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第五章 ついに決勝戦!
第5話 いきなりピンチ
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『さあ、初回からノーアウトのランナーを出しました。先制したい湯原高校、ここはどう動いて来るか』
「くっそー、憎たらしいやろーだな、あからさまに大きいリードしやがって!」
太田がしつこいくらいに牽制球を送ってるのに、全然大きなリードを止めようとしない。
僕はその様子をベンチから苦々しい思いで見守っていた。
「コーチ走ってきますかね?」
祐希も同じ思いのようだ。握られているお守りに力が入っているようだった。
「走りたければ走ればいい。松井のこと甘く見ていて、痛い目見るといいんだ」
松井の奴が、今どれだけのレベルに到達しているのか知らないのだろう。
盗塁阻止率だけを見て判断したのならかなり低いレベルに見える。だが、それは怪我していたからだ。
今日は万全の体調だ。簡単に盗塁出来る訳ない。盗塁に失敗でもしてこの試合の流れを失ってしまえ。
それだけの覚悟があるならやってみろ!
松井はこの大会中にピッチャー陣が凄い勢いで成長しているのを見て、自分も成長したいとセカンドへの送球を速くする練習を繰り返していた。
そしてあの日も盗塁を阻止した時の感覚を忘れないように、更なるレベルアップのため僕にアドバイスを求めて来ていた。
「コーチ、こんな感じですかー?」
いまいち送球動作を掴みきれていないのか不安顔をしながら聞いてきた。
「そうそう。いい感じになってきてるよ。捕球する前から送球しやすい体制を常に意識しておくことが大切だ。右手の位置に注意してキャッチと同時に流れるような動作でグラブを上げボールを握りステップし投げる。そして送球はセカンドの右側にくるよう。ランナーにタッチがしやすいような位置へ投げる」
何度も何度も練習していた。頭で理解出来ても体がついていかなくてはしょうがないと何度も何度も繰り返していた。
かなりレベルアップしてきている、そう簡単に盗塁出来るものか。
『ランナー走ったー!』
来た!!
「おー!」
矢のような送球がセカンドに送られ球場内にどよめきが巻き起こった。セーフなのかアウトなのか見極めるのが困難なタイミングだった。
二塁審はすぐには判定を下さず足の位置、グラブの状況をよく確認したのち判定を下した、、。
「セーフ」
「えーーっ!」
ため息が漏れた後、悲鳴や怒号、金切り声が球場中から飛び交った。
そして、タイミング的にアウトだったんじゃないか?と思った観客達から一斉に非難の声が上がりだす。
「VR判定とかないんですかー?」
ベンチで一緒に見守っていた柳澤も、納得がいかないのか声を荒げていた。
「国際大会じゃないんだから!高校生の、しかも県大会くらいじゃ導入しないよ」
祐希がツッコミを入れる。
「一番近くで見ていた審判がそう判定を下したんだ。それで間違いないのだろう。ただセーフにはなったが、今のプレイは十分だったと思う。この試合の行方を大きく左右するプレイとなったと思う」
「どうしてですか?」
僕の言葉に柳澤は疑問顔を向けてきた。
「あれだけ大きくリードし、バッチリのタイミングでスタートしたにも関わらず、アウトと言われてもおかしくないタイミングだったんだ。僅差になっているゲーム展開ではリスクが大きいプレイはやりづらくなるだろう。僕だったら今のプレイを見せつけられたら、怖くて盗塁のサインは今後出せない」
「ナイスプレイだったぞー、次に活かせー」
そういうもんなんですかー、と言った後、柳澤はグラウンドに向かってそう声を上げた。
セカンドベース上にいる寺田もきっと胸を撫でおろしていることだろう。心の動揺を悟られないように必死で平静を装いユニホームの砂を払っているようだが、ぎこちない動きになっているように思える。
さもセーフに決まっているでしょ。て顔を装っているが、いつでも簡単に盗塁出来るわけではないかもと思っているのは明らかだった。
ベンチもそう思ったのだろう。次のバッターはヒッティングから送りバントの姿勢に変わっていた。リスクを冒さず確実にランナーを進める作戦に出たようだ。
『バントしたー、きっちりサード前に転がし送りバント成功ー』
『さあ、初回から大きなチャンスを迎えましたー。ワンナウト三塁で主軸の3番、4番を迎えます。ここは確実に先制点が欲しいところですから3番とはいえ、スクイズも考えられるところでしょー。耶麻高校内野陣、前進守備を取ります』
「耶麻高校は滅多に前進守備は取らないチームなのですが、今日は決勝戦、先制点は絶対あげたくない。そんな気持ちが伝わってくる守備ですねー』
*
「皆んなー、頼んだよー、打たせていくよー」
「おー!任せとけー!」
マウンド上で大きく息を吐き気持ちを整えた後、グラウンドに向かって大声を上げた。
初回からいきなり山場を迎えてしまった。
何で来る?スクイズか?外野フライを狙ってくるか?内野ゴロでも突っ込んでくるのか?
