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オジキは柴崎くんが可愛くて仕方がない

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高倉恭蔵。64歳。若い奴らは、俺をオジキとか呼ぶ。カッコつけたことを言えば萬屋、有体に言えば様々なことの仲介会社を経営している。社員は俺1人で、翔悟の扱いは手伝いってことにしてる。会社に顔出した日は小遣いという名目で一万くらい渡す。三万の時もある。ゴキブリが出た時は1匹五千円だ。
「オジキ、血圧の薬飲んだか?」
「どうだったかな」
翔悟が俺の薬のポーチを覗く。
「飲んでねぇじゃねぇか」
翔悟が薬を俺の掌に出してくれ、水の入ったコップを渡される。渋々飲む。薬ってのは、いくつになっても飲み慣れない。
「今日は16時までなんもないんだろ?散歩にでも行こうぜ」
「そうする」
足はバイク事故で悪くした。頼れる身内はもういない。これ以上歩けなくなると困るから、週一回くらいは公園を散歩する。やりたくなくてサボろうとすると、今みたいに翔悟が前向きに誘ってくる。こいつはよく周りを見てる。
「日比谷公園がいいかね」
翔悟が地図を見て、行き先を決める。俺が若かった頃とだいぶ街並みが変わって、近頃はちっとも道が分からない。
「寒い」
「悪りぃ」
翔悟が車の窓を閉める。今日はちょいと風が強い。日比谷公園に着いたら、目的はなく公園をゆっくり一周する。翔悟は本来歩くのが速いんだろうに、ぴったり俺の横を歩いてくれる。向かい風が強く吹いて、俺の帽子を攫う。
「っぶね」
帽子が地面に落ちる前に、翔悟が捕まえる。翔悟から帽子を受け取る。
「ありがとな」
「おう」
会った頃から、本当に変わらない。翔悟は新卒の時肩を壊して、予定していた仕事が出来なくなった。それで、就職にあぶれていたところを拾ってきた。翔悟が親切なのは、俺が教え込んだからじゃねぇ。最初からこいつは自然に出来た。俺の身の回りの世話して、嫌な顔をしたことは一度もない。大したやつだ。
「オジキ、寒くねぇか?」
「大丈夫だ」
陽は出ているのに、乾燥してキンキンと冷える日だ。寒いというのに、子供は元気に公園を走り回っている。5歳くらいのガキが、母親と手を繋いで俺たちの横を通り抜ける。ガキの手には風船。飛ばすだろうなぁと思っていたら、案の定手をすり抜けて空に吸い込まれていく。隣から気配が消える。
パシッ ザザッ
「よっ、大丈夫か?」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
翔悟は満面の笑みでガキに風船を返すと、戻ってきた。…………いや、かなり離れてただろ。なんで間に合うんだよ。瞬発力と跳躍力がおかしい。10代でも無理だろう普通。
「どうした?」
俺の驚嘆を他所に、翔悟はなんでもないような顔をしている。まぁ、こいつは子供が好きだからな。目で追っていたんだろうけど。
「いや……歳取らんのかお前は」
「こないだ一緒に歳取ったろ」
そう。翔悟と俺は誕生日が同じだ。それが最初は気に入って、若い頃の俺に似てると思って連れてきた。今では、そんなことは翔悟に失礼だったと思う。
「長生きしようぜ、オジキ」
「……そうだな」
俺には嫁がいない。当然子供もいない。兄貴は若いうちにくたばった。両親もとっくに。俺には、家族と呼べるものはもう残っていない。
「せいぜい、お前の面倒を見るよ」
「頼んだ!」
翔悟がケラケラ笑う。それにどれだけ救われることか。いろんなものを見てきた、贅沢も貧乏もやった。もういいか、とも思うけれど、翔悟がいるならもう少し頑張らねぇとと思える。
「帰り、すき焼きでも食うか」
「いいのか?」
「機嫌がいい」
最後に残された宝物みたいなものだと、素直には伝えられねぇが。気色悪いし迷惑だろう。けど、翔悟にはずっと笑ってて欲しいんだ。楽させてやりてぇんだ。
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