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第五章 ついに決勝戦!
第22話 湯原1年の覚悟
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秋季大会の初戦が数日後に迫ったあの日、先輩達が一向にグラウンドに現れず僕達1年は何をしていいのか困ってしまい、練習試合でもしようかって話になり始めることにした。
軽い気持ちで始めたのだが回をどんどん重ねても現れず、9回が終わっても全然誰も来ないので、審判をしていた者や出場できてない者を中心に延長戦をしながら先輩達の到着を待っていた。
そしてしばらくして堀口キャプテンがようやく到着した。
僕達は試合を中止しキャプテンの前に集合しようとしたら、そのまま試合を続けてと言ってきた。
レギュラーメンバーを差し置いてグラウンドを使うなんて異例のことだった。
それどころかキャプテンは主審を買って出てくれて、全員のプレイが見たいと言い出す。
打席に立つと色々アドバイスをしてくれたりした。バッターだけでなくピッチャーや内野手に対してもアドバイスをしてくれた。
試合が近いのにこんなことしていて大丈夫なのかと尋ねると、「大丈夫だよ」とさらりと言われてしまった。
何か休息日とかそういう日なのだろうか?僕等はそんなふうに思っていた。
一通り見終わった後、いつの間に来ていたのか北野先輩、寺田先輩がベンチにいて僕達の練習試合のスコアブックをマジマジと眺め、難しい顔をしていた。そこへキャプテンも合流する。
そこでキャプテンから驚愕の事実が告げられた。
ここにいる以外の2年生が全員退部した。急で悪いがここからレギュラーを選ばせてもらう。といきなり提案してきたのだ。
レギュラーに選ばれて一時は有頂天になっていたが、その後の厳しい練習に何度も部を止めようと思った。
そして1年全員でキャプテンに直談判に行った。
次の大会は諦めて夏季大会に集中した方がいいんじゃないかと、、。
でもキャプテンはこんな大チャンス棒に振るのか?結果がダメだったとしても挑戦するべきだと言ってきた。
確かにそう思うが体が限界ですと伝えた。
そしたら副キャプテンの北野先輩が自分の身の上話をし始めた。
俺は北海道出身で家庭は決して裕福な環境じゃなかった。野球が大好きで甲子園に行きたいと夢を抱いていたが、地元の高校ではその夢は叶えることは無理だろう。
だからといって強豪校の寮に入るのにはお金が掛かる。ウチの経済状態では無理だなあと思って生きていた。
そんなある日、僕の元にスカウトマンが来た。
貧乏で夢を諦めるしかないと思っていた俺に、授業料も生活費も全て援助するから我が校の野球部を強くして欲しい、そう言われたんだとか。
自分の人生にこんな逆転劇が起こるのかと衝撃を受けた。それと同時にこの学校に大変感謝した。恩返しがしたいと思った。
だからもう無理、もうダメだなんて絶対思いたくない。今回がダメでも次頑張ればいいなんて思いたくもない。
今目の前にある壁に全力でぶつかって行きたいと思っている。
お前等はどうなんだ?お前等の夢は次頑張ればいいと思えるような、その程度のものだったのか?そう言われた。
その時、全員の覚悟が決まった。僕達の夢は簡単な夢じゃない。だから簡単な努力では成れないはずなんだ。それを忘れていた。
僕はあの練習試合で好成績を収められたのでレギュラーになる事ができた。クリーンナップを任されることになった。
僕達1年だって死ぬ気で練習してきたんだ、先輩方の足枷になんてなってなるものか。
絶対に打ってやる!
*
この回の先頭バッターは5番の阿部とかいう奴だ。北野が調子良くないので、5番バッターから始まるのはこれで3回目だ。
バッターボックスに入る前にスイングをするのを見て、湯原高校のバッターの目つきが変わったような気がした。
今までは手玉に取っていたけど、ここからはそう簡単にはいかないかもと思った。
仕切り直しの6回表、勝ち越し点をあげ有利な展開で試合を進めていきたいと思っていることだろう。
でも俺だって負けてられない。打てない分取り返さなくちゃいけないんだから。
晃ちゃんを上手くリードし、テメー等なんかに絶対に打たせてなるものか。
「オメー等ー、打たせていくぞー」
「おー」
打ち気のバッターには変化球から入るのが定石なんだろうけど、堀口も真っ向勝負で来ている。
こっちも勝負してやるよ!
『ストライクー、初球インコースにストレートがズバッと決まり、空振りでワンストライクです』
「おーし、晃ちゃん、ナイスボールだー」
後半になってもまだまだストレートは伸びてきている。イケる!
「太田せんぱーい、ナイスピーです」
「晃ちゃん、いいよ、いいよー」
「晃弘ー、気合いで負けんなよー」
「おー」
よーし、いいぞー、晃ちゃんも気合い入っているみたいだな。
今日はカーブも良いけど、ストレートだって負けないくらい調子がいい。お前等にどんな心境の変化があったか知らないが、こっちだって負ける訳にはいかないんだ。
『ストライクー、2球連続で内角にストレートを投げ込みましたー。太田選手強気のピッチングです』
「晃ちゃーん、ナイスボール」
「よっしゃー、そのまま押し通せー」
晃ちゃんのヤツ絶好調だな。こうなると交代するタイミングが難しくなるが、柳澤の準備はできているって言ったし、康誠だっていつでも行けるって言っていた。
もう力を温存することなんてないんだ。モテる力を全てぶつけて来い!
『さんしーん、最後は外角いっぱいにストレートが決まって見逃し三振です。お互いに気合の入った対決となりましたが、軍配はピッチャー太田選手に上がりましたー』
「コラー、一人で目立ちすぎだぞー!」
「そうですよー、せんぱーい、打たせるんじゃなかったんですかー?」
「へへへ、頑張っちゃったよー」
「よーし、いいぞー、その感じだー、気抜くなよー、バカ共に気を遣う必要はない。この回も0点で終わらすぞー」
「おー」
「こらー!バカ共って誰のことだーっ!」
「フォアボール」
先頭バッターには気合の入った投球をしていたが、次のバッターはフォアボールで歩かせてしまった。
「コラー、ボールとストライクがはっきりしてたぞー、しっかりしろー!」
「ごめーん」
軽い気持ちで始めたのだが回をどんどん重ねても現れず、9回が終わっても全然誰も来ないので、審判をしていた者や出場できてない者を中心に延長戦をしながら先輩達の到着を待っていた。
そしてしばらくして堀口キャプテンがようやく到着した。
僕達は試合を中止しキャプテンの前に集合しようとしたら、そのまま試合を続けてと言ってきた。
レギュラーメンバーを差し置いてグラウンドを使うなんて異例のことだった。
それどころかキャプテンは主審を買って出てくれて、全員のプレイが見たいと言い出す。
打席に立つと色々アドバイスをしてくれたりした。バッターだけでなくピッチャーや内野手に対してもアドバイスをしてくれた。
試合が近いのにこんなことしていて大丈夫なのかと尋ねると、「大丈夫だよ」とさらりと言われてしまった。
何か休息日とかそういう日なのだろうか?僕等はそんなふうに思っていた。
一通り見終わった後、いつの間に来ていたのか北野先輩、寺田先輩がベンチにいて僕達の練習試合のスコアブックをマジマジと眺め、難しい顔をしていた。そこへキャプテンも合流する。
そこでキャプテンから驚愕の事実が告げられた。
ここにいる以外の2年生が全員退部した。急で悪いがここからレギュラーを選ばせてもらう。といきなり提案してきたのだ。
レギュラーに選ばれて一時は有頂天になっていたが、その後の厳しい練習に何度も部を止めようと思った。
そして1年全員でキャプテンに直談判に行った。
次の大会は諦めて夏季大会に集中した方がいいんじゃないかと、、。
でもキャプテンはこんな大チャンス棒に振るのか?結果がダメだったとしても挑戦するべきだと言ってきた。
確かにそう思うが体が限界ですと伝えた。
そしたら副キャプテンの北野先輩が自分の身の上話をし始めた。
俺は北海道出身で家庭は決して裕福な環境じゃなかった。野球が大好きで甲子園に行きたいと夢を抱いていたが、地元の高校ではその夢は叶えることは無理だろう。
だからといって強豪校の寮に入るのにはお金が掛かる。ウチの経済状態では無理だなあと思って生きていた。
そんなある日、僕の元にスカウトマンが来た。
貧乏で夢を諦めるしかないと思っていた俺に、授業料も生活費も全て援助するから我が校の野球部を強くして欲しい、そう言われたんだとか。
自分の人生にこんな逆転劇が起こるのかと衝撃を受けた。それと同時にこの学校に大変感謝した。恩返しがしたいと思った。
だからもう無理、もうダメだなんて絶対思いたくない。今回がダメでも次頑張ればいいなんて思いたくもない。
今目の前にある壁に全力でぶつかって行きたいと思っている。
お前等はどうなんだ?お前等の夢は次頑張ればいいと思えるような、その程度のものだったのか?そう言われた。
その時、全員の覚悟が決まった。僕達の夢は簡単な夢じゃない。だから簡単な努力では成れないはずなんだ。それを忘れていた。
僕はあの練習試合で好成績を収められたのでレギュラーになる事ができた。クリーンナップを任されることになった。
僕達1年だって死ぬ気で練習してきたんだ、先輩方の足枷になんてなってなるものか。
絶対に打ってやる!
*
この回の先頭バッターは5番の阿部とかいう奴だ。北野が調子良くないので、5番バッターから始まるのはこれで3回目だ。
バッターボックスに入る前にスイングをするのを見て、湯原高校のバッターの目つきが変わったような気がした。
今までは手玉に取っていたけど、ここからはそう簡単にはいかないかもと思った。
仕切り直しの6回表、勝ち越し点をあげ有利な展開で試合を進めていきたいと思っていることだろう。
でも俺だって負けてられない。打てない分取り返さなくちゃいけないんだから。
晃ちゃんを上手くリードし、テメー等なんかに絶対に打たせてなるものか。
「オメー等ー、打たせていくぞー」
「おー」
打ち気のバッターには変化球から入るのが定石なんだろうけど、堀口も真っ向勝負で来ている。
こっちも勝負してやるよ!
『ストライクー、初球インコースにストレートがズバッと決まり、空振りでワンストライクです』
「おーし、晃ちゃん、ナイスボールだー」
後半になってもまだまだストレートは伸びてきている。イケる!
「太田せんぱーい、ナイスピーです」
「晃ちゃん、いいよ、いいよー」
「晃弘ー、気合いで負けんなよー」
「おー」
よーし、いいぞー、晃ちゃんも気合い入っているみたいだな。
今日はカーブも良いけど、ストレートだって負けないくらい調子がいい。お前等にどんな心境の変化があったか知らないが、こっちだって負ける訳にはいかないんだ。
『ストライクー、2球連続で内角にストレートを投げ込みましたー。太田選手強気のピッチングです』
「晃ちゃーん、ナイスボール」
「よっしゃー、そのまま押し通せー」
晃ちゃんのヤツ絶好調だな。こうなると交代するタイミングが難しくなるが、柳澤の準備はできているって言ったし、康誠だっていつでも行けるって言っていた。
もう力を温存することなんてないんだ。モテる力を全てぶつけて来い!
『さんしーん、最後は外角いっぱいにストレートが決まって見逃し三振です。お互いに気合の入った対決となりましたが、軍配はピッチャー太田選手に上がりましたー』
「コラー、一人で目立ちすぎだぞー!」
「そうですよー、せんぱーい、打たせるんじゃなかったんですかー?」
「へへへ、頑張っちゃったよー」
「よーし、いいぞー、その感じだー、気抜くなよー、バカ共に気を遣う必要はない。この回も0点で終わらすぞー」
「おー」
「こらー!バカ共って誰のことだーっ!」
「フォアボール」
先頭バッターには気合の入った投球をしていたが、次のバッターはフォアボールで歩かせてしまった。
「コラー、ボールとストライクがはっきりしてたぞー、しっかりしろー!」
「ごめーん」
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