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第九章
雀の涙
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マダムが車で夏海を家まで送ったので、ゲームセンターには寄らず、プレハブ小屋の引き戸を開けた。もう外は薄暗くなっていて、電気は付いていないので、ランプの中の蝋燭に火を灯す。明日、提出予定の高校の課題に取り掛かる。
「ううっ…蝶柄の下着でも気が散ったが…今日のポロリは…頭から離れない!」
蝋燭の灯りにぼんやりと照らされながら、ゴソゴソと煩悩の処理を始めるが、昨夜までオカズにしていた蝶柄の下着は脳内から消え去って、向日葵柄の水着のポロリになっていた。
「小雪さんに出逢う前はこんな何回も処理しなくて良かったんだが…」
処理後は汚れた手を庭の水道で洗う。夏は良いが冬は刺すように冷たい水が出るので、あまり手を洗いたくなくなる。
「煩悩って百八つあるんだっけ?多分…もう百七くらいは決壊してるから…次に小雪さんに誘惑されたら…最後の百八つ目が決壊しそうだ…」
庭の茂みが揺れた事に気付いて、不審者でも忍び込んだのかと手には金属バットを持って、ランプを翳して人影を照らし出した。ボロボロになった小雪が震えていた。
「小雪さん!どうしてここに…。それにその服は…まさか」
「またレイプされちゃった…。私…なんでいつも…こうなるんだろ」
震えている小雪をとりあえずプレハブ小屋の中に入れるが、夏でも隙間風が吹き込む小屋の中は寒い。しかし暖房器具は一切ない。カフェオレスティックをマグカップに入れてカルキ臭いお湯で溶かしたものを差し出す。
「こんなものしかないけど…」
「ありがとう…。この味…大好きなの…」
「カルキ臭くて不味いだろ?」
「ううん…。夏海君の淹れてくれたカフェオレは…世界で一番美味しい…」
小雪はチビチビとカフェオレを飲み干した。
「俺のせいで…俺に関わったから…小雪さんは…不幸になっちまったのか?」
「そうじゃないよ…。夏海君に出逢う前から…ずっとこうだったし…、出逢った後は…幸せだったから…」
「小雪さんは、俺なんかのどこが良いのか、全くわからんのだが、背は低いし、金はないし、好かれる要素がない…」
「レイプされる時って…あんまり濡れてないから痛いだけだけど…夏海君に抱かれる時は…痛くないんだろなぁ…」
「それはわかんねぇよ?妄想の中だと俺は小雪さんをめちゃくちゃにしてるから…、もしかすると痛いだけかもしんねぇし…」
「ねぇ…。今、私…夏海君に抱かれたくて…、すごく濡れてるんだよ…」
「と言うかついさっきも妄想の中でかなり酷い事をしてた…」
「妄想と同じ事…私にしてよ…」
「いや、それは…出来ない」
「どうして?私が穢れてるから…嫌なのね…」
「違うんだ…。なんか哀しくて…。俺は小雪さんを…こんな風にボロボロにした奴らと同じ妄想を…さっきここでしてた…」
「全然…違うよ?だって私は…夏海君に抱かれたくて…仕方ないんだもん…。あの人たちとは違う…」
「違わないんだよ…。あいつらとほぼ同じ事を考えてると思う…」
「違うの…。夏海君に抱かれたら…私は嬉しくて堪らないのに…同じ訳がないよ…」
「俺の頭ん中…小雪さんは知らないから…そう思うだけだ」
「夏海君だって…私の頭の中は…知らないでしょ?毎日毎日…夏海君と…えっちな事する妄想してるの…」
「女の妄想なんて…どうせ少女漫画みたいなゆるいやつだろ?」
「少女漫画…読んだ事あるの?」
「めちゃくちゃソフトなエロ漫画だなと思った」
「私の妄想はもっとハードかも…。夏海君に知られたら嫌われちゃうと思う…」
「俺の妄想はもっとハードだから…小雪さんに知られたら確実にドン引きされる…」
「ウフフ…。じゃあきっと…私と夏海君は…同じような妄想を…毎晩してるのかもね?」
さっきまでこの世の終わりのような顔をしていた小雪の表情がフッと笑顔になる。
「あっ、やっと笑った…」
「私は…夏海君と一緒にいるだけで…笑顔になるから」
「俺も小雪さんと一緒にいると…生きててよかったって思う」
