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柴崎くんはオジキと出かけるのが好き

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オジキの通話が終わらねぇ。
「だからそれは話通してあるって言ってるだろ」
11時前に事務所に来たら既に通話していて、そろーり中に入って右手前のデスクの椅子に座った。今はもう11時20分を過ぎている。静かにしていなきゃと思って、スマホを弄って俯いている。どうやら話が食い違っているようで、オジキは少し怒っている。人の怒る雰囲気とか、落ち込んでいる雰囲気ってやつがどうにも苦手だ。どうにかしなくちゃと焦って緊張してしまう。オジキをチラッと窺うと目が合って、そのあと目を瞑って小さくため息を吐いた。
「とにかく、進捗がないなら連絡して来んでいい」
オジキは通話を切った。もう一度ため息。
「話が長い」
「長かったね」
「まったく。同じ話を何回もしおって」
オジキは腹立たしそうに葉巻に火をつけた。窓を開ける。
「そうだ、今日出かけるのはなしになった」
オジキは気分を入れ替えたようで、先ほどより声のトーンを上げて話す。
「そうなの?今日もう俺いらない?」
「そんなわけねぇだろ。とりあえず飯買ってこい」
「うーす」
オジキが俺に小銭入れを寄越す。ポッケにしまい、今一度出かける支度をする。
「なにがいい?」
「好きなもんにしろ」
好きなもんかぁ。明日土曜だよな。国領になんか作ってもらいてぇな。それと被んないのにしよう。
「海鮮丼でいい?」
「うん」
オジキはとにかくマグロが好きだから、鉄火丼だな。俺はなににしようかな。行ってから決めるか。
「いってきまーす」

「ごちそうさまでした」
帰ってきて海鮮丼食べて、ゴミを片す。オジキにウェットティッシュを取ってやる。オジキは口の周りを拭くと、俺の手にしたビニール袋に放った。ビニール袋をまるめてゴミ箱に捨てる。ゴミといえば、月曜ダンボールだけど溜まってたりするかな。
「オジキ、捨てるダンボールある?」
「廊下の突き当たり」
廊下に出て突き当たりを見れば、まとめてないダンボールが崩れて重なっていた。ビニール紐を持ってきて、手早くまとめる。玄関先に出しておいた。事務所に戻ると、オジキが紙の束をパソコンの横に置いている。嫌な予感がする。
「これ入力してくれ」
「えー」
うげーっという顔をした。オジキは鼻で笑う。
「そのまんま入力するだけだよ」
「そのまんまでも疲れるじゃん」
「計算よりマシだろ」
「まぁ……うん」
渋々椅子に座り、パソコンの電源を入れる。Windows2000のロゴが浮かび上がる。死んだ目の俺が画面に映っている。
「ワード?エクセル?」
「エクセル」
「エクセルかよ……」
エクセル、細かいしわけ分かんないし、嫌。紙の束を見る。そこそこ厚みがあって絶望する。思わずため息が出た。
「俺はもう見えねぇんだよ」
「知ってんよ」
オジキにやらせるわけにもいかない。気合を入れて、エクセルを開く。印刷された数字を、セルに打ち込んでいく。3枚目までは黙って打ち込んだ。
「だぁー!!」
伸びをする。めちゃくちゃ疲れる。この世で1番向いてない仕事だと思う。肩と首を回しながら、間違えないように打ち込む。帰りたい。
「…………夜は夜釣りに連れてってやるから、頑張れ」
「マジ?いいな。黒川に連絡しとく?」
「先に終わらせろバカタレ」
かなりやる気出た。パソコンに向き直り、真面目に進める。……昼に海鮮丼だったけど、明日の朝も魚だな。被ったな。国領の飯はおあずけ。
「ほーれアジサバが待っとるぞー」
オジキは朝より機嫌がいい。よかった、安心する。瞬きを繰り返しながら、打ち込みを遅くとも進める。……夜釣り、どっちかってーと連れてくのは俺だよな。まぁ、まぁ。そんなことは、どうだっていいんだ。
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