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第5話 好きな理由、結ばれない理由

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 たまらず避難した洞窟の中で震えていたローズの元に、びしょ濡れのナインが現れた。
 あちこち走り回ったらしい、息が上がっている。
 嫌がったが、おんぶされ、文句を言いながら屋敷に戻る。
 温かいお風呂にゆっくり入り、水を一杯飲んだ後に、紅茶とクッキーを並べられた。

「何よ、もう騙されないわよ」

 そう言いながら、カケラ一つ残さず食べ切る姿を、ナインは眩しそうに見つめる。

「私が料理を学んだのは、死刑囚に最後の晩餐が許されている事を知ったからです」

 死刑になるほどの極悪人でも、料理を味わう自由がある。それならば自分が命を奪う相手にもそうするべきだ。

「食べ残したらその場で殺す、と決めました」
「完食した場合は?」
「その人が最も美しく輝いている時に殺す、と決めました」
「じゃあ・・・」
「ローズ様は私のパンケーキを完食してくださった。だから、美しくなられるまで待つ事にしました」

 ナインは紅茶のお代わりを注ぎながら、目を細めて微笑む。

「ダイエットに励む中で、あなたは一度も食べ残しませんでした。添え物のグリーンピース一個まで。
 どれだけ嬉しかったか、お分かりにならないでしょうね」
「それはアナタの料理が、美味しいから」
「今までのターゲットは全て、汚く残しましたよ」

 ナインは窓の外を見る。
 輝く星が一つ、すっと流れて行った。

「次第に、このままで居たいと願うようになりました。仕事を忘れ、あなたに料理を作り続ける生き方をしたいと」
「えっ?」

 ナインは外を見つめながら、過去を語る。
 親の顔も、生まれた国も分からぬ捨て子で、汚れ仕事を請け負うスタッフを育てる孤児院で育った事。
 初めてのターゲットは少女だった事。
 決して忘れる事の出来ない、ナイフを伝って残った『死』の感触。

「私は殺し屋です。捕まれば処刑される立場です。ですからー。
 好きになってはいけません」

 ローズの目を真っすぐに見て、悲しそうに呟いた。

「一時の感情は忘れ、ふさわしい男性と結ばれて、幸せになってください」

 ローズは押し潰されそうな気持ちに耐えきれず、布団に潜り込んだ。明かりが消されて、部屋から出て行く音がした。

 ナインの、エメラルドグリーンの瞳は。
 両想いだと告げていた。
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