【完結】4人の令嬢とその婚約者達

cc.

文字の大きさ
上 下
22 / 31
番外編

〜アーリアとリカルドその後Ⅱ〜

しおりを挟む
それから、結婚式が行われるまでの日々は特にこれといった問題もなく、表向き当主としての執務に追われる毎日となった。

もちろん、契約魔術を結んだ後、しばらくは女性が近づくたびに怯えていた。
正直、下心がどれほどまでの事を言うのか判断つかないこともあり、ただただ不安だったのだ。

だってそうだろう?
道ですれ違いざまに、「あ、この子可愛い!」と思っただけで、あそこが爛れるかもしれないのだ。
そんな恐ろしい事が、今のリカルドにとってはとても身近にある。

しかし、不安はありつつも今まで以上にアーリアと過ごす時間が増えて気づいたこともあった。

彼女は、本当に優秀で素晴らしいということだ。

そして、何より…美しい。

婚約者として、何故今まで彼女と交流を持ってこなかったのか…
そう自分自身が、不思議に思えるほど彼女は魅力的だった。
今では、彼女と2人で庭でお茶をする事が日課となりつつある。公爵令嬢として完璧な所作でお茶を嗜む姿に惚れ惚れしてしまった。

(本当に美しい…)

会うたびに彼女に惹かれていくリカルドが、アーリアを強く求めるようになるまでに時間は掛からなかった。

日を追うごとにアーリアへ対する想いは、膨れ上がっていく。
しかし、それを伝えられる資格など無い事はリカルド自身が一番よく分かっていた。

そして、愛おしい想いと比例するかのように、不安も募っていく。

自分は、アーリアを抱きしめることさえ許されないのでは無いかと…

今更、何と言えばいい?
君が好きだ!と伝えたところで、アーリアは信じてくれるだろうか?
あの日、彼女はリカルドに対し『どうしても許せない』と言っていたのだから…

結局、リカルドからは何も言い出せないまま、アーリアへの恋慕だけが大きくなっていった。
そして、その想いは次第に今まで躊躇していた男の部分にまで熱を持つようになる。

(くっ…っそ!ダメだ、眠れない)

夜な夜な、ベッドに入るなりリカルドはアーリアを想うようになっていった。
そして、アーリアとの初夜を想像しながら自分の欲望を吐き出すのだ。
結婚式まで、あと数ヶ月…
それは、リカルドの日課となりつつあった。



一方で、アーリア自身もリカルドから放たれる熱い視線に頭を悩ませていた。

正直なところ、アーリアはリカルドが好きではない。
それもそうだろう。
昼間から娼館で、好き勝手に女を抱き、婚約者である自分のことは放置し娼婦を妻にするなどと言っていた馬鹿なのだから…

でも、そんなどうしようもないリカルドではあるが、婚約した当初はアーリアを大切に思っていてくれたことも知っていた。婚約が決まって直ぐ、顔合わせが終わり親同士が話しをしている間に、アーリアはリカルドに手を引かれフォード公爵家を案内して貰っていた。その際、リカルドは会う使用人一人一人に嬉しそうにアーリアを紹介したのだ。

『僕の婚約者になった、アーリア・レイノルズ嬢だ!綺麗な子だろう?皆僕がいなくても彼女を守ってくれよ!』

『アーリア嬢だよ!僕の婚約者なんだ!妖精みたいだろう?』

そして、リカルドはアーリアが側に居ないときでも、まるで惚気るかのように皆にアーリアの話しをするのだ。

『彼女は、とっても可愛く笑うんだ!』

『今度、来たときには愛称で呼んでもいいかな?まだ、早いって嫌がられると思うか?』

『早くアーリアって呼びたいな!』

これは、忘れ物に気づき取りに戻ったときに、偶然耳にした会話だった。
その時のリカルドの気持ちに、アーリアが喜んだことは今でも覚えている。
そしてその時に、きっと彼とならお母様やお父様のようにいつまでも仲の良い家族になれる!と思ったことも…


