67 / 148
第八章 生まれたときから火炎魔法を使えた少女
第1話 暗闇の襲われる船
しおりを挟む
「船長、今日も絶好の航海日和ですね」
「そうだな」
我が社の船が行き来する航路は荒れることが多いが、今回の運航は行きも天気に恵まれ、帰りも穏やかな日々が続いていた。
この日も非常に安定した天気で特に何も起こらない、代わり映えのしない、いつも通りの運航となっていた。
このまま順調に行けば明日の午前中には大陸が見えてくることだろう。
天気予報でも到着予定の時刻まで荒れた天気になるなんてことは伝えていない。現在も海の様子は安定し至って穏やか。
今回も無事に航海を終えられそうだ。
早く帰り、もうすぐ1歳になる我が子を抱き上げたい、家族と一緒の時を過ごしたい。陸が近付くにつれその思いはいっそう高まっていった。
その時、慌ただしく船員の一人が操舵室に駆け込んで来た。
「船長!急に外が夜になりました!」
その言葉に一瞬『何を言っているんだ?』と驚きの表情を向けたが、その言葉を発したのが冗談好きな船員の顔だと分かると、その場にいる全員が『またか』といった表情になり嘲笑いだした。
その船員は我々のムードメーカー。いつも冗談を言っては笑わせてくる。
「もうすぐ港だ。お前の冗談に付き合っている暇はないぞ」
私は苦笑いを押さえながらその船員をたしなめる。
「冗談じゃないですよ。甲板に出てみて下さい」
全員に馬鹿にされ大笑いされているというのに、強張った表情を崩さず船員は外を見るよう促した。
前方の空は明るく異変はないように思われるが、言われてみると確かに薄暗くなってきているよう気がする。
後方の空が急速に厚雲に覆われ出しているという事なのだろうか?
海の天気は変わりやすい、急に厚い雲に覆われるなんてよくある事だ。問題ないだろう。
厚雲が進行方向まで広がらない事を、空一面を覆ってしまわない事を、海が荒れない事を祈るばかりだ。
しかしまったく困った奴だ。厚雲に覆われ暗くなっているのを夜になったなどと表現するとは大げさにも程がある。
「夜になったのであれば交代の時間だな。お前はもう寝ろ!」
私がそう言うと操舵室はまた笑いに包まれた。その様子に船員は怪訝な顔をしながらに語気を強め、再び甲板に出てみてくださいと言ってきた。
その真剣な様子に考え直し、再度状況を確認するように窓の外に目を凝らした。
「!!」
明るかった空が想像を超えて急速に暗くなってきていた。
今は昼前、厚雲に覆われたといってもこんなに暗くなるとは思えない。確かに外は通常以上に異様なほど暗い気がする。
船員達もこの異常さを不思議だなと感じたのかざわつき始めた。流石にこれは状況を把握しなくては行けないなと思い、船員について行き甲板に出てみることにした。
甲板に出て見えて来た光景は信じ難いものだった。我が目を疑い何度も擦ってみるが変わりはなかった。
ある一部分だけ真っ暗になっていて、真っ暗な暗闇は徐々にこちらに近付いて来ている。
周辺の異常さは暗くなっているだけではなかった。『波がない!』波が低いとかそういうレベルではなく、波が全く無いのだ。
暗闇が近づいてくる方角からは波がまったくなかったのだ。暗闇以外の陽の光が当たっている部分には波が立っている。
暗闇部分から急に波がなくなっている。
なんだこれは!?
波がなくなっている部分はまるで流れの無い池を見ているかのように、さざ波一つ、波紋一つたってない。
船の仕事をするようになり何十年と海を渡ってきているが、こんな光景は初めて見た。
「船長、何ですかこれは?」
船員の問い掛けに反応することが出来なかった。
辺りは真っ暗な闇に包まれさざ波一つ無し。進んでいるのか止まっているのかも分からない感覚となる。
「船長ー、闇が、闇が襲ってきます」
闇が襲ってくる?聞き間違えかと思うほど奇妙な言葉が聞こえてきた。闇に覆われていくと言い間違えたのだろうか?
