと、
単純なのだ。
今回、共に過ごす時間が増えたことでアーリアはそれを強く感じていた。
単純で、純粋。
彼にぴったりだと思った。
何度も、娼館にお世話になったことで、彼はいつも相手をしてくれる女性に心を惹かれただけ。
アーリアと過ごす時間が増えれば、その相手がアーリアに変わるだけである。
貴族として、政略結婚など当たり前なのだ。
今更、愛した本当に好きな人と結婚したい!等とは、正直なところあまり思わない。
別に、恋愛結婚を否定しているわけでも無い。
ただ、アーリアは自分の身分もやるべき事も理解している。
その中で、結婚は単なる政治でしか無いということだ。
そして、それをアーリア自身が良しとしているのだから、それでいい。
相手が、生理的に受付けることが難しいような相手ではないことに感謝すらしている。
しかも、リカルドは今後アーリアを裏切ることはできないだろう。
あの契約があるかぎり、リカルドは浮気することも不可能に近いのだから…
と、なれば…
そろそろ、手ぐらい繋がせてやるべきか?とアーリアは考えていた。
あれ程、毎日のように娼館通いをして精を吐き出していた男だ。
契約魔術に怯えていたことは知っていても、さすがにここ数年、リカルドはアーリアを含めた誰にも触れてはいないのだ。
言い方が悪いかも知れないが、その大分…溜まっているのではないだろうか。
結婚前の婚約者同士であれば、すでに閨を共にしている者達もいる。
もちろん、リカルドとは初夜までは絶対にしない。
しかし、そろそろアーリアもリカルドを受け入れる準備が必要だと感じていた。
あ!身体ではなく、心の方でね!
今のままでは、"誓いの口付け"で魔法を放ってしまいそうだ…。
結局、長々と悩んだ末、アーリアは翌日のお茶会で初めて自らリカルドの手を握ったのだ。
結婚式までは、まだ時間がある。
徐々に、慣れていけばいい…そう思うのであった。
因みに、余談ではあるが…
この日、リカルドがアーリアに握られた手を洗うこと無く夜の慰めに利用したことは、言うまでもない。
もちろん、契約魔術を結んだ後、しばらくは女性が近づくたびに怯えていた。
正直、下心がどれほどまでの事を言うのか判断つかないこともあり、ただただ不安だったのだ。
だってそうだろう?
道ですれ違いざまに、「あ、この子可愛い!」と思っただけで、あそこが爛れるかもしれないのだ。
そんな恐ろしい事が、今のリカルドにとってはとても身近にある。
しかし、不安はありつつも今まで以上にアーリアと過ごす時間が増えて気づいたこともあった。
彼女は、本当に優秀で素晴らしいということだ。
そして、何より…美しい。
婚約者として、何故今まで彼女と交流を持ってこなかったのか…
そう自分自身が、不思議に思えるほど彼女は魅力的だった。
今では、彼女と2人で庭でお茶をする事が日課となりつつある。公爵令嬢として完璧な所作でお茶を嗜む姿に惚れ惚れしてしまった。
(本当に美しい…)
会うたびに彼女に惹かれていくリカルドが、アーリアを強く求めるようになるまでに時間は掛からなかった。
日を追うごとにアーリアへ対する想いは、膨れ上がっていく。
しかし、それを伝えられる資格など無い事はリカルド自身が一番よく分かっていた。
そして、愛おしい想いと比例するかのように、不安も募っていく。
自分は、アーリアを抱きしめることさえ許されないのでは無いかと…
今更、何と言えばいい?
君が好きだ!と伝えたところで、アーリアは信じてくれるだろうか?
