上 下
130 / 148
第十二章 寒冷の神を封印せよ

第2話 大気汚染

しおりを挟む
「工場から出る煙が大気を汚染し酸性の雨を降らせる。酸性の雨は土壌を汚染し樹木を枯らし、昆虫を死滅させ、小動物や川魚などの生態系に影響を与える」

「だから神が怒ったと?」

「そうだ」

「まーたですかー?ほんと怒らせる奴ばっかですよねー?たまには神に褒められる人間とかいないんですか?」

「褒められている人間だっていっぱいおる。我々に報告が上がってくるのは怒りを買ってしまった奴らばかりだから、多い印象を受けるだけじゃ」

 あー、そうなの?

 その日、例の如く俺はまたソフロニアに呼び出されていた。そして例の如く説教が始まった。

「いつも思うんですけど、基本人間が悪いんじゃないですか?神罰を喰らった人間なんか、ほっときゃいいじゃないですか?」

「だから何度言ったらわかるんじゃ!」

「あー、はいはい、神罰に値しない心の清いものが一人でもいる限り看過する訳にはいかないって言うんでしょ、あーぁ、面倒くさいなー」

「だから!わしの指令を面倒くさいとは何事じゃ!貴様が一番最初に神罰くらって仕舞えばいいんじゃ!」

 何それ!ヒドっ!

「俺、神罰受けるようなことしてないし、いや?してるか?いつも怒らせて攻撃受けてるな?あれは神罰に入るのか?」

「ひょうは神罰受けても死なないんだから、大したものだね」

「奏音、それどういう意味?」

「最大の褒め言葉だよ」

 そうは聞こえなかったんですけど。

「ソフロニア様も、まあまあ落ち着いてください。ひょうもそんな事言ってないで早く行くぞ」

「あれ?奏音も行くの?」

「ああ、今回は俺も一緒に行く」

 奏音と一緒の任務なんて久々だな。

「ひょうお前、いま遊び半分で行けるかもって思っただろ!」

 いや、思ったも何もないだろ、心の中を読み取れる能力があるんだから。知ってて聞くな。と思うとソフロニアはさらに冷たい視線を向けてきた。

「あははは、ひょうは最近フル稼働だったからな。ひょうが楽出来るように今回は俺が主軸になって頑張ってみるよ」

「奏音、コイツを甘やかす必要はない。どうせ好き好んで自分から首を突っ込んでいくんだから」

 リズさんの時のことを言っているのか?あれはお前がそうなるように仕向けたんだろ!

 相変わらずイケ好かないヤローだ。

 そんなこんなあり、俺はあまり乗り気ではなかったが、奏音と美玖、サディと共に北欧の地へ向かうことになった。





「工場長、温かいコーヒーです」

「あ、ありがとう」

 窓から雪で埋もれてしまった工場を眺め悲観している工場長に私は声をかけた。私に出来ることはこれくらいしかない。

 雪は降り止むどころかますます勢いは増すばかりだった。このままでは第二ブロックの方も潰れてしまうのは時間の問題だろう。

「イリーナすまないね。君が色々提案してくれて順調に稼働できるようになっていた工場潰してしまったよ、、」

「何言ってるんですか?私達がいるんですからまた再開できますよ」

「しかしあの状況では電子回路はもう使い物にならないだろうし、部品も重みで歪んでしまっているだろうから、きちんと稼働できるかどうか」

 この工場は首都からかなり離れた位置にある。新しい部品が届けられることもないだろうし、電子基盤の交換も受けれないだろう。
 工場の機能が停止してしまえば資金も止められるだろうし、食料品の支給も止められてしまうかもしれない。

「なんとかなりますよ。工場長、元気出して」

 とは言ってみたものの、私の言葉は慰めの言葉にもならないだろうということは明らかだった。

 それにこのままでは工場のことを気にしている場合ではなくなってしまうかもしれない。

 広い空間を必要とする工場と違い、居住区は柱の数が多いので強度はあるとは思うが、このまま雪が降り止まなければここもいずれ潰れてしまうだろう。

 工場とか、資金とか、食料どころの話ではない。命すらも危険な状態だった。

 降り積もった雪はもう3階部分まで到達しているので、外に出ることは出来ない。救助も来ることは難しいだろう。

 食料だっていずれ在庫が尽きてしまうことだろう。工場長はここで働いていた人達をどうやって救い出すか考えないといけない状態になっている。

 飢えさせることも、凍えさせることもさせたくない。しかし食料、燃料が切れてしまった時のことも考えておかなくてはならないだろう。

 燃料が無くなったら薪を集め暖を取ればいいとして、食料はどうしたものか、、。

「工場長ー。ダメです。雪が全然止みません」

 そこに若手の職員が入ってきた。手は赤紫に腫れ、皮が剥け、いたるところから出血しているようだった。

「何ということか、これイリーナ、お湯と温かいスープと毛布持ってきてくれ」

「あっ!は、はい」

「大丈夫っすよ。これくらい平気です」

 男性陣は雪でここが潰れないように必死で雪下ろしを繰り返しているらしいが降雪量に追いつかず、下ろしても下ろしても降り積もってしまう状態なのだとか。





「人の為に自分の身を犠牲にし、手があかぎれになってもこの建物を守ろうと必死で戦い、また戦う人達の身を気遣うことが出来る人間達がいる」

「ひょう、ここの住人達は神罰を受けても仕方のない人間と考えるかい?」

「ったく、面倒くさいなー、二酸化硫黄や窒素酸化物の処理くらいちゃんとしとけよ。しときゃー、神の怒りに触れることなかったのによー」

 どう見ても悪い人間には見えない。つまり下された神罰を保留にしなくてはならない。

 ひょうは人間達の対応の甘さを指摘し、『お前達のせいで余計な仕事が増えたんだぞ』と言いたげのように見えた。

「今どき大気汚染て、国際法知らないのかよ」

 美玖も同じ意見のようだ。

「処理する装置の故障か何かなのかしら?」

「いいや。サディ、過失なら神はここまで怒らないよ」

「過失?」

「故意でないなら神は人間達の営みを見守ろうとする。悪意が感じられたから神罰を下したんだ」

「じゃあ、やっぱりここの人達は悪い人達なのね」

「それは分からない。故障に気が付いてないだけかもしれないし、故障しているって分かっていても資金がなくて直せないとか、そのまま稼働を続けろと上から言われ仕方なく続けているとかそういうのもあるかもしれないから、調べる必要がある」

