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第3話【虐殺のハヤブサ】
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荷物を置いてホールに戻ると、ソファでうなだれるコリーの姿が目に入る。
トレードマークの犬耳が更に垂れ下がっている。
「お友達、どうでしたか」
「手術中だそうです。今すぐ病院に行きたい。でも・・・」
「何か問題が?」
「看護師さんから伝言で
『卒業旅行費、ゼッタイに勝ち取れ』と。
もう、自分が大変な時に。呑気なんだから」
コリーは震える手を膝の上に乗せ
キッと顔を上げた。
「二人は病院で戦っています。だから私はここで戦います。優勝賞金を持って、堂々とお見舞いに行きます」
晴れ晴れとした声。吹っ切れた探偵は強い。
少女達の友情を微笑ましく見守る霜降達の後ろから、そっと近づく足音。
「コリーちゃん、元気出して」
ソーセージのような指で皿を持ってきたのは、雪月花の食いしん坊担当・花見。
大きなパンケーキが湯気を立てて乗っている。
「厨房を借りて作ったんだ。これで占いをしよう」
「わんわん、楽しそう!」
「ケーキの上10センチからシロップを垂らして、手前に流れたら大吉。
後ろに流れたら凶。それ以外なら吉」
「凶が出たら?」
「美味しく食べてしまえばオーケー」
「大吉が出たら?」
「美味しく食べてよりハッピー」
「どっちにしろ食べるんじゃないですか」
花見の気遣いで、場が完全に陽だまりになる。駄目押しにシロップは手前に流れた。
ふわふわのケーキを幸せそうに頬張るコリーの周りに花が咲く。花見もちゃっかり用意していた自分の分を食べる。
霜降はふと視線を別のテーブルに移す。
雪白と月丘が白い紙を広げて議論を繰り広げている。
「名我差が襲撃されたのは、これが原因かと思いましてな」
血のような赤いインクで書かれた一文。
【探偵をやめろ、さもなくば命を食い荒らす
虐殺のハヤブサ】
「脅迫状ですか」
「我ら雪月花宛てに届きました。霜降殿の方はいかがですか」
「うちは順位が低いのでそういうのは」
「こちらです」
皐月が鞄からそっと取り出して、同じようにテーブルに並べる。
紙質、インクの色、フォント全てが同じ。
「同一犯で間違いないですね」
「怪しいお手紙なら、うちにも来てました」
満足そうにお腹をポンポンしながら、コリーが輪に入ってくる。
ポケットから取り出したそれは、やはり同じ物。
「何の騒ぎだ」
通りがかった兄弟探偵の兄・ライトが近づいてくる。説明を受けて、呆れたように鼻で笑い出す。
「くだらんな、ガキの悪戯に他ならない」
「じゃあ捨てちゃったんですか?」
「弟がそうしろと言っていたからな、まあ一応は持ってきたよ」
シワだらけのそれを並べた時
些細な違和感に霜降が気付く。紙質・文章に違いは無いが
兄弟探偵の物だけ、文字の色が違う。
「脅迫状を書いた犯人は、どの赤が一番恐ろしく見えるか見比べた。
そして決定稿を皆に送りつけたが、家族にちょっと見せてすぐ捨てる一枚に関しては節約をした。
つまり、没にした方を再利用した。
違いますか?クロスさん」
壁の影から、弟探偵が姿を現した。
トレードマークの犬耳が更に垂れ下がっている。
「お友達、どうでしたか」
「手術中だそうです。今すぐ病院に行きたい。でも・・・」
「何か問題が?」
「看護師さんから伝言で
『卒業旅行費、ゼッタイに勝ち取れ』と。
もう、自分が大変な時に。呑気なんだから」
コリーは震える手を膝の上に乗せ
キッと顔を上げた。
「二人は病院で戦っています。だから私はここで戦います。優勝賞金を持って、堂々とお見舞いに行きます」
晴れ晴れとした声。吹っ切れた探偵は強い。
少女達の友情を微笑ましく見守る霜降達の後ろから、そっと近づく足音。
「コリーちゃん、元気出して」
ソーセージのような指で皿を持ってきたのは、雪月花の食いしん坊担当・花見。
大きなパンケーキが湯気を立てて乗っている。
「厨房を借りて作ったんだ。これで占いをしよう」
「わんわん、楽しそう!」
「ケーキの上10センチからシロップを垂らして、手前に流れたら大吉。
後ろに流れたら凶。それ以外なら吉」
「凶が出たら?」
「美味しく食べてしまえばオーケー」
「大吉が出たら?」
「美味しく食べてよりハッピー」
「どっちにしろ食べるんじゃないですか」
花見の気遣いで、場が完全に陽だまりになる。駄目押しにシロップは手前に流れた。
ふわふわのケーキを幸せそうに頬張るコリーの周りに花が咲く。花見もちゃっかり用意していた自分の分を食べる。
霜降はふと視線を別のテーブルに移す。
雪白と月丘が白い紙を広げて議論を繰り広げている。
「名我差が襲撃されたのは、これが原因かと思いましてな」
血のような赤いインクで書かれた一文。
【探偵をやめろ、さもなくば命を食い荒らす
虐殺のハヤブサ】
「脅迫状ですか」
「我ら雪月花宛てに届きました。霜降殿の方はいかがですか」
「うちは順位が低いのでそういうのは」
「こちらです」
皐月が鞄からそっと取り出して、同じようにテーブルに並べる。
紙質、インクの色、フォント全てが同じ。
「同一犯で間違いないですね」
「怪しいお手紙なら、うちにも来てました」
満足そうにお腹をポンポンしながら、コリーが輪に入ってくる。
ポケットから取り出したそれは、やはり同じ物。
「何の騒ぎだ」
通りがかった兄弟探偵の兄・ライトが近づいてくる。説明を受けて、呆れたように鼻で笑い出す。
「くだらんな、ガキの悪戯に他ならない」
「じゃあ捨てちゃったんですか?」
「弟がそうしろと言っていたからな、まあ一応は持ってきたよ」
シワだらけのそれを並べた時
些細な違和感に霜降が気付く。紙質・文章に違いは無いが
兄弟探偵の物だけ、文字の色が違う。
「脅迫状を書いた犯人は、どの赤が一番恐ろしく見えるか見比べた。
そして決定稿を皆に送りつけたが、家族にちょっと見せてすぐ捨てる一枚に関しては節約をした。
つまり、没にした方を再利用した。
違いますか?クロスさん」
壁の影から、弟探偵が姿を現した。
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