あの日、彼女はリカルドに対し『どうしても許せない』と言っていたのだから…
結局、リカルドからは何も言い出せないまま、アーリアへの恋慕だけが大きくなっていった。
そして、その想いは次第に今まで躊躇していた男の部分にまで熱を持つようになる。
(くっ…っそ!ダメだ、眠れない)
夜な夜な、ベッドに入るなりリカルドはアーリアを想うようになっていった。
そして、アーリアとの初夜を想像しながら自分の欲望を吐き出すのだ。
結婚式まで、あと数ヶ月…
それは、リカルドの日課となりつつあった。
一方で、アーリア自身もリカルドから放たれる熱い視線に頭を悩ませていた。
正直なところ、アーリアはリカルドが好きではない。
それもそうだろう。
昼間から娼館で、好き勝手に女を抱き、婚約者である自分のことは放置し娼婦を妻にするなどと言っていた馬鹿なのだから…
でも、そんなどうしようもないリカルドではあるが、婚約した当初はアーリアを大切に思っていてくれたことも知っていた。婚約が決まって直ぐ、顔合わせが終わり親同士が話しをしている間に、アーリアはリカルドに手を引かれフォード公爵家を案内して貰っていた。その際、リカルドは会う使用人一人一人に嬉しそうにアーリアを紹介したのだ。
『僕の婚約者になった、アーリア・レイノルズ嬢だ!綺麗な子だろう?皆僕がいなくても彼女を守ってくれよ!』
『アーリア嬢だよ!僕の婚約者なんだ!妖精みたいだろう?』
そして、リカルドはアーリアが側に居ないときでも、まるで惚気るかのように皆にアーリアの話しをするのだ。
『彼女は、とっても可愛く笑うんだ!』
『今度、来たときには愛称で呼んでもいいかな?まだ、早いって嫌がられると思うか?』
『早くアーリアって呼びたいな!』
これは、忘れ物に気づき取りに戻ったときに、偶然耳にした会話だった。
その時のリカルドの気持ちに、アーリアが喜んだことは今でも覚えている。
そしてその時に、きっと彼とならお母様やお父様のようにいつまでも仲の良い家族になれる!と思ったことも…
彼は…
恐らく、
きっと、
単純なのだ。
今回、共に過ごす時間が増えたことでアーリアはそれを強く感じていた。
単純で、純粋。
彼にぴったりだと思った。
何度も、娼館にお世話になったことで、彼はいつも相手をしてくれる女性に心を惹かれただけ。
アーリアと過ごす時間が増えれば、その相手がアーリアに変わるだけである。
貴族として、政略結婚など当たり前なのだ。
今更、愛した本当に好きな人と結婚したい!等とは、正直なところあまり思わない。
別に、恋愛結婚を否定しているわけでも無い。
ただ、アーリアは自分の身分もやるべき事も理解している。
その中で、結婚は単なる政治でしか無いということだ。
そして、それをアーリア自身が良しとしているのだから、それでいい。
相手が、生理的に受付けることが難しいような相手ではないことに感謝すらしている。
しかも、リカルドは今後アーリアを裏切ることはできないだろう。
あの契約があるかぎり、リカルドは浮気することも不可能に近いのだから…
と、なれば…
そろそろ、手ぐらい繋がせてやるべきか?とアーリアは考えていた。
あれ程、毎日のように娼館通いをして精を吐き出していた男だ。
契約魔術に怯えていたことは知っていても、さすがにここ数年、リカルドはアーリアを含めた誰にも触れてはいないのだ。
言い方が悪いかも知れないが、その大分…溜まっているのではないだろうか。
結婚前の婚約者同士であれば、すでに閨を共にしている者達もいる。
もちろん、リカルドとは初夜までは絶対にしない。
しかし、そろそろアーリアもリカルドを受け入れる準備が必要だと感じていた。
あ!身体ではなく、心の方でね!
今のままでは、"誓いの口付け"で魔法を放ってしまいそうだ…。
結局、長々と悩んだ末、アーリアは翌日のお茶会で初めて自らリカルドの手を握ったのだ。
結婚式までは、まだ時間がある。
徐々に、慣れていけばいい…そう思うのであった。
因みに、余談ではあるが…
この日、リカルドがアーリアに握られた手を洗うこと無く夜の慰めに利用したことは、言うまでもない。
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