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第四章 準決勝 甲子園常連校
第18話 徹底マークの中村
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僕は中学時代、全国大会でそこそこの成績を収めることができた選手だった。
全国大会に出ても自分の実力は通用する。甲子園に出て名を上げれば、プロの選手になれるんじゃないかと淡い期待を抱いていた。
中学時代の好成績のお陰で、県内有数の強豪校に入学することができた時は本当に興奮した。
1年からレギュラー取って大活躍してやると意気込んでいた。
しかし、目の前に突きつけられた現実に絶望した。上級生とのレベルは雲泥の差だった。
伸びのあるストレートには対応出来ないし、変化球も見たことがない変化をしてくる。中学でそこそこの成績を残したくらいでは、太刀打ちできるようなレベルではなかった。
それだけではない、同級生にも凄い選手がゴロゴロしていて、全国でそこそこ名を上げた僕なんて一瞬で霞んだ。しかも物凄い実力を持っているというのに、人一倍の練習をこなしている。
この人たちを押し退けレギュラーポジションを取れるのだろうか、と僕は絶望していた。
田舎に引っ越すと言われた時、寮に入って一人でやっていく選択肢もあった。
でも僕はそれを選ばなかった。逃げたんだ、諦めたんだ。このまま続けていてもレギュラーなんて取れないと思って諦めたんだ。
練習はレギュラーメンバーが中心になる。僕ら1年生は基礎練習、体力づくりがメイン。たまにチャンスが巡ってきても、同級生の選手の活躍に霞んでしまってなかなか結果を残すことはできないでいた。
先が見えなくて伸び悩んでいても、僕にアドバイスをくれる人なんていなかった。
監督もコーチもレギュラーメンバー中心に練習を見ているので、僕にかまっている暇なんてなかった。
僕は限界を感じていた。
でもここに来て環境は一変した。吉田コーチは僕の質問に倍以上のアドバイスをしてきてくれるし、付きっきりになって手や体を添えて僕の悪い部分を指摘してくれる。
それどころか聞いてもいないのにどんどん僕に適したアドバイスをしてくれる。
伸び悩んでいた僕は吉田コーチのアドバイスにより、爆発的に成長を遂げることができた。
それに皆んなも僕にどんどん質問してきた。
僕は久保君、藤井君のバッティングセンスには一目置いている。でも僕にバッティングを教えて欲しいと言ってくる。
僕はそれが本当に嬉しかった。皆んなで共にレベルアップしているような感じがして本当に気分が良かった。
自分だけ出し抜いてレギュラーになってやるって感じがなくて、本当に心地良かった。
今日僕は徹底的にマークされている。相手チームの4番を封じれば、アイツが打てないんだから自分も打てなくて当然、打たなくても大丈夫というような雰囲気が漂う。
当然考えられる作戦の一つだろう。でもこのチームではその作戦は意味をなさない。全員に僕のバッティング理論を教えてあるんだから。
現に僕はノーヒットだというのに7得点もしている。このチームは僕だけ抑えれば勝てるようなチームなんかじゃない。
どこからでも点が取れるし、全員が4番打者なんだ。
県は違えど相手は強豪校、そこでレギュラーメンバーになるには並大抵の努力ではなかったことだろう。自己研磨を続けてきたことだろう。
でも自分のレベルアップにかまけて他はおざなりにしていたんじゃないのか?
チームメイトの活躍を苦々しく思うこともあったんじゃないのか?
このチームにそれはない。誰かが打ては我が事のように雄叫びを上げるし、打てなければ我が事のように本気で怒る。
大好きな最高のチームで、最高のチームメイトだ。
でもチームメイトの活躍に甘えるだけではいられない。
ヒットを1本も打てないまま終わる訳にはいかない。
大好きなチームメイトの為に僕も頑張らないと、、。
『カキーーン』
「!!」
『打ったー、大きいぞー、レフトバック、レフトバックーー、入ったー、入りましたーー、眠れる4番がついに目を覚ましたー。試合を決定付けかねない主砲の一発が飛び出しましたーーっ!』
「うぉーーーっ!!」
感触はバッチリだった。レフトに舞い上がった瞬間、拳を突き上げた。スタンドに入ったのを確認すると感情が爆発してしまった。
「うぉーーーっ!!中村せんぱーい、ちょーカッコいいー!」
「うぉーーーっ!!中村の奴、珍しく雄叫びをあげてんじゃん!」
「今日は完璧に抑えられてましたからね。相当嬉しかったんでしょうね」
「いやー、流石だなー!徹底マークのなかよく打ったよ!」
「3点差かー、ちょー助かるー」
ホームに帰ってくると良太くんが両手を大きく広げ待ち構えていた。僕はホームベースを駆け抜けたままの勢いで良太くんの胸の中に飛び込む。
「せんぱーい、ナイスホームラン」
「良太君、カーブが狙い目だよ」
「了解です。狙ってみます」
「よーし、この流れのまま満塁ホームラン打ってやる!」
「だから、満塁じゃないって」
「久保先輩、アイツに常識は通用しないからほっといた方がいいですよ」
「常識離れしたスラッガー、頑張れよー」
「常識外れの規格外スラッガー、頑張れよー」
「常識知らずー」
『サードゴロでワンナウトー』
「くっそー、俺がサードのいる時にはボール飛んでこないくせにー」
「オメーが打ったんだろうーが!」
「何やってんだよ!常識離れのアホ」
「常識外れのアホ」
「常識知らずのアホ」
「くっそー、お前らー、打てなかった時、覚えてろよー」
続く山下君はファーストフライ、西口君は三振に倒れたが良い雰囲気のまま9回裏を迎える事ができた。
次の回2点以内に抑えられれば決勝進出だ。
「皆んな行くぞー」
「おー」
「中村が声上げするなんて珍しいじゃねーか!」
全国大会に出ても自分の実力は通用する。甲子園に出て名を上げれば、プロの選手になれるんじゃないかと淡い期待を抱いていた。
中学時代の好成績のお陰で、県内有数の強豪校に入学することができた時は本当に興奮した。
1年からレギュラー取って大活躍してやると意気込んでいた。
しかし、目の前に突きつけられた現実に絶望した。上級生とのレベルは雲泥の差だった。
伸びのあるストレートには対応出来ないし、変化球も見たことがない変化をしてくる。中学でそこそこの成績を残したくらいでは、太刀打ちできるようなレベルではなかった。
それだけではない、同級生にも凄い選手がゴロゴロしていて、全国でそこそこ名を上げた僕なんて一瞬で霞んだ。しかも物凄い実力を持っているというのに、人一倍の練習をこなしている。
この人たちを押し退けレギュラーポジションを取れるのだろうか、と僕は絶望していた。
田舎に引っ越すと言われた時、寮に入って一人でやっていく選択肢もあった。
でも僕はそれを選ばなかった。逃げたんだ、諦めたんだ。このまま続けていてもレギュラーなんて取れないと思って諦めたんだ。
練習はレギュラーメンバーが中心になる。僕ら1年生は基礎練習、体力づくりがメイン。たまにチャンスが巡ってきても、同級生の選手の活躍に霞んでしまってなかなか結果を残すことはできないでいた。
先が見えなくて伸び悩んでいても、僕にアドバイスをくれる人なんていなかった。
監督もコーチもレギュラーメンバー中心に練習を見ているので、僕にかまっている暇なんてなかった。
僕は限界を感じていた。
でもここに来て環境は一変した。吉田コーチは僕の質問に倍以上のアドバイスをしてきてくれるし、付きっきりになって手や体を添えて僕の悪い部分を指摘してくれる。
それどころか聞いてもいないのにどんどん僕に適したアドバイスをしてくれる。
伸び悩んでいた僕は吉田コーチのアドバイスにより、爆発的に成長を遂げることができた。
それに皆んなも僕にどんどん質問してきた。
僕は久保君、藤井君のバッティングセンスには一目置いている。でも僕にバッティングを教えて欲しいと言ってくる。
僕はそれが本当に嬉しかった。皆んなで共にレベルアップしているような感じがして本当に気分が良かった。
自分だけ出し抜いてレギュラーになってやるって感じがなくて、本当に心地良かった。
今日僕は徹底的にマークされている。相手チームの4番を封じれば、アイツが打てないんだから自分も打てなくて当然、打たなくても大丈夫というような雰囲気が漂う。
当然考えられる作戦の一つだろう。でもこのチームではその作戦は意味をなさない。全員に僕のバッティング理論を教えてあるんだから。
現に僕はノーヒットだというのに7得点もしている。このチームは僕だけ抑えれば勝てるようなチームなんかじゃない。
どこからでも点が取れるし、全員が4番打者なんだ。
県は違えど相手は強豪校、そこでレギュラーメンバーになるには並大抵の努力ではなかったことだろう。自己研磨を続けてきたことだろう。
でも自分のレベルアップにかまけて他はおざなりにしていたんじゃないのか?
チームメイトの活躍を苦々しく思うこともあったんじゃないのか?
このチームにそれはない。誰かが打ては我が事のように雄叫びを上げるし、打てなければ我が事のように本気で怒る。
大好きな最高のチームで、最高のチームメイトだ。
でもチームメイトの活躍に甘えるだけではいられない。
ヒットを1本も打てないまま終わる訳にはいかない。
大好きなチームメイトの為に僕も頑張らないと、、。
『カキーーン』
「!!」
『打ったー、大きいぞー、レフトバック、レフトバックーー、入ったー、入りましたーー、眠れる4番がついに目を覚ましたー。試合を決定付けかねない主砲の一発が飛び出しましたーーっ!』
「うぉーーーっ!!」
感触はバッチリだった。レフトに舞い上がった瞬間、拳を突き上げた。スタンドに入ったのを確認すると感情が爆発してしまった。
「うぉーーーっ!!中村せんぱーい、ちょーカッコいいー!」
「うぉーーーっ!!中村の奴、珍しく雄叫びをあげてんじゃん!」
「今日は完璧に抑えられてましたからね。相当嬉しかったんでしょうね」
「いやー、流石だなー!徹底マークのなかよく打ったよ!」
「3点差かー、ちょー助かるー」
ホームに帰ってくると良太くんが両手を大きく広げ待ち構えていた。僕はホームベースを駆け抜けたままの勢いで良太くんの胸の中に飛び込む。
「せんぱーい、ナイスホームラン」
「良太君、カーブが狙い目だよ」
「了解です。狙ってみます」
「よーし、この流れのまま満塁ホームラン打ってやる!」
「だから、満塁じゃないって」
「久保先輩、アイツに常識は通用しないからほっといた方がいいですよ」
「常識離れしたスラッガー、頑張れよー」
「常識外れの規格外スラッガー、頑張れよー」
「常識知らずー」
『サードゴロでワンナウトー』
「くっそー、俺がサードのいる時にはボール飛んでこないくせにー」
「オメーが打ったんだろうーが!」
「何やってんだよ!常識離れのアホ」
「常識外れのアホ」
「常識知らずのアホ」
「くっそー、お前らー、打てなかった時、覚えてろよー」
続く山下君はファーストフライ、西口君は三振に倒れたが良い雰囲気のまま9回裏を迎える事ができた。
次の回2点以内に抑えられれば決勝進出だ。
「皆んな行くぞー」
「おー」
「中村が声上げするなんて珍しいじゃねーか!」
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