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本編
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はっきりと、そう口にした彼女からはどす黒いオーラが放たれていた。
そして、皆に向かって正式に挨拶をする形をとった。
「初めてお目にかかります。
私、こちらのリカルド・フォード様の婚約者で、レイノルズ公爵家が長女アーリアと申します。以後、お見知り置きを…」
その姿は、紛れもなく公爵令嬢そのものだった。
殺気とは何でしょう?とでも、言うかの様な可憐で優雅な所作での挨拶は、その一瞬で会場中の心を掴んでいた。
ポーッと見惚れる者から、顔を赤くして見つめている者…様々だ。
そうして、一部をしっかりと魅了させたのち、では遠慮なくと言って話し始めた。
「リカルド様、先程私に由緒正しきとおっしゃられましたけれども、貴方も由緒正しきフォード公爵家の令息ですわよね?」
「…あぁ、そうだが」
「言質をとれてよかったです…。
では、会場にお集まりの皆様。
皆様にお伺いしたいのですが…
婚約者がいる身でありながら、真昼間から堂々と娼館通いに精を出している方をどう思われますでしょうか?」
その一言で、会場に集まった騎士団員達が凍りついた。
何を言わずとしているのか、既に察したのだろう…
"騎士団"と言うだけで女を釣れる世の中だ。いわば、騎士団というブランドだ。
平民であれば、所属しているだけで間違いなく出世頭とされる。
貴族であっても、騎士団に入れただけで勝ち組と称される。
ましてや、リカルドの様に騎士団の期待を背負うものは、将来の隊長クラスだと決定している様なものなのだ。
そうなってくると、まぁまぁ鼻も高く高く伸びきっていくだろう。
最近の騎士団の娼館通いは、一部の貴族達が目を伏せるほどひどいものだった。
必ず、お気に入りの娼婦がいて、階級が上がれば上がるほどその娼館に貢ぎ囲い込もうとする。
そのいい例が、リカルド達中層部に席を置く期待の精鋭達だった。
ある程度、目星をつけながらその人達に向かい最上級の笑みを浮かべると、アーリアは話を続けた。
「ましてや婚約者様は、騎士団での勤務が忙しいと仰って、年に一度も顔を合わせない場合もございます。
花を送ってくださることも無ければ、手紙を送っても返事一つ帰ってくることはございませんでした。
そんな中でも、国のために忠誠を誓う騎士団に勤めてらっしゃる婚約者様に、迷惑をかけぬ様目立たぬ様これまで過ごしてまいりました」
そう言うと、アーリアは悲しそうに長いまつ毛を伏せてみせた。その姿は、まるで悲しみに打ちひしがれている様な憂いを帯びている。
この場に居合わせている、他のパーティの女性冒険者達はアーリアに同情するかのような視線を送った。
「けれども私達は…あの日、見てしまったのです。
両手に娼婦を抱き、日の高い時間から娼館へと入っていく婚約者様を…
その際、彼は連れ立った女性の髪に口付けながら仰いました。
『あんな名ばかりの婚約者など、いつでも捨てれる』と。
そして、婚約破棄出来なくとも、子さえ出来なければ早々に離縁させ、その女性を後妻として招くと…。」
衝撃のカミングアウトに、会場中がざわめき出した。
流石に、ここまでの話となると各隊の隊長始め、騎士団長ですら黙ってはいられない。
女性陣とは違う、別の禍々しい殺気が放たれ始めた。
しかし、そんな様子もお構いなしにアーリアは続けた。
「ですが、お陰様で一年以上交流を避けられていた理由を、やっと知ることができましたの。
それからというもの、リカルド様の行動を全て記録させて頂きましたわ。
・何度娼館へと足を運ばれたのか
・その際にどなたを指名されたのか
・どなたに幾ら貢がれたのか
・私へのお言葉
などなど…
あ、そうそう…お気に入りのあの方とお子を作るおつもりでしたのね?
