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3.目が覚めたとき

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意識が、浮上する。

初めに感じたのは、ひんやりとした冷たさだった。
ぶるっ、と身体が震える。
閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げれば、自分の置かれている状況が、限りなく良くない事が理解できた。

(あ~油断したなぁ…)

間違いなく、ここは奴隷商だろう。

まだ、薬が抜け切らない、ぼんやりとした頭では何も考えられない状態だった。漠然と失敗したなぁ~とは思う。
近頃、拐かしが増えているので帰り道は気をつけるように!と、研究塔の護衛騎士に注意喚起を受けたばかりだったのだ。
その時は、『いくら何でもこんなボロボロの自分を攫う輩はいませんよ~!』なんて、笑って答えていたのだが…そのまさかだ。

一体、どれだけ奴隷人材不足なんだろうか?

自分で言うのも何だが、研究漬けでパシリ漬けの日々を送るシェイラは、普通の平民よりも身体つきはガリガリで栄養失調といっても不思議ではない姿をしている。
塔ではローブを羽織っているものの、帰宅時は着倒した普段着だ。
子供などであれば、貧困層から攫われることは良くある為、ボロボロの姿でも需要があることは理解できるが、シェイラ程の年齢の女性を狙う場合は、娼館や性奴隷として売買されることが殆どの為、身なりの整っていてメリハリのある身体つきの女性を攫う傾向にある。その方が高値で売れるからだ。

(…あれ?もしかして子供と間違えられたってこと!?)

流石に、それはそれで…ちょっと複雑な心境である。
でも、目の前の様子からして確実に自分は攫われたのだということだけは確信できた。

シェイラの痩せて細っそりとした足首から伸びた鎖が、目の前で膝を抱えて泣いている女の子の足首に繋がっていたからだ。

ぼんやりとしていた思考が、徐々に冷静さを取り戻してくる頃には、この部屋の様子も把握することができていた。
シェイラが囚われている部屋の中には、シェイラを除いて10歳前後の女の子が6人と4、5歳程の男の子が3人、そして10歳程の男の子が1人。
皆んな、震えながら肩を寄せ合って座っていた。
見たところ、目立った外傷などは見当たらない為、酷い目にはあっていなさそうだ。

「ねぇ、みんな大丈夫?」

ゆっくりと身体を起こしながら、お互いを守るかのように寄せ合っている子供達に声をかけた。
シェイラの問いかけに、ビクッと身体を震わせながらも、1番年上だと見受けられる男の子が応えてくれた。

「…ぅ、うん。ぉ、お姉さんは大丈夫?」

「えぇ、大丈夫よ。君たち、ここがどこか分かる?」

「ううん、ずっと動いてたから分からない」

「そっかぁ…ありがとう」


怯えている子供達に配慮しつつ、様子を見ながら少しづつ話を聞き出したところ、皆んなバラバラに連れてこられて、一つの荷馬車に押し込まれていたらしい。
そして、しばらく動かなくなったところで、女の子2人とシェイラが連れてこられたそうだ。その際、3人ともらしい。
それから、しばらく動き続けたのち外から話し声が聞こえて止まったと思ったら、また動き出したとの事だった。
そして、この部屋まで連れてこられたらしい。

子供達の、ざっくりとした説明をまとめた結果…恐らくすでに国を出ているのだろうと、シェイラは予測していた。
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