「こんないけない子でも…私を好きでいてくれますか」
「つーか俺なんかより…もっと金持ちの男を捕まえて…幸せになった方が良いと思う…」
「そんな人と一緒にいても…幸せにはなれないよ」
この日の晩は小雪は夏海のプレハブ小屋に泊まってイチャイチャしていたら、レイプされた事など忘れてしまったかのように元気になっていた。
「結局、キスしかしてくれないんだもん。夏海君のいじわる」
「キスだけで我慢するのが、男はどんだけ大変なのかわかってねぇからなぁ…女は」
「じゃあ我慢しないで…したら良いのに…」
「一回でもやったら負けだと思っている…」
「なんでだろ…。抱いてもらえなくても愛されてるって感じる…」
「俺が小説で一発当てて…、ちゃんと小雪さんとガキを養えるようになったら…、そん時はやりまくるよ?」
「養ってもらえなくても、自分の事は自分で何とかするよ?」
「小雪さんならモデルのバイトとかもやれそうだし、芸能人にもなれそうだからなぁ…」
「モデルのバイトはした事あるけど、芸能人は無理だと思う。私、あがり症だし…」
「やっぱモデルのバイトした事あるのか…」
「街を歩いてたらカメラマンに写真撮らせてくださいって言われて雑誌に載って少しお小遣いもらった程度だよ…」
「普通の女は街を歩いててもカメラマンに声をかけられる事はないと思うが…」
「私の友達は結構、声かけられてる子、いたよ」
「前に俺の働いてる店に連れて来てた友達の子も何気にハイクオリティな女だったが…」
「うん、あの子もモデルのバイトしてた。私より可愛いでしょ?」
「小雪さんの方が俺の好みのタイプだがな」
「本当に?嬉しい!」
月曜日の夕方のバイト中に、厨房で皿洗いをしながら、夏海は愛奈にボソリと呟いた。
「愛奈、またあのクソ男どもに俺の彼女を襲えって命令したんだろ?」
「えっ?そんな事してないし!前の時も命令されたってあいつら言ってたらしいけど、命令して言う事聞く奴らじゃないもん…」
「まあ確かにそうだな。人に命令されて聞くような連中じゃないか…」
「てかあの女襲われたんだ?いい気味だわ」
「前みたいに言いふらすなよ?それでまた揉め事になったら俺は今度こそ退学だから…」
「言いふらしたりしてないし、勝手に噂が広まってただけなのに私のせいにしないでよ?」
「お前の日頃の行いが悪いから疑われるんだ」
「酷い!男なんてみんな美人ばっかチヤホヤしててマジムカつくんですけど?」
「美人はチヤホヤされてるから幸せとか思い込んでんのは不細工が美人の苦労を知らんからだ…」
「美人は苦労なんかしてないじゃん?なっちゃんは女を見る目がなさ過ぎ!」
「はぁ…愛奈と話してるとストレスが溜まる」
夏海は皿洗いが終わって布巾で濡れた皿を拭いて棚に戻しているが、愛奈は仕事をサボって椅子に座ってダラダラしているだけだった。それでもマスターはタイムカードの時間だけを見て、夏海と同じ給料を愛奈に支払われるのが、腑に落ちない。
「私だってなっちゃんと話してるとストレス溜まるんですけど?」
「じゃあもう話しかけてくんな。俺は無言になる…」
「ウザッ!あの女…もっとめちゃくちゃにされれば良いのに」
「もう既にめちゃくちゃにされてる。これ以上、馬鹿な真似したら…お前マジで殺すぞ?」
「なっちゃん怖~い!殺人鬼だぁ~」
「お前の方が怖いわ…。こんな馬鹿女殺して前科持ちになったら、俺の方が可哀想だ…」
「なっちゃんが人殺しなんかできる訳ないじゃん?」
「いや、殺したい奴はゴロゴロいるけど、全員殺してから捕まりたいから、完全犯罪を毎晩考えてた。小雪さんに出逢う前までは…」
「嘘…。なっちゃんがマジで連続殺人犯になるつもりだったなんて…」
「なんかもう殺人とかどうでも良くなって来たから、小雪さんと結婚する為にはどうすれば良いかって事ばかり最近は考えてるなぁ」
「あんな女と結婚したら浮気されて大変だと思うけど?」
「小雪さんは浮気とかするタイプじゃない…」
「なっちゃんは女に幻想を抱き過ぎなんだよ?」
「お前みたいなクソ女には幻想すら抱かない」
夏海は口論しながらも仕事を手早く片付けていたが、マスターから呼ばれて奥の部屋に連れて行かれる。
