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第五章 ついに決勝戦!
第25話 西口と祐希
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僕は1塁へ走って行く山下君の姿を、ネクストバッターズサークルから苦々しい思いで見ていた。
山下君は足が速いので内野安打になる確率が高い。それに比べ僕は足も速くないし、打率も低い。
当然の選択だとは思うが、やっぱり悔しい。
「あいつら、西口のこと舐めやがってー」
「西口は当たりが出ていない、、僕が向こうの監督なら同じ決断をしただろう」
「くっそー、卑怯な真似しやがってー」
「勝負は非情だ、相手のウイークポイントを付いてくるのは当たり前」
「でも智輝君は打ちますよ。必ずね」
「祐希?何か策でもあるのか?」
「ええ、試合開始前からずっと作戦実行中です。そろそろ結果が出ると思います」
バッターボックスに入る前にベンチの方を見ると祐希君と目が合った。軽く頷くとこちらに拳を突き出しエールを送ってきた。
「ふぅーー、、」
無駄な力が入らないように大きく息を吐き、体をリラックスさせる。
敬遠のことは考えるな、ツーアウト、ランナー1、3塁。絶好の好機で僕に打順が回ってきたんだ。
僕は体操の個人種目の選手だった。だからチーム一丸となって勝利を目指すことがこんなに楽しいことや、皆んなと勝利を分かち合える事がこんなに嬉しいことだなんて知らないでいた。
皆んなは僕にそれを何度も味合わせてくれた。
今度は僕が皆んなを勝利に導きたい。
その絶好の機会が来たんだ。
「よーし、行くぞー!」
「おー、いったれー!」
さあ来い!
勝っても負けても今日でこのチームは終わりなんだ!
今日結果が出なければ僕は一生負け犬だ!
目を瞑りバットに祈りを込める。
「智輝くーん、頑張れー!」
「西口ー、負けんじゃねーぞー!」
「せんぱーい、ボールよく見て行きましょう!」
対戦相手が湯原と決まった瞬間から堀口の球筋を何度も何度も動画で見て、タイミングを合わせる練習をしてきた。
でも実際にバッターボックスで見ると全然違って見えた。タイミングを合わせることがまったくできなかった。
祐希君はそれで良いと言ってくれた。タイミングが合わなくても振ることが重要だと言っていた。振らないと打てないんだからと言っていた。
君の言葉を信じ、練習してきたことを信じ振り抜くのみ。
『6回裏の耶麻高校の攻撃はツーアウトでランナー1塁、3塁です、迎えるは7番西口選手。ピッチャー振りかぶってー、第1球投げましたー』
『カキーーン!』
「!!」
『打ったー、ピッチャーの足元ーー、抜けた、抜けたーー、センター返しーー。センター前ヒットーー。三塁ランナー悠々とホーーームイン。勝ち越しーー、勝ち越しのタイムリーヒットーー、内角のボールを鋭く振り抜きましたーっ!』
「ぎゃーーっ!!打ちやがったーっ!!」
「うぉーーっ!!出た、出た、出たーーっ!!」
「ぎょえーーっ!!マジか!?マジかーっ!!」
「やった、やったー、やったぞーーっ!!シャーっ!やってやったぞーーっ!!」
「おーっ!ナイバッチィー!!」
「せんぱーい、ナイスバッティングーっ!!」
「見事だったぞー、ナイバッチーだーっ!!」
嬉しすぎて何度も何度もベンチに向かって、祐希君に向かってガッツポーズをした。
ありがとう。バッターボックスに向かう前に君から受けたアドバイスのお陰で本当に打てたよ。
本当に君は凄い。
「結構な確率で初球は内角フォーシームで入ることが多いから、そこを狙ってみるといいよ」
完璧だった。完璧に当たっていた。初球内角にフォーシームが来ることに賭けてバットを振り抜いた。
ありがとう、ありがとう。僕一人では絶対に打てなかった。君のお陰で全国ベスト4ピッチャーからタイムリーを打つ事ができたよ。
『そして混乱に乗じ、山下選手は3塁を陥れていましたー』
『単独スチールだったのかエンドランがかかっていたのか、山下選手走っていましたねー。ナイスランです』
「あんにゃろー、抜け目のない走塁しやがってー」
「流石盗人の隼人だなー」
「誰が盗人だー!僕は智ちゃんが打つって知ってたからねー。これくらい当然よー」
『山下選手の好走塁もあってツーアウトランナー1、3塁としました。さあ耶麻校打線のお家芸、集中打が出てこの回ビッグイニングとしてしまうのでしょうか?』
*
マジかー、完璧にやられたー!
