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国領くんの水曜日

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アラームの5分前に目が覚めて、鳴るまで待つ。ジリリリと鳴った瞬間に止めて、起き上がる。カーテンを開けて、陽の光を部屋に入れる。眼鏡をかけて、コーヒーマシンのスイッチを押した。テレビをつけて、朝のニュースを流して。アナウンサーの声を耳にしながら、ボウルに卵をひとつ落とし、牛乳と砂糖を加えて掻き混ぜる。食パンを浸して、フライパンで焼く。焦げ目をつけて、皿に乗せ、一口大に切って最後にメイプルシロップをかける。コーヒーをマグに注ぎ、テーブルの前に腰を下ろす。食べながら、ニュースを頭に入れていく。通勤の電車でネットニュースをもう一度読むつもりだ。コーヒーを飲み終えたらさっさっと皿を洗ってしまい、そのまま洗面所に移動する。顔を洗い、トイレを済まし、スーツに着替える。眼鏡からコンタクトに変えて、忘れ物の確認をする。
「よし」
カーテンを閉めて、テレビを消す。革靴を履いて、出勤。満員電車に揺られて40分。人を押し除けて這い出し、改札を抜ける。本社に到着して、スーツの襟を正す。入り口で社員証をタッチして、エレベーターの9階を押す。広いオフィス、周りに挨拶しながら、自分のデスクに迷いなく座る。デスクの右端に置いている猫のハンドレストを撫でて、軽く握ってリラックスする。手首の下に置き、パソコンの電源を点ける。ログインして、朝礼5分前。一度席を立つ。同じ経理の人間でなんとなく集まる。
「朝礼始めます」
先輩の仕切りで社訓の唱和をし、確認事項を共有して各々デスクに戻る。ひとつ深呼吸し、業務を開始する。
「いや、前にお伝えした通り、これは経費で落ちません……はい、はい。いや、落ちないです。規則確認してください。はい。失礼します」
「こっからここまでの移動どうなってんだ……?」
「領収書ねぇじゃねぇか!」
「はい、国領です。あ、大丈夫ですよ。申請出しといてください。はい、失礼します」
「どう考えてもタクシーの距離じゃねぇ」
「だからお土産代がかかりすぎなんだって」
「またあのおっさんかよ」
「電話かけたくねぇ……」
「しょうがねぇな………………出やがらねぇ。俺って分かってやがる」
「すみません、お疲れ様です。経理の国領です。宮木さんの交通費と接待費に関してなんですけど……はい、繋がらなくて。経費で落ちないとお伝えください。すみません……はい、はい。本当に、落ちないものは落ちないので。はい、はい……よろしくお願いします」
「なんでこれで給料出るんだよまったく」
「つーか落ちない分は自費になるんだよな多分。懲りねぇのか?」
「まーた申請の仕方間違えてるよ新人さんが」
「なんか1円合わねぇ……」
目がしぱしぱしてきた。目頭を押さえる。左側からコーヒーが差し出されて、顔を上げる。
「今日も頑張ってんね」
「あ、すいません……」
米田先輩が軽く会釈して、席に戻って行く。口数の少ない先輩だが、親切で仕事が早い。自分は作業をする時に全部声に出てるらしく……小さい声らしいんだけども。恥ずかしいのでやめたいのだが、結局入社してから今日まで直せなかった。米田先輩は、迷惑な音量じゃないからいいんじゃない。と言っていたが、面白いし。と付け加えていたので、やっぱり恥ずかしい。
(よし、黙って作業しよう)
「この1円、どこでずれてんだ……」

終わった。終わり!定時を10分ほど過ぎて、パソコンの電源を落とす。疲れた。猫を撫で、右端に置く。社員証をタッチして、退社。気候が良いので、ひと駅くらい歩くか。なんか疲れたな。最近、疲れ取れないんだよな。あと2日もあるのか……疲れている時に限って、遊びたくなるのはなんでなんだろう。布田と柴崎の顔が浮かぶ。
(恥ずかしい!!)
なんか俺がものすごく寂しがり屋みたいじゃねぇかよ。子供じゃあるまいし。別に人恋しくて会いたいとか思ってねぇし。違う違う。あーストレス発散に今日はつまみ作りまくって呑もう。アヒージョとか食べたい。
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