5 / 16
国領くんの水曜日
しおりを挟む
アラームの5分前に目が覚めて、鳴るまで待つ。ジリリリと鳴った瞬間に止めて、起き上がる。カーテンを開けて、陽の光を部屋に入れる。眼鏡をかけて、コーヒーマシンのスイッチを押した。テレビをつけて、朝のニュースを流して。アナウンサーの声を耳にしながら、ボウルに卵をひとつ落とし、牛乳と砂糖を加えて掻き混ぜる。食パンを浸して、フライパンで焼く。焦げ目をつけて、皿に乗せ、一口大に切って最後にメイプルシロップをかける。コーヒーをマグに注ぎ、テーブルの前に腰を下ろす。食べながら、ニュースを頭に入れていく。通勤の電車でネットニュースをもう一度読むつもりだ。コーヒーを飲み終えたらさっさっと皿を洗ってしまい、そのまま洗面所に移動する。顔を洗い、トイレを済まし、スーツに着替える。眼鏡からコンタクトに変えて、忘れ物の確認をする。
「よし」
カーテンを閉めて、テレビを消す。革靴を履いて、出勤。満員電車に揺られて40分。人を押し除けて這い出し、改札を抜ける。本社に到着して、スーツの襟を正す。入り口で社員証をタッチして、エレベーターの9階を押す。広いオフィス、周りに挨拶しながら、自分のデスクに迷いなく座る。デスクの右端に置いている猫のハンドレストを撫でて、軽く握ってリラックスする。手首の下に置き、パソコンの電源を点ける。ログインして、朝礼5分前。一度席を立つ。同じ経理の人間でなんとなく集まる。
「朝礼始めます」
先輩の仕切りで社訓の唱和をし、確認事項を共有して各々デスクに戻る。ひとつ深呼吸し、業務を開始する。
「いや、前にお伝えした通り、これは経費で落ちません……はい、はい。いや、落ちないです。規則確認してください。はい。失礼します」
「こっからここまでの移動どうなってんだ……?」
「領収書ねぇじゃねぇか!」
「はい、国領です。あ、大丈夫ですよ。申請出しといてください。はい、失礼します」
「どう考えてもタクシーの距離じゃねぇ」
「だからお土産代がかかりすぎなんだって」
「またあのおっさんかよ」
「電話かけたくねぇ……」
「しょうがねぇな………………出やがらねぇ。俺って分かってやがる」
「すみません、お疲れ様です。経理の国領です。宮木さんの交通費と接待費に関してなんですけど……はい、繋がらなくて。経費で落ちないとお伝えください。すみません……はい、はい。本当に、落ちないものは落ちないので。はい、はい……よろしくお願いします」
「なんでこれで給料出るんだよまったく」
「つーか落ちない分は自費になるんだよな多分。懲りねぇのか?」
「まーた申請の仕方間違えてるよ新人さんが」
「なんか1円合わねぇ……」
目がしぱしぱしてきた。目頭を押さえる。左側からコーヒーが差し出されて、顔を上げる。
「今日も頑張ってんね」
「あ、すいません……」
米田先輩が軽く会釈して、席に戻って行く。口数の少ない先輩だが、親切で仕事が早い。自分は作業をする時に全部声に出てるらしく……小さい声らしいんだけども。恥ずかしいのでやめたいのだが、結局入社してから今日まで直せなかった。米田先輩は、迷惑な音量じゃないからいいんじゃない。と言っていたが、面白いし。と付け加えていたので、やっぱり恥ずかしい。
(よし、黙って作業しよう)
「この1円、どこでずれてんだ……」
終わった。終わり!定時を10分ほど過ぎて、パソコンの電源を落とす。疲れた。猫を撫で、右端に置く。社員証をタッチして、退社。気候が良いので、ひと駅くらい歩くか。なんか疲れたな。最近、疲れ取れないんだよな。あと2日もあるのか……疲れている時に限って、遊びたくなるのはなんでなんだろう。布田と柴崎の顔が浮かぶ。
(恥ずかしい!!)