堀口がグラブを差し出した時にはもう足元を抜け、白球はセンター前に転々と転がっていっていた。
それだけ強い打球だった。完璧に捉えられていた。打率が低い選手と甘く考えていた。
彼も毎試合2桁安打を打って来ている耶麻校打線の一員だった。
くそー、失敗だった。
今の勝負を後悔しても仕方がない。切り替えて次の打者を打ち取ることに集中しよう。
「ごめん、多分配球読まれていた。迷いなく振ってきやがった」
堀口のグラブにボールを叩きつけるようにしながら言った。
「北野のせいじゃないよ、僕のボールに力が無かっただけさ、さあ切り替えて集中しなおそう」
「おー」
改めて思う、良いチームだと。スイングは鋭いし、守備も安定している。ピッチャーも絶好調だし、何より皆んな伸び伸びとプレイしている。
でもこっちだって負けられない理由がある。この回は絶対1点で終わらせる。
「お前等ー、この1点で終わらせるぞー、締まってくぞー、気合い入れて行くぞー」
「おー」
自分を鼓舞するように声を上げ集中する。
次のバッターは友崎戦の時は5番を打っていたバッターだ。怪我で打順下がったみたいだが、怖いバッターであることは間違い無いだろう。
気の抜けないバッターばかりで本当に面倒だ。
「ストライーク」
よし、フォーシームで空振りを取る事ができた。まだまだ伸びがある。全然負けてなんかいない。
やはり先ほどは不用意すぎたんだ。キチンと配球考えて投げればこんなものよ。
『サードー、捕ってファースト送球ー、アウトー、2者残塁となってしまいましたが、耶麻高校この回、1点勝ち越しに成功しましたー』
「サードゴロだって、ダサっ!」
「お前だってファーストゴロだったろ!」
「僕はチャンスに強いんです」
「お前の時もセカンドにランナーいたろ!」
「そうでしたっけ?」
「そうでしたっけじゃねーよ!」
「貴洋、だからアホ相手にムキになるなって」
6回裏終了 3対4
山下君は足が速いので内野安打になる確率が高い。それに比べ僕は足も速くないし、打率も低い。
当然の選択だとは思うが、やっぱり悔しい。
「あいつら、西口のこと舐めやがってー」
「西口は当たりが出ていない、、僕が向こうの監督なら同じ決断をしただろう」
「くっそー、卑怯な真似しやがってー」
「勝負は非情だ、相手のウイークポイントを付いてくるのは当たり前」
「でも智輝君は打ちますよ。必ずね」
「祐希?何か策でもあるのか?」
「ええ、試合開始前からずっと作戦実行中です。そろそろ結果が出ると思います」
バッターボックスに入る前にベンチの方を見ると祐希君と目が合った。軽く頷くとこちらに拳を突き出しエールを送ってきた。
「ふぅーー、、」
無駄な力が入らないように大きく息を吐き、体をリラックスさせる。
敬遠のことは考えるな、ツーアウト、ランナー1、3塁。絶好の好機で僕に打順が回ってきたんだ。
僕は体操の個人種目の選手だった。だからチーム一丸となって勝利を目指すことがこんなに楽しいことや、皆んなと勝利を分かち合える事がこんなに嬉しいことだなんて知らないでいた。
皆んなは僕にそれを何度も味合わせてくれた。
今度は僕が皆んなを勝利に導きたい。
その絶好の機会が来たんだ。
「よーし、行くぞー!」
「おー、いったれー!」
さあ来い!
勝っても負けても今日でこのチームは終わりなんだ!
今日結果が出なければ僕は一生負け犬だ!
