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第2話 スマホの黒い画像

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 調剤薬局に行くとお薬手帳を持つよう勧められる。理由は簡単である国が強く推奨しているからだ。

 主な役割として、飲み合わせのチェックがある。

 これ一緒に飲んじゃダメでしょ。という内容の処方がされてくるのは稀らしいが、胃薬が同時に処方になっているのは多々あるそうだ。

 内科で胃薬を常時服用中の患者さんが整形外科に行かれた場合、痛み止めと一緒に胃薬が処方されることがよくあるそうだ。

 何でも痛み止めのお薬は胃に負担をかけてしまうようなので、胃の負担を和らげる為に胃薬が同時に処方されるそうだ。
 処方する側としては痛み止めを処方するときは、胃薬も処方しなくてはならないとの頭になっているようで、セットのように処方されてくるらしい。

 整形外科のお薬をメインで受けている調剤薬局では、1日に1回はあるんじゃないかくらいの頻度であるそうだ。

 胃薬くらいなら同じ系統のお薬を飲んでしまっても、どうということはないのだろうが、やはり薬剤師さんに飲み合わせのチェックをしてもらうのは非常に重要のようである。

 それともう一つに災害が起こって全てのデータが消失してしまった時でも、自分の治療データを手帳で管理していると安心ですよ。というものがある。

 ただ、災害が無いときは皆さんおざなりになりよくお忘れになるとか。なので最近はスマホのアプリのお薬手帳をお勧めしているのだとか。

 外出時、財布は持っていかなくても、スマホは持って行くという方は増えている。

 スマホなら出かける時に持ち歩くものなので、アプリで管理すればお忘れなく使えて便利だと思うが、ただ本当に災害が起こって電気が止まってしまい、充電も無い状態となるとスマホに記録していても意味がない。

 それにスマホは待機画面から立ち上げる時、指紋認証やパスワードを設定している方が多い。スマホに記録していても本人の意識がない状態であれば、確認のしようがない。

 もし万が一のことを考えるとするならば、文字として記録を残しておくというのが最強だろう。

 基本はお薬手帳を使い、忘れた時はお薬手帳はアプリで使ってます。と、お伝えすれば数十円安くなる特典を受けることができる。アプリはそのくらいの位置付けでよいと思われる。

 この話は、お薬手帳を忘れがちな、年配の女性の方にお薬手帳アプリを勧めた時のお話です。

 伊藤さん(仮)はスマホの操作が苦手とのことなので僕はアプリのインストールを手伝ってあげた。そしたらえらく感謝されて、ついでに他の操作方法も聞いてきた。
 僕は携帯ショップの店員じゃないんだけどなー。と、思ったが特に忙しい時間帯でもないし、他にお待ちの患者さんもいなかったので、取り敢えずどのような内容なのか聞いてみた。

「この前、孫の写真を撮ったんだけどね。変な写真が混じっているのよ。消したいんだけど消し方が分からなくてね。何とかならないかしら?」

 保存してある写真を消すだけなら造作もない事だと思い詳しく話を聞いてみると、お孫さんを撮影した連続写真の中にその写真は混じっていて、見返す時に邪魔になっているから消したいとのことだった。

 スマホを差し出してきたので画面を見ると、細かいブロックに分かれている画像が表示されていた。
 そのフォルダ内にはお孫さんの様子が写っていると思われる画像数枚と、その画像の間に数枚黒くなっている画像がランダムに配置されていた。
 黒い画像はランダムに配置されているようで、何らかの規則性は見つけることはできなかった。

「ここだけですか?」

 許可をもらって上下にスクロールしてみるが、他の部分には黒い画像は挿入されている様子は見られなかった。
 確かに見返そうとして画像をスライドしていくと、その黒い画像にあたってしまい邪魔だなと思ってしまうことだろう。

 僕は消しちゃっていいんですよね?と、もう一度確認し了解を得ると『選択』と出ている部分に触れ黒い画像に触れてみた。が、何も反応しなかった。

 あれ?おかしいなと思い隣のお孫さんが写っていると思われる画像に触れてみるとこっちはちゃんと反応し、チェックマークがついた。

 僕は一度キャンセルし、今度は黒い画像を長押ししてみることにした。通常であればここでコピーやら共有やら消去の項目が出てくるのだが、こっちも同じく反応する様子は一切なかった。

