上 下
7 / 12

第6話 最後のレッスンは銃口と共に

しおりを挟む
 誕生パーティー用のドレスが完成した。
 豪華絢爛の紫色。着て見せたローズを、ナインはため息を漏らしながら絶賛した。

「世界一です、ローズ様」

 その笑顔が、ぎこちない。
 ローズはナインにも着替えるように指示をする。
 実際に踊ってみたい、慣れないドレスでは本番で転ぶかもしれない、と言って。

 タキシードに身を包み、白銀の前髪をあげたナインは、赤面するほど格好良い。
 音楽をかけて、手を取り合う。
 ゆっくりと、それでいて遅れずに。足運びにタイミング。息遣い。集中力。
 ダンスに必要な要素、その全てを駆使する。

「お見事です。ローズ様」

 手の甲に落とされる口付け。
 伏せた長い睫毛から目を反らせない。

「パーティーでは必ずや、アレキサンダー様の御心を掴んでくださいませ」

 その名前に、昔の記憶が蘇る。
 アレクは金髪碧眼の絵に描いたような美青年で、馬に乗って駆ける姿はまさに王子様。
 誰もが憧れる彼を、自慢の美貌で落とした時は最高の気分だった。

 ある日、アレクの馬が暴走した。
 怖くて動けないローズの目の前で、命懸けで彼を救ったのは庶民のクリスティーヌ。
 ローズは愛でも勇気でも負けたのだ。

 二人は今でも交際をしているはず。
 着飾って彼に会いに行って、それでどうなるというのだろうか。
 ふと窓の外に目をやった時、知っている人影を見かけた。あれは、かつてここで働いていた・・・。
 瞬間、背筋が凍りついた。
 ナインは誰の依頼でローズを殺しに来たのか。他ならぬ、あの女だ。ドアを開けるなと叫びながら階段を駆け下りたが、遅かった。
 元メイドは銃を手に玄関に立っていた。

「いくら待っても、新聞に死亡記事が出ないと思ったらぁ、お元気そぉで、お嬢様」
「ローズ様、お隠れください!」

 守るように目の前に立ち塞がった殺し屋を見て、元メイドの堪忍袋の尾が切れた。

「アンタもその顔だけ性悪女に騙されたって訳ねぇ。だったら先に殺してやるぅ!」

 銃口がナインの額にピタリと向けられる。
 ローズは駆けつけ、叫んだ。

「わたくしを撃ちなさい!」

 銃口がサッとそちらを向いた、その刹那、ナインは撃鉄にナイフを突き刺し、動きを止める。
 戸惑う元メイドのうなじを強打して眠らせた。
 即座に縛り上げ、警察に連絡をする。

 ナインは腰を抜かしたローズを抱きしめる。
 甘いお菓子の匂いがした。
 アレクの時は動けなかったのに、ナインが撃たれると思ったら、体が勝手に動いたのだ。
 時として体は、言葉より雄弁に想いを語る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

変態王子&モブ令嬢 番外編

咲桜りおな
恋愛
「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」と 「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」の 番外編集です。  本編で描ききれなかったお話を不定期に更新しています。 「小説家になろう」でも公開しています。

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する

真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。

処理中です...