取り敢えず僕は貴ちゃんの配球を信じ、キャッチャーミット目掛け投げ込むのみ。
『インコース外れてボール』
僕の投球と同時に全員が息のあった動きをしていた。
皆んないい表情をしている。大丈夫、皆んなならきっと守り抜いてくれる。僕はとにかく強い打球を飛ばされないように、コントロールに注意するのみ。
でも貴ちゃんも今日は強気だなー。スクイズを警戒するなら普通は外角に大きく外すのが定石なのに、内角のボールを要求してくるとは。
確かに内角のボールの方がバントしずらいとは聞くけど。
それにファースト、サードが僕が投げた瞬間猛ダッシュしてきた。智ちゃんなんて、僕の目の前まで走ってきてるし。僕がバッターだったらこんなことされたら絶対イヤだな。
『空振りー、外角カーブにタイミングが合わず、空振りで1ボール、1ストライクです』
空振り?スクイズはする気ないのか?
今の空振りはなんだ?外野フライを狙ったけど、僕のカーブにタイミングが合わなかっただけか?
これだけ厳しいバントシフトを敷かれていると、やりずらくてヒッティングに切り替えた可能性はあるけど、ちょっとお粗末すぎないか?
「!!」
今度はバットを寝かせてきた?
スクイズの時はする素振りは見せないようにして、投げた直後に動き出すのが定石なんだが?
なんかチグハグしてる?それともわざと動揺を誘おうとしてのことなのか?
色々なことが想像出来る場面だったが、切り替えて集中し1球を投じた、、。
『カキーーン』
投げた瞬間スクイズだと思っていた僕は猛然と前進した。しかしバッターはバットを引きヒッティングできた。
しまった!やられた!
今はバントシフトを敷いているので抜けてしまったかと思ったが、康ちゃんが超反応を見せ、打球を捕ってサードランナーを制するとファーストに送球した。
「うおぉーー!!ナイスプレイ、康ちゃん!」
「いい動きだったなー、康生っ!」
「ったりめーだ!二度も同じ感じで抜かれてたまるかー!」
「おー、気合い入ってるー!」
本当にナイスプレイ、ナイス判断だった。
僕とは逆で途中で打ってくると判断したのだろう。前進するのを止め、飛んできた打球に即座に対応し、しかもランナーの動きもキチンと制していた。
後輩のくせに本当に抜かりのないプレイをする奴だ。
「康ちゃん、ナイスプレイ!なんか上出来過ぎて、ちょっとムカついちゃったぞー」
「なんでですか?」
僕の言葉に康ちゃんは驚いた表情を向けてきていた。
「こっちは年中ムカついてるぞー」
なんかレフトから変な声が聞こえてきたが、無視して次のバッターに集中しよう。
「晃ちゃーん、気抜くなよー、要注意バッターが続くぞー」
「ほーい」
ヤバっ!一つアウトを取って少し気が抜けているって感じたのだろうか、貴ちゃんに怒られてしまった。
そうだった次が一番注意しなくてはいけないバッター、4番の北野洋平だった。
「くっそー、憎たらしいやろーだな、あからさまに大きいリードしやがって!」
太田がしつこいくらいに牽制球を送ってるのに、全然大きなリードを止めようとしない。
僕はその様子をベンチから苦々しい思いで見守っていた。
「コーチ走ってきますかね?」
祐希も同じ思いのようだ。握られているお守りに力が入っているようだった。
「走りたければ走ればいい。松井のこと甘く見ていて、痛い目見るといいんだ」
松井の奴が、今どれだけのレベルに到達しているのか知らないのだろう。
盗塁阻止率だけを見て判断したのならかなり低いレベルに見える。だが、それは怪我していたからだ。
今日は万全の体調だ。簡単に盗塁出来る訳ない。盗塁に失敗でもしてこの試合の流れを失ってしまえ。
それだけの覚悟があるならやってみろ!