「マスター、さっきの愛奈の態度は見てましたか?サボってばかりなのでクビにしてください…」
「いや、クビになるのは君の方だ…」
「なぜですか?仕事はちゃんとやってますよ」
「君は規則を破ったからだ」
「規則は破ってないと思いますが…」
「マダムから聞いた。あの小雪と言う女子高生と付き合ってるそうだな?規則違反だ…」
「店の中ではなく、店に来る前に知り合ったんですが、それでも規則違反になりますか?」
「君は口答えばかりするから、それも良くない。社会に出たらそんな態度は通用しない…」
「社会に出て通用しないのは愛奈の態度の方だと思いますけど?」
「愛奈は大丈夫だ。君は今日限りでやめてもらう。今日までの給料は銀行口座に振り込んでおくから明日から来なくて良いよ?」
「これは不当解雇ですよ?金さえあったら訴えてやるのに…」
「訴えたいならどうぞ?まあ君に勝ち目はないがね」
途方に暮れながら夏海は家路に着く。バス停で青いベンチに座って俯いていると、小雪が夏海の隣の席に座って来た。
「どうしたの?浮かない顔して…」
「バイトクビにされた…。サボってた愛奈はクビにならないのに…。あり得ない!」
「えっ?どうしてクビにされちゃったの」
「マダムが日曜日の事をマスターにチクったらしくてさ、俺が彼女作ったからクビだって…」
「そんな…!私のせいで夏海君、クビにされちゃったの?ごめんなさい…」
「小雪さんは悪くないよ…。悪いのは俺だから…」
「彼女作ったらクビとかイマドキそんな規則のバイトあるんだね…」
「それと多分…マダムの養子になる件を断ったのも…マダムの機嫌を損ねた原因かもしれない…」
「その話を前に聞いた時にも思ったんだけど、なんかあのマダム…ちょっと気持ち悪いなって、プールの更衣室で話してた時に思った…」
「気持ち悪い奴がまともって言われて、俺みたいなのは極悪人扱いされるんだよ?」
「夏海君、何も悪い事してないのに…」
「何がよくなかったんだ…。マダムにも気を遣って…頑張ってデートしてたのに…」
「お散歩の付き添いで見守りとか言ってたけど…」
「見守りじゃなくて監視だよ?二十歳になれば自由になれると思って十九年間我慢したのに、もっと自由を奪われてるんだ…」
「ううっ…蝶柄の下着でも気が散ったが…今日のポロリは…頭から離れない!」
蝋燭の灯りにぼんやりと照らされながら、ゴソゴソと煩悩の処理を始めるが、昨夜までオカズにしていた蝶柄の下着は脳内から消え去って、向日葵柄の水着のポロリになっていた。
「小雪さんに出逢う前はこんな何回も処理しなくて良かったんだが…」
処理後は汚れた手を庭の水道で洗う。夏は良いが冬は刺すように冷たい水が出るので、あまり手を洗いたくなくなる。
「煩悩って百八つあるんだっけ?多分…もう百七くらいは決壊してるから…次に小雪さんに誘惑されたら…最後の百八つ目が決壊しそうだ…」
庭の茂みが揺れた事に気付いて、不審者でも忍び込んだのかと手には金属バットを持って、ランプを翳して人影を照らし出した。ボロボロになった小雪が震えていた。
「小雪さん!どうしてここに…。それにその服は…まさか」
「またレイプされちゃった…。私…なんでいつも…こうなるんだろ」
震えている小雪をとりあえずプレハブ小屋の中に入れるが、夏でも隙間風が吹き込む小屋の中は寒い。しかし暖房器具は一切ない。カフェオレスティックをマグカップに入れてカルキ臭いお湯で溶かしたものを差し出す。
「こんなものしかないけど…」
「ありがとう…。この味…大好きなの…」
「カルキ臭くて不味いだろ?」
「ううん…。夏海君の淹れてくれたカフェオレは…世界で一番美味しい…」
小雪はチビチビとカフェオレを飲み干した。
「俺のせいで…俺に関わったから…小雪さんは…不幸になっちまったのか?」
「そうじゃないよ…。夏海君に出逢う前から…ずっとこうだったし…、出逢った後は…幸せだったから…」
「小雪さんは、俺なんかのどこが良いのか、全くわからんのだが、背は低いし、金はないし、好かれる要素がない…」
「レイプされる時って…あんまり濡れてないから痛いだけだけど…夏海君に抱かれる時は…痛くないんだろなぁ…」
