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第五章 ついに決勝戦!
第37話 今日で最後
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友崎戦9回、勝ち越しホームランを浴びてしまったあの日、皆んなは気丈に振る舞い誰ももうダメかもなんて素振り、微塵も感じさせなかった。
大丈夫、今日も必ず逆転してくれる。それには僕が先陣を切らねば!
「よっしゃー、行くぞー」
バットを手に取りヘルメットを被ると大きく声を上げた。そして太田君に向かって拳を突き出した。
「必ず逆転して見せるから!」
「うん」
「おー、行ってこいや!」
「柳澤先輩、カッコいいー」
*
先頭バッターを力強く送り出すとベンチ前で円陣を作った。
「ついに最終回だね、皆さん本当に今までありがとうございました」
「またかよ!空気読んで気の利いたこと言えよ。しんみりしたこと言われる気分じゃねーんだけど」
「でた!うわべだけキャプテン」
「見栄張ってキャプテンぽいこと言おうとしてんじゃねーよ」
俺が真面目に話をしようとするといつもこれだ。
「松井先輩の怪我とかあったし、上手くいかなくて色々ぶつかる事もあって本当に苦労したけど、やっとここまで来れました。最後は絶対勝って終わりにしましょう」
「おー」
「何だそりゃー、ありきたりなこと言いやがって」
「なーんか、良太に正論言われると腹立つんだよなー」
松井先輩にヘッドロックされて、藤井先輩に蹴りを入れられた。それを見た康ちゃんは先輩方を囃し立てる。
ここ数ヶ月間、毎日ずっと一緒に過ごしてきたわけだが、それも今日で終わり。
県大会で上位の成績を収めると地区大会に進める。そこで上位になると選抜大会への参加となる。
でも選抜大会の時期にはもう母校は無くなってしまっているので、地区大会への参加は辞退することに決まっていた。
つまり今日が最後、もう先輩方と戯れ合うこともなくなってしまうことだろう。
手加減なく痛ぶってくるのでかなり痛かったが、なくなると思うと寂しく感じるのは何故だろうか。
「うるさーい!いつまで遊んでるんだー!一緒に柳澤の応援しろー!」
「すいませんでしたー」
ベンチ前で戯れあっているとヨッシーに怒られてしまった。
「戯れあってて怒鳴られるの、なんかデジャブなんですけど!」
「そーいえばそんなことあったなー、いつだっけ?」
それはきっと久々に集まった第二体育館での出来事のことだろう。でもそれは今は関係ないでしょ。
「いいから柳澤先輩の応援でしょ。せんぱーい、ボールよく見て、コンパクトにスイングですよー」
「涼介君なら絶対打てるよー」
「振らねーと当たらないからなー」
「コラー、あんだけカッコいいこと言ったんだから、打てなかったらただじゃおかねーぞー」
だー、もー、藤井先輩は何でそういうこと言うんだろ!
「応援になってねーぞ、それー」
*
応援してんのか脅迫してんのか全然わからないな。
バッターボックスに向かおうとしたら湯原が何やら準備に手間取っていたので、祐希君が僕に駆け寄ってきてバットを渡してきた。
と言ってもバットを渡すのはカモフラージュで、近寄って来たのには別の理由があった。
「まともに対決したら絶対に打てない、でも堀口は疲れきってボールの切れが本来の球筋じゃない。今なら絶対に打てる、よーくボールを見て引き付けて打つ、頑張って」
それだけ?初球インコースにフォーシームが来るから狙ってみてとか言われると思ったのに。
要するに大分疲れてきているから、粘って甘いボールが来るのを待てばいいってことか?
焦りは禁物、じっくり見ていけという事なのだろう。
祐希君の言葉に大きく頷き呼吸を整えた。決勝戦、おそらく僕の最初で最後の打席だろう。
絶対に結果を出してやる。絶対にランナーに出てやる。
「ボール」
「!!」
全国ベスト4ピッチャー、どれだけのものかと思ってバッターボックスに立った。物凄いボールが来ると思っていたのだが、思ったほどではないと感じた。
初球のストレートは外角に外れ、皆んなが言っていたほどグニャグニャ曲がる訳でもなかった。
正直打てるかもと思った。やはり疲れから本来の投球ができなくなっているのだろうか?
「ストライーク」
えっ!今の何!?なんか途中から急加速して、伸び上がってくるような感じだったぞ。
今のがフォーシームってヤツか?
打てそうと思っていたけど、今の1球で自信は崩壊してしまった。皆んなこんなのよく打っていたな!タイミング合わせるのメッチャ大変そう。
「コラー、振らねーと当たらねーって言ったろー」
松井君からキツめのヤジが飛んできた。確かにそうだ、とにかく振ってみよう。
目を瞑り祐希君の言葉を思い出す、フォーシームは回転の関係で空気の抵抗が少ないので、初速と終速が極端に少ない。だから伸びのあるボールに見えて尚且つ少し沈む感じになる。
堀口の投球はけっこうパターンがあって、インコースに伸びのあるフォーシームを見せた後、アウトコースに沈むツーシームを投げることが多い。
狙ってみるか。
『カキーーン』
『打ったー、痛烈ー、右中間ー、、』
堀口のツーシームがどんなボールなのか知らないが、外角に投げ込まれたボールを思いっきり振り抜いた。
手にズシンとした感触が残り、セカンドの頭を越え右中間方向に飛んでいった。
『捕ったー、センター寺田選手ダイビングキャッチー、ファインプレー、ファインプレイを見せてくれましたーっ!センター寺田選手、再三に渡って好プレイを連発しチームを救いまーす』
外野の間を抜けるかと思ったがセンターが飛び込んできた。
必死の形相で飛び込んできた。
抜けていたらノーアウト2塁という絶好のチャンスを迎えられたのに。ワンナウトランナー無し。
「あー、マジかー、そりゃーないよー、いい当たりだったのになー」
「柳澤ー、良い打球だったぞー、ナイスバッティングだ。次だ、次頑張ろう」
次なんてあるのかよー、あー、太田君ごめーん、皆んなごめーーん。
大丈夫、今日も必ず逆転してくれる。それには僕が先陣を切らねば!
「よっしゃー、行くぞー」
バットを手に取りヘルメットを被ると大きく声を上げた。そして太田君に向かって拳を突き出した。
「必ず逆転して見せるから!」
「うん」
「おー、行ってこいや!」
「柳澤先輩、カッコいいー」
*
先頭バッターを力強く送り出すとベンチ前で円陣を作った。
「ついに最終回だね、皆さん本当に今までありがとうございました」
「またかよ!空気読んで気の利いたこと言えよ。しんみりしたこと言われる気分じゃねーんだけど」
「でた!うわべだけキャプテン」
「見栄張ってキャプテンぽいこと言おうとしてんじゃねーよ」
俺が真面目に話をしようとするといつもこれだ。
「松井先輩の怪我とかあったし、上手くいかなくて色々ぶつかる事もあって本当に苦労したけど、やっとここまで来れました。最後は絶対勝って終わりにしましょう」
「おー」
「何だそりゃー、ありきたりなこと言いやがって」
「なーんか、良太に正論言われると腹立つんだよなー」
松井先輩にヘッドロックされて、藤井先輩に蹴りを入れられた。それを見た康ちゃんは先輩方を囃し立てる。
ここ数ヶ月間、毎日ずっと一緒に過ごしてきたわけだが、それも今日で終わり。
県大会で上位の成績を収めると地区大会に進める。そこで上位になると選抜大会への参加となる。
でも選抜大会の時期にはもう母校は無くなってしまっているので、地区大会への参加は辞退することに決まっていた。
つまり今日が最後、もう先輩方と戯れ合うこともなくなってしまうことだろう。
手加減なく痛ぶってくるのでかなり痛かったが、なくなると思うと寂しく感じるのは何故だろうか。
「うるさーい!いつまで遊んでるんだー!一緒に柳澤の応援しろー!」
「すいませんでしたー」
ベンチ前で戯れあっているとヨッシーに怒られてしまった。
「戯れあってて怒鳴られるの、なんかデジャブなんですけど!」
「そーいえばそんなことあったなー、いつだっけ?」
それはきっと久々に集まった第二体育館での出来事のことだろう。でもそれは今は関係ないでしょ。
「いいから柳澤先輩の応援でしょ。せんぱーい、ボールよく見て、コンパクトにスイングですよー」
「涼介君なら絶対打てるよー」
「振らねーと当たらないからなー」
「コラー、あんだけカッコいいこと言ったんだから、打てなかったらただじゃおかねーぞー」
だー、もー、藤井先輩は何でそういうこと言うんだろ!
