天草四郎は忍術を使えた!

加藤 佑一

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最終章

第二話 原城潜入

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 原城に到着した拙者等に与えられた最初の任務は、一に敵大将の所在を探ること、二に城内の敵の配置、見張りの交代の時間、兵の休息時間、三に兵糧の蓄えはどれほどあるかを探るというものだった。

「拙者と夏見で向かう」

 夏見は一度侵入した事がある。適任だろう。

「お頭が行くのですか?」

「お頭、腰は大丈夫なのですか?」

「お頭、目は大丈夫なのですか?」

 拙者が行くというと若い衆は口々に揶揄してきた。確かに若い頃より足腰は弱くなってきているし、近くの物はかすんで見えない。
 身体能力が低下してきているのは歪めないが、洞察力は年々増してきているつもりである。

「これこれ、年寄り扱いするでない」

 おそらくこの戦が拙者の生涯で、最後の奉公になることだろう。全てを出し切って臨む所存である。

 陽が沈むのを待ち、闇夜に紛れ夏見と共に城壁外をぐるりと周ってみたが見張りのない箇所など一つとして無かった。

「うーん、これは侵入するのに骨が折れるな」

 拙者がそう言うと、夏見は時々城門から人が出てきて水を汲みに行くことがあると教えてくれた。

 なるほど、城門から人が出ることがあるということは、入ることも可能かも知れない。

「水とな、城内には井戸などの水源は無いと申すか?」

「分かりません。もしかしたら水目的ではなく塩目的かも知れません」

 夏見の話では城内には三万七千の人が籠城していると思われるのだが、汲んで帰る水の量はそれ程多くないので、海水を汲みに行っているのかも知れないとのことだった。

 なるほど、それはありえる。

 序でに海藻も持って帰っているとか。

「海藻?やはり食糧が不足しているのか?」

「それも分かりません」

 確かに城外から様子を伺っているだけでは推測することしかできない。やはり侵入して探るしかないようだ。

 門の前でひたすら時が来るのを待っていた。亥の刻、思っていたよりもその時は早めに訪れた。
 城門付近がざわつきはじめたかと思うと、ゆっくりと門が開き人が出てきた。


「おー、よしよし、うまく立ち回ってくれよ」

 用意しておいた猫を拾い上げると、優しく声をかけ撫でてあげる。城門付近で放つと勢いよく走り出し、門内へ侵入して行った。
 中の者達は突如として訪れた侵入者に右往左往しだす。人々の視線が猫に集中していた、その一瞬の隙をついて我々は侵入する。中に入るとさも初めから中にいた素振りで猫を拾い上げた。

 優しく抱きかかえ、門の外に出してやると人々から拍手と歓声が湧き起こった。
敵の侵入を許したというのに全く能天気な奴等だ。

 夏見の言った通り城内には多くの人々が生活を共にしているようだった。それ故、見知らぬ顔に出くわしたとしても警戒されることはまずないでしょう。全くその通りだった。

 拙者等の存在に疑いの目を向ける者など誰もいなかった。

 城外に出た者が戻る時、警戒しないとまた猫に侵入されてしまいますよ。と前置きしてから諜報活動を始める。
 外に出た者はどれくらいで戻るのか、何を持って帰ってくる予定なのか、など聞いてまわると簡単に饒舌に包み隠すことなくべらべらと話してくれる。

 こうも簡単に信用してしまっていいのだろうか。理解できない程のお人好しさである。

「あまり有益な情報は得られませんでしたね」

 想定以上に会話を重ねることができたが、ほぼ聞かれるのは夏見の推察通りの内容だった。
 城内は水にも食糧にも全くといっていいほど困っていない。白飯だけでは味気ないので海藻を用意したり、塩を採取し魚を塩漬けにしたりしているのだとか。

 推察していたことが確信に変わったということは有り難いが、この程度の情報だけでは侵入した意味がない。
 
 中心部の方へ歩を進めると驚きの光景が広がっていた。

「これはもしかして塹壕ですか?」

 恐らくそうだろう。城壁を突破されたとしても、ここで鉄砲隊が待ち構え迎撃する拠点とするつもりなのだろう。人の背丈ほどの穴が横長に伸びている。
 塹壕は幾重にも掘られていた。これでは城壁を突破しても本丸まで辿り着くのに、かなり骨が折れる思いをすることになるだろう。

 知っていると知らないでは対策に違いが出る。これは有益な情報を得ることができた。

 兵糧のこと、城の防備のことなど、ここまで用意周到に準備しているとは。畏敬の念を感じてしまった。

 さらに奥へと進んでいくとあまり音を立てない様にと嗜められた。なんでも子の刻に交代する者が寝静まっている場所とのことだった。

 竪穴式住居が並んでいる。屋根もきちんと造られているようなので、雨風に晒されることはなさそうである。寒さ対策も完璧のようだ。

「時間間際まで休ませてやってくれ」

 ご指摘を受け頭を下げ足早にその場を立ち去ることにした。

 ここでも有益な情報を得ることができた。どうやら城壁は常に二千程の兵で見張っているとのこと。二千の兵が銃を構えいつでも撃てる状態で控えているとか。

 村ごとに担当の場所が決められていて、日を三等分にし三交代制で見張りが手薄になる時間帯を作らない様にしているんだとか。

 ここでも敬服してしまった。全く見事である。

 まるで戦乱の世にいるかのような用意周到さである。

「お頭、拙者この策を考案した者に心当たりがあります」

 夏目が城内へ侵入した時は幕府軍がかなり押し込んだ状態だったとのこと。それ故、容易に侵入することができたのだとか。
 侵入した際、敵の攻撃は統一性を欠き混乱状態となっていた。が、その者が現れ声を上げると浮き足立っていた兵は冷静さを取り戻し、的確な指示を受け幕府軍を次々と討ち取っていったとか。

「それが敵総大将、天草四郎か?」

「いいえ。拙者もはじめはそう思ったのですが、違っていました」

 やれやれ、困ったものだ。この地には才能豊かな若者が幾人も存在しているようだ。

 攻略するのは困難を極めることだろう。
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