それなら、そうと早く仰って頂ければ宜しかったのに。
リカルド様からの婚約破棄でしたら、すぐにでも受け入れましたのに…
でも、まぁわたくしたちもこれからに向けて色々と備えることができましたわ♪」
そう言うと、アーリアは顔面蒼白のリカルドに向けニッコリと微笑んだ。
その表情からは『リカルド様の、有責での婚約破棄に向けた資料は揃ってましてよ』と、言われているようだった。
そして、アーリアに続く様にして「わたくしたち」のメンバーが、彼らに牙を向いた。
リカルドと同じく、騎士団一番隊に席を置く、サイモン・モンテネグロ侯爵令息に対し、【フォルトゥナの剣】の"ミカ"こと、ミシュカ・ランブル侯爵令嬢が非難した。
更に、同じく【フォルトゥナの剣】の"ナナ"こと、ナナエラ・ルーベルト伯爵令嬢が、騎士団二番隊所属クロード・ライガスト侯爵令息に…
そして、"ニア"ことユーフォニア・ブレナン伯爵令嬢が、騎士団三番隊所属のアルバス・ライモンド伯爵令息をそれはそれは徹底的に非難したのだ。
前代未聞の断罪劇に、会場中が会議などそっちのけで見入ってしまう事態となった。
もちろん、名指しされた4人はもはや抜け殻状態である。
そして、アーリア達4人は言いたいことを全て吐き出した後、まるで何事もなかったかの様にお茶のお代わりを要求し、その味を堪能していた。
そして、皆に向かって正式に挨拶をする形をとった。
「初めてお目にかかります。
私、こちらのリカルド・フォード様の婚約者で、レイノルズ公爵家が長女アーリアと申します。以後、お見知り置きを…」
その姿は、紛れもなく公爵令嬢そのものだった。
殺気とは何でしょう?とでも、言うかの様な可憐で優雅な所作での挨拶は、その一瞬で会場中の心を掴んでいた。
ポーッと見惚れる者から、顔を赤くして見つめている者…様々だ。
そうして、一部をしっかりと魅了させたのち、では遠慮なくと言って話し始めた。
「リカルド様、先程私に由緒正しきとおっしゃられましたけれども、貴方も由緒正しきフォード公爵家の令息ですわよね?」
「…あぁ、そうだが」
「言質をとれてよかったです…。
では、会場にお集まりの皆様。
皆様にお伺いしたいのですが…
婚約者がいる身でありながら、真昼間から堂々と娼館通いに精を出している方をどう思われますでしょうか?」
その一言で、会場に集まった騎士団員達が凍りついた。
何を言わずとしているのか、既に察したのだろう…
"騎士団"と言うだけで女を釣れる世の中だ。いわば、騎士団というブランドだ。
平民であれば、所属しているだけで間違いなく出世頭とされる。
貴族であっても、騎士団に入れただけで勝ち組と称される。
ましてや、リカルドの様に騎士団の期待を背負うものは、将来の隊長クラスだと決定している様なものなのだ。
そうなってくると、まぁまぁ鼻も高く高く伸びきっていくだろう。
最近の騎士団の娼館通いは、一部の貴族達が目を伏せるほどひどいものだった。
必ず、お気に入りの娼婦がいて、階級が上がれば上がるほどその娼館に貢ぎ囲い込もうとする。
そのいい例が、リカルド達中層部に席を置く期待の精鋭達だった。
ある程度、目星をつけながらその人達に向かい最上級の笑みを浮かべると、アーリアは話を続けた。
「ましてや婚約者様は、騎士団での勤務が忙しいと仰って、年に一度も顔を合わせない場合もございます。
花を送ってくださることも無ければ、手紙を送っても返事一つ帰ってくることはございませんでした。
そんな中でも、国のために忠誠を誓う騎士団に勤めてらっしゃる婚約者様に、迷惑をかけぬ様目立たぬ様これまで過ごしてまいりました」
そう言うと、アーリアは悲しそうに長いまつ毛を伏せてみせた。その姿は、まるで悲しみに打ちひしがれている様な憂いを帯びている。
この場に居合わせている、他のパーティの女性冒険者達はアーリアに同情するかのような視線を送った。
「けれども私達は…あの日、見てしまったのです。
両手に娼婦を抱き、日の高い時間から娼館へと入っていく婚約者様を…
その際、彼は連れ立った女性の髪に口付けながら仰いました。
『あんな名ばかりの婚約者など、いつでも捨てれる』と。
そして、婚約破棄出来なくとも、子さえ出来なければ早々に離縁させ、その女性を後妻として招くと…。」
衝撃のカミングアウトに、会場中がざわめき出した。
流石に、ここまでの話となると各隊の隊長始め、騎士団長ですら黙ってはいられない。
女性陣とは違う、別の禍々しい殺気が放たれ始めた。
しかし、そんな様子もお構いなしにアーリアは続けた。
「ですが、お陰様で一年以上交流を避けられていた理由を、やっと知ることができましたの。
それからというもの、リカルド様の行動を全て記録させて頂きましたわ。
・何度娼館へと足を運ばれたのか
・その際にどなたを指名されたのか
・どなたに幾ら貢がれたのか
・私へのお言葉
などなど…
あ、そうそう…お気に入りのあの方とお子を作るおつもりでしたのね?
それなら、そうと早く仰って頂ければ宜しかったのに。
リカルド様からの婚約破棄でしたら、すぐにでも受け入れましたのに…
でも、まぁわたくしたちもこれからに向けて色々と備えることができましたわ♪」
そう言うと、アーリアは顔面蒼白のリカルドに向けニッコリと微笑んだ。
その表情からは『リカルド様の、有責での婚約破棄に向けた資料は揃ってましてよ』と、言われているようだった。
そして、アーリアに続く様にして「わたくしたち」のメンバーが、彼らに牙を向いた。
リカルドと同じく、騎士団一番隊に席を置く、サイモン・モンテネグロ侯爵令息に対し、【フォルトゥナの剣】の"ミカ"こと、ミシュカ・ランブル侯爵令嬢が非難した。
更に、同じく【フォルトゥナの剣】の"ナナ"こと、ナナエラ・ルーベルト伯爵令嬢が、騎士団二番隊所属クロード・ライガスト侯爵令息に…
そして、"ニア"ことユーフォニア・ブレナン伯爵令嬢が、騎士団三番隊所属のアルバス・ライモンド伯爵令息をそれはそれは徹底的に非難したのだ。
前代未聞の断罪劇に、会場中が会議などそっちのけで見入ってしまう事態となった。
もちろん、名指しされた4人はもはや抜け殻状態である。
そして、アーリア達4人は言いたいことを全て吐き出した後、まるで何事もなかったかの様にお茶のお代わりを要求し、その味を堪能していた。
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