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本編
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その後、リカルドを始めとした他3名は、それはそれは散々な目に遭った。
まずリカルドは、公爵である父の怒りを一心に受けていたのだが、その怒りは収まることは無く…
それに輪を掛けて怒鳴りつけてきたのは公爵夫人である母だった。
リカルドの母は、"フォード公爵家"というブランドをこよなく愛しており、どんなに領地が、公爵家が緊迫していても、決して抑えるということをしてこなかった女性である。
『税収がたりないのですか?それは困りましたわね‥次の夜会のドレスを新調したばかりですのに‥
貴方、しっかり領地運営なさってくださいまし!私も、フォード家の為にしっかりと交流と顔を広めてまいりますわ!少し、金策が上手くいっていないからと、フォード家がなめられてもしたら大変ですもの!』
そう言って、また精一杯の見栄をはり湯水のごとく金を使う。
それが、リカルドの母でありフォード公爵夫人だった。
もちろん、あまりにも酷い場合は公爵が止めに入るもののこの貴族社会、一度なめられると直ぐに足下をすくわれてしまうのも事実だった。その際どい、ギリギリを公爵的には見極めていたつもりだったのだろう。
そして、何と言ってもその頼みの綱だったのが…
リカルドとアーリアの婚約だった。
常に資産を増やし続けている、レイノルズ公爵家と縁続きになれば、必然的にフォード家は安泰になるはずだったのだ。もちろん、それはリカルドの母であるフォード公爵夫人が何よりも期待していたことなのだから。
しかし、それをリカルドはたかが娼婦に入れあげたために、全てを不意にしようとしていた。
しかも、『フォード家の嫡男が娼婦に入れあげていた』という醜聞つきである。
何よりも、家名を重んじる公爵夫人からすれば、恥も恥…大恥である。
とすれば、その怒りの矛先は間違いなくリカルドへと向けられるのだった。
母の怒りは、凄まじかった。金切り声で、わめき散らす姿はもはや公爵夫人ではない。全く別の人間に思えるほどだった。そんな母の姿を、呆然とみていると不意に錯乱している状態の母と目が合った。
"しまった"
そう思った、ほぼ同じタイミングでリカルドの頬に痛みが走る。
そして、下を向けばそこには割れたグラスが落ちていた。
そう、リカルドは怒り狂った母親に顔面に向かって、グラスを投げられたのだ。
幸いにも、グラスは床に落ちてから割れたのだろう。
リカルドの肌は、赤くなったものの傷は見られなかった。
しかし、これは終わりではなく、たんなる始まりに過ぎなかったのだ。
空が、白く明るさを取り戻し始めた頃、母はリカルドの部屋を出て行った。
『この、屑が!役立たずが!』と言い残して。
リカルドは、部屋の中でただただ立ちすくんでいた。
もはや、足の踏み場もない部屋の惨状にどうすることもできずにいた。
リカルドの母は、明け方近くまで夜通しリカルドへ怒りをぶつけていたのだ。もちろん、言葉だけではない。無残なほどの部屋の惨状からしても、彼女はリカルドに対し部屋の中にあったありとあらゆる物をリカルドへと投げつけていたのだ。
流石にこれには、リカルドの精神がやられてしまった。
リカルド自身、騎士であり将来有望とまでされる腕の持ち主である。いくら様々な物を、投げられようとも投げている相手が所詮、普段鍛えることの無い夫人であるなら、大した怪我にはならない。
しかし、実の母親に夜通し罵倒されながら折檻を受けるとなれば気持ちの上で苦痛が伴う。
特に、今までフォード家の嫡男として何不自由なく育てられた者には耐えがたかっただろう。
リカルドは、未だぼんやりとしながらも何とか自身を奮い立たせて、部屋を片付け始めた。
そう、彼は準備をして、少しでも休んでおかなければならないのだ。
明日は、ダンジョンへ出発しなければならないのだから…。
まずリカルドは、公爵である父の怒りを一心に受けていたのだが、その怒りは収まることは無く…
それに輪を掛けて怒鳴りつけてきたのは公爵夫人である母だった。
リカルドの母は、"フォード公爵家"というブランドをこよなく愛しており、どんなに領地が、公爵家が緊迫していても、決して抑えるということをしてこなかった女性である。
『税収がたりないのですか?それは困りましたわね‥次の夜会のドレスを新調したばかりですのに‥
貴方、しっかり領地運営なさってくださいまし!私も、フォード家の為にしっかりと交流と顔を広めてまいりますわ!少し、金策が上手くいっていないからと、フォード家がなめられてもしたら大変ですもの!』
そう言って、また精一杯の見栄をはり湯水のごとく金を使う。
それが、リカルドの母でありフォード公爵夫人だった。
もちろん、あまりにも酷い場合は公爵が止めに入るもののこの貴族社会、一度なめられると直ぐに足下をすくわれてしまうのも事実だった。その際どい、ギリギリを公爵的には見極めていたつもりだったのだろう。
そして、何と言ってもその頼みの綱だったのが…
リカルドとアーリアの婚約だった。
常に資産を増やし続けている、レイノルズ公爵家と縁続きになれば、必然的にフォード家は安泰になるはずだったのだ。もちろん、それはリカルドの母であるフォード公爵夫人が何よりも期待していたことなのだから。
しかし、それをリカルドはたかが娼婦に入れあげたために、全てを不意にしようとしていた。
しかも、『フォード家の嫡男が娼婦に入れあげていた』という醜聞つきである。
何よりも、家名を重んじる公爵夫人からすれば、恥も恥…大恥である。
とすれば、その怒りの矛先は間違いなくリカルドへと向けられるのだった。
母の怒りは、凄まじかった。金切り声で、わめき散らす姿はもはや公爵夫人ではない。全く別の人間に思えるほどだった。そんな母の姿を、呆然とみていると不意に錯乱している状態の母と目が合った。
"しまった"
そう思った、ほぼ同じタイミングでリカルドの頬に痛みが走る。
そして、下を向けばそこには割れたグラスが落ちていた。
そう、リカルドは怒り狂った母親に顔面に向かって、グラスを投げられたのだ。
幸いにも、グラスは床に落ちてから割れたのだろう。
リカルドの肌は、赤くなったものの傷は見られなかった。
しかし、これは終わりではなく、たんなる始まりに過ぎなかったのだ。
空が、白く明るさを取り戻し始めた頃、母はリカルドの部屋を出て行った。
『この、屑が!役立たずが!』と言い残して。
リカルドは、部屋の中でただただ立ちすくんでいた。
もはや、足の踏み場もない部屋の惨状にどうすることもできずにいた。
リカルドの母は、明け方近くまで夜通しリカルドへ怒りをぶつけていたのだ。もちろん、言葉だけではない。無残なほどの部屋の惨状からしても、彼女はリカルドに対し部屋の中にあったありとあらゆる物をリカルドへと投げつけていたのだ。
流石にこれには、リカルドの精神がやられてしまった。
リカルド自身、騎士であり将来有望とまでされる腕の持ち主である。いくら様々な物を、投げられようとも投げている相手が所詮、普段鍛えることの無い夫人であるなら、大した怪我にはならない。
しかし、実の母親に夜通し罵倒されながら折檻を受けるとなれば気持ちの上で苦痛が伴う。
特に、今までフォード家の嫡男として何不自由なく育てられた者には耐えがたかっただろう。
リカルドは、未だぼんやりとしながらも何とか自身を奮い立たせて、部屋を片付け始めた。
そう、彼は準備をして、少しでも休んでおかなければならないのだ。
明日は、ダンジョンへ出発しなければならないのだから…。
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