「それはわかんねぇよ?妄想の中だと俺は小雪さんをめちゃくちゃにしてるから…、もしかすると痛いだけかもしんねぇし…」
「ねぇ…。今、私…夏海君に抱かれたくて…、すごく濡れてるんだよ…」
「と言うかついさっきも妄想の中でかなり酷い事をしてた…」
「妄想と同じ事…私にしてよ…」
「いや、それは…出来ない」
「どうして?私が穢れてるから…嫌なのね…」
「違うんだ…。なんか哀しくて…。俺は小雪さんを…こんな風にボロボロにした奴らと同じ妄想を…さっきここでしてた…」
「全然…違うよ?だって私は…夏海君に抱かれたくて…仕方ないんだもん…。あの人たちとは違う…」
「違わないんだよ…。あいつらとほぼ同じ事を考えてると思う…」
「違うの…。夏海君に抱かれたら…私は嬉しくて堪らないのに…同じ訳がないよ…」
「俺の頭ん中…小雪さんは知らないから…そう思うだけだ」
「夏海君だって…私の頭の中は…知らないでしょ?毎日毎日…夏海君と…えっちな事する妄想してるの…」
「女の妄想なんて…どうせ少女漫画みたいなゆるいやつだろ?」
「少女漫画…読んだ事あるの?」
「めちゃくちゃソフトなエロ漫画だなと思った」
「私の妄想はもっとハードかも…。夏海君に知られたら嫌われちゃうと思う…」
「俺の妄想はもっとハードだから…小雪さんに知られたら確実にドン引きされる…」
「ウフフ…。じゃあきっと…私と夏海君は…同じような妄想を…毎晩してるのかもね?」
さっきまでこの世の終わりのような顔をしていた小雪の表情がフッと笑顔になる。
「あっ、やっと笑った…」
「私は…夏海君と一緒にいるだけで…笑顔になるから」
「俺も小雪さんと一緒にいると…生きててよかったって思う」
「こんないけない子でも…私を好きでいてくれますか」
「つーか俺なんかより…もっと金持ちの男を捕まえて…幸せになった方が良いと思う…」
「そんな人と一緒にいても…幸せにはなれないよ」
この日の晩は小雪は夏海のプレハブ小屋に泊まってイチャイチャしていたら、レイプされた事など忘れてしまったかのように元気になっていた。
「結局、キスしかしてくれないんだもん。夏海君のいじわる」
「キスだけで我慢するのが、男はどんだけ大変なのかわかってねぇからなぁ…女は」
「じゃあ我慢しないで…したら良いのに…」
「一回でもやったら負けだと思っている…」
「なんでだろ…。抱いてもらえなくても愛されてるって感じる…」
「俺が小説で一発当てて…、ちゃんと小雪さんとガキを養えるようになったら…、そん時はやりまくるよ?」
「養ってもらえなくても、自分の事は自分で何とかするよ?」
「小雪さんならモデルのバイトとかもやれそうだし、芸能人にもなれそうだからなぁ…」
「モデルのバイトはした事あるけど、芸能人は無理だと思う。私、あがり症だし…」
「やっぱモデルのバイトした事あるのか…」
「街を歩いてたらカメラマンに写真撮らせてくださいって言われて雑誌に載って少しお小遣いもらった程度だよ…」
「普通の女は街を歩いててもカメラマンに声をかけられる事はないと思うが…」
「私の友達は結構、声かけられてる子、いたよ」
「前に俺の働いてる店に連れて来てた友達の子も何気にハイクオリティな女だったが…」
「うん、あの子もモデルのバイトしてた。私より可愛いでしょ?」
「小雪さんの方が俺の好みのタイプだがな」
「本当に?嬉しい!」
月曜日の夕方のバイト中に、厨房で皿洗いをしながら、夏海は愛奈にボソリと呟いた。
「愛奈、またあのクソ男どもに俺の彼女を襲えって命令したんだろ?」
「えっ?そんな事してないし!前の時も命令されたってあいつら言ってたらしいけど、命令して言う事聞く奴らじゃないもん…」
「まあ確かにそうだな。人に命令されて聞くような連中じゃないか…」
「てかあの女襲われたんだ?いい気味だわ」
「前みたいに言いふらすなよ?それでまた揉め事になったら俺は今度こそ退学だから…」
「言いふらしたりしてないし、勝手に噂が広まってただけなのに私のせいにしないでよ?」
「お前の日頃の行いが悪いから疑われるんだ」
