エマとニコ

アズルド

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第十三話

追跡尾行調査

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 派手な身なりのジョゼが、ニコを尾行していると、カレッジから徒歩数分の場所に建っているアパートの中に入って行く。

「こんなところに住んでたのね…」

 ジョゼはニコが階段を昇るのを下の階に身を隠しながら追い掛ける。

「はぁ…、はぁ…。一体…どこまで…階段を昇るの?」

 十二階建のアパートを昇り切ったところで、ニコが振り向いた。

「もしかして…尾行してる?」

「い、いつから…気付いてたの?」

「最初は同じアパートに住んでるのか…と思ったけど…」

「同じアパートなら…顔を合わせる事が…今までにもあったはずでしょ?」

「うん…でも一々…すれ違った人の顔は…覚えてないから…」

「私の事は…名前も覚えてない?」

「名前は覚えるのが苦手だけど…この匂いは何となく覚えてる…」

「この香水…イランイラン配合なの。良い香りでしょ?」

 イランイランには催淫効果があって、男性をその気にさせる成分が含まれている。しかしハーフ魔族のニコには、催淫効果が効かない。

「そうだね…。サキュバスのお姉さんが…よく付けてた香水と匂いが似てる…」

「サキュバスって男を惑わす魔族の?」

「もしかして…君もハーフ魔族なの?」

「私がハーフ魔族?そんなわけないじゃない!」

「君の名前を…教えて?」

「私の名前は、ジョゼフィーヌ・ミラーって言うの」

「長い名前だなぁ…。覚えられそうにないや…」

「愛称のジョゼって呼んで?」

「ミラーさんって…呼ぶよ…」

「ムーアさんの事は…いつも名前で呼んでるのに…」

「ペニーは…友達だからね…」

「私は友達ですらないんだ…」

「ミラーさんは…ただの…クラスメイトかな…」

「ムーアさんと仲良くしてるのは…どうして?」

「ペニーとは…よく勉強会してるし…」

「ムーアさんと付き合ってるの?」

「ううん…。今は別の女性と…お付き合いしてる…」

「う、嘘!一体、誰と?」

「君には言えない…」

「私も勉強会に…参加したいんだけど…ダメ?」

「ペニーが良いと言ったら…別に構わないよ?」

「ムーアさんは私の事、嫌ってるから…ダメって言いそう…」

「今はペニーはいないから…一緒に勉強する?」

「本当に?嬉しい!」

 ジョゼはニコの部屋に入った。殺風景で余計な物は何も置いていない。キッチンだけは調理器具が整っていて、棚にはスパイスの入った小瓶が、いくつも並んでいる。

「すごい!スパイスの瓶がいっぱい並んでるね」

「うん…自炊してるからね…」

「男子って自炊出来ない人が多いのに偉いわ!」

「そうなんだ?料理って結構、楽しいけどな…」

「エマーソン君が料理も出来るなんて知らなかった」

「ペニーが来たら…いつも僕の作った料理を…食べさせてたよ…」

「ムーアさんだけズルい!私もエマーソン君の作った手料理が食べたいなぁ…」

「何が…食べたい?大抵のものは…作れるよ…」

「えっ、じゃあ…ミネストローネとか」

「ミネストローネか…。ちょっと待っててくれるかな…」

 ニコはじゃがいも、ニンジン、セロリ、ポワロー(ネギ)を角切りにすると、フライパンにオリーブオイルを垂らし、包丁の腹で潰したニンニクを焦がしてから野菜を炒める。野菜に火が通ったところで、小鍋で水煮して置いたトマトを潰して、ローリエも投入した。塩胡椒で味付けしたら皿に盛り付けてミネストローネの完成だ。

