17 / 47
第二章
第七話 島原兵に見つかる
しおりを挟む
雨は上がり厚雲の中から晴れ間が見えるようになってきていた。陽は天高く登り、すり抜けていく風からはやや暖かみが感じられる。
一定の間隔で繰り返される蹄の音が、妙に私の心に馴染んで急ぐ気持ちを落ち着かせてくれていた。
馬との相性がいいようだ。
深江村に近づくにつれ無数の破裂音がはっきり聞こえるようになってきた。破裂音が連続して響き渡り、破裂音と破裂音の間隔は短い。激しい戦闘となっているのだろう。
「大丈夫だ。撃ち合っているってことは全滅していないってことだ」
確かに応戦しているってことは、深江村はまだ島原兵に制圧されていないということになるのだろうが、一発の破裂音が響くたびに誰か村人が犠牲になっているのではないかと考えるといたたまれない。
「うわっ、これは想像以上じゃねーか」
状況が見渡せる高台に到着すると大蔵が絶句し声を上げた。島原兵が村の中心部にある一つの屋敷に向かって、無数の銃弾を浴びせかけている状態だったのだ。
激しい戦闘になっていると思っていたのだが、違っていた。無数に聞こえていた銃声はほぼ全て、島原兵側から放たれているもののようだった。
「いったい何人で何人を取り囲んでんだよ。一方的じゃねーか」
交戦しているとは言い難い状況だった。まさに一方的。少なく見ても島原兵は二百人はいる。
旗がひしめき合い百人の兵で取り囲み、五十人ほどが中央の屋敷に向かって銃撃し五十人ほどが村の家々を壊している。
五十人ほどで銃撃してはいるが村人が籠っていると思われる屋敷の壁が頑丈で、思うような成果が得られないでいるのだろう。家々を壊し少しずつ目的の場所に近づいて行っている。
一網打尽にされるのも時間の問題だろう。
罠を張って迎え討っていると聞いていたが、罠を張る前に進軍されてしまったのだろうか、それとも罠など無用の長物と化してしまったのだろうか。
そもそもこのような状況で生き残っている者などいるのだろうか。
「四郎、見てみろ。反撃しているぞ」
大蔵が指し示した方向に目を凝らすと、壁の隙間から銃を出し撃ち返していた。
「少なくとも一人は生き残っているみたいだな」
楓なのだろうか、楓が一人で二百人の兵を引きつけているのだろうか。全く馬鹿げた話だ。
数十発撃ち込まれた後に、一発撃ち返えす。数十発撃ち込まれた後に、一発撃ち返すのを繰り返している状態だった。
「あいつら弄んでいるのか?」
押し込もうと思えば一気に押し込めそうなのに、それをしないでいるように見えた。
「いいや違う。彼奴等腰抜けの集まりみたいだ」
大蔵がそう指摘してきたので理由を説明してもらうと、銃撃されるたびにいちいち大袈裟なくらいに自分の身を隠すようなそぶりをしている。
大勢で一気に押し寄せれば一揉みにできるのだろうが、先頭の一人は間違いなく相手側から銃撃を受けることになるだろう。
その一人になりたくないので、全員で二の足を踏んでいる状態になっているんじゃないかと予想してきた。
だから家々を壊し、身を隠す場所を確保しながらちょっとずつ近づいて一斉射撃をして、事を片付けたいと思っているのかもしれない。
「大蔵、どうしたらいいと思う」
このような状況下で救い出すことなど可能なのだろうか。
「取り合えず裏手側に回ろう。裏手側から家々に身を隠しながら屋敷に近づこう」
「ぴぃーーっ」
裏手側に回ろうとした時、矢が音を響かせながら上空へ打ち上がった。
「鳴り鏑矢か、不味い、見つかった」
上空へ矢が上がったと同時にこちらに向かって一本の矢が飛んできた。矢は馬の臀部に突き刺さり、馬は痛みに驚き跳ね上がる。
私達は弾き飛ばされ地面に叩きつけられた。
と、思ったが大蔵が私の体を抱き止めてくれていた。
「大蔵」
馬に弾き飛ばされた瞬間に身を翻し、私を抱え地面に着地したというのだろうか。それともたまたまその態勢になっただけなのだろうか。
ともかく大蔵のお陰で馬に弾き飛ばされてしまったというのに、なんの怪我もすることなく済ませる事ができた。
馬は後ろ足を跳ね上げながらこの場から徐々に遠ざかって行く。矢は初めから馬を狙ったものだったのだろうか、それとも私を狙ったものが外れたのだろうか。
馬に対し申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「不覚だったな。こんなところにまで見張りがいるとは」
大蔵は鋭い目で敵を睨みつけ、動きを封じながら私の体をゆっくり地面に下ろしそう言った。
いつの間にか三名の騎馬武者が駆け付けて来ていた。それと数名の武者がこちらに駆け寄って来ているのが見える。
