廃校が決まった母校の名前を、高校野球史に刻め!

加藤 佑一

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第五章 ついに決勝戦!

第24話 キャプテンはズルい

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「ホント良太の奴は美味しいとこだけ持ってくよなー」

「普段、まったく役に立ってないのにズルいですよね」

 藤井先輩と一緒に妬むような目を向けてやった。

「まあ神は乗り越えられる者にしか試練を与えないって言いますからね。今のは良太様にしか出来ないスーパープレイでしたね」

 腰に手を当て顎を上げ、ドヤ顔をしながら言ってくる。今のプレイで良ちゃんは完全に有頂天になっていた。

「はいはい」

「何が乗り越えられる試練だよ。試練は乗り越えられても、試験は乗り越えられないで赤点ばっかじゃねーか」

「キャハハはは、そうだ、そうだ、赤点大王め!」

「何ー!それは今関係無いでしょ。全くー、良いプレイして余韻に浸っていたのに、ウチの部には気分爽快にさせる爽やか青年はいないんかー!」

「いんじゃん、俺のことだろ」

「藤井先輩は性格が悪いので却下」

「俺だろ」

「松井先輩は見た目が暑苦しいので却下」

「僕でしょ」

「太田先輩は天然なので却下」

「じゃあ僕だー」

「それはない」「それはない」「それはない」

「なんで僕の時だけ皆んなで一斉に言うんですかー?」

「くっそー、この怒り全部打席に込めてやる、、」
 
 そう言いながらこの回の先頭バッターの僕は勢いよく飛び出した。

 僕は取り敢えずの目標として、良ちゃんより活躍する事を掲げている。

 今日の打撃の成績はお互い2打数1安打だ。でも守備での貢献度が全然違う。打球の処理数は僕の方が全然多いが、良ちゃんは難しいフライを2度も処理している。

 守備での貢献度は断然上だろう。

 ここはなんとしても塁に出て差をつけたい。ウチの打線は初回以降、沈黙してしまっている。

 反撃開始となるような景気付けの一発を放ってやる!

「やってやるぞー!」

「おー、康誠ー、やっちまえー!」


「ストライーク」


「!!」

 初球内角にフォーシームが投げ込まれてきた。もう後半戦だというのに相変わらずの迫力である。

 早いカウントのうちに勝負を賭けたいのに、手も出せないような気迫が籠っていた。

 くっそー、ホントバケモンだな。球速上がってないか?

 そして次は遅いボールなんだろ?それとも裏をかいてくるのか?

 どちらにしろツーストライク取られる前に勝負だ!


『打ったー、1、2塁間ー、抜けた、抜けたー、ライト前ヒットー、先頭バッター出ましたー』


「よっしゃー!捉えたーっ!

「うぉー!康生、ナイバッチィ!」

「今のツーシームでしょ?コーチ遂に捉えましたね!」

「流石、康誠だよ!ようやく攻略してくれた!これは大きい、こちらに流れが来るかもしれないぞ!」

 先輩方が打ちあぐねていたツーシームを弾き返してやった!これは良ちゃんのファインプレイにも負けないファインプレイだったでしょ。

「どーだー、誰かと違ってちゃんと自力で試練乗り越えたぞー」

「誰かって、誰の事言ってんだー、コラーっ!」





「石橋君、ナイバッチィー」

 流石、石橋君だ、お手本のようにツーシームをライト方向に流し打ちにした。

 僕は1打席目はホームランだったけど、2打席目は三振だった。堀口との対戦成績は1勝1敗といったところだろう。

 それに対し石橋君は3打数2安打だ。打率は石橋君の方が上だ。

 よーし、僕も負けてられない!打って勝ち越すぞー。


「ストライーク」


 これだ、このストレートが捉えられない。

 僕には対策してきていると思っている、ツーシームもフォーシームも投げて来ないだろう。

 僕の予想では夏の大会ツーシーム、フォーシームを多投してストレート、チェンジアップをあまり投げてなかったのはコントロールに難があるためだと思う。

 これだけグニャグニャ曲がるんだ、コントロールできる訳がない。カウントを悪くすれば必ずツーシーム、フォーシームが来る、そこを狙ってやる!


「ファール」


『1打席目はホームラン、2打席目は三振、3打席目はなかなか勝負が付きません。フルカウントとなって、第9球目投げたー』


『カキーーン』


「!!」


『痛烈ーー、痛烈な打球がセカンドを襲いましたーー、セカンドのグラブを弾きボールはファースト方向へー、ファースト掬い上げてベースを踏みアウトー。中村選手としてはなんとも勿体無い打席となってしまいましたー。しかしその間にランナー進塁しワンアウト2塁です』


「マッジーっ!そんなのありーっ!くっそー、捉えたと思ったのにー」

 手応え十分な打球を打ち返すことができたので、気持ちよく1塁へ走り出したら、打球がセカンドに弾かれ転々とボールが転がったのが見えた。

 ファーストがボールを掬い上げたのが見えたので、アウトになるものかと全力疾走したのだが間に合わなかった。

「あー、ついてないなー」

「O K、OK、中村ナイバッチィ」

 そう言ってコーチは僕のことを拍手しながら迎えてくれた。顔を上げると高田君が付け加えてくる。

「将大君、肩落とさない、アウトになったけど今のは大きいよ。今のツーシームでしょ。2連続でツーシーム痛打されてきっと向こうは動揺してるよ」

「そうだぞ中村、今の対決は必ず次に生きる。一緒に良太を応援しようじゃないか」

「はい」





「キャプテーン、後は頼むー」

「おー、任せといてください」

 やっぱ野球は楽しいなー、試合しているときが一番楽しい。チーム一丸となって勝利に向かっている感じが本当に楽しい。

 今日で最後ってのが悲しいが、皆んなで優勝目指して死ぬほど練習して来たんだ。キャプテンを任されている身として、勝って終わりにするために、ここは絶対に打つ!


『痛烈ーー、痛烈な当たりでしたがファール。レフト線切れてファールです」


「くっそー、勿体無い。あとちょっと左だったらなー」

「左??それをいうなら右だろ!?アホ丸出しなこと言うな!」

「うっさい!逆から見た時のこと言ったんだよ!」

「はー?なんで逆から見る必要があんだよー?」

 くっそー、揚げ足取るようなことばっかり言ってきやがってー、まあこの憎まれ口も今日で最後だと思ったら寂しいか。


『痛烈ーー、上手く外角のボールに合わせ、ライト方向に痛烈な打球を飛ばしましたが、ライト線切れてファールです」


「コラーっ!ちゃんと前に飛ばせよ、前に!」

「うっせー、今からやるから黙って待っとけ!」

 なんで前に飛ばないんだろ?おっかしいなー?振り負けてんのかな?

 2球ファールになった後の3球目だった、、。

「!!」


「ボール」


「あぶねー!!」
 
 胸元すぐ近くに投げ込まれたので、身を縮め仰け反ってそれを交わしたような感じになった。

 わざと?と思ってピッチャーを睨み付けたが、そうではなさそうだ。帽子をとって頭を下げている。

 球速は衰えてはいないが、それなりに疲れは溜まっているのだろうか?それなのに俺は力負けしてんのかよ?


「ピッチャー疲れてるよー」

 やっぱりそうか、先輩方から見ても疲れているように見えるのならそうなんだろう。

「アホー、当たっとけよ!」

「何ー!?それが可愛い後輩に言うセリフかー!」

「当たらなくても打つから大丈夫だっつーの」

 しかし平凡なゴロがファーストに飛んでいった、、。


「ほらー、当たれば良かったのによー」

「そうだよ」

「人のことなんだと思ってんだー!少しは俺の体の事も心配しろーっ!」


『伊藤選手のファーストゴロの間に石橋選手サードに走り、ツーアウトでランナー三塁です。そして次は足の速い山下選手を迎えます』

『山下選手は足がありますからねー。三塁にランナーいますから引っかけて内野安打にでもなると1点入りますから、ここは一塁空いていることも考慮して攻めたいですね』





 別にバントする気なんてないんだけど?なんか警戒されている?

 バントを警戒しているせいか、ファースト、サードは前進守備。

 セカンドは直ぐにファーストカバーに入れるようにしているのか、ファースト方向に寄っている。

 ショートは二、遊間が空きすぎないようにセカンドベース寄りに立っていた。1、2塁間は狭くなってるけど他は大きく空いている感じじゃん。

 空いてるとこに打てはヒットになんじゃね?


「ボール」


 そう思って投球を待っているとストライクゾーンから大きく外れてきている感じのボールが投げ込まれてきた。

 スクイズされないように大きく外したようなボールだった。

 ツーアウト3塁でしょ?別にスクイズなんてしないけど何でそんなに大きく外してきてんだろ?

 セーフティーバントを警戒しているの?こっちは大きく空いている野手の間狙って打とうと思っていて、別にバントする気ないんだけど?

 なんでそんなに警戒してんの?


『外角外れてボール』


 また大きく外した?なんで?


『ああっとー、キャッチャー立ち上がりましたー。ここは山下選手敬遠のようです』

『そうですねー。もう一点もやりたくない場面ですから、足のある山下選手との無理な勝負は避けるのが懸命でしょう』


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