上 下
112 / 148
第十章 爆弾でも死なない少年

第9話 仲間を救う方法

しおりを挟む
「お前達も自分の命は無下にするなよ」

「どういう意味だよ!?」

「時代を変えるには近道はない。何十年、いや、何世代に渡って戦わなければならない。今の先進諸国はそうして少しずつ少しずつ平和な世の中を手に入れていった」

「民主主義国家では多数派が絶対的な正義、少数派の者は意見を受け入れてくれる者を少しずつ少しずつ増やしていかなければならない」

「武力によって押さえつけてしまえば、憎しみが生まれ反感が生じる。自分達の主張を通そうと力押ししてしまえば反感を招く。時間がかかっても話し合いを重ね、少しずつ少しずつ前に進むべきだ」

 俺の心を見透かすような瞳を向けてくる。

「自分達の主張を通そうと相手の嫌がることをしてしまえば、良き関係は築けない」

「自分の意見を通すため感じ悪い態度を取り、相手に受け入れさせるように仕向ければ、その場はよくても相手はお前を信頼しなくなるだろう」

「すまん、俺はバカなんだよ。つまりどういうことだよ?回りくどい言い方しないでハッキリ言ってくれ」

「お前の村に伝わる秘伝の料理があったとしよう。そこへ隣村の者がその料理にはこの調味料を加えたらもっと美味しくなると主張したとしよう。しかし村人達はいつも通りで十分美味しいから大丈夫だと言う。しかしその隣村の者はこうしたほうが良いと無理矢理調味料を加えたとしよう。結果、美味しくなったが村人はその強引なやり方に反感を持ち、料理を素直に美味しいと言えない気持ちになる」

「しかし、別に料理を用意しこの調味料を加えたんだがどうだ?と少しずつ理解者を増やしていったらどうなる?」

「そのやり方なら遺恨は残らないだろうな。それに美味しくなってるなら、もしかしたらその調味料を加えるやり方が主流になるかも」

「そういうことだ。爆弾テロを起こし自分達の主張を聞いてもらったとしても、相手はお前らを受け入れ難くなるだろう」

「ましてや自爆したものは、こんな世界に自分が誘われると知っていたのか?」

「ちょ、ちょっと待てよ。俺の同志もこの世界にいるというのかよ!!」

「自らの意思で自分の生を終わらせたのだ、当然だろ」

 ふざけるな!

 安らかに眠っていると思っていた、天国に誘われていると思っていた。だからアイツ等はテロの任務を受けたのだ。

 こんな世界に行くことになるなんて、勇敢に任務を全うしたアイツ等がこんな世界に行くことになるなんて、信じられない、絶対に受け入れられない、、。

「ふざけるなよ。納得出来ねーよ。何とかならないのかよ」

 その言葉に難しい顔をした後、、。

「何ともならないこともないが、、」

「何だよ!何かあるのかよ。なら教えてくれよ」

「お前の同志は死神に惑わされ自爆テロを起こした。だからそこを主張すれば何とかなるかも」

「おお、なるほど!」

「しかしそれには問題がある」

「なんだよ問題って?」

「一つは、この何処まで続いているか分からない世界から、その同志とやらの魂を見つけなければならない」

「それなら問題ない。分かるんだ、アイツ等が居る場所が、俺には、何となく、根拠は無いが向こうの方にいるような気がする」

 そう言って俺はある方向を指した。奏音は俺の言葉を聞いて渋い顔をしていた。

「サイード、お前は先程オーラを放出する系の技を使った。仲間のオーラを感知する能力を持っていたとしても不思議ではない。取り敢えず今はお前の事を信じてみよう」

「ありがとう」

 オーラが何ちゃらとかよく分からないが、信じてもらうしかない。

「もう一つはその魂をこの何処まで続いているか分からない海原を、ここは川だから川原とでもいうのか?」

「どっちでもいいよ」

「そうだな、分かった。海原を越え、向こう岸の審判の門まで連れていかなければならない」

「岸を出れば回り全て変化の無い風景になる。方向を失うだろう。無事に向こう岸に辿り着ける保証はない。それどころか俺たちも帰れなくなるかもしれない」

「ここは死神の生まれ故郷なんだろ。なら一匹取っ捕まえて道案内させる」

「ふふ、なるほど!良いかもしれないな」

「しかし問題はまだあるぞ」

「なんだよ!」

「その死神が問題なんだ。死神は魂を喰らって消す存在。同志の魂を喰らってしまう可能性がある」

「俺が守る」

「アジトで出会った時はかなりビビっていたみたいだが?」

「うるせーよ!次は大丈夫だよ!」

「死神は向こう岸に近付けば近付くほど増える」

「取っ捕まえた死神に上手いこと抜け出せる道を聞くさ」

「そうか。そして最後の難問だ。例え惑わされたと言っても同志達の行った行為は重罪だ。地獄行きは免れない。地獄ではこの場に留まっていた方が良かったと思うほどの苦痛が待ち受ける」

「アイツ等なら問題ない。地獄で受ける罰を甘んじて受けてくれるさ」

「分かった。なら挑戦してみよう。しかし結果が出なくても恨むなよ」

「まさか!協力に感謝するよ」

 そういうことで俺達の戦いは始まった。弱そうな死神を探しながら同志のいそうな方向へと向かう。

 どれだけ進んだろう。時間が分からないのでもう何時間も進んだ気がするが、それほど経ってないような気もする。

 どれだけ進んでも風景は変化すること無いので進んでいる気が全くしない。日が昇ることもなければ沈むこともない。

 頭上は厚雲がかかったようなどんよりとした空が広がり、変化がない。時間を計ろうにも目安に出来るものが全く無い。

 こんな世界にずっといたら頭がおかしくなるのは当然だろう、、。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

