廃校が決まった母校の名前を、高校野球史に刻め!

加藤 佑一

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第五章 ついに決勝戦!

第11話 孤軍奮闘の松井

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「お前たちー、先制して浮かれてんだろうけど、僕等の目標忘れんなよー、負けられないんだからなー。向こうも死ぬ気できてんだ、足元掬われることのないようにしろよー」

「うぃース」

「ほーい」

「太田と松井は初対戦のバッターが続くんだ。祐希の話、ちゃんと聞いていけよー」

「りょーかい」

「了解でーす」

 初回の攻防を見て皆んないけるかもしれないと思っているんだろうけど、油断は禁物だ、ヨッシーも俺と同じ意見のようで引き締めるため声がけをしていた。

 キャッチャーの俺もここは引き締めるためにも、ガツンと言っておかないとダメだな。

「お前等ー、負けられないんだからなー、気合い入れていけよー!」」

「いっつも同じこと言ってんなー、気合い入らないぞー」

「もっと工夫凝らせよー」

「ワンパターンだぞー」

 決勝戦に臨んでいるような雰囲気じゃないんじゃないか?緊張感なさすぎなんじゃないか?大丈夫なのかコイツ等?

 ダメだな、こんな奴等あてにならん。俺が頑張らないとだな。

 この回は5番から右、左、右、左とバッターが交互に出てくるって話だったな。

 まずは右バッターか、鋭いスイングをしてくるから注意って言ってたな。カーブで交わす感じの配球でいってみるか。


「ストライーク」


 よし、空振りをとれた。カーブに全くタイミングが合ってないみたいだな。コイツはストレートを見せ球にして、カーブで打ち取る感じで大丈夫だろう。


「阿部選手引っ掛けてショートゴロ。ショート藤井選手軽快に捌き、1塁送球ー、1塁アウトー』


「よーーし!今日も絶好調」

 一つアウトにできたところで翔真の奴が声を上げた。口は悪いが体の動きはいいみたいだな、ゴロを軽快に捌いていた。

「翔真ー、ナイスプレイ」

「藤井君ナイスプレー」

「そんな平凡なゴロ捌いたくらいで調子乗るなー」

「そうだぞー、皆んなこんな奴、甘やかしたらダメだぞー」

「いや、もういい加減機嫌なおしてくれよー」

 あはは、さっきの冗談で晃ちゃん、康誠にヘソ曲げられてしまったみたいだな。

 皆んな楽しくできてるなら、これはこれでいいのかな?

 次は左バッター、引っ張るのが得意なバッターだって言ってたな。外角中心で攻めてみるか。


「ストライーク」


「よーし、良いボールだったぞー、ナイスピーだ」

「ナイスピー」

 晃ちゃんのストレートに完全に振り遅れていた。カーブを織り交ぜ緩急を付けたピッチングで打ち取れそうだ。


『打ち上げたーー、レフト横ファールフライー、レフト追う、レフト追うー、捕ったかー?捕った、捕ったー!!レフト伊藤選手フェンス際ギリギリ滑り込んでスライディングキャッチーー!!』


「良太ー!ナイスキャッチー!」

 俺は今の良太のプレイに素直に拍手を送った。フェンスを気にしてしまうような位置だったが器用に滑り込んでキャッチしていた。

 そう簡単にできるようなプレイではないだろう。

「よっしゃーー!ツーアウトーー!」

 捕ったボールを高々と掲げ、捕ったことを大きくアピールしてからボールを内野に勢いよく返していた。

 良太の奴も調子良さそうだな。

「良ちゃん、ナイスキャッチーー!」

「おー、ツーアウトー、見せ場作ってくれてありがとー」

「カッコつけんなー、普通に捕れただろー」

「良太様の大活躍に嫉妬すんなー、太田せんぱーい、ショートにはボール飛ばさなくて大丈夫ですからねー」

「分かってるよー、こんなクソやろーに見せ場やらないからねー」

「うー、皆んな、悪かったって、機嫌なおしてくれよー」

 全員調子良さそうだが、チームプレイに難があるようだな、、。


 よし、ツーアウトまできた。先制した次の回を0点で終われるのは大きい。次はまた右バッターか。面倒臭いなー、なんで交互に打順組んでんだよ。

 7番はコンパクトなスイングをしてくるって言っていたな。ストレート、カーブを見せ球にしてカットボールで打たせて取るのが無難だろう。

「お前等ー、打たせていくぞー」

「おー」


「ストライーク」


 ラッキー、外角外し気味のストレートを振ってきやがった。打ち気になって焦っているのか?

 まだ序盤だ、焦る必要なんてないと思うんだが、先制した3点は向こうにとって大きなプレッシャーになっているみたいだな。


「ストライーク」


 またボール気味のカーブを振ってきやがった。狙い球決めてきてないのか?

 球場の雰囲気に気圧されしてしまっているって感じなのか?

 萎縮して自分達の野球が出来てないんじゃねーのか?なら遠慮なくいかせてもらうぜ。

「晃ちゃん、ナイスピー」

「太田君、ナイスピー」

 いいなー、晃ちゃんは声援もらえて、晃ちゃんが良い感じで投げれているのは俺の配球のお陰なんだけどなー。

 こういう時ってキャッチャーを褒めてくれる人っていねーよなー。

 まあ内助の功ってヤツだからしょーがねぇーんだろうけど。

「晃ちゃーん、良いボールだったぞー、でも気抜くなよー」

「りょーかーい」


『さんしーーん、三振です。最後はカットボールでしょうか?太田選手のカットボールの変化に付いていけず、空振りの三振です。中島選手を三振に打ち取り、この回三者凡退に抑えましたーー』


 ハイタッチを交わしながら勢いよく帰ってきているナインと違って、俺はまだ2回が終わっただけだというのに疲労困憊だった。

 この試合持つだろうか?

「皆んな活き活きプレイしてんのに、俺だけぐったりなんですけど、、」

「貴洋君、お疲れ様、序盤無失点なのは君の功績だからね」

「ありがとー」

 その一言だけで救われる。さすが祐希だ!俺のこともちゃんと見てくれていたようだ。

「涼介君、気持ちは切らないでいつでも行ける準備はしておいてね。3点なんてワンチャンスだからね。君の力が必要な時は必ず来るよ」

「はい、了解です」

 祐希は本当に賢いなー、先発ピッチャーが調子良いと後続のピッチャーは気持ちが切れやすい、出番は回って来ないんじゃないかと思いやすい。

 そのカバーも忘れず、孤軍奮闘している俺への声がけも忘れない。本当にプレイさせてあげれないのが残念だ。選手になっていたらきっと良い選手になっていただろうに。


「さあオメー等ー、流れはこっちだー、1点でも多く取るぞー」

「おー」


 2回表終了 0対3


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