彼は…

恐らく、

きっと、

単純なのだ。


今回、共に過ごす時間が増えたことでアーリアはそれを強く感じていた。

単純で、純粋。

彼にぴったりだと思った。
何度も、娼館にお世話になったことで、彼はいつも相手をしてくれる女性に心を惹かれた
アーリアと過ごす時間が増えれば、その相手がアーリアに変わるである。

貴族として、政略結婚など当たり前なのだ。
今更、愛した本当に好きな人と結婚したい!等とは、正直なところあまり思わない。
別に、恋愛結婚を否定しているわけでも無い。

ただ、アーリアは自分の身分もやるべき事も理解している。
その中で、結婚は単なる政治でしか無いということだ。

そして、それをアーリア自身が良しとしているのだから、それでいい。
相手が、生理的に受付けることが難しいような相手ではないことに感謝すらしている。

しかも、リカルドは今後アーリアを裏切ることはできないだろう。
あの契約があるかぎり、リカルドは浮気することも不可能に近いのだから…

と、なれば…
そろそろ、手ぐらい繋がせてやるべきか?とアーリアは考えていた。
あれ程、毎日のように娼館通いをして精を吐き出していた男だ。
契約魔術に怯えていたことは知っていても、さすがにここ数年、リカルドはアーリアを含めた誰にも触れてはいないのだ。
言い方が悪いかも知れないが、その大分…溜まっているのではないだろうか。

結婚前の婚約者同士であれば、すでに閨を共にしている者達もいる。
もちろん、リカルドとは初夜までは絶対にしない。

しかし、そろそろアーリアもリカルドを受け入れる準備が必要だと感じていた。

あ!身体ではなく、心の方でね!

今のままでは、"誓いの口付け"で魔法を放ってしまいそうだ…。


結局、長々と悩んだ末、アーリアは翌日のお茶会で初めて自らリカルドの手を握ったのだ。

結婚式までは、まだ時間がある。
徐々に、慣れていけばいい…そう思うのであった。



因みに、余談ではあるが…
この日、リカルドがアーリアに握られた手を洗うこと無く夜の慰めに利用したことは、言うまでもない。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

【完結】君を愛する事はない?でしょうね

玲羅
恋愛
「君を愛する事はない」初夜の寝室でそう言った(書類上の)だんな様。えぇ、えぇ。分かっておりますわ。わたくしもあなた様のようなお方は願い下げです。

私はアナタから消えます。

転生ストーリー大好物
恋愛
振り向いてくれないなら死んだ方がいいのかな ただ辛いだけの話です。

あなたが一番大切なのに

頭フェアリータイプ
恋愛
公爵令嬢で王太子の婚約者なロザリーナは突然婚約破棄されてしまう。 婚約破棄されてしまったロザリーナは一体どうなってしまうのか。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】私は身代わりの王女だったけれど、冷たい王太子に愛されました。

朝日みらい
恋愛
虐げられた王女・エリシアは、母の死後、継母と義理の姉妹たちに冷遇されながら宮廷で孤独に暮らしていた。そんな中、病に伏した父王の代わりに和平を保つため、隣国との政略結婚が決定される。本来ならば義姉が花嫁となるはずが、継母の陰謀で「身代わりの花嫁」としてエリシアが送り込まれることに。 隣国の王太子・レオニードは「女嫌い」と噂される冷淡な人物。結婚初夜、彼はエリシアに「形だけの夫婦」と宣言し、心を閉ざしたままだったが――。

お別れを言うはずが

にのまえ
恋愛
婚約者に好きな人ができたのなら、婚約破棄いたしましよう。 エブリスタに掲載しています。

王太子の愚行

よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。 彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。 婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。 さて、男爵令嬢をどうするか。 王太子の判断は?

皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]

風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが 王命により皇太子の元に嫁ぎ 無能と言われた夫を支えていた ある日突然 皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を 第2夫人迎えたのだった マルティナは初恋の人である 第2皇子であった彼を新皇帝にするべく 動き出したのだった マルティナは時間をかけながら じっくりと王家を牛耳り 自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け 理想の人生を作り上げていく

処理中です...