天草四郎は忍術を使えた!

加藤 佑一

文字の大きさ
上 下
40 / 47
第四章

第十話 大蔵対甲賀忍者

しおりを挟む
 黒い出で立ちの者がいきなり飛び込んで来た。

 大蔵を私と勘違いし襲いかかって来た。

 刃と刃が衝突する音が響き渡る。

 刃を重ねながら私から徐々に遠ざかって行く。

 大蔵と視線が合った。もしかしたら、大蔵がわざと私から遠ざけようとしてくれているのだろうか。
 少し離れた場所で、刃を重ねた状態で押し合いとなり、倒れ込み揉み合いとなり地面を転げ回る。
 疲れからなのだろうか、大蔵の動きが先程までの機敏な動きとは違うような気がした。せっかく私から遠ざけてくれたようだが、援護の必要を感じ走り寄る。

 走り寄る前に大蔵が黒い出で立ちの者を跳ね除けた。二人は一旦距離を置き、大きく息を吐いて、睨み合いとなった。

 呼吸の乱れが激しい。これほど大きく肩を揺らしながら呼吸をしている大蔵を見るのは初めてである。

 黒い奴はあまり呼吸を乱してない様子だった。

 そいつは他の武者達と違い、夜の闇よりも真っ黒な衣を纏い、異様な雰囲気を漂わせている。よく見ると鎖帷子を纏っているようだった。

 まじまじと向けられている私の視線を感じたのか、薄笑いを浮かべ仁王立ちになった。

 余裕をかましてくれる。

 鎖帷子は鎧を纏うよりは身軽に動けるのだろうが、あの程度では矢は防げないだろう。戦場の武士が好んでするような出で立ちとは思えなかった。

 此奴は何者なのだろうか?奇妙な出で立ちである。

 武器の刃もあまり見ることのない長さである。太刀ほど長くなく、脇差よりは長い刃を振るい、逆手で持って構えていた。

 大蔵と対峙していることに気がついた味方兵二人が走り寄って来て、先程の大蔵の言いつけを守るように後方で一定の距離を保ち槍を突き立てる。
 それを見た大蔵が真っ黒の注意を引くように一歩踏み出した瞬間、真っ黒も大蔵に向かって行った。

 槍が真っ黒の背中に突き立てられた。と思ったのだが、急停止し後方へ飛び上がり宙返りしてこれを交わした。

 人とは思えないような身のこなしだった。

 次の瞬間、後方から槍を突き立てていた味方兵の首筋から血が吹き出した。そして、そのまま二人とも力無く倒れてしまう。

 何が起こったのか理解するまで時間が掛かった。

 大蔵の方へ向かう素振りをして急停止し、宙返りするように後方へ飛び上がって、その刹那の瞬間に二人を斬り捨てたのだろう。
 間違いなく今まで見てきた敵の中で一番の実力者だろう。強敵中の強敵のようだ。隙を見せれば私も一瞬で首筋から血を吹き出すことになりかねない。そう思った。