「敵は多くない。村まで走れば何とかなるかもしれない。走れるか?」
「大丈夫だ」
体を見渡す。怪我もないし、痛むような箇所もない。大丈夫だ走れる。
敵は九人、馬に跨り槍を持つ騎馬武者が三人、弓矢を持つ者が一人、他に五人いる。五人は余裕でいるのか何なのか刀も抜かずにこちらを見ながらせせら笑っていた。
せせら笑いながら両手をいっぱいに広げ、逃げ場をなくすように広がっていく。大蔵は私を背に隠したまま右、左と突破口を作ろうと動き回る。
敵と一定の距離を保ちながら、周囲を回るような感じの動きへとなっていった。私の体を敵から隠すようにしながら敵の周りを小走りするようになっていく。
大蔵が右に左に動き回るので、広がっていた敵は一塊になっていく。
敵、大蔵、私、そして真後ろに深江村の屋敷がきて一直線になった時、大蔵は叫んだ。
「走れっ」
私は村へ向かい全速力で走り出した。
一定の間隔で繰り返される蹄の音が、妙に私の心に馴染んで急ぐ気持ちを落ち着かせてくれていた。
馬との相性がいいようだ。
深江村に近づくにつれ無数の破裂音がはっきり聞こえるようになってきた。破裂音が連続して響き渡り、破裂音と破裂音の間隔は短い。激しい戦闘となっているのだろう。
「大丈夫だ。撃ち合っているってことは全滅していないってことだ」
確かに応戦しているってことは、深江村はまだ島原兵に制圧されていないということになるのだろうが、一発の破裂音が響くたびに誰か村人が犠牲になっているのではないかと考えるといたたまれない。
「うわっ、これは想像以上じゃねーか」
状況が見渡せる高台に到着すると大蔵が絶句し声を上げた。島原兵が村の中心部にある一つの屋敷に向かって、無数の銃弾を浴びせかけている状態だったのだ。
激しい戦闘になっていると思っていたのだが、違っていた。無数に聞こえていた銃声はほぼ全て、島原兵側から放たれているもののようだった。
「いったい何人で何人を取り囲んでんだよ。一方的じゃねーか」
交戦しているとは言い難い状況だった。まさに一方的。少なく見ても島原兵は二百人はいる。
旗がひしめき合い百人の兵で取り囲み、五十人ほどが中央の屋敷に向かって銃撃し五十人ほどが村の家々を壊している。
五十人ほどで銃撃してはいるが村人が籠っていると思われる屋敷の壁が頑丈で、思うような成果が得られないでいるのだろう。家々を壊し少しずつ目的の場所に近づいて行っている。
一網打尽にされるのも時間の問題だろう。
罠を張って迎え討っていると聞いていたが、罠を張る前に進軍されてしまったのだろうか、それとも罠など無用の長物と化してしまったのだろうか。
そもそもこのような状況で生き残っている者などいるのだろうか。
「四郎、見てみろ。反撃しているぞ」
大蔵が指し示した方向に目を凝らすと、壁の隙間から銃を出し撃ち返していた。
「少なくとも一人は生き残っているみたいだな」
楓なのだろうか、楓が一人で二百人の兵を引きつけているのだろうか。全く馬鹿げた話だ。
数十発撃ち込まれた後に、一発撃ち返えす。数十発撃ち込まれた後に、一発撃ち返すのを繰り返している状態だった。
「あいつら弄んでいるのか?」
押し込もうと思えば一気に押し込めそうなのに、それをしないでいるように見えた。
「いいや違う。彼奴等腰抜けの集まりみたいだ」
大蔵がそう指摘してきたので理由を説明してもらうと、銃撃されるたびにいちいち大袈裟なくらいに自分の身を隠すようなそぶりをしている。
大勢で一気に押し寄せれば一揉みにできるのだろうが、先頭の一人は間違いなく相手側から銃撃を受けることになるだろう。
その一人になりたくないので、全員で二の足を踏んでいる状態になっているんじゃないかと予想してきた。
だから家々を壊し、身を隠す場所を確保しながらちょっとずつ近づいて一斉射撃をして、事を片付けたいと思っているのかもしれない。
「大蔵、どうしたらいいと思う」
このような状況下で救い出すことなど可能なのだろうか。
「取り合えず裏手側に回ろう。裏手側から家々に身を隠しながら屋敷に近づこう」
「ぴぃーーっ」
裏手側に回ろうとした時、矢が音を響かせながら上空へ打ち上がった。
「鳴り鏑矢か、不味い、見つかった」
上空へ矢が上がったと同時にこちらに向かって一本の矢が飛んできた。矢は馬の臀部に突き刺さり、馬は痛みに驚き跳ね上がる。
私達は弾き飛ばされ地面に叩きつけられた。
と、思ったが大蔵が私の体を抱き止めてくれていた。
「大蔵」
馬に弾き飛ばされた瞬間に身を翻し、私を抱え地面に着地したというのだろうか。それともたまたまその態勢になっただけなのだろうか。