目を瞑りバットに祈りを込める。
「智輝くーん、頑張れー!」
「西口ー、負けんじゃねーぞー!」
「せんぱーい、ボールよく見て行きましょう!」
対戦相手が湯原と決まった瞬間から堀口の球筋を何度も何度も動画で見て、タイミングを合わせる練習をしてきた。
でも実際にバッターボックスで見ると全然違って見えた。タイミングを合わせることがまったくできなかった。
祐希君はそれで良いと言ってくれた。タイミングが合わなくても振ることが重要だと言っていた。振らないと打てないんだからと言っていた。
君の言葉を信じ、練習してきたことを信じ振り抜くのみ。
『6回裏の耶麻高校の攻撃はツーアウトでランナー1塁、3塁です、迎えるは7番西口選手。ピッチャー振りかぶってー、第1球投げましたー』
『カキーーン!』
「!!」
『打ったー、ピッチャーの足元ーー、抜けた、抜けたーー、センター返しーー。センター前ヒットーー。三塁ランナー悠々とホーーームイン。勝ち越しーー、勝ち越しのタイムリーヒットーー、内角のボールを鋭く振り抜きましたーっ!』
「ぎゃーーっ!!打ちやがったーっ!!」
「うぉーーっ!!出た、出た、出たーーっ!!」
「ぎょえーーっ!!マジか!?マジかーっ!!」
「やった、やったー、やったぞーーっ!!シャーっ!やってやったぞーーっ!!」
「おーっ!ナイバッチィー!!」
「せんぱーい、ナイスバッティングーっ!!」
「見事だったぞー、ナイバッチーだーっ!!」
嬉しすぎて何度も何度もベンチに向かって、祐希君に向かってガッツポーズをした。
ありがとう。バッターボックスに向かう前に君から受けたアドバイスのお陰で本当に打てたよ。
本当に君は凄い。
「結構な確率で初球は内角フォーシームで入ることが多いから、そこを狙ってみるといいよ」
完璧だった。完璧に当たっていた。初球内角にフォーシームが来ることに賭けてバットを振り抜いた。
ありがとう、ありがとう。僕一人では絶対に打てなかった。君のお陰で全国ベスト4ピッチャーからタイムリーを打つ事ができたよ。
『そして混乱に乗じ、山下選手は3塁を陥れていましたー』
『単独スチールだったのかエンドランがかかっていたのか、山下選手走っていましたねー。ナイスランです』
「あんにゃろー、抜け目のない走塁しやがってー」
「流石盗人の隼人だなー」
「誰が盗人だー!僕は智ちゃんが打つって知ってたからねー。これくらい当然よー」
『山下選手の好走塁もあってツーアウトランナー1、3塁としました。さあ耶麻校打線のお家芸、集中打が出てこの回ビッグイニングとしてしまうのでしょうか?』
*
マジかー、完璧にやられたー!
堀口がグラブを差し出した時にはもう足元を抜け、白球はセンター前に転々と転がっていっていた。
それだけ強い打球だった。完璧に捉えられていた。打率が低い選手と甘く考えていた。
彼も毎試合2桁安打を打って来ている耶麻校打線の一員だった。
くそー、失敗だった。
今の勝負を後悔しても仕方がない。切り替えて次の打者を打ち取ることに集中しよう。
「ごめん、多分配球読まれていた。迷いなく振ってきやがった」
堀口のグラブにボールを叩きつけるようにしながら言った。
「北野のせいじゃないよ、僕のボールに力が無かっただけさ、さあ切り替えて集中しなおそう」
「おー」
改めて思う、良いチームだと。スイングは鋭いし、守備も安定している。ピッチャーも絶好調だし、何より皆んな伸び伸びとプレイしている。
でもこっちだって負けられない理由がある。この回は絶対1点で終わらせる。
「お前等ー、この1点で終わらせるぞー、締まってくぞー、気合い入れて行くぞー」
「おー」
自分を鼓舞するように声を上げ集中する。
次のバッターは友崎戦の時は5番を打っていたバッターだ。怪我で打順下がったみたいだが、怖いバッターであることは間違い無いだろう。
気の抜けないバッターばかりで本当に面倒だ。
「ストライーク」
よし、フォーシームで空振りを取る事ができた。まだまだ伸びがある。全然負けてなんかいない。
やはり先ほどは不用意すぎたんだ。キチンと配球考えて投げればこんなものよ。
『サードー、捕ってファースト送球ー、アウトー、2者残塁となってしまいましたが、耶麻高校この回、1点勝ち越しに成功しましたー』
「サードゴロだって、ダサっ!」
「お前だってファーストゴロだったろ!」
「僕はチャンスに強いんです」
「お前の時もセカンドにランナーいたろ!」
「そうでしたっけ?」
「そうでしたっけじゃねーよ!」
「貴洋、だからアホ相手にムキになるなって」
6回裏終了 3対4
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