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第十四章
仏の顔
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窓の外はだんだん暗くなって来た。夏海が小雪の部屋に来て、一時間以上が経過している。
「何時頃までここにいても良いかな?」
「夏海君とはずっと一緒にいたいけど…お母さんが帰って来たら…何か言われそうだから…」
「そうか…。小雪さんの母親はいつ帰ってくるん?」
「九時頃かな…。八時半には帰らないと、玄関で鉢合わせするかも…」
「じゃあ、あと二時間くらいか…」
「夏海君、お腹空いてない?」
「ああ、スーパーで半額の弁当でも買って来るか…」
「スーパーに行くなら、材料買って来て何か作ろうか?」
「マジで?小雪さんの手料理が食えるなんて思ってなかった!て言うか小雪さんは料理もできたのか…。完璧過ぎる彼女だ」
「料理は得意だよ!大体、なんでも作れるけど、何が食べたい?」
「なんでも作れるん?すげぇな…」
「わかんなくてもクックパッパでレシピ検索して作るから!」
クックパッパと言うのは、主婦に大人気のお料理アプリの事である。
「う~ん、肉じゃがとか…。若い人は作れんのかな?味の好みが年寄りですまん!」
「肉じゃが?得意料理だから簡単だよ」
「そうなのか…。でも普段はどんな料理を作ってんの?」
「昨日の晩ごはんはね、アヒージョを作ったんだけど、お母さんは手抜きだって文句言ってた…」
「アヒージョ…どんな料理なのかも想像つかん」
「スペイン料理だよ。オリーブオイルとガーリックで野菜とか魚介を煮込むの」
「小雪さんの母親は料理しないのか?うちのオカンが他所の家は料理しない母親が多いとか言ってたが…」
「お母さんは仕事で帰りが遅くなるから、私がいつも作って待ってるの。お義父さんも同じ職場だから一緒に帰ってくるよ」
「二人とも同じ職場だったのか?一体、どんな仕事してんだろ…」
「えっとね、お義父さんは雑誌の編集してるけど、お母さんはエッセイとか書いてて写真はお義父さんが撮ってる」
「雑誌の編集部に勤めてたのか…」
「うん。だから私が別の雑誌に載った時に叱られちゃった…」
「うちのオカンは場末のスナックで働いてる。親父は昔はバーテンダーだったらしいが、今はトラックで運送業やってるよ」
「そうなんだ。夏海君の親にも一度、挨拶に行きたいな」
「親父は鼻の下を伸ばして喜びそうだが、オカンがブチギレるかも…」
「夏海君のお母さん、厳しい感じの人なのかな」
「厳しいと言うか…極道の妻みたいな見た目だよ?」
「極道の妻?カッコいい!」
「親父も昔はイケメンだったらしいけど、今はシュワちゃんみたいにイカつい」
「お父さんはシュワちゃん似なの?会ってみたい!」
「たまにヤクザだと思ってる人もいたからな…。元バーテンダーだから元ヤクザではないが…」
ここで夏海の腹の虫が盛大に鳴る。時計を確認してからこう言った。
「腹ペコで死にそうだ…。そろそろタイムサービスの時間だし、早く行かないと売り切れちまうから、スーパー行こうぜ?」
「あっ、忘れるところだった!夏海君と話してると楽しくて時間がすぐに経っちゃうんだよね」
「それはよく言われる。俺はマシンガントークだから何時間でも喋り続けられるからな」
「お肉屋さんはスーパーじゃない専門店に行こう?」
「ん?どうしてだ…」
「お母さんがスーパーのお肉は安くて不味いから食べたくないって言うの」
「専門店の高級和牛って一番高いやつは百グラム何千円もするだろ…」
「お母さんが高級和牛じゃないと怒るんだよ…」
「つー事は俺もその高級和牛が食えると言う事か?」
「うん、お母さんも食べるから同じお肉が食べられるよ」
「死ぬまでに一度、あの高級和牛食ってみたかったんだ」
夏海はワクワクしながらスーパーの手前にある高級和牛専門店について行った。小雪は百グラム千五百円くらいの肉を三百グラム買っている。レジで五千円札を支払ったが、おつりはほんのちょっとだ。
「産地直送だから神戸で買うより安いんだよ?このお店」
「そうなのか?俺には到底、手が出ない金額なのだが…」
「神戸だとこれの二倍…三倍はすると思うよ?」
