廃校が決まった母校の名前を、高校野球史に刻め!

加藤 佑一

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第五章 ついに決勝戦!

第20話 仕切り直し

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「よーし!この回きっちり抑えて、皆んなで買い物に行くぞー!」

「いや、いや、違うから」

 晃ちゃんのヤツ、すっかり服買ってもらう気になってるよ。

「まだ同点、仕切り直しになっただけだよー」

「こっから、こっからー」

 そう言いながらナインは自分の守備位置へと戻って行った。

 結局祐希のヤツは何しに来たんだ?

 具体的な指示は全くなかったぞ?

 ヨッシーのことだ一旦間を置いて、後は好きなようにやれという事なのだろう。

 となると今後の方針は俺が考えないといけないのか?さあどうする?スクイズでくるだろうか?

 まずはスクイズ警戒で向こうの様子を見るため1球外そう。投げ急ぎは禁物だ。



『ボール。ここはスクイズを警戒しバッテリー大きく外します』


 1球目は動き無しか。

 バッター、そしてランナーの様子を伺う。今のところ動く気配は無いが、同点にしてノーアウト3塁だ。この流れに乗ってもう1点って思っていることだろう。

 だがそれは絶対に阻止してみせる。

「落ち着いてー、肩の力抜いていこう」

 晃ちゃんに向かって肩を大きく回しながら声を上げた。

「せんぱーい、ゆっくり、ゆっくりー、慎重にですよー」

 さすが康誠だ、ピッチャーの心理がよく分かっている。

 こういう場面になると早く結果が知りたくて、投げ急いでしまいがちになる。こういう場面だからこそ冷静に事を運ばないといけない。


「ストライーク」


 バットを引いた?

 一瞬スクイズをする素振りを見せ、バットを寝かせたがすぐにバットを引いてボールを見送っていた。が、判定はストライクだった。

 スクイズをされても仕方のないボールだっただけに、なぜして来なかったのか疑問が残る。

 スクイズのサインは出ているが外されることを警戒し、1球待てとかだったのか?

「晃ちゃん、落ち着いてー」

「バッター、プレッシャー感じてるよー」

 バッターにプレッシャーを掛けるべく、西口は打者の目の前まで走って来ていた。そしてすぐに定位置へと戻って行く。

 これだけファーストが前に出てくるのを見たら3塁側に転がしたいと思うだろう。左バッターの胸元を抉るボールを投げさせてみるか。

「!!」

 3塁ランナーがスタートするのが見えた!

 打者がバットを寝かしてくる!

 スクイズしてきやがったと思った瞬間、ボールがバットに当たり弾き上がった。

 バントに来たボールがフラフラっとキャッチャー後方に上がった。

 俺はマスクを飛ばし無我夢中でボールへ飛びついた。

 目一杯ミットを伸ばす、、。


『しっぱーーい。スクイズしっぱいでーす。スクイズにいったボールはフラフラっとキャッチャー後方に上がり、キャッチャーの松井選手、素早い反応をみせ、見事にキャッチしましたー。キャッチャーファールフライでワンナウト、ランナー3塁に変わりましたー』


「おーっ!豚足のクセに、超反応じゃん!ナイスキャッチーーっ!」

 は?

「先輩ナイスキャッチーっ!お腹にあるのは脂肪じゃなくて反射神経だったんですねーっ!」

 何?

「ナイスキャッチー、重い体でよく走ったー!」

 はー!

「弁当3個も食ってたわりには機敏な動きじゃんかー!」

「えーっ!3個も食べたのー?」

「食っとらんわー!人聞きの悪いこと言うな!つーか、テメー等は一言多いんだよ!普通にナイスキャッチって言えねーのかー!スーパープレイした貴洋様を褒め称えやがれーっ!」

「どっかのアホキャプテンみてーなこと言ってんじゃねーよ!でもナイスキャッチだったぞー」

「おーよ」

 スーパープレイしたのになんで恥かかされねーといけないんだよ。ったくあのアホ共めー。

 でも今のは大きいぞー、ホントに大きい。やっぱ最後に頼れるのは俺の俊敏性なんだな。

 よーし、今の俺様のスーパープレイを無駄にしないためにも、次の打者も打ち取るぞー。

 またスクイズで来るかな?取り敢えずカットボールで様子見るか、これを引っ掛けて、内野ゴロになってくれると助かるなー。


『サードー、平凡なゴロです。サード、ランナーを制しファースト送球ー、アウトー、耶麻高校ツーアウトまできましたー』


「シャーっ!」

 湯原の中軸バッターだったので好きなように打たせてきたのだろうか?でもこっちの思惑通りの平凡な内野ゴロを飛ばしてくれた。

 ラッキー、ツーアウトまで来れたよ。

「康誠ー、ナイスプレイ」

「サンキューでーす」

 まったく抜かりのない奴だ。ランナーが突っ込んでもおかしくなかったが、きっちり動きを制してからファーストに送球していた。

 よーし、いいぞー、狙い通りになってくれた。あと一人だ。

 でもこのあと一人が問題だ。今日はヒットは打ってないが怖いバッターであることは間違いない。


『さあ三度得点圏で回ってきました、湯原の主砲北野選手、雄叫びを上げ、気合十分でバッターボックスに向かいます』


 気合い入ってんなー、でも塁は空いているんだ。無理に勝負する必要はないかもしれない。

 だが、自分が打って決めたいと強く思っている事だろう。その気持ちを利用させてもらおう。

 ストライクゾーンで勝負する必要はない。際どいところに投げておけば、勝手にバットを振ってアウトになってくれるはずだ。

「晃ちゃーん、コントロール気をつけてー」

「了解」


「ストライーク」


 ほら見た事か、外角のボール気味のカーブに手を出して来た。鋭い振りはしているようだが当たらなければ何の意味もないぞ。


「ストライーク」


 今度は内角のボール気味のストレートに手を出してきやがった。

 打ち気にはやりすぎて、全然絞り玉を決めきれていないんじゃないのか?中途半端なスイングになっているぞコイツ。

 いい感じだ。打ち取れそうだ。同点にされてしまったが、ノーアウト3塁を0点で終われるのは大きい。


『見逃しー、見逃し三振です。外角低めのストレートがズバッと決まりましたー』


「よっしゃー、乗り切ったぞー!」

「脂が乗り切ったぞー」

 何だって?

「誰だー!脂が乗ってるって言ったヤツわー!」

「コラー!良太テメー!待てコラー!」

「俺じゃないですよー」


 5回表終了 3対3

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