なんか俺がものすごく寂しがり屋みたいじゃねぇかよ。子供じゃあるまいし。別に人恋しくて会いたいとか思ってねぇし。違う違う。あーストレス発散に今日はつまみ作りまくって呑もう。アヒージョとか食べたい。
「よし」
カーテンを閉めて、テレビを消す。革靴を履いて、出勤。満員電車に揺られて40分。人を押し除けて這い出し、改札を抜ける。本社に到着して、スーツの襟を正す。入り口で社員証をタッチして、エレベーターの9階を押す。広いオフィス、周りに挨拶しながら、自分のデスクに迷いなく座る。デスクの右端に置いている猫のハンドレストを撫でて、軽く握ってリラックスする。手首の下に置き、パソコンの電源を点ける。ログインして、朝礼5分前。一度席を立つ。同じ経理の人間でなんとなく集まる。
「朝礼始めます」
先輩の仕切りで社訓の唱和をし、確認事項を共有して各々デスクに戻る。ひとつ深呼吸し、業務を開始する。
「いや、前にお伝えした通り、これは経費で落ちません……はい、はい。いや、落ちないです。規則確認してください。はい。失礼します」
「こっからここまでの移動どうなってんだ……?」
「領収書ねぇじゃねぇか!」
「はい、国領です。あ、大丈夫ですよ。申請出しといてください。はい、失礼します」
「どう考えてもタクシーの距離じゃねぇ」
「だからお土産代がかかりすぎなんだって」
「またあのおっさんかよ」
「電話かけたくねぇ……」
「しょうがねぇな………………出やがらねぇ。俺って分かってやがる」
「すみません、お疲れ様です。経理の国領です。宮木さんの交通費と接待費に関してなんですけど……はい、繋がらなくて。経費で落ちないとお伝えください。すみません……はい、はい。本当に、落ちないものは落ちないので。はい、はい……よろしくお願いします」
「なんでこれで給料出るんだよまったく」
「つーか落ちない分は自費になるんだよな多分。懲りねぇのか?」
「まーた申請の仕方間違えてるよ新人さんが」
「なんか1円合わねぇ……」
目がしぱしぱしてきた。目頭を押さえる。左側からコーヒーが差し出されて、顔を上げる。
「今日も頑張ってんね」
「あ、すいません……」
米田先輩が軽く会釈して、席に戻って行く。口数の少ない先輩だが、親切で仕事が早い。自分は作業をする時に全部声に出てるらしく……小さい声らしいんだけども。恥ずかしいのでやめたいのだが、結局入社してから今日まで直せなかった。米田先輩は、迷惑な音量じゃないからいいんじゃない。と言っていたが、面白いし。と付け加えていたので、やっぱり恥ずかしい。
(よし、黙って作業しよう)
「この1円、どこでずれてんだ……」
終わった。終わり!定時を10分ほど過ぎて、パソコンの電源を落とす。疲れた。猫を撫で、右端に置く。社員証をタッチして、退社。気候が良いので、ひと駅くらい歩くか。なんか疲れたな。最近、疲れ取れないんだよな。あと2日もあるのか……疲れている時に限って、遊びたくなるのはなんでなんだろう。布田と柴崎の顔が浮かぶ。
(恥ずかしい!!)
なんか俺がものすごく寂しがり屋みたいじゃねぇかよ。子供じゃあるまいし。別に人恋しくて会いたいとか思ってねぇし。違う違う。あーストレス発散に今日はつまみ作りまくって呑もう。アヒージョとか食べたい。
6
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
『VAKU』
segakiyui
キャラ文芸
秋谷鹿子には、楢すすむというとんでもない浮気性の彼氏がいる。いつも女を侍らせながら、それでも鹿子の料理がないと生きていけないと言い放つ男だ。付き合い方に悶々とする鹿子だが、ある日夜を進む霧の恐竜を目撃してから、全く違うすすむの姿を見せつけられる。『記憶』に支えられ『記憶』に侵蝕される世界を救うことはできるのか。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる