廃校が決まった母校の名前を、高校野球史に刻め!

加藤 佑一

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第五章 ついに決勝戦!

第29話 お調子者ばかり

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「下々の者たちー、締まっていくぞー」

「おー」

「今度は下々になっちゃったよ」

「太田せんぱーい、今日は上機嫌ですねー」

 8回が始まる前、晃ちゃんは元気よく掛け声を上げた。その様子にナインは呆れた声をあげていた。

 まあ機嫌が良いのも当然だろう、今日は絶好調だしチームの雰囲気も最高だ。

 あと6個アウトを取れば優勝できるのだが、気負うような様子はまったくなく、無邪気に野球を楽しんでいるような雰囲気だった。

 今の状態ならこの2点差があれば十分安全圏といえるだろう。

 あとは確実にアウトの数を増やしていけばいいと思っていたのだが、、。

「あれ!?」


『打ったー、レフト前ヒットー、湯原も前の回に続きノーアウトのランナーを出して来ましたー』


 この回も0点で抑えてやると意気込んでいたが、いきなり打たれてしまった。俺は慌ててマウンドに駆け寄った。

「晃ちゃん、サイン間違えてない?」

「えっ!あー!かも!?」

「頼むよ、もー!よし、今のは忘れよう。次から気を付けてくれよ」

「了解でーす」

 あはは、しょうがない奴だ。いきなりやってくれたよ。

 この回からサインを変える事にしたのに、忘れてしまっていたようだ。カーブのサインだったのにストレートを投げちゃってるし。

 ストレート狙いで来ているから紛らわせるために、せっかく配球考えてやってんのによー、頼むよ。

 有頂天になり過ぎるのも良くないな。

「ごめーん、僕がサイン見間違えたから、打たれちゃったー」

「何やってんのー」

「そんな事わざわざ報告するなー」

「キャハハはは、先輩、馬鹿正直すぎます」

 こうなったらまたバント阻止するしかない。そう思っていたが流石に2度は続かなかった、、。


『送りバント成功ー、ワンナウトランナー2塁です』


 ミスからのヒット、そしてバント、ここまでは仕方ない。

 ここからきっちり抑える事ができれば問題ないんだ。拮抗した試合では1つのミスが命取りになる事はあり得る事だ。ここからはミスは禁物だ。

 十分注意していこう。

「お前等ー、気抜くなよー、集中、集中」

「おー」

 グラウンドに向かって、特に晃ちゃんに向かって大声を上げる。


「ボール」


「晃ちゃーん、それでいい、ゆっくり行こう」

 サイン違いだったとはいえストレートが打たれてしまったので、カーブから入った。

 やはりカーブには反応しない。

 カーブでポンポンと2ストライクに出来れば、かなり楽なピッチングにさせれるのだが、自分の想像以上に曲がってしまうので、終盤になってもいまいちコントロールしきれてないようだ。

 翔真はど真ん中に投げちまえって言ってるけど、流石にそれは危ないだろう。

 ただ7番に当たりは出ていない。甘くなっても良いので、ストライクゾーンで勝負させよう。


「ストライーク」


「ナイスボールだー」

 狙い通りだった。甘めで良いと思って投げさせたカーブは、ストライクゾーンギリギリを捉えてくれた。


「ストライーク」


「しゃーっ!絶好調!」

「ナイスピーだー、でも集中なー、詰め誤るなよー」

 2球続けてストライクの判定を受け上機嫌なのはいいが、締めるとこは締めないとな。

 さあここからだ。ここからどうするかだ。2ストライクになってストレートだけを待ってるわけにはいかなくなっただろう。

 3球カーブが続いている。カーブのイメージが強くなっている事だろう。ストレートを投げれば打ち取れるだろうか?カットボールにするか?それともカーブで押し切れるか?


『空振りー、空振りで三振に打ち取りましたー』


「よーし、ナイスピー」

「絶好調じゃねーか、このヤロー」

「晃ちゃーん、今日一番のカーブだったぞー」

「おーい、またボールこなくなっちゃたぞー!」

 1ボール、2ストライクということを利用し、無理にストライクゾーンに投げる必要はないと判断し、カーブを続けた訳なのだが、まんまと空振りしてくれた。

 不用意なスイングだった。見逃すべきか、カットすべきか決めかねている様な中途半端なスイングだった。

 まあ向こうもそれなりに追い詰められて、プレッシャーを感じているのだろう。

 さあ次だ。次のバッターがこの試合のキーパーソンとも言えるバッターだ。

 選球眼がよくバットコントロールも上手い。フォアボール2つにヒット、今日は3打席とも出塁している。

 このバッターを打ち取る事ができれば勝利をぐっと引き寄せることが出来るだろう。

「ツーアウトー、バッター集中ね」

「了解」


「ファール」


 くっそー、ファールかー、今のが内野ゴロになってくれていれば最高だったんだけどなー。

 初球カットボールから入った。それほど強くない打球が3塁線方向に転がって行って、康誠がキャッチしたがそこはファールゾーンだった。

「バッター、合ってないよー、その調子ー」

「おー」


「ファール」


 危なかったー、同じくカットボールを投げたが今度は痛烈な打球が1塁線方向に飛んでいった。

 もしかしてカットボールの軌道に合わせて、瞬時に修正してきているのか?やっぱり曲者のバッターだなコイツ。

 しかしこれで2ストライクになったぞ。

 有利なカウントにいけるかもと思ったので次のボールは、カーブを選択した。


「ボール」


 7番バッターを打ち取った時のようなカーブを投げさせたのだが、余裕を持って見逃してきた。

 マジかよコイツ!面倒臭い奴だなー。

 でも本当に分かって見逃しているのだろうか?

 実はただ手が出ないだけなのではないだろうか?

 そう思って同じボールを続けた。そしたらまた見逃してきた。

 これはカーブでいけると思った第5球目だった、、。


『カキーーン』


「!!」

 カーブを完璧に捉えられ痛烈な打球が飛んでいったので心臓が止まりかけたが、打球は翔真のグラブに収まっていた。

「おー!ナイスキャッチーっ!!」

「へっ!こんなの軽い、軽い」

「ありがとー、お前がショートで本当に良かったよー」

「そうだろ、そうだろ、下々の者どもよ。もっと褒めて良いんだぞ」


「まーた、お調子者が増えたよ」

 レフトから走って来た良太は翔真を白い目で見ながらボソリと言った。

「何ー!人のこと言えるのかー、アホ良太!オメーが一番のお調子者だろー」

 まーた、戯れ合いが始まったよ!

 コイツ等は一体どういう神経してんだ?お前等にはプレッシャーを感じるとかいうものはないのかよ!

 あと3アウト取ったら優勝なんだぞ!


 8回表終了 3対5

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