処刑直前の姫に転生したみたいですが、料理家だったのでスローライフしながら国民の胃袋を掴んでいこうと思います

邉 紗
ファンタジー
篠塚ゆづか。35歳。友達なし恋人なし会社では空気。陰キャだけどSNS界隈ではフォロワーは100万人でリア充。気がついたら不良みたいな人達が統治する世界に転生していて、なんと処刑直前?!「その処刑、ちょっと待ったぁ!」

4月1日の母ちゃん

桜屋敷 櫻子
ファンタジー
4月1日、嘘みたいに母ちゃんが死んだ──。幽霊になり、天国から逃げ出してきた、伊山 大介の母。その母に頼まれ、タイムリープの能力を与えられた大介は過去に戻り、母が死ぬという運命を覆すことに。親不孝息子とめちゃくちゃなくらい豪快な母の、やり直しの物語。 ◯現代ファンタジーというか、コメディーというか、ジャンルのよく分からない作品です。初めてタイムリープものの設定を作って、頭痛をさせながら書き上げたので、ゆるっと読んでいただけると嬉しいです。 ※この作品は「小説家になろう」様と「エブリスタ」様でも連載中です。

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

辺境の最強魔導師   ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~

日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。 アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。 その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。

離縁された妻ですが、旦那様は本当の力を知らなかったようですね?~魔道具師として自立を目指します!~

椿蛍
ファンタジー
【1章】 転生し、目覚めたら、旦那様から離縁されていた。   ――そんなことってある? 私が転生したのは、落ちこぼれ魔道具師のサーラ。 彼女は結婚式当日、何者かの罠によって、氷の中に閉じ込められてしまった。 時を止めて眠ること十年。 彼女の魂は消滅し、肉体だけが残っていた。 「どうやって生活していくつもりかな?」 「ご心配なく。手に職を持ち、自立します」 「落ちこぼれの君が手に職? 無理だよ、無理! 現実を見つめたほうがいいよ?」 ――後悔するのは、旦那様たちですよ? 【2章】 「もう一度、君を妃に迎えたい」 今まで私が魔道具師として働くのに反対で、散々嫌がらせをしてからの再プロポーズ。 再プロポーズ前にやるのは、信頼関係の再構築、まずは浮気の謝罪からでは……?  ――まさか、うまくいくなんて、思ってませんよね? 【3章】 『サーラちゃん、婚約おめでとう!』 私がリアムの婚約者!? リアムの妃の座を狙う四大公爵家の令嬢が現れ、突然の略奪宣言! ライバル認定された私。 妃候補ふたたび――十年前と同じような状況になったけれど、犯人はもう一度現れるの? リアムを貶めるための公爵の罠が、ヴィフレア王国の危機を招いて―― 【その他】 ※12月25日から3章スタート。初日2話、1日1話更新です。 ※イラストは作成者様より、お借りして使用しております。

臆病者の転生ヒストリア〜神から授かった力を使うには時間が必要です〜

たいらくん
ファンタジー
 サッカー選手として将来を期待された須藤弘樹が大怪我で選手生命を絶たれた。その後様々な不幸が続き、お決まりの交通事故死で暗闇に包まれた...  はずなんだが、六歳児に転生。  しかも貴族っぽい。アレクサンダー帝国の王位後継者第三位のスノウ皇子!   もちろん王子あるあるな陰謀にまき込まれ誘拐されてしまうが、そこで出会った少女が気になる。  しかしそんな誘拐事件後は離れ離れとなり、あれよあれよと事態は進みいつのまにやら近隣国のマクウィリアズ王国に亡命。  新しい人生として平民クライヴ(スノウ)となり王都にある王立学院に入学なのだが! ハーフエルフの女の子、少し腹黒な男の娘、◯塚風のボクっ娘、訛りの強い少年等と個性的な仲間との出会いが待っていた。  帝国にいた時には考えられない程の幸せな学院生活を送る中でも、クライヴは帝国で出会った本名も知らない彼女の事が気になっていた。実は王都内で出会っている事すらお互い気づかずに...  そんな中いつしか事件に巻き込まれていくが、仲間達と共に助け合いながら様々な出来事を解決して行く臆病な少年が、大人になるにつれて少しずつ成長する王道ストーリー。  いつしか彼女と付き合えるような立派な男になる為に! 【小説家になろう、カクヨムにも投稿してます】

妾の子だった転生勇者~魔力ゼロだと冷遇され悪役貴族の兄弟から虐められたので前世の知識を活かして努力していたら、回復魔術がぶっ壊れ性能になった

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
◆2024/05/31   HOTランキングで2位 ファンタジーランキング4位になりました! 第四回ファンタジーカップで21位になりました。皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!! 『公爵の子供なのに魔力なし』 『正妻や兄弟姉妹からも虐められる出来損ない』 『公爵になれない無能』 公爵と平民の間に生まれた主人公は、魔力がゼロだからという理由で無能と呼ばれ冷遇される。 だが実は子供の中身は転生者それもこの世界を救った勇者であり、自分と母親の身を守るために、主人公は魔法と剣術を極めることに。 『魔力ゼロのハズなのになぜ魔法を!?』 『ただの剣で魔法を斬っただと!?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ……?』 『あいつを無能と呼んだ奴の目は節穴か?』 やがて周囲を畏怖させるほどの貴公子として成長していく……元勇者の物語。

処理中です...