「誰も近くに寄るなーっ」

 大蔵も敵の実力を悟ったのだろう。これ以上の犠牲者を出さないよう、近づくなと厳命を下した。

「四郎、お主も下がっておれ」

「四郎?」

 黒い奴は大蔵の言葉を聞くと眉間に皺を寄せ、大蔵から私の方へ視線を変えた。

 今の声が聞こえるとは思えないような位置にいるのだが。聞こえたのだろうか、今の囁くような声が。

 やはりこの者、他の者と何かが違う。

 真っ黒は私に向きを変え逆手に持っていた刃を持ち替えると、今にも跳躍して来そうなほどに身を屈める。

 大蔵は私と真っ黒の間に割って入ってくる。

「貴様の相手はこっちだーっ」

 そう言って飛びかかって行ったかと思うと、何度か金属が衝突する音が響き渡った。気がつくと二人は揉み合いになり、また地面を転げ回っていた。

 私は二人の動きについていく事ができない。
 
 真っ黒が大蔵の上になり馬乗りになり刃を突き立てている。刃と刃が重なり合い軋み合う不快な音が響き渡る。

 必死で抵抗して押し上げようとしているようだったが、徐々に徐々に押し込まれていく。刃が徐々に大蔵の首筋へと近づいていく。

「止めろー」

 私は真っ黒に体当たりをしてやろうと思い走り寄った瞬間、大蔵が真っ黒を蹴り上げ弾き飛ばした。

 咽せながら立ち上がってくる。

「大蔵、大丈夫か」

「ああ」

 真っ黒も立ち上がってくる。動きを注視しながら大蔵を助け起こす。

「二度目だぞ。貴様何をした。何故急に力が入った?」

 真っ黒は意味不明な言葉を発してきた。

「あー、何言ってやがる。今のが俺の本当の実力じゃ。阿呆が」

 大蔵の言葉を受けて真っ黒は食い入るように大蔵を見つめ出す。手足の先から髪の毛まで細部に渡り食い入るように、見定めるように見つめ出す。

「貴様、返しの術が使えるのか?」

 術?

 真っ黒は疑問顔をしながらそう言ってきた。

「はぁー?何言ってんだ、お前」

 二人の会話が何を元にしているのか全く見当もつかなかった。

 私が思案している間に二人はまた乱戦に入った。刃と刃がぶつかり合う音が響き渡る。
 大蔵が勢いよく斬り込んで行く。勢いに押され真っ黒が防戦一方になり私から離れて行った。
 私から離れて行くと再び揉み合いとなり、倒れ込んで真っ黒がまた上になり大蔵に刃を突き立てた。また徐々に首筋へ刃が迫っていく。

 近くに落ちていた槍を拾い上げると、真っ黒目掛け突進した。

 すると、また真っ黒は大蔵に蹴り飛ばされ吹き飛んで行ってしまった。

「なんでじっとしててくれないんだ。もう少しで串刺しにできたのに」

「いや、なんか急に力が入るようになって」

 私が不満げに責め立てると首を横にしながら、自分の刀を不思議そうに眺めながら立ち上がってくる。

「急に力が入ったというか、急に体が重くなるというか、さっきから何か変なんだ」

 何の事を言っているのだろうか?

 私達のやり取りを見ていた真っ黒が、立ち上がりながら、不敵な笑みを浮かべたのを私は見逃さなかった。

 私は物心ついた時から人とは違う力があることを認識していた。何故、私には他の者が使えないような力があるのだろうと疑問に思っていた。

 他に使える奴がいるかもしれないなど考えてもみなかった。もしかして彼奴も私に似た力があるのではないのだろうか?

 返しの術。

 真っ黒は先程間違いなくそう言った。大蔵の体に起こっている異変は作為的な何かなのだろうか。

「大蔵、お主の体に何が起きているのか、もっと詳しく教えてはくれないか」

「そう言われても、俺にもよく分からないんだよ」

 何か秘密が隠されているはず。この危機を脱するにはそれを解き明かすしかない。そう思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

日日晴朗 ―異性装娘お助け日記―

優木悠
歴史・時代
―男装の助け人、江戸を駈ける!― 栗栖小源太が女であることを隠し、兄の消息を追って江戸に出てきたのは慶安二年の暮れのこと。 それから三カ月、助っ人稼業で糊口をしのぎながら兄をさがす小源太であったが、やがて由井正雪一党の陰謀に巻き込まれてゆく。 月の後半のみ、毎日10時頃更新しています。

【架空戦記】蒲生の忠

糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。 明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。 その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。 両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。 一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。 だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。 かくなる上は、戦うより他に道はなし。 信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。

鎌倉最後の日

もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!

【アラウコの叫び 】第3巻/16世紀の南米史

ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎週月曜07:20投稿】 3巻からは戦争編になります。 戦物語に関心のある方は、ここから読み始めるのも良いかもしれません。 ※1、2巻は序章的な物語、伝承、風土や生活等事を扱っています。 1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。 マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、 スペイン勢力内部での覇権争い、 そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。 ※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、 フィクションも混在しています。 動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。 HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。 youtubeチャンネル名:heroher agency insta:herohero agency

わが友ヒトラー

名無ナナシ
歴史・時代
史上最悪の独裁者として名高いアドルフ・ヒトラー そんな彼にも青春を共にする者がいた 一九〇〇年代のドイツ 二人の青春物語 youtube : https://www.youtube.com/channel/UC6CwMDVM6o7OygoFC3RdKng 参考・引用 彡(゜)(゜)「ワイはアドルフ・ヒトラー。将来の大芸術家や」(5ch) アドルフ・ヒトラーの青春(三交社)

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

処理中です...