「酷い!男なんてみんな美人ばっかチヤホヤしててマジムカつくんですけど?」
「美人はチヤホヤされてるから幸せとか思い込んでんのは不細工が美人の苦労を知らんからだ…」
「美人は苦労なんかしてないじゃん?なっちゃんは女を見る目がなさ過ぎ!」
「はぁ…愛奈と話してるとストレスが溜まる」
夏海は皿洗いが終わって布巾で濡れた皿を拭いて棚に戻しているが、愛奈は仕事をサボって椅子に座ってダラダラしているだけだった。それでもマスターはタイムカードの時間だけを見て、夏海と同じ給料を愛奈に支払われるのが、腑に落ちない。
「私だってなっちゃんと話してるとストレス溜まるんですけど?」
「じゃあもう話しかけてくんな。俺は無言になる…」
「ウザッ!あの女…もっとめちゃくちゃにされれば良いのに」
「もう既にめちゃくちゃにされてる。これ以上、馬鹿な真似したら…お前マジで殺すぞ?」
「なっちゃん怖~い!殺人鬼だぁ~」
「お前の方が怖いわ…。こんな馬鹿女殺して前科持ちになったら、俺の方が可哀想だ…」
「なっちゃんが人殺しなんかできる訳ないじゃん?」
「いや、殺したい奴はゴロゴロいるけど、全員殺してから捕まりたいから、完全犯罪を毎晩考えてた。小雪さんに出逢う前までは…」
「嘘…。なっちゃんがマジで連続殺人犯になるつもりだったなんて…」
「なんかもう殺人とかどうでも良くなって来たから、小雪さんと結婚する為にはどうすれば良いかって事ばかり最近は考えてるなぁ」
「あんな女と結婚したら浮気されて大変だと思うけど?」
「小雪さんは浮気とかするタイプじゃない…」
「なっちゃんは女に幻想を抱き過ぎなんだよ?」
「お前みたいなクソ女には幻想すら抱かない」
夏海は口論しながらも仕事を手早く片付けていたが、マスターから呼ばれて奥の部屋に連れて行かれる。
「マスター、さっきの愛奈の態度は見てましたか?サボってばかりなのでクビにしてください…」
「いや、クビになるのは君の方だ…」
「なぜですか?仕事はちゃんとやってますよ」
「君は規則を破ったからだ」
「規則は破ってないと思いますが…」
「マダムから聞いた。あの小雪と言う女子高生と付き合ってるそうだな?規則違反だ…」
「店の中ではなく、店に来る前に知り合ったんですが、それでも規則違反になりますか?」
「君は口答えばかりするから、それも良くない。社会に出たらそんな態度は通用しない…」
「社会に出て通用しないのは愛奈の態度の方だと思いますけど?」
「愛奈は大丈夫だ。君は今日限りでやめてもらう。今日までの給料は銀行口座に振り込んでおくから明日から来なくて良いよ?」
「これは不当解雇ですよ?金さえあったら訴えてやるのに…」
「訴えたいならどうぞ?まあ君に勝ち目はないがね」
途方に暮れながら夏海は家路に着く。バス停で青いベンチに座って俯いていると、小雪が夏海の隣の席に座って来た。
「どうしたの?浮かない顔して…」
「バイトクビにされた…。サボってた愛奈はクビにならないのに…。あり得ない!」
「えっ?どうしてクビにされちゃったの」
「マダムが日曜日の事をマスターにチクったらしくてさ、俺が彼女作ったからクビだって…」
「そんな…!私のせいで夏海君、クビにされちゃったの?ごめんなさい…」
「小雪さんは悪くないよ…。悪いのは俺だから…」
「彼女作ったらクビとかイマドキそんな規則のバイトあるんだね…」
「それと多分…マダムの養子になる件を断ったのも…マダムの機嫌を損ねた原因かもしれない…」
「その話を前に聞いた時にも思ったんだけど、なんかあのマダム…ちょっと気持ち悪いなって、プールの更衣室で話してた時に思った…」
「気持ち悪い奴がまともって言われて、俺みたいなのは極悪人扱いされるんだよ?」
「夏海君、何も悪い事してないのに…」
「何がよくなかったんだ…。マダムにも気を遣って…頑張ってデートしてたのに…」
「お散歩の付き添いで見守りとか言ってたけど…」
「見守りじゃなくて監視だよ?二十歳になれば自由になれると思って十九年間我慢したのに、もっと自由を奪われてるんだ…」
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