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本編
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【ナナエラ・ルーベルトと伯爵夫妻の場合】
ナナエラは、屋敷に戻ると同時に数十枚になる書類の束を片手に、父である伯爵の執務室の扉を叩いた。
名を名乗るとすぐに、父は入室の許可をくれる。そして、タイミングよくそこには母である伯爵夫人もソファに掛けておりお茶を飲んでいるところだった。
ナナエラの両親である伯爵夫妻は大変仲が良い。
貴族では珍しい、恋愛結婚であり今まで口には出さなかったが、ナナエラはいつまでも相思相愛な二人にとても憧れていた。
そして、にこやかに微笑む母が「お帰りなさい」とナナエラを出迎えてくれる。
そんな、二人にこれから嫌な話しをしなければならない。
ナナエラは、一度大きく深呼吸をすると自身を奮い立たせた。
「お話があります」
そう切り出したナナエラに、もう迷いは無かった。
手元にあった書類の束を、父である伯爵の前に差し出すと、はっきりと告げた。
「私は、婚約してから早々にクロード様に身体の関係を強要されました。それも、何度も…。
嫌だとお断りをいれると、ご存じの通りクロード様から一切の連絡をたたれ今に至ります。社交界では、クロード様に伴わない私が悪いと、散々言われ続けました。悔しい思いをするなか、クロード様の娼館通いを知りました。
私は、悔しさと苛立ちを発散するかのように冒険者となりました。
今では、Sランクの冒険者であり仲間と共にSランクパーティに在籍しています。
そして、二日後‥王命のもとダンジョンに潜ります」
一度も止まること無く、最後まで言い切ったナナエラに伯爵夫人である母は状況が追いつかず、ただただ唖然としていた。
ただし、伯爵でもある父は直ぐさま状況を把握したのだろう。
ナナエラが話す合間合間に、差し出された書類に目を通していたのだから。
話し終えた後も、父はひたすら書類を確認していた。そして、最後の一枚に目を通し終わると、ふぅーっと大きな息を吐いた。
「ナナエラ、何点か確認したい」
その言葉に従い、ナナエラは父から出されていく質問に一つ一つ丁寧に答えていった。
まず、始めに…
身体の関係を強要され、身体を許してはいないのだな?
__はい、断固拒否いたしました。
では、次に…
そう言った流れで、様々な質問をした父は、しっかりとその回答を録音し証拠として残していた。
そして、一通りの質問を終えた後、父はナナエラにこう言った。
「クロード殿が娼館に通っている事を知った後、周りの者へ暗示を掛けたことは英断だった」と。
そして、しっかりとライガスト侯爵家へ抗議し、あちらの有責にてこの婚約は破棄させて貰うと…
その瞬間、ナナエラの目から涙がこぼれ落ちた。
その様子を目にした、母である伯爵夫人は「沢山悩ませてしまったわね‥ごめんなさいね」と言ってナナエラを抱きしめた。いくら、貴族同士だからといっても、相手が己より格下の家だからこそ婚約者になった者を無碍に扱ったり暴言を吐く輩も全くいないわけではない。それは、ナナエラの母が一番よく分かっていた。今の旦那様である伯爵と、結婚する前の自分がそうだったからだ。ナナエラの母もまた、元婚約者に暴力を振るわれていたのだ。格下のくせに生意気だと言われて…。
「絶対に、許せない…」
ナナエラを落ち着かせるように、背中をなでながら母がボソリと呟いた。
娘のことを思い、ひしひしと伝わってくる母の怒りがナナエラには嬉しくあり、頼もしく思えた。
そして父が言う。
「後は任せない。お前はしっかりと王命を果たすように!
なに、Sランクなら心配しなくとも大丈夫だ!」と…。
婚約者の非道な行いのお陰で、二人とも"Sランクの冒険者"と言うところにはあまり驚くことも無く受け入れてくれたのだった。
ナナエラは、屋敷に戻ると同時に数十枚になる書類の束を片手に、父である伯爵の執務室の扉を叩いた。
名を名乗るとすぐに、父は入室の許可をくれる。そして、タイミングよくそこには母である伯爵夫人もソファに掛けておりお茶を飲んでいるところだった。
ナナエラの両親である伯爵夫妻は大変仲が良い。
貴族では珍しい、恋愛結婚であり今まで口には出さなかったが、ナナエラはいつまでも相思相愛な二人にとても憧れていた。
そして、にこやかに微笑む母が「お帰りなさい」とナナエラを出迎えてくれる。
そんな、二人にこれから嫌な話しをしなければならない。
ナナエラは、一度大きく深呼吸をすると自身を奮い立たせた。
「お話があります」
そう切り出したナナエラに、もう迷いは無かった。
手元にあった書類の束を、父である伯爵の前に差し出すと、はっきりと告げた。
「私は、婚約してから早々にクロード様に身体の関係を強要されました。それも、何度も…。
嫌だとお断りをいれると、ご存じの通りクロード様から一切の連絡をたたれ今に至ります。社交界では、クロード様に伴わない私が悪いと、散々言われ続けました。悔しい思いをするなか、クロード様の娼館通いを知りました。
私は、悔しさと苛立ちを発散するかのように冒険者となりました。
今では、Sランクの冒険者であり仲間と共にSランクパーティに在籍しています。
そして、二日後‥王命のもとダンジョンに潜ります」
一度も止まること無く、最後まで言い切ったナナエラに伯爵夫人である母は状況が追いつかず、ただただ唖然としていた。
ただし、伯爵でもある父は直ぐさま状況を把握したのだろう。
ナナエラが話す合間合間に、差し出された書類に目を通していたのだから。
話し終えた後も、父はひたすら書類を確認していた。そして、最後の一枚に目を通し終わると、ふぅーっと大きな息を吐いた。
「ナナエラ、何点か確認したい」
その言葉に従い、ナナエラは父から出されていく質問に一つ一つ丁寧に答えていった。
まず、始めに…
身体の関係を強要され、身体を許してはいないのだな?
__はい、断固拒否いたしました。
では、次に…
そう言った流れで、様々な質問をした父は、しっかりとその回答を録音し証拠として残していた。
そして、一通りの質問を終えた後、父はナナエラにこう言った。
「クロード殿が娼館に通っている事を知った後、周りの者へ暗示を掛けたことは英断だった」と。
そして、しっかりとライガスト侯爵家へ抗議し、あちらの有責にてこの婚約は破棄させて貰うと…
その瞬間、ナナエラの目から涙がこぼれ落ちた。
その様子を目にした、母である伯爵夫人は「沢山悩ませてしまったわね‥ごめんなさいね」と言ってナナエラを抱きしめた。いくら、貴族同士だからといっても、相手が己より格下の家だからこそ婚約者になった者を無碍に扱ったり暴言を吐く輩も全くいないわけではない。それは、ナナエラの母が一番よく分かっていた。今の旦那様である伯爵と、結婚する前の自分がそうだったからだ。ナナエラの母もまた、元婚約者に暴力を振るわれていたのだ。格下のくせに生意気だと言われて…。
「絶対に、許せない…」
ナナエラを落ち着かせるように、背中をなでながら母がボソリと呟いた。
娘のことを思い、ひしひしと伝わってくる母の怒りがナナエラには嬉しくあり、頼もしく思えた。
そして父が言う。
「後は任せない。お前はしっかりと王命を果たすように!
なに、Sランクなら心配しなくとも大丈夫だ!」と…。
婚約者の非道な行いのお陰で、二人とも"Sランクの冒険者"と言うところにはあまり驚くことも無く受け入れてくれたのだった。
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