声の聞こえた方に目を向けるとその言葉の真意が分かり、全身に鳥肌がたち身震いが止められなくなった。
船の後方部分が真っ黒な闇に覆われ、覆われた部分は徐々に消滅しているように見える。何か得体の知れないものに飲み込まれているように見える。
まさに闇に襲われているという言葉がピッタリ合う光景だった。
「全員避難ボートに飛び乗れー!」
もう駄目だ。船を捨て逃げるしかないと思った。
「船長駄目です。前方からも来てます!」
船員は青ざめた顔で震える手を上げ前方を指差していた。
指し示した先もどんどん闇に飲み込まれてしまっていて、もうどうすることも出来ないと身構えた次の瞬間、我々の足元が急に抜け海に放り出されてしまった。
船が急に無くなり、海面に叩きつけられ必死でもがいて浮かび上がり、海上に顔を出して海の上を漂う。
他の船員達も急に海に投げ出された様子で、しばらくジタバタともがいていたが、泳ぎが得意な者が多いのでしばらくすると落ち着き始める。
急に船だけが消え我々は真っ暗闇の海に放り出されてしまった。
自分の身に起きたことが理解出来ずにただ呆然と漂うしかできなかった、こんなところに助けは来てくれるのだろうか?
「そうだな」
我が社の船が行き来する航路は荒れることが多いが、今回の運航は行きも天気に恵まれ、帰りも穏やかな日々が続いていた。
この日も非常に安定した天気で特に何も起こらない、代わり映えのしない、いつも通りの運航となっていた。
このまま順調に行けば明日の午前中には大陸が見えてくることだろう。
天気予報でも到着予定の時刻まで荒れた天気になるなんてことは伝えていない。現在も海の様子は安定し至って穏やか。
今回も無事に航海を終えられそうだ。
早く帰り、もうすぐ1歳になる我が子を抱き上げたい、家族と一緒の時を過ごしたい。陸が近付くにつれその思いはいっそう高まっていった。
その時、慌ただしく船員の一人が操舵室に駆け込んで来た。
「船長!急に外が夜になりました!」
その言葉に一瞬『何を言っているんだ?』と驚きの表情を向けたが、その言葉を発したのが冗談好きな船員の顔だと分かると、その場にいる全員が『またか』といった表情になり嘲笑いだした。
その船員は我々のムードメーカー。いつも冗談を言っては笑わせてくる。
「もうすぐ港だ。お前の冗談に付き合っている暇はないぞ」
私は苦笑いを押さえながらその船員をたしなめる。
「冗談じゃないですよ。甲板に出てみて下さい」
全員に馬鹿にされ大笑いされているというのに、強張った表情を崩さず船員は外を見るよう促した。
前方の空は明るく異変はないように思われるが、言われてみると確かに薄暗くなってきているよう気がする。
後方の空が急速に厚雲に覆われ出しているという事なのだろうか?
海の天気は変わりやすい、急に厚い雲に覆われるなんてよくある事だ。問題ないだろう。
厚雲が進行方向まで広がらない事を、空一面を覆ってしまわない事を、海が荒れない事を祈るばかりだ。
しかしまったく困った奴だ。厚雲に覆われ暗くなっているのを夜になったなどと表現するとは大げさにも程がある。
「夜になったのであれば交代の時間だな。お前はもう寝ろ!」
私がそう言うと操舵室はまた笑いに包まれた。その様子に船員は怪訝な顔をしながらに語気を強め、再び甲板に出てみてくださいと言ってきた。
その真剣な様子に考え直し、再度状況を確認するように窓の外に目を凝らした。
「!!」
明るかった空が想像を超えて急速に暗くなってきていた。
今は昼前、厚雲に覆われたといってもこんなに暗くなるとは思えない。確かに外は通常以上に異様なほど暗い気がする。
船員達もこの異常さを不思議だなと感じたのかざわつき始めた。流石にこれは状況を把握しなくては行けないなと思い、船員について行き甲板に出てみることにした。
甲板に出て見えて来た光景は信じ難いものだった。我が目を疑い何度も擦ってみるが変わりはなかった。
ある一部分だけ真っ暗になっていて、真っ暗な暗闇は徐々にこちらに近付いて来ている。
周辺の異常さは暗くなっているだけではなかった。『波がない!』波が低いとかそういうレベルではなく、波が全く無いのだ。
暗闇が近づいてくる方角からは波がまったくなかったのだ。暗闇以外の陽の光が当たっている部分には波が立っている。
暗闇部分から急に波がなくなっている。
なんだこれは!?