「応援になってねーぞ、それー」
*
応援してんのか脅迫してんのか全然わからないな。
バッターボックスに向かおうとしたら湯原が何やら準備に手間取っていたので、祐希君が僕に駆け寄ってきてバットを渡してきた。
と言ってもバットを渡すのはカモフラージュで、近寄って来たのには別の理由があった。
「まともに対決したら絶対に打てない、でも堀口は疲れきってボールの切れが本来の球筋じゃない。今なら絶対に打てる、よーくボールを見て引き付けて打つ、頑張って」
それだけ?初球インコースにフォーシームが来るから狙ってみてとか言われると思ったのに。
要するに大分疲れてきているから、粘って甘いボールが来るのを待てばいいってことか?
焦りは禁物、じっくり見ていけという事なのだろう。
祐希君の言葉に大きく頷き呼吸を整えた。決勝戦、おそらく僕の最初で最後の打席だろう。
絶対に結果を出してやる。絶対にランナーに出てやる。
「ボール」
「!!」
全国ベスト4ピッチャー、どれだけのものかと思ってバッターボックスに立った。物凄いボールが来ると思っていたのだが、思ったほどではないと感じた。
初球のストレートは外角に外れ、皆んなが言っていたほどグニャグニャ曲がる訳でもなかった。
正直打てるかもと思った。やはり疲れから本来の投球ができなくなっているのだろうか?
「ストライーク」
えっ!今の何!?なんか途中から急加速して、伸び上がってくるような感じだったぞ。
今のがフォーシームってヤツか?
打てそうと思っていたけど、今の1球で自信は崩壊してしまった。皆んなこんなのよく打っていたな!タイミング合わせるのメッチャ大変そう。
「コラー、振らねーと当たらねーって言ったろー」
松井君からキツめのヤジが飛んできた。確かにそうだ、とにかく振ってみよう。
目を瞑り祐希君の言葉を思い出す、フォーシームは回転の関係で空気の抵抗が少ないので、初速と終速が極端に少ない。だから伸びのあるボールに見えて尚且つ少し沈む感じになる。
堀口の投球はけっこうパターンがあって、インコースに伸びのあるフォーシームを見せた後、アウトコースに沈むツーシームを投げることが多い。
狙ってみるか。
『カキーーン』
『打ったー、痛烈ー、右中間ー、、』
堀口のツーシームがどんなボールなのか知らないが、外角に投げ込まれたボールを思いっきり振り抜いた。
手にズシンとした感触が残り、セカンドの頭を越え右中間方向に飛んでいった。
『捕ったー、センター寺田選手ダイビングキャッチー、ファインプレー、ファインプレイを見せてくれましたーっ!センター寺田選手、再三に渡って好プレイを連発しチームを救いまーす』
外野の間を抜けるかと思ったがセンターが飛び込んできた。
必死の形相で飛び込んできた。
抜けていたらノーアウト2塁という絶好のチャンスを迎えられたのに。ワンナウトランナー無し。
「あー、マジかー、そりゃーないよー、いい当たりだったのになー」
「柳澤ー、良い打球だったぞー、ナイスバッティングだ。次だ、次頑張ろう」
次なんてあるのかよー、あー、太田君ごめーん、皆んなごめーーん。
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