ともかく大蔵のお陰で馬に弾き飛ばされてしまったというのに、なんの怪我もすることなく済ませる事ができた。
馬は後ろ足を跳ね上げながらこの場から徐々に遠ざかって行く。矢は初めから馬を狙ったものだったのだろうか、それとも私を狙ったものが外れたのだろうか。
馬に対し申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「不覚だったな。こんなところにまで見張りがいるとは」
大蔵は鋭い目で敵を睨みつけ、動きを封じながら私の体をゆっくり地面に下ろしそう言った。
いつの間にか三名の騎馬武者が駆け付けて来ていた。それと数名の武者がこちらに駆け寄って来ているのが見える。
「敵は多くない。村まで走れば何とかなるかもしれない。走れるか?」
「大丈夫だ」
体を見渡す。怪我もないし、痛むような箇所もない。大丈夫だ走れる。
敵は九人、馬に跨り槍を持つ騎馬武者が三人、弓矢を持つ者が一人、他に五人いる。五人は余裕でいるのか何なのか刀も抜かずにこちらを見ながらせせら笑っていた。
せせら笑いながら両手をいっぱいに広げ、逃げ場をなくすように広がっていく。大蔵は私を背に隠したまま右、左と突破口を作ろうと動き回る。
敵と一定の距離を保ちながら、周囲を回るような感じの動きへとなっていった。私の体を敵から隠すようにしながら敵の周りを小走りするようになっていく。
大蔵が右に左に動き回るので、広がっていた敵は一塊になっていく。
敵、大蔵、私、そして真後ろに深江村の屋敷がきて一直線になった時、大蔵は叫んだ。
「走れっ」
私は村へ向かい全速力で走り出した。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
陸のくじら侍 -元禄の竜-
陸 理明
歴史・時代
元禄時代、江戸に「くじら侍」と呼ばれた男がいた。かつて武士であるにも関わらず鯨漁に没頭し、そして誰も知らない理由で江戸に流れてきた赤銅色の大男――権藤伊佐馬という。海の巨獣との命を削る凄絶な戦いの果てに会得した正確無比な投げ銛術と、苛烈なまでの剛剣の使い手でもある伊佐馬は、南町奉行所の戦闘狂の美貌の同心・青碕伯之進とともに江戸の悪を討ちつつ、日がな一日ずっと釣りをして生きていくだけの暮らしを続けていた……
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
異・雨月
筑前助広
歴史・時代
幕末。泰平の世を築いた江戸幕府の屋台骨が揺らぎだした頃、怡土藩中老の三男として生まれた谷原睦之介は、誰にも言えぬ恋に身を焦がしながら鬱屈した日々を過ごしていた。未来のない恋。先の見えた将来。何も変わらず、このまま世の中は当たり前のように続くと思っていたのだが――。
<本作は、小説家になろう・カクヨムに連載したものを、加筆修正し掲載しています>
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・地名とは一切関係ありません。
※この物語は、「巷説江戸演義」と題した筑前筑後オリジナル作品企画の作品群です。舞台は江戸時代ですが、オリジナル解釈の江戸時代ですので、史実とは違う部分も多数ございますので、どうぞご注意ください。また、作中には実際の地名が登場しますが、実在のものとは違いますので、併せてご注意ください。
土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
隠密同心艶遊記
Peace
歴史・時代
花のお江戸で巻き起こる、美女を狙った怪事件。
隠密同心・和田総二郎が、女の敵を討ち果たす!
女岡っ引に男装の女剣士、甲賀くノ一を引き連れて、舞うは刀と恋模様!
往年の時代劇テイストたっぷりの、血湧き肉躍る痛快エンタメ時代小説を、ぜひお楽しみください!
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
徳川家基、不本意!
克全
歴史・時代
幻の11代将軍、徳川家基が生き残っていたらどのような世の中になっていたのか?田沼意次に取立てられて、徳川家基の住む西之丸御納戸役となっていた長谷川平蔵が、田沼意次ではなく徳川家基に取り入って出世しようとしていたらどうなっていたのか?徳川家治が、次々と死んでいく自分の子供の死因に疑念を持っていたらどうなっていたのか、そのような事を考えて創作してみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる