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第二章
第十三話 甲賀忍者暗躍
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「夏見、拙者はもう少し様子を見る」
お頭は里で一生を終えるようなお方ではない。大名になれるような器をお持ちのお方だ。
戦さえ起こって仕舞えば大手柄を上げ、栄達を得ることが出来よう。
幕府の権力は絶大だ。度重なる改易と取り潰しにより徳川家に叛意を抱くような大名は存在しなくなっている。
諸藩の連帯は薄く乱を企てようとしても、隣国に安易に同心するような動きをみせることはないだろう。
絶大な権力を前にし戦は起こり得なくなってしまっていた。
しかし民達は違う。圧政と重税により積りに積もった鬱憤はいつ爆発してもおかしくない状態だった。
特に大きな鬱憤となっていたのが島原藩、唐津藩の民達だ。
切支丹大名が統治していたこの地域では切支丹信仰が盛んだ。いきなり入部してきた大名に信仰を捨てよ。と、言われてもそう簡単にできるものではない。
圧政により致し方なく信仰を捨てざるを得なかった民達は心に闇を抱え、藩主に反感を覚えてしまっている。
そして長年続く凶作だ。
凶作が続いてしまっていることにより、民達は信仰を捨ててしまったことにより天罰が下されてしまっていると思い込んでいる。
その信仰心が謀反心となり藩主へと向いてしまっている。
民達の怒りは大きい。必ず大きな渦となり日ノ国を覆うことになるであろう。
「様子を見る」
お頭は正しい。
藩側に付くか、反乱側に付くか見極めが必要だ。順当に考えれば藩側に付くのが無難だろう。後詰には幕府がいる。反乱側が勝つとは思えない。
しかし逆になる可能性も万が一ではあるが十分あり得る。戦乱の世ではそのような状況が幾度となく起こった。拙者は十分に見極めてお頭に報告しなくてはならない。
島原、西には雄大な山々が広がり、威風堂々と屹立している圧巻の風景が広がっていた。
東には壮大な海が広がり、厚雲の隙間から注ぎ込まれる陽の光が、まばらに降り注いでいる雨粒を照らし、光の粒が小川のせせらぎのように降り注いでいた。
なんと壮麗な景色の広がる土地なのだろうか。
その壮麗な土地が今、血生臭く、悪意と怨念に包まれ、人同士が殺し合う戦場と化していた。
島原城は拙者が到着した時には、既に数千の民達により囲まれている状態だった。各所で小競り合いも始まっているようで、いつ全面衝突になってもおかしくない状態だった。
大門に到着した時、全面衝突の号令が出ていた。
多くの反乱軍が門前に押し寄せ、門を破ろうとしている。中には鉞を振り上げ、門を打ち破ろうとしている者もいた。
それに対し城方の兵は門を破られまいと手で押し返そうとしていた。
そんな方法で防げるものか。此奴等は素人か。
「何をしておる。槍隊はおるかっ?」
拙者の問いかけに数名が手を挙げる。
「よいか、門前に鉞で打ち破ろうとしている者がいる。穴が空き次第、その穴から槍で突きまくれ」
「はっ」
「弓隊はおるかっ?」
また数名、前に出てきた。何故反撃しないのかと問うと、ここからでは敵の様子が見えない故、反撃のしようがないと平然と言った。
「見えなくとも、気配ぐらい探れるだろ」
そう言ってもまだ、まごついているようだった。太平の世が続き、危機感は失せてしまったようだ。
状況が分かっているのだろうか。大門前の反乱軍が門を破って雪崩れ込んできたら、皆殺しにされてしまうのだぞ。
「拙者の言う方向へ射ろ」
角度を上げ、門を越えるように上空へ射るような感じで射させる。殺傷能力がでるほどの威力があるとは思えないが、敵は百姓。鎧など纏ってない。矢が降り注げば慄かせ、後退させるのには十分だろう。
門内から降り注がれる矢に詰め寄ってきている敵は案の定、怯んだようだった。
門の穴から槍が突き出てきて不用意に近づけなくなったところに、矢が飛んでくるのでさらに後退する。
「よし、ついて来い」
今度は弓隊に塀を登らせそこから反乱軍へ矢を射まくれ、狙いなんて定めなくていいから射まくれと言った。
大門前に押し寄せていた反乱軍は徐々に押し戻されていく。
よし、ここはもう大丈夫だろう。
同じく各門に対処法を教えて周り、石垣を登ろうとしてくる者への対処法を教えて回る。
「最前の敵に集中、余裕のあるものは指揮官を狙え」
こんなとこから当たるわけないと聞こえてくる。
「当てなくてよい。敵を怯ませるには十分な効果はでる」
全く、ど素人どもが。
対処法がまるでなっていないのでうんざりしてしまった。もし敵軍が戦乱の世の武者達だったのなら、既に落城させられてしまっていたのではないかと思う。
それに何故だろうか応戦している者は、普通の村人が多いような気がする。
近くの村人が敵軍に圧倒され城内に逃げ込んできて、応戦を手伝わされているのだと思うのだが、しかし城方の兵が異常に少ないような気がする。
拙者の暗躍により応戦が上手くいきだしたと思った瞬間、城内から火の手が上がった。
火の手の方に走り寄ると、小競り合いが起きていた。
近くにいた坊主に理由を問うと、敵軍が攻め寄せてきていると報告があったので近くの村々に味方するかどうか問うたところ、味方するとのことなので城内に招き入れたそうだが、その中に敵軍も混じっていて小競り合いが起こってしまっているとのことだった。
如何せん見分けが付かず、対処に困り混乱状態になっているのだとか。
「諮問は後ですればよい。手向かう者は全てひっ捕えよ」
ついでに坊主に何故こうも対応が遅いのかと問うと、島原兵の主力は反乱軍を討伐するため討って出ているとのことだった。
「そういうことか」
反乱軍側に切れ者がいるのだろう。こちら側はすでに出し抜かれ放題になっているのは明白だった。主力がいない間の隙を突かれ攻め込まれたのだろう。
拙者が訪れなければ、半日ももたずに落城していたことだろう。何という醜態か。
しかし拙者としては好都合となった。拙者の存在は急場を凌ぐ救世主が現れたと城内で噂になっているそうだ。これでいつでも藩側に取り立ててもらえる理由ができた。
だが目指すのはもっと上、一藩に取り立てて貰うことで満足するなど思ってはいない。
お頭は里で一生を終えるようなお方ではない。大名になれるような器をお持ちのお方だ。
戦さえ起こって仕舞えば大手柄を上げ、栄達を得ることが出来よう。
幕府の権力は絶大だ。度重なる改易と取り潰しにより徳川家に叛意を抱くような大名は存在しなくなっている。
諸藩の連帯は薄く乱を企てようとしても、隣国に安易に同心するような動きをみせることはないだろう。
絶大な権力を前にし戦は起こり得なくなってしまっていた。
しかし民達は違う。圧政と重税により積りに積もった鬱憤はいつ爆発してもおかしくない状態だった。
特に大きな鬱憤となっていたのが島原藩、唐津藩の民達だ。
切支丹大名が統治していたこの地域では切支丹信仰が盛んだ。いきなり入部してきた大名に信仰を捨てよ。と、言われてもそう簡単にできるものではない。
圧政により致し方なく信仰を捨てざるを得なかった民達は心に闇を抱え、藩主に反感を覚えてしまっている。
そして長年続く凶作だ。
凶作が続いてしまっていることにより、民達は信仰を捨ててしまったことにより天罰が下されてしまっていると思い込んでいる。
その信仰心が謀反心となり藩主へと向いてしまっている。
民達の怒りは大きい。必ず大きな渦となり日ノ国を覆うことになるであろう。
「様子を見る」
お頭は正しい。
藩側に付くか、反乱側に付くか見極めが必要だ。順当に考えれば藩側に付くのが無難だろう。後詰には幕府がいる。反乱側が勝つとは思えない。
しかし逆になる可能性も万が一ではあるが十分あり得る。戦乱の世ではそのような状況が幾度となく起こった。拙者は十分に見極めてお頭に報告しなくてはならない。
島原、西には雄大な山々が広がり、威風堂々と屹立している圧巻の風景が広がっていた。
東には壮大な海が広がり、厚雲の隙間から注ぎ込まれる陽の光が、まばらに降り注いでいる雨粒を照らし、光の粒が小川のせせらぎのように降り注いでいた。
なんと壮麗な景色の広がる土地なのだろうか。
その壮麗な土地が今、血生臭く、悪意と怨念に包まれ、人同士が殺し合う戦場と化していた。
島原城は拙者が到着した時には、既に数千の民達により囲まれている状態だった。各所で小競り合いも始まっているようで、いつ全面衝突になってもおかしくない状態だった。