 試しに隣の画像を長押ししてみるとちゃんと反応してくれた。確かにバグなんじゃないかと思わせるような変な感じになっているようだった。

「すいません。この画像開いてみていいですか?」

 と、聞いたところでふと思ってしまった。なんか消えない心霊的な画像なんかじゃないのだろうか。

 そんな話聞いたことあるぞと思い先輩を呼びに行こうかどうか迷ったが、取り敢えず見てから判断しようと思い、覚悟を決め触れてみた。

 今まで数個の小さなブロックに分かれていた画像が画面いっぱいに広がる。

 その画像は真っ黒の背景にボヤけた白い筋状のものが伸びていて、一部強調されるかのように赤くぼんやりとしているものが浮き上がっている変な画像だった。

「何だか不気味な気持ちの悪い写真でしょ」

 画像を見て驚いている僕の姿を見て、伊藤さんはそう声をかけてきた。

 他の黒っぽくなっていた画像も開いてみる。若干の違いはあるようだが概ね同じような画像だった。

「多分レンズの前に指が写り込んだだけだと思いますよ」

 取り敢えずそう言って伊藤さんを落ち着かせる事にした。

 その画像は僕からすると、言うほど不気味な画像ではなかった。というより医療従事者であれば見たことのある画像だろう。なので不気味と思わなかっただけなのかもしれない。

 血管内にプラークが溜まっているエコー画像にそっくりだったのである。

 それにこんな画像、最近見たような気がしたなあ。と思った。

 そこで不思議なことが起こった。

 今までゴミ箱の表示がされていなかったのに、何度かスライドさせているとゴミ箱のマークが浮かび上がったのだ。
 慌てて触れてみると、写真を削除との表示が出たので触れてみる。すると画像が消えたようで、黒い画像の次にあったお孫さんの画像が画面いっぱいに表示された。

 戻るを押すと脇に最近削除した項目が出てきたので触れてみる。指紋認証が出てきたので認証してもらうと、最近削除した項目の一覧が表示された。
 
 そこには数枚の黒い画像が表示されていた。

 あれ?一つしか削除してなかったんだけど何だこれ?と、思ったが、項目を選択して、すべて削除を選択する。

 するとすべて綺麗さっぱりに黒い画像は無くなってくれた。

 先ほどまで見ていた項目に戻ってみるとお孫さんの間にあったすべての黒い画像が消えてなくなっていた。

「消去できましたよ」

 そう言ってスマホを返すと何度かスライドさせ確認しだす。その後、何度も頭を下げられお礼を言われた。

 僕はこういうバグはたまにあることだと言って伊藤さんを安心させ、調剤室に引き返した。
 
 調剤室に戻ると先ほどの画像を思い浮かべながら、資料をガサガサとしだし一枚の資料を取り出す。それは先日参加した研修会の資料だった。

「あー、やっぱりなんかこれに似てる気がする」

 それは血管内にプラークが溜まっている様子を表したものだった。ちなみに伊藤さんは血液サラサラのお薬、高血圧薬、血糖降下薬を服用している。

 なんか嫌な予感がしたので、僕は伊藤さんの元に向かい何となく血液がドロドロにならないよう生活習慣と食事に気をつけるようお話した。
 そして、脳梗塞の前兆、呂律が回らなくなる、片側が痺れる、二重にものが見えるなどが出たときは遠慮なく救急車を呼んでくださいとお伝えした。

 後日、僕の嫌な予感は的中し、伊藤さんは脳梗塞で病院に運ばれたそうだ。

 幸い命に別状はなく、後遺症もなく済んだとの事だったが、あれは本当に不思議な体験だった。

 本当に偶然に偶然が重なっただけなのかもしれないが、あの時、脳梗塞の前兆の話をしなかったらどうなっていたのだろうか。

 先輩は伊藤さんの体のことを危惧したご先祖様か誰かが、霊感のある医療従事者が見るまで、あの黒い画像を消せないようにしていたんじゃねーの。と軽い感じで言ってきた。

「先輩、もしかして霊感があるのって、悪いことだけじゃないんですね?」

「はぁー?何言ってんだお前?毎日のように人に俺のせいだとか、罵詈雑言浴びせてくるくせによー」

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