波がなくなっている部分はまるで流れの無い池を見ているかのように、さざ波一つ、波紋一つたってない。
船の仕事をするようになり何十年と海を渡ってきているが、こんな光景は初めて見た。
「船長、何ですかこれは?」
船員の問い掛けに反応することが出来なかった。
辺りは真っ暗な闇に包まれさざ波一つ無し。進んでいるのか止まっているのかも分からない感覚となる。
「船長ー、闇が、闇が襲ってきます」
闇が襲ってくる?聞き間違えかと思うほど奇妙な言葉が聞こえてきた。闇に覆われていくと言い間違えたのだろうか?
声の聞こえた方に目を向けるとその言葉の真意が分かり、全身に鳥肌がたち身震いが止められなくなった。
船の後方部分が真っ黒な闇に覆われ、覆われた部分は徐々に消滅しているように見える。何か得体の知れないものに飲み込まれているように見える。
まさに闇に襲われているという言葉がピッタリ合う光景だった。
「全員避難ボートに飛び乗れー!」
もう駄目だ。船を捨て逃げるしかないと思った。
「船長駄目です。前方からも来てます!」
船員は青ざめた顔で震える手を上げ前方を指差していた。
指し示した先もどんどん闇に飲み込まれてしまっていて、もうどうすることも出来ないと身構えた次の瞬間、我々の足元が急に抜け海に放り出されてしまった。
船が急に無くなり、海面に叩きつけられ必死でもがいて浮かび上がり、海上に顔を出して海の上を漂う。
他の船員達も急に海に投げ出された様子で、しばらくジタバタともがいていたが、泳ぎが得意な者が多いのでしばらくすると落ち着き始める。
急に船だけが消え我々は真っ暗闇の海に放り出されてしまった。
自分の身に起きたことが理解出来ずにただ呆然と漂うしかできなかった、こんなところに助けは来てくれるのだろうか?
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
ブラック・スワン ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~
碧
ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)
勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します
華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」
国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。
ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。
その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。
だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。
城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。
この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。
セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました
今卓&
ファンタジー
その日、魔法学園女子寮に新しい寮母さんが就任しました、彼女は二人の養女を連れており、学園講師と共に女子寮を訪れます、その日からかしましい新たな女子寮の日常が紡がれ始めました。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~【完結】
小平ニコ
ファンタジー
大学生の黒木真理矢は、ある日突然、聖女として異世界に召喚されてしまう。だが、異世界人たちは真理矢を見て、開口一番「なんだあの黒い髪は」と言い、嫌悪の眼差しを向けてきた。
この国では、黒い髪の人間は忌まわしき存在として嫌われており、真理矢は、婚約者となるはずであった王太子からも徹底的に罵倒され、国を追い出されてしまう。
(勝手に召喚して、髪が黒いから出てけって、ふざけるんじゃないわよ――)
怒りを胸に秘め、真理矢は隣国に向かった。どうやら隣国では、黒髪の人間でも比較的まともな扱いを受けられるそうだからだ。
(元の世界には戻れないみたいだし、こうなったら聖女の力を使って、隣の国で成り上がってやるわ)
真理矢はそう決心し、見慣れぬ世界で生きていく覚悟を固めたのだった。
豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる