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第八章 生まれたときから火炎魔法を使えた少女

第1話 暗闇の襲われる船

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「船長、今日も絶好の航海日和ですね」

「そうだな」

 我が社の船が行き来する航路は荒れることが多いが、今回の運航は行きも天気に恵まれ、帰りも穏やかな日々が続いていた。

 この日も非常に安定した天気で特に何も起こらない、代わり映えのしない、いつも通りの運航となっていた。

 このまま順調に行けば明日の午前中には大陸が見えてくることだろう。

  天気予報でも到着予定の時刻まで荒れた天気になるなんてことは伝えていない。現在も海の様子は安定し至って穏やか。

 今回も無事に航海を終えられそうだ。

 早く帰り、もうすぐ1歳になる我が子を抱き上げたい、家族と一緒の時を過ごしたい。陸が近付くにつれその思いはいっそう高まっていった。

 その時、慌ただしく船員の一人が操舵室に駆け込んで来た。

「船長!急に外が夜になりました!」

 その言葉に一瞬『何を言っているんだ?』と驚きの表情を向けたが、その言葉を発したのが冗談好きな船員の顔だと分かると、その場にいる全員が『またか』といった表情になり嘲笑いだした。

    その船員は我々のムードメーカー。いつも冗談を言っては笑わせてくる。

「もうすぐ港だ。お前の冗談に付き合っている暇はないぞ」

 私は苦笑いを押さえながらその船員をたしなめる。

「冗談じゃないですよ。甲板に出てみて下さい」

 全員に馬鹿にされ大笑いされているというのに、強張った表情を崩さず船員は外を見るよう促した。

 前方の空は明るく異変はないように思われるが、言われてみると確かに薄暗くなってきているよう気がする。

 後方の空が急速に厚雲に覆われ出しているという事なのだろうか?

 海の天気は変わりやすい、急に厚い雲に覆われるなんてよくある事だ。問題ないだろう。

 厚雲が進行方向まで広がらない事を、空一面を覆ってしまわない事を、海が荒れない事を祈るばかりだ。

 しかしまったく困った奴だ。厚雲に覆われ暗くなっているのを夜になったなどと表現するとは大げさにも程がある。

「夜になったのであれば交代の時間だな。お前はもう寝ろ!」

 私がそう言うと操舵室はまた笑いに包まれた。その様子に船員は怪訝な顔をしながらに語気を強め、再び甲板に出てみてくださいと言ってきた。

 その真剣な様子に考え直し、再度状況を確認するように窓の外に目を凝らした。

「!!」

 明るかった空が想像を超えて急速に暗くなってきていた。

 今は昼前、厚雲に覆われたといってもこんなに暗くなるとは思えない。確かに外は通常以上に異様なほど暗い気がする。

 船員達もこの異常さを不思議だなと感じたのかざわつき始めた。流石にこれは状況を把握しなくては行けないなと思い、船員について行き甲板に出てみることにした。

 甲板に出て見えて来た光景は信じ難いものだった。我が目を疑い何度も擦ってみるが変わりはなかった。

 ある一部分だけ真っ暗になっていて、真っ暗な暗闇は徐々にこちらに近付いて来ている。

 周辺の異常さは暗くなっているだけではなかった。『波がない!』波が低いとかそういうレベルではなく、波が全く無いのだ。

 暗闇が近づいてくる方角からは波がまったくなかったのだ。暗闇以外の陽の光が当たっている部分には波が立っている。

 暗闇部分から急に波がなくなっている。

 なんだこれは!?

 波がなくなっている部分はまるで流れの無い池を見ているかのように、さざ波一つ、波紋一つたってない。

 船の仕事をするようになり何十年と海を渡ってきているが、こんな光景は初めて見た。

「船長、何ですかこれは?」

 船員の問い掛けに反応することが出来なかった。

 辺りは真っ暗な闇に包まれさざ波一つ無し。進んでいるのか止まっているのかも分からない感覚となる。

「船長ー、闇が、闇が襲ってきます」

 闇が襲ってくる?聞き間違えかと思うほど奇妙な言葉が聞こえてきた。闇に覆われていくと言い間違えたのだろうか?

 声の聞こえた方に目を向けるとその言葉の真意が分かり、全身に鳥肌がたち身震いが止められなくなった。

 船の後方部分が真っ黒な闇に覆われ、覆われた部分は徐々に消滅しているように見える。何か得体の知れないものに飲み込まれているように見える。

 まさに闇に襲われているという言葉がピッタリ合う光景だった。

「全員避難ボートに飛び乗れー!」

 もう駄目だ。船を捨て逃げるしかないと思った。

「船長駄目です。前方からも来てます!」

 船員は青ざめた顔で震える手を上げ前方を指差していた。

 指し示した先もどんどん闇に飲み込まれてしまっていて、もうどうすることも出来ないと身構えた次の瞬間、我々の足元が急に抜け海に放り出されてしまった。

 船が急に無くなり、海面に叩きつけられ必死でもがいて浮かび上がり、海上に顔を出して海の上を漂う。

 他の船員達も急に海に投げ出された様子で、しばらくジタバタともがいていたが、泳ぎが得意な者が多いのでしばらくすると落ち着き始める。

 急に船だけが消え我々は真っ暗闇の海に放り出されてしまった。

 自分の身に起きたことが理解出来ずにただ呆然と漂うしかできなかった、こんなところに助けは来てくれるのだろうか?

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