 面倒くさそうなひょうと美玖と違い、サディはここの人達の感情に感化され目を潤ませ、何とか力になれないか考えているようだった。

「それでどうするの?」

 サディがそう聞いてきた。

「取り敢えず結界を張り雪を止めよう。そして火炎魔法を使って雪を溶かそうと思う」

「分かった。じゃあ俺は美玖と一緒にマロース神を見てくるよ」

「!!」

 サディと対応策を検討しているとひょうはいきなりそんなことを言ってきた。

「俺はお前等みたいにお人好しじゃないし、俺達東洋人顔だし、ここの人達とすぐに馴染めると思えないし、ここはお前らに任せるよ」

「分かったけど、無理はするなよ。見てくるだけにするんだからな」

「分かってるって」

 そう言ってひょうと美玖は出かけて行ったが、外の大雪に足元を取られ、埋もれてもがいている姿が見えた。

「ふふふ、大丈夫なのかしら?」

 凍結魔法が得意なひょうでもこの大雪には歩くだけでも悪戦苦闘のようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい

三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです 無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す! 無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

辺境の最強魔導師   ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~

日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。 アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。 その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

異世界の鍛治屋さん~お店の裏は裏ダンジョン!?~

ホージー
ファンタジー
異世界に転生した加治屋孝則(35歳)。前世で働く事に疲れた加治屋が悠々自適を目的に異世界で始めた主に武器などを取り扱う鍛冶屋さん。 そして、始まりの町と言う最も平和な町の外れでのんびり店を営んでいた。誰からも束縛されずに自由な時間に店を開け好きな時間に店を閉める。 そんな異世界物の物語ではよくいそうな人間が本作の主人公。ただ、それでも他の物語とは違う所・・・、その鍛冶屋の裏には何と、 冒険の最終地点である裏ダンジョンの入り口が存在していた!!

離縁された妻ですが、旦那様は本当の力を知らなかったようですね?~魔道具師として自立を目指します!~

椿蛍
ファンタジー
【1章】 転生し、目覚めたら、旦那様から離縁されていた。   ――そんなことってある? 私が転生したのは、落ちこぼれ魔道具師のサーラ。 彼女は結婚式当日、何者かの罠によって、氷の中に閉じ込められてしまった。 時を止めて眠ること十年。 彼女の魂は消滅し、肉体だけが残っていた。 「どうやって生活していくつもりかな?」 「ご心配なく。手に職を持ち、自立します」 「落ちこぼれの君が手に職? 無理だよ、無理! 現実を見つめたほうがいいよ?」 ――後悔するのは、旦那様たちですよ? 【2章】 「もう一度、君を妃に迎えたい」 今まで私が魔道具師として働くのに反対で、散々嫌がらせをしてからの再プロポーズ。 再プロポーズ前にやるのは、信頼関係の再構築、まずは浮気の謝罪からでは……?  ――まさか、うまくいくなんて、思ってませんよね? 【3章】 『サーラちゃん、婚約おめでとう!』 私がリアムの婚約者!? リアムの妃の座を狙う四大公爵家の令嬢が現れ、突然の略奪宣言! ライバル認定された私。 妃候補ふたたび――十年前と同じような状況になったけれど、犯人はもう一度現れるの? リアムを貶めるための公爵の罠が、ヴィフレア王国の危機を招いて―― 【その他】 ※12月25日から3章スタート。初日2話、1日1話更新です。 ※イラストは作成者様より、お借りして使用しております。

臆病者の転生ヒストリア〜神から授かった力を使うには時間が必要です〜

たいらくん
ファンタジー
 サッカー選手として将来を期待された須藤弘樹が大怪我で選手生命を絶たれた。その後様々な不幸が続き、お決まりの交通事故死で暗闇に包まれた...  はずなんだが、六歳児に転生。  しかも貴族っぽい。アレクサンダー帝国の王位後継者第三位のスノウ皇子!   もちろん王子あるあるな陰謀にまき込まれ誘拐されてしまうが、そこで出会った少女が気になる。  しかしそんな誘拐事件後は離れ離れとなり、あれよあれよと事態は進みいつのまにやら近隣国のマクウィリアズ王国に亡命。  新しい人生として平民クライヴ(スノウ)となり王都にある王立学院に入学なのだが! ハーフエルフの女の子、少し腹黒な男の娘、◯塚風のボクっ娘、訛りの強い少年等と個性的な仲間との出会いが待っていた。  帝国にいた時には考えられない程の幸せな学院生活を送る中でも、クライヴは帝国で出会った本名も知らない彼女の事が気になっていた。実は王都内で出会っている事すらお互い気づかずに...  そんな中いつしか事件に巻き込まれていくが、仲間達と共に助け合いながら様々な出来事を解決して行く臆病な少年が、大人になるにつれて少しずつ成長する王道ストーリー。  いつしか彼女と付き合えるような立派な男になる為に! 【小説家になろう、カクヨムにも投稿してます】

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

処理中です...