松井はこの大会中にピッチャー陣が凄い勢いで成長しているのを見て、自分も成長したいとセカンドへの送球を速くする練習を繰り返していた。
そしてあの日も盗塁を阻止した時の感覚を忘れないように、更なるレベルアップのため僕にアドバイスを求めて来ていた。
「コーチ、こんな感じですかー?」
いまいち送球動作を掴みきれていないのか不安顔をしながら聞いてきた。
「そうそう。いい感じになってきてるよ。捕球する前から送球しやすい体制を常に意識しておくことが大切だ。右手の位置に注意してキャッチと同時に流れるような動作でグラブを上げボールを握りステップし投げる。そして送球はセカンドの右側にくるよう。ランナーにタッチがしやすいような位置へ投げる」
何度も何度も練習していた。頭で理解出来ても体がついていかなくてはしょうがないと何度も何度も繰り返していた。
かなりレベルアップしてきている、そう簡単に盗塁出来るものか。
『ランナー走ったー!』
来た!!
「おー!」
矢のような送球がセカンドに送られ球場内にどよめきが巻き起こった。セーフなのかアウトなのか見極めるのが困難なタイミングだった。
二塁審はすぐには判定を下さず足の位置、グラブの状況をよく確認したのち判定を下した、、。
「セーフ」
「えーーっ!」
ため息が漏れた後、悲鳴や怒号、金切り声が球場中から飛び交った。
そして、タイミング的にアウトだったんじゃないか?と思った観客達から一斉に非難の声が上がりだす。
「VR判定とかないんですかー?」
ベンチで一緒に見守っていた柳澤も、納得がいかないのか声を荒げていた。
「国際大会じゃないんだから!高校生の、しかも県大会くらいじゃ導入しないよ」
祐希がツッコミを入れる。
「一番近くで見ていた審判がそう判定を下したんだ。それで間違いないのだろう。ただセーフにはなったが、今のプレイは十分だったと思う。この試合の行方を大きく左右するプレイとなったと思う」
「どうしてですか?」
僕の言葉に柳澤は疑問顔を向けてきた。
「あれだけ大きくリードし、バッチリのタイミングでスタートしたにも関わらず、アウトと言われてもおかしくないタイミングだったんだ。僅差になっているゲーム展開ではリスクが大きいプレイはやりづらくなるだろう。僕だったら今のプレイを見せつけられたら、怖くて盗塁のサインは今後出せない」
「ナイスプレイだったぞー、次に活かせー」
そういうもんなんですかー、と言った後、柳澤はグラウンドに向かってそう声を上げた。
セカンドベース上にいる寺田もきっと胸を撫でおろしていることだろう。心の動揺を悟られないように必死で平静を装いユニホームの砂を払っているようだが、ぎこちない動きになっているように思える。
さもセーフに決まっているでしょ。て顔を装っているが、いつでも簡単に盗塁出来るわけではないかもと思っているのは明らかだった。
ベンチもそう思ったのだろう。次のバッターはヒッティングから送りバントの姿勢に変わっていた。リスクを冒さず確実にランナーを進める作戦に出たようだ。
『バントしたー、きっちりサード前に転がし送りバント成功ー』
『さあ、初回から大きなチャンスを迎えましたー。ワンナウト三塁で主軸の3番、4番を迎えます。ここは確実に先制点が欲しいところですから3番とはいえ、スクイズも考えられるところでしょー。耶麻高校内野陣、前進守備を取ります』
「耶麻高校は滅多に前進守備は取らないチームなのですが、今日は決勝戦、先制点は絶対あげたくない。そんな気持ちが伝わってくる守備ですねー』
*
「皆んなー、頼んだよー、打たせていくよー」
「おー!任せとけー!」
マウンド上で大きく息を吐き気持ちを整えた後、グラウンドに向かって大声を上げた。
初回からいきなり山場を迎えてしまった。
何で来る?スクイズか?外野フライを狙ってくるか?内野ゴロでも突っ込んでくるのか?
取り敢えず僕は貴ちゃんの配球を信じ、キャッチャーミット目掛け投げ込むのみ。
『インコース外れてボール』
僕の投球と同時に全員が息のあった動きをしていた。
皆んないい表情をしている。大丈夫、皆んなならきっと守り抜いてくれる。僕はとにかく強い打球を飛ばされないように、コントロールに注意するのみ。
でも貴ちゃんも今日は強気だなー。スクイズを警戒するなら普通は外角に大きく外すのが定石なのに、内角のボールを要求してくるとは。
確かに内角のボールの方がバントしずらいとは聞くけど。
それにファースト、サードが僕が投げた瞬間猛ダッシュしてきた。智ちゃんなんて、僕の目の前まで走ってきてるし。僕がバッターだったらこんなことされたら絶対イヤだな。
『空振りー、外角カーブにタイミングが合わず、空振りで1ボール、1ストライクです』
空振り?スクイズはする気ないのか?
今の空振りはなんだ?外野フライを狙ったけど、僕のカーブにタイミングが合わなかっただけか?
これだけ厳しいバントシフトを敷かれていると、やりずらくてヒッティングに切り替えた可能性はあるけど、ちょっとお粗末すぎないか?
「!!」
今度はバットを寝かせてきた?
スクイズの時はする素振りは見せないようにして、投げた直後に動き出すのが定石なんだが?
なんかチグハグしてる?それともわざと動揺を誘おうとしてのことなのか?
色々なことが想像出来る場面だったが、切り替えて集中し1球を投じた、、。
『カキーーン』
投げた瞬間スクイズだと思っていた僕は猛然と前進した。しかしバッターはバットを引きヒッティングできた。
しまった!やられた!
今はバントシフトを敷いているので抜けてしまったかと思ったが、康ちゃんが超反応を見せ、打球を捕ってサードランナーを制するとファーストに送球した。
「うおぉーー!!ナイスプレイ、康ちゃん!」
「いい動きだったなー、康生っ!」
「ったりめーだ!二度も同じ感じで抜かれてたまるかー!」
「おー、気合い入ってるー!」
本当にナイスプレイ、ナイス判断だった。
僕とは逆で途中で打ってくると判断したのだろう。前進するのを止め、飛んできた打球に即座に対応し、しかもランナーの動きもキチンと制していた。
後輩のくせに本当に抜かりのないプレイをする奴だ。
「康ちゃん、ナイスプレイ!なんか上出来過ぎて、ちょっとムカついちゃったぞー」
「なんでですか?」
僕の言葉に康ちゃんは驚いた表情を向けてきていた。
「こっちは年中ムカついてるぞー」
なんかレフトから変な声が聞こえてきたが、無視して次のバッターに集中しよう。
「晃ちゃーん、気抜くなよー、要注意バッターが続くぞー」
「ほーい」
ヤバっ!一つアウトを取って少し気が抜けているって感じたのだろうか、貴ちゃんに怒られてしまった。
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