大門に到着した時、全面衝突の号令が出ていた。
多くの反乱軍が門前に押し寄せ、門を破ろうとしている。中には鉞を振り上げ、門を打ち破ろうとしている者もいた。
それに対し城方の兵は門を破られまいと手で押し返そうとしていた。
そんな方法で防げるものか。此奴等は素人か。
「何をしておる。槍隊はおるかっ?」
拙者の問いかけに数名が手を挙げる。
「よいか、門前に鉞で打ち破ろうとしている者がいる。穴が空き次第、その穴から槍で突きまくれ」
「はっ」
「弓隊はおるかっ?」
また数名、前に出てきた。何故反撃しないのかと問うと、ここからでは敵の様子が見えない故、反撃のしようがないと平然と言った。
「見えなくとも、気配ぐらい探れるだろ」
そう言ってもまだ、まごついているようだった。太平の世が続き、危機感は失せてしまったようだ。
状況が分かっているのだろうか。大門前の反乱軍が門を破って雪崩れ込んできたら、皆殺しにされてしまうのだぞ。
「拙者の言う方向へ射ろ」
角度を上げ、門を越えるように上空へ射るような感じで射させる。殺傷能力がでるほどの威力があるとは思えないが、敵は百姓。鎧など纏ってない。矢が降り注げば慄かせ、後退させるのには十分だろう。
門内から降り注がれる矢に詰め寄ってきている敵は案の定、怯んだようだった。
門の穴から槍が突き出てきて不用意に近づけなくなったところに、矢が飛んでくるのでさらに後退する。
「よし、ついて来い」
今度は弓隊に塀を登らせそこから反乱軍へ矢を射まくれ、狙いなんて定めなくていいから射まくれと言った。
大門前に押し寄せていた反乱軍は徐々に押し戻されていく。
よし、ここはもう大丈夫だろう。
同じく各門に対処法を教えて周り、石垣を登ろうとしてくる者への対処法を教えて回る。
「最前の敵に集中、余裕のあるものは指揮官を狙え」
こんなとこから当たるわけないと聞こえてくる。
「当てなくてよい。敵を怯ませるには十分な効果はでる」
全く、ど素人どもが。
対処法がまるでなっていないのでうんざりしてしまった。もし敵軍が戦乱の世の武者達だったのなら、既に落城させられてしまっていたのではないかと思う。
それに何故だろうか応戦している者は、普通の村人が多いような気がする。
近くの村人が敵軍に圧倒され城内に逃げ込んできて、応戦を手伝わされているのだと思うのだが、しかし城方の兵が異常に少ないような気がする。
拙者の暗躍により応戦が上手くいきだしたと思った瞬間、城内から火の手が上がった。
火の手の方に走り寄ると、小競り合いが起きていた。
近くにいた坊主に理由を問うと、敵軍が攻め寄せてきていると報告があったので近くの村々に味方するかどうか問うたところ、味方するとのことなので城内に招き入れたそうだが、その中に敵軍も混じっていて小競り合いが起こってしまっているとのことだった。
如何せん見分けが付かず、対処に困り混乱状態になっているのだとか。
「諮問は後ですればよい。手向かう者は全てひっ捕えよ」
ついでに坊主に何故こうも対応が遅いのかと問うと、島原兵の主力は反乱軍を討伐するため討って出ているとのことだった。
「そういうことか」
反乱軍側に切れ者がいるのだろう。こちら側はすでに出し抜かれ放題になっているのは明白だった。主力がいない間の隙を突かれ攻め込まれたのだろう。
拙者が訪れなければ、半日ももたずに落城していたことだろう。何という醜態か。
しかし拙者としては好都合となった。拙者の存在は急場を凌ぐ救世主が現れたと城内で噂になっているそうだ。これでいつでも藩側に取り立ててもらえる理由ができた。
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youtube : https://www.youtube.com/channel/UC6CwMDVM6o7OygoFC3RdKng
参考・引用
彡(゜)(゜)「ワイはアドルフ・ヒトラー。将来の大芸術家や」(5ch)
アドルフ・ヒトラーの青春(三交社)
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