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第四章

第十一話 謎の光

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「あの真っ黒、何か企んでるぞ」

「真っ黒?」

 今向き合っている敵を真っ黒と呼んだのが可笑しかったのか、大蔵は豆鉄砲を食らったような表情を向けた後、声を上げ笑い出した。
 確かに緊迫感のない、人を馬鹿にしているような呼び方だろうが、私はそれが一番適した呼び方だと思った。

「誰にでも敬意を払って接しようとしている四郎から、そんな言葉が聞けるなんて思いもよらなかったよ」

 不敵に笑っていた真っ黒だったが、こちらのやり取りを見て不快に思ったのだろう。顔が苦々しいものへと変わり、睨みつけるような表情になった。

 そんな真っ黒の視線を軽く流すと先程の話を続けることにした。

「大蔵、なんでもいい今、分かっていることを教えてくれ」

「分かっていることっていっても何がなんなのやら」

 困惑している様子だったが、目の前に真っ黒がいる以上、悠長にしている訳にはいかない。次々と質問を浴びせかけた。

「いやー、急に腕が上がらなくなるって言うか何て言うか」

 歯切れ悪い返答をし続ける大蔵だったが、要するに刀で攻撃していると腕が悴んでしまったように動かしづらくなって上がらなくなってしまう。動かしづらくなるので、攻撃がしにくい状態になってしまう。

 攻撃ができないでいると、真っ黒が攻勢となってしまう。攻勢となっている真っ黒の攻撃を封じるため、間合いを詰めて封じようとしているので、揉み合いとなってしまう。

 揉み合いになって押し退けようとしても、力が入らず抜けていくような感じになるので押し込まれてしまう。が、急に力が入るようになって、突き飛ばして真っ黒を跳ね除けているとのことのようだった。

「だから何度も揉み合いになって転げ回っていたのか」

「そうなんだけど。いいから四郎、狙われているのはお主だ。離れていろ」

 真っ黒がじりじりと間合いを詰めて来ているのを見て、私を押し退けようとしてきたので、その大蔵の腕を力強く掴んだ。

「何だよ」

「何か分かったような気がした。からくりが分かったような気がしたんだ。もしかしたら、私が近づいたら力が入るようになったんじゃないのか?」

 大蔵が押し退けて来た時、何か閃いた気がした。

 先程から真っ黒を私から遠ざけようとしてくれている。私から離れると大蔵の本来の動きがなくなっているように見える。
 そして、揉み合いとなり真っ黒が大蔵に刀を突き立てようとしているのを見て私は走り寄った。

 すると真っ黒は大蔵に弾き飛ばされることとなった。

 その動作を何度も繰り返している。私の存在が何かに影響しているのではないのだろうか?そう思った。

「大蔵、私が受け手になる。お主は後ろから刃を突き立ててくれ」

「何言ってるんだ。そんなことできる訳ないだろ。瞬殺されてしまうわ」

 確かにそうかもしれない。二人の味方兵が斬られた時も、気付いた時にはもう斬られていた。私では真っ黒の刀を受け止めることは出来ないかもしれない。

「いいから、下がっていろ」

 そう言って大蔵は私を押し退け真っ黒に向かって行った。結果は同じだった。私から離れると揉み合いとなり、真っ黒が上になって大蔵に刀を突き立てる。

 やはり今までと同じような結果になっている。私から離れると大蔵は本来の力を発揮できなくなる。そのことは間違いないことだと思われる。

 もう少しで何かが繋がりそうなのだが、今の私にはどうする事もできない。

 刃が徐々に徐々に大蔵の首筋へと突き立てられていく。

 止めてくれ、止めてくれ、そいつは私の大切な友なのだ。心を割って話す事ができる唯一の友なのだ。私からそいつを奪わないでくれ。

「やめろーっ」

 無心でそう叫んだ瞬間、私は眩い光に包まれた。その場にいる全員、敵味方共々全員が時が止まったかのように動きを止め、私の方へ視線を向けた。

 眩しさのあまり目を守るように腕を上げ、光を遮ろうとする動きをする者が続出した。

 私から放たれた光は轟音をあげ天空に立ち上った。まるで雷が私から放たれているような様相だった。

 皆、驚きの表情を浮かべ動きが止まっているようだった。真っ黒もそうだった。今の隙だと思い、真っ黒に体当たりし、大蔵の上から突き飛ばした。

 突き飛ばされた真っ黒はこちらに虚をつかれたような表情を向けたが、すぐ上空が気になったようで天を見上げた。

 私から放たれ上空に上がっていった光は無数の点となり降り注いできた。

 降り注いだ光が城外へ落下し激しい衝突音が響き渡っていく。一つ、二つ、三つと鳴り響いていく。

 一つ落ちるたびに悲鳴のような叫び声が響いてくる。

 何が起きているのだろうか?

 誰もが何が起こっているのか分からないでいた。人々は沈黙し光の落ちた方向に目を向けていた。

『ど、どどん、ど、どどん、ど、どどん』

 今度は太鼓の音が響き渡った。

「何じゃと。撤退の合図だと?」

 真っ黒がそう言った後、城外から奇声にも似たような声が響き渡ってきた。

「討ち死にー、討ち死にー、御大将ー、討ち死にーっ」

「何じゃと?」

 太鼓の音とともに敵兵は逃げるように次々と自分達の陣所へ引き上げて行く。

 撃退したのだろうか?というか、何が起こったのだろうか?

「また、四郎様が奇跡を起こされたぞーっ、四郎様が雷を操り敵大将を討ち取られたぞーっ」

 皆が私の下に集まり、奇跡じゃ、奇跡じゃ、我々は天の御子様と共にありと口々に言い始める。

「ほーら、やっぱり総大将は御子様じゃなきゃ駄目だろ」

 大蔵が皮肉混じりの笑顔を向けてそう言ってくる。

 奇跡?

 今のは私が起こした奇跡だったのだろうか?

 全く実感が湧かないのだが、城内は歓喜の声で湧き上がり、城壁の向こうに溢れかえっていた敵兵は跡形もなく後退して行っていた。

 真っ黒もいつの間にか姿が見えなくなっていた。

「事実は事実として受け止めろ」

 私の肩に腕を回し大蔵はそう言ってきたが、何が何だか分からなかった。

「そう、言われてもなぁー」

 全く実感が湧かず、頭が混乱したままなのだが、事実は事実として受け止めるのなら、またしても私達は国の最高峰の軍隊、幕府軍の総攻撃を撃退する事ができたようだ。

 何の訓練も受けていない、寄せ集めの集団が幕府軍を三度も撃退した。しかも今回は敵の総大将を討ち取るという大金星を上げたようだ。

 これはもう奇跡というしかない。

 大蔵と共に喜び合う私を中心に民達が集まり出す。そして口々に四郎様がまた奇跡を起こされた。四郎様の奇跡が我々をお救いになられた。幕府軍など敵にあらずと言ってくる。

 両膝をつき、胸の前で両手を合わせ指を組み崇め出し、お天子様、有り難や、有り難やと繰り返していた。

 本当に勝ったで良いのだろうか?

 甚だ疑問である。
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