「手際が良いわね!シェフになれそう」

「今…レストランで働いてるけど…僕より料理が下手な人がシェフをしてる…」

「エマーソン君は、ウエイターなの?」

「うん…ペニーは…ウエイトレスをやってる…」

「そのレストラン、私も行ってみたい」

「でも…それを食べたら…もう…お腹いっぱいにならない?」

「大丈夫!私、食べても太らないから」

 ジョゼはニコと一緒に路地裏の小汚いレストランまで来た。先に来ていたペニーが訝しげに見ている。

「なんでミラーさんと一緒に来たの?」

「さっきまで…勉強会してたから」

「いつからミラーさんと、仲良くなったのよ?」

「ついさっき…仲良くなったんだよ?どうしてそんな事…聞くの」

「ふ~ん。あの子、あざといから女子に嫌われてるのよ」

「そうなんだ…あざといって…どう言う意味?」

「男の気を引こうとして、ぶりっ子する事よ?」

 ジョゼが呼び鈴を鳴らしたので、ペニーが注文を取りに行くと、メニューを閉じて言った。

「私の注文を取るのはエマーソン君が良いわ?」

「ニコは今、別のお客様の接客中です」

「じゃあ、それが終わるまで待ちます」

 ペニーはイライラしながら、定位置に戻って待機した。

「ムーアさん、さっき呼び鈴を鳴らしてたお客様の対応は?」

「あのお客様…ミラーさんはニコじゃなきゃ嫌だって言うから…」

 ニコは年配の女性の接客をしている。

「今日は…どれにしようかしら…」

「まだご注文が…お決まりでは…なかったのですか?ご注文が…決まってから…呼び鈴を鳴らしてください…」

「決めてあったんだけど…何だったか忘れてしまって…」

 そこへペニーが様子を見に来る。

「そのお客様は私が対応するから、ニコはミラーさんの注文を取りに行って?」

「えっ…どうして?」

「あの子、ニコじゃないと注文しないってワガママを言ってるのよ…」

「そっか…わかった」

 ニコは仕方なく、ジョゼの席に行く。

「ご注文は…お決まりですか?お客様」

「ねぇ、エマーソン君。どれがここのオススメのメニューなの?」

「正直…この店の料理は…どれも美味しくないと思う…」

「えっ、ウエイターがそんな事、言ってもいいの?」

「パスタは茹で過ぎてアルデンテじゃないし…材料費をケチってるから…八百屋の見切り品ばかりで…野菜の鮮度も低い…」

「エマーソン君が作った料理が良いわ」

「フルーツの盛り合わせは…僕が切って盛り付けるよ?」

「じゃあ、それにするわ」

 ニコはカウンターに行くと、ナイフで器用にオレンジを飾り切りして、フルーツを盛り付けて、席に運んで来た。

「すご~い!めちゃくちゃ綺麗な盛り付けね?」

「果物の鮮度は落ちてるけどね…」

「他にエマーソン君が作ってる料理はないの?」

「厨房は僕の担当じゃないから…。カウンターで作れるような…簡単なデザートだけだよ…」

「エマーソン君が作れるデザートは全部、注文するわ!」

「えっ…全部?」

「うん、宜しくね?」

「それだと…ドリンク系は全部…って事になるけど…?」

「そうなんだ。気にせず持って来て!」

「全部、お腹に入るのかな…」

「御手洗はどこにあるのかしら?」

「それなら店の奥に…あのドアの向こうだよ?」

 ジョゼはトイレに入ると喉の奥に指を突っ込んで、さっき食べたばかりのミネストローネやフルーツの盛り合わせを、全て吐き出した。

「ダイエット中だから…。全部、吐かなきゃ…」

 ジョゼは何食わぬ顔で元の席に戻り、ニコが大量のデザートをトレーに乗せて運んで来る。

「ん?なんだか…ちょっと匂うな」

「えっ、そう?気のせいじゃない」

「もしかして…食べ過ぎて気持ち悪くなって…吐いてしまったとか?」

「そ、そんな事ないよ?」

「無理はしないで…」

 ジョゼは自分の衣服をクンクンする。特に匂いはない。

「どこかに嘔吐物が付いてしまってたのかしら?嫌だわ」

 キャンパスバッグから香水を取り出してシュッと掛けて匂いを掻き消す。

「これでよし!っと」

 そこへ、キャンベルも店に入って来た。ペニーはカウンターでデザートやドリンクを作っているニコに耳打ちをする。

「なんで今日はキャンベル先生まで、店に来てるのよ?」

「僕が来て欲しいって頼んだから」

「ニコとキャンベル先生はいつからそんなに仲良くなったの?最近、授業中もニコに優しくしてたし」

 キャンベルに呼び鈴を鳴らされたので、ペニーが注文を取りに行く。

「あら?エマーソンは注文を取りに来ないのね」

「ニコは今デザートを作ってるから手が離せなくて」

「デザートを注文したらエマーソンが作るの?」

「デザートは盛り付けるだけなので、ウエイターやウエイトレスが作るんです」

「じゃあ私もデザートにするわ!」

「お客様、どのデザートをご注文になられますか?」

「あなたじゃなくてエマーソンに作らせてね?」

「えっ…また?」

 ペニーは渋々、注文を取るとカウンターに戻って、ニコにメモを手渡した。本来なら手が空いてる方が、デザートを作る。

「キャンベル先生はニコが作ったデザートが良いんだって?」

「今日は注文の数が多過ぎて…間に合わないよ」

「ゆっくり作れば良いんじゃない?私が作ったら文句を言われそうだから」
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