「三倍だったら一万円超えるな…」
「お母さんが田舎に引っ越すならここが良いって言った理由がね、この専門店のお肉がすぐに買えるからだったんだよ」
「肉じゃがに神戸なら一万円分の肉を入れるなんてあり得ねぇ…」
「でも一度食べたら普通のお肉が食べられなくなるほど美味しいんだよ!」
「ちょ、ちょっと待て!普通の肉が食えなくなるのは困る…」
「これを食べてから普通のお肉食べると、不味くて食べられなくなった…ってお母さんが言ってた」
「小雪さんも普通の肉が食えなくなったのか?」
「ううん、食べられるけど、おいしくないなとは感じる」
「なんて恐ろしい肉なんだ…。食べない方が幸せな気もするが、食ってみたい」
高級和牛を買い終わり、スーパーに移動する途中で、テッシュ配りをしている中年女性が夏海に話しかけてくる。
「夏海君!可愛い女の子と一緒だけど…。もしかして彼女?」
「あっ…竹田先生…見つかっちまった」
「竹田先生?夏海君と知り合いなの…」
「うん、そこのパソコン教室の先生なんだけど、前にお世話になってパソコン教室辞めた後も、スーパーとかでたまに話してるんだ」
「パソコン教室に通ってたんだね」
「でも竹田先生、五時上がりじゃなかったっすか?」
「ノルマが終わらなくて…。テッシュもらってくれる?」
「ああ、俺もテッシュ配りのバイトした事あるけど、ノルマがキツいっすよね」
夏海と一緒に小雪もパソコン教室のテッシュを竹田にもらった。
「夏海君だけがわかってくれるのよ…」
「テッシュ配りのノルマのキツさを知らん奴は、受け取り拒否すんだよなぁ…」
「私のお母さんも受取拒否してたから、私もいつも受取拒否してた…」
「テッシュ持って帰ったら小雪さんの母親に叱られないか?」
「私の部屋は鍵を掛けてあるし、大事なものを隠す場所はあるから大丈夫」
「別に大事なものじゃねぇだろ…」
「夏海君とお揃いのテッシュだから大事にするよ?」
「いや、それ…あのオッさんとかも今もらってたやん?」
「夏海君とデートした思い出の記念品だから大事なの!」
「これはデートになるのだろうか…。スーパーに行くだけだぞ?」
「早く買いに行こう?作る時間もあるから急がなきゃ!」
「おお、そうだった。タイムリミットは八時半だもんな」
スーパーに入るとすぐ玉ねぎとジャガイモがバラ売りされている。小雪は玉ねぎやジャガイモを手に取って品定めしているようだ。
「玉ねぎはたまに内側が腐ってるの…。外からじゃわかりにくいから、外側に傷がないか確かめてるところ」
「なんかプロの料理人みたいだな…。俺なんか適当に選んで買うけど」
「ジャガイモは芽が少なくて、なるべくボコボコしてない方が剥きやすいから、夏海君も探してみて?」
「なるほど…これとか…どうだ?」
「うん、それなら剥きやすそうだね!」
ただの買い物が二人で来るといつもより楽しくてしょうがない。
「肉じゃがだけだと寂しいから、もう一品作りたいんだけど、何にする?」
「そんなに作る時間あるか?肉じゃがだけでも一時間かかると思うけど…」
「肉じゃが煮込んでる間に作るの。肉じゃがは圧力鍋で煮込むから一時間もかからないよ」
「圧力鍋…そんな方法があったのか…」
「夏海君が今食べたいもの言ってみて」
「アヒージョ…」
「それは昨日作ったから、今日は別のものが良いと思う。お母さんが文句言うの…」
「そっか…。アヒージョはまたいつか食わせてくれよ?気になってしょうがない…」
「うん!いつか食べさせてあげるね?」
「小雪さんと結婚したら旦那は毎日上手い手料理が食えて幸せだろうな…」
「夏海君が旦那様になるんだよ?」
「市役所の連中に妨害されて無理だと思うけど」
「あのね、婚姻届は市役所でもらってきたんだけど、私がまだ十九歳だから親のサインが必要って言われたの」
「小雪さんの母親は絶対にサインしないと思うぞ?」
「うん、でもね。二十歳以上なら、親以外のサインでもいけるって説明されて、例えばさっきの竹田さんに頼んでも、大丈夫みたい」
「竹田さんなら多分、サインしてくれそうだな」
「夏海君は確か…今二十一歳だよね?」
「ああ、二十歳で高校に入学したからな。その歳で高校生?とか散々言われたけど」
「私も十九で入学した時に同じ事言われたからわかるよ」
夏海は惣菜コーナーで、いつも買っている半額の煮物を手に取っている。
「夏海君は煮物が好きなの?」
「オカンがいつも言ってたんだ。煮物も作れない母親が多いから、煮物が作れない女とは結婚するなって」
「そうなんだ?煮物の特訓しなきゃ!」
「俺はアヒージョの方が気になるんだが?そんなオシャンティーな食べ物、食った事がない…」
「オシャンティー?面白い言葉だね!」
「多分、死語だな。オカンがよく使うから俺も使っちまった」
「アヒージョは簡単だから、夏海君と結婚したらいつでも作ってあげるね」
「早く帰らないと時間がヤバくないか?小雪さんの母親、ヒステリックな性格みたいだし…」
「お母さんは外面は良いから、夏海君には暴言は吐かないと思う」
「外面が良いのはうちの親も同じだ…」
「お母さんが帰って来る前に急いで料理するから肉じゃが以外は適当で良い?」
「ああ、任せるよ?」
慌ててレジに向かったが、タイムサービスの時間帯はレジが混んでいて、なかなか順番が回ってこない。新人っぽいレジ打ちがモタモタしていたので、途中で隣のレジに移ったが、ベテランっぽい人がヘルプに来たので、最初に並んでいた列の方が早く進み始める。
「あっちのレジで待ってりゃ良かったな。今頃、順番が回って来る頃だった…」
タイムロスがあってイライラしたが、何とか買い物が終わって、小雪の住んでいるマンションまで帰って来た。レジ袋は夏海が持っている。
「夏海君はリビングでテレビでも観て待ってて?三十分で作れると思うから!」
小雪がエプロンに着替えている間、リビングでフルハイビジョンの薄型テレビをリモコンで付ける。
「でっかいテレビだなぁ。テレビを観るのは何年ぶりだろうか…」
「親もほとんどテレビ観てないけどね。私は部屋にいる事が多いし、お母さんとお義父さんもすぐに寝室に行っちゃうから」
小雪はジャガイモの皮剥きをしながら、夏海と話している。
「俺も何か手伝おうか?」
「玉ねぎの皮剥いてくれる?」
「了解。肉はどうする?」
「お肉は後でいいよ。先に入れると硬くなっちゃうから」
「料理をちゃんとやってる人の発言だ」
「料理は毎日してるし、趣味みたいなものだよ」
「料理してねぇ女が料理すると、こいつ普段から料理してねぇなってすぐわかる…」
「何時頃までここにいても良いかな?」
「夏海君とはずっと一緒にいたいけど…お母さんが帰って来たら…何か言われそうだから…」
「そうか…。小雪さんの母親はいつ帰ってくるん?」
「九時頃かな…。八時半には帰らないと、玄関で鉢合わせするかも…」
「じゃあ、あと二時間くらいか…」
「夏海君、お腹空いてない?」
「ああ、スーパーで半額の弁当でも買って来るか…」
「スーパーに行くなら、材料買って来て何か作ろうか?」
「マジで?小雪さんの手料理が食えるなんて思ってなかった!て言うか小雪さんは料理もできたのか…。完璧過ぎる彼女だ」
「料理は得意だよ!大体、なんでも作れるけど、何が食べたい?」
「なんでも作れるん?すげぇな…」
「わかんなくてもクックパッパでレシピ検索して作るから!」
クックパッパと言うのは、主婦に大人気のお料理アプリの事である。
「う~ん、肉じゃがとか…。若い人は作れんのかな?味の好みが年寄りですまん!」
「肉じゃが?得意料理だから簡単だよ」
「そうなのか…。でも普段はどんな料理を作ってんの?」
「昨日の晩ごはんはね、アヒージョを作ったんだけど、お母さんは手抜きだって文句言ってた…」
「アヒージョ…どんな料理なのかも想像つかん」
「スペイン料理だよ。オリーブオイルとガーリックで野菜とか魚介を煮込むの」
「小雪さんの母親は料理しないのか?うちのオカンが他所の家は料理しない母親が多いとか言ってたが…」
「お母さんは仕事で帰りが遅くなるから、私がいつも作って待ってるの。お義父さんも同じ職場だから一緒に帰ってくるよ」
「二人とも同じ職場だったのか?一体、どんな仕事してんだろ…」
「えっとね、お義父さんは雑誌の編集してるけど、お母さんはエッセイとか書いてて写真はお義父さんが撮ってる」
「雑誌の編集部に勤めてたのか…」
「うん。だから私が別の雑誌に載った時に叱られちゃった…」
「うちのオカンは場末のスナックで働いてる。親父は昔はバーテンダーだったらしいが、今はトラックで運送業やってるよ」
「そうなんだ。夏海君の親にも一度、挨拶に行きたいな」
「親父は鼻の下を伸ばして喜びそうだが、オカンがブチギレるかも…」
「夏海君のお母さん、厳しい感じの人なのかな」
「厳しいと言うか…極道の妻みたいな見た目だよ?」
「極道の妻?カッコいい!」
「親父も昔はイケメンだったらしいけど、今はシュワちゃんみたいにイカつい」
「お父さんはシュワちゃん似なの?会ってみたい!」
「たまにヤクザだと思ってる人もいたからな…。元バーテンダーだから元ヤクザではないが…」
ここで夏海の腹の虫が盛大に鳴る。時計を確認してからこう言った。
「腹ペコで死にそうだ…。そろそろタイムサービスの時間だし、早く行かないと売り切れちまうから、スーパー行こうぜ?」
「あっ、忘れるところだった!夏海君と話してると楽しくて時間がすぐに経っちゃうんだよね」
「それはよく言われる。俺はマシンガントークだから何時間でも喋り続けられるからな」
「お肉屋さんはスーパーじゃない専門店に行こう?」
「ん?どうしてだ…」
「お母さんがスーパーのお肉は安くて不味いから食べたくないって言うの」
「専門店の高級和牛って一番高いやつは百グラム何千円もするだろ…」
「お母さんが高級和牛じゃないと怒るんだよ…」
「つー事は俺もその高級和牛が食えると言う事か?」
「うん、お母さんも食べるから同じお肉が食べられるよ」
「死ぬまでに一度、あの高級和牛食ってみたかったんだ」
夏海はワクワクしながらスーパーの手前にある高級和牛専門店について行った。小雪は百グラム千五百円くらいの肉を三百グラム買っている。レジで五千円札を支払ったが、おつりはほんのちょっとだ。
「産地直送だから神戸で買うより安いんだよ?このお店」
「そうなのか?俺には到底、手が出ない金額なのだが…」
「神戸だとこれの二倍…三倍はすると思うよ?」
「三倍だったら一万円超えるな…」
「お母さんが田舎に引っ越すならここが良いって言った理由がね、この専門店のお肉がすぐに買えるからだったんだよ」
「肉じゃがに神戸なら一万円分の肉を入れるなんてあり得ねぇ…」
「でも一度食べたら普通のお肉が食べられなくなるほど美味しいんだよ!」
「ちょ、ちょっと待て!普通の肉が食えなくなるのは困る…」
「これを食べてから普通のお肉食べると、不味くて食べられなくなった…ってお母さんが言ってた」
「小雪さんも普通の肉が食えなくなったのか?」
「ううん、食べられるけど、おいしくないなとは感じる」
「なんて恐ろしい肉なんだ…。食べない方が幸せな気もするが、食ってみたい」
高級和牛を買い終わり、スーパーに移動する途中で、テッシュ配りをしている中年女性が夏海に話しかけてくる。
「夏海君!可愛い女の子と一緒だけど…。もしかして彼女?」
「あっ…竹田先生…見つかっちまった」
「竹田先生?夏海君と知り合いなの…」
「うん、そこのパソコン教室の先生なんだけど、前にお世話になってパソコン教室辞めた後も、スーパーとかでたまに話してるんだ」
「パソコン教室に通ってたんだね」
「でも竹田先生、五時上がりじゃなかったっすか?」
「ノルマが終わらなくて…。テッシュもらってくれる?」
「ああ、俺もテッシュ配りのバイトした事あるけど、ノルマがキツいっすよね」
夏海と一緒に小雪もパソコン教室のテッシュを竹田にもらった。
「夏海君だけがわかってくれるのよ…」
「テッシュ配りのノルマのキツさを知らん奴は、受け取り拒否すんだよなぁ…」
「私のお母さんも受取拒否してたから、私もいつも受取拒否してた…」
「テッシュ持って帰ったら小雪さんの母親に叱られないか?」
「私の部屋は鍵を掛けてあるし、大事なものを隠す場所はあるから大丈夫」
「別に大事なものじゃねぇだろ…」
「夏海君とお揃いのテッシュだから大事にするよ?」
「いや、それ…あのオッさんとかも今もらってたやん?」
「夏海君とデートした思い出の記念品だから大事なの!」
「これはデートになるのだろうか…。スーパーに行くだけだぞ?」
「早く買いに行こう?作る時間もあるから急がなきゃ!」
「おお、そうだった。タイムリミットは八時半だもんな」
スーパーに入るとすぐ玉ねぎとジャガイモがバラ売りされている。小雪は玉ねぎやジャガイモを手に取って品定めしているようだ。
「玉ねぎはたまに内側が腐ってるの…。外からじゃわかりにくいから、外側に傷がないか確かめてるところ」
「なんかプロの料理人みたいだな…。俺なんか適当に選んで買うけど」
「ジャガイモは芽が少なくて、なるべくボコボコしてない方が剥きやすいから、夏海君も探してみて?」
「なるほど…これとか…どうだ?」
「うん、それなら剥きやすそうだね!」
ただの買い物が二人で来るといつもより楽しくてしょうがない。
「肉じゃがだけだと寂しいから、もう一品作りたいんだけど、何にする?」
「そんなに作る時間あるか?肉じゃがだけでも一時間かかると思うけど…」
「肉じゃが煮込んでる間に作るの。肉じゃがは圧力鍋で煮込むから一時間もかからないよ」
「圧力鍋…そんな方法があったのか…」
「夏海君が今食べたいもの言ってみて」
「アヒージョ…」
「それは昨日作ったから、今日は別のものが良いと思う。お母さんが文句言うの…」
「そっか…。アヒージョはまたいつか食わせてくれよ?気になってしょうがない…」
「うん!いつか食べさせてあげるね?」
「小雪さんと結婚したら旦那は毎日上手い手料理が食えて幸せだろうな…」
「夏海君が旦那様になるんだよ?」
「市役所の連中に妨害されて無理だと思うけど」
「あのね、婚姻届は市役所でもらってきたんだけど、私がまだ十九歳だから親のサインが必要って言われたの」
「小雪さんの母親は絶対にサインしないと思うぞ?」
「うん、でもね。二十歳以上なら、親以外のサインでもいけるって説明されて、例えばさっきの竹田さんに頼んでも、大丈夫みたい」
「竹田さんなら多分、サインしてくれそうだな」
「夏海君は確か…今二十一歳だよね?」
「ああ、二十歳で高校に入学したからな。その歳で高校生?とか散々言われたけど」
「私も十九で入学した時に同じ事言われたからわかるよ」
夏海は惣菜コーナーで、いつも買っている半額の煮物を手に取っている。
「夏海君は煮物が好きなの?」
「オカンがいつも言ってたんだ。煮物も作れない母親が多いから、煮物が作れない女とは結婚するなって」
「そうなんだ?煮物の特訓しなきゃ!」
「俺はアヒージョの方が気になるんだが?そんなオシャンティーな食べ物、食った事がない…」
「オシャンティー?面白い言葉だね!」
「多分、死語だな。オカンがよく使うから俺も使っちまった」
「アヒージョは簡単だから、夏海君と結婚したらいつでも作ってあげるね」
「早く帰らないと時間がヤバくないか?小雪さんの母親、ヒステリックな性格みたいだし…」
「お母さんは外面は良いから、夏海君には暴言は吐かないと思う」
「外面が良いのはうちの親も同じだ…」
「お母さんが帰って来る前に急いで料理するから肉じゃが以外は適当で良い?」
「ああ、任せるよ?」
慌ててレジに向かったが、タイムサービスの時間帯はレジが混んでいて、なかなか順番が回ってこない。新人っぽいレジ打ちがモタモタしていたので、途中で隣のレジに移ったが、ベテランっぽい人がヘルプに来たので、最初に並んでいた列の方が早く進み始める。
「あっちのレジで待ってりゃ良かったな。今頃、順番が回って来る頃だった…」
タイムロスがあってイライラしたが、何とか買い物が終わって、小雪の住んでいるマンションまで帰って来た。レジ袋は夏海が持っている。
「夏海君はリビングでテレビでも観て待ってて?三十分で作れると思うから!」
小雪がエプロンに着替えている間、リビングでフルハイビジョンの薄型テレビをリモコンで付ける。
「でっかいテレビだなぁ。テレビを観るのは何年ぶりだろうか…」
「親もほとんどテレビ観てないけどね。私は部屋にいる事が多いし、お母さんとお義父さんもすぐに寝室に行っちゃうから」
小雪はジャガイモの皮剥きをしながら、夏海と話している。
「俺も何か手伝おうか?」
「玉ねぎの皮剥いてくれる?」
「了解。肉はどうする?」
「お肉は後でいいよ。先に入れると硬くなっちゃうから」
「料理をちゃんとやってる人の発言だ」
「料理は毎日してるし、趣味みたいなものだよ」
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