廃校が決まった母校の名前を、高校野球史に刻め!

加藤 佑一

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第四章 準決勝 甲子園常連校

第11話 ボランティアに行け

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「皆んなー、差し入れ頂いたぞー」

 その日、俺達の元に大量のスポーツ飲料と栄養補助食品が届けられた。誰からだろうと思い開けてみると、昔の耶麻高校の活躍を知るご年配の方からだった。


拝啓 
突然のお手紙、失礼いたします。

このたびは準決勝進出おめでとうございます。毎試合ハツラツとプレイしている姿に当施設に入居している全員が、昔の情景と重ね合わせながら胸をときめかせ、目を輝かせ応援しています。

当施設には重度の認知症で普段は無表情、無反応の方がいるのですが、試合中、特に得点された時などは立ち上がり大声を上げ拍手を送っている姿に職員全員が驚愕してしまいました。

認知症の方は最近の記憶を保つことは困難でも、昔の記憶は保持されていると聞きます。きっと昔のことを思い出し脳が活性化したのだと思います。皆さんの活躍により入居者、職員共々胸を熱くし応援を続けています。

ささやかではありますが納めていただければ幸いと思いお送りいたしました。

 とまあそんな内容の手紙が添えられていたのだ。

「皆んなー、勝ってお礼に行くんだろ、このままでいいのかー!腑抜けた試合してると顔向けできなくなるぞーっ!」

「オメーが一番腑抜けてんだろ!」

「アホのお前に腑抜けって言われると腹立つわ!」

「誰だ!一番おちゃらけて、腑抜けて真面目に試合してないのは!」

「誰が腑抜けだーっ!ミラクルスラッカーの良ちゃんに向かって、失礼だぞー!」

「スラッカーじゃなくてスラッガーな、スラッカーじゃ、、」

「いいや。本人がそう言ってんだからそうなんじゃね」

「そうだ、本人が言ってんだから、お前はミラクルスラッカーと呼んでやるよ」


「あはは、相変わらずのチンドン屋集団だこと。でもコーチそろそろなんとかしたいですね」

「ああそうだな。久保、藤井ー」

 俺が先輩達と戯れあっていると、真剣な表情をして何やらヨッシーと祐希先輩が1、2番コンビと話始め出す。

「お前達二人は引き続き基本に忠実なバッティングを頼む。際どいボールは徹底的にカット、甘くなったところをセンターより右方向に流し打ちだ。それとボール球は絶対に振るな、フォアボールでもOKだ。頼んだぞ」

「了解です」


『この試合も中盤に入り、5回表を迎えます。耶麻高校対聖居学院高校の試合は1対4と徐々に甲子園常連校との地力の差が顕著になってきました。耶麻高校反撃に出ることはできるのか?この回は打順よく1番バッターからです』


「久保せんぱーい。皆んな見てますよー。頑張って下さーい」

「りょーかーい、差し入れされた分は働いてくるよー」

『カキーーン』

『打ったー、ライト前ー、1番久保選手、今日は3打数3安打ー、さあノーアウトのランナーを出しましたー』


「うっしゃー!飲み食いした分は、働いたぞー!」

「ナイバッチィ、少食のオメーが3安打もしたら、俺はどんだけ打たないといけないんだよー」

「ホントだー!松井先輩はここから全部ホームランじゃないと返せませんね」

「ホントだ!この恩知らず、お前今日打てなかったら、ボランティア決定ね」

「えーっ!」

「つーか、打ってもボランティア行けよ!モラル無しヤロー!」

「酷っ!」





 何か急に打たないといけない雰囲気になったんですど?まあいいか、俺は炎のバッター翔真様だからどうせ打つし。

 集中力を高めバッターボックスに向かう。よーし、きやがれ!ストライクは徹底的にファールにしてやる。

「体強張ってますよー、藤井先輩もボランティアリーチですからねー!頑張って下さーい」

「分かってるよ、うっセーな!プレッシャーになるようなこと言うんじゃねーよ!」

 アホ良太めー、そういう事だけはよく気がつきやがる。このままじゃ、合わせる顔がないって言うから強張ってんだろーが。

 くっそー、竜二の奴、簡単に打ちやがって!でもしっかりイメージすることは出来た。何球もファールで粘ってくれてサンキューな。

 テメーのにわか仕込みのスプリットなんて、この俺様がテメーの自信と一緒に打ち砕いてやる。

 フォークには手を出さず、ストレートは徹底的にカットし、フルカウントになってスプリットは来ないかもと思ったその時だった、、。


『カキーーン』

『痛烈ー、ライト前ー、ランナー、2塁回ったー、耶麻高校、1、2番の連打でノーアウト1、3塁でーす』

『いやー、上手かったですねー、スプリットをライト方向に流し打ちしました。1、2番ともストレートはことごとくカットして待ち受けたかのように流し打ちしましたねー、狙い変えてきたのかもしれませんねー』

『さあ、一度打ち始めたら止まらないのが今年の耶麻高校打線です。投球練習場が慌ただしくなってきました』


「コラー、どうだ見たかー!オメー等、翔真様の足引っ張んなよー。打てなかったらボランティアで俺の部屋の掃除だかんなー!」

「えーっ!それだったらドロ沼清掃のボランティアに行きまーす」

「そっちの方が清潔そうだしな」

「何でだよ!俺様の部屋はドロ沼より汚いのかっ!」

「様とか言ってんじゃねーよ!」

「翔真様ー、素敵ー」

「翔真様ー、愛してますー」

「気持ち悪いこと言ってんじゃねーよ!真面目にやれー!」

「テメーが変なこと言いだすからだろ!」





 よーし、俺もこのまま流れに乗ってホームラン打ってやる。って思ってたのに!一球待てだと!?何で?


『1塁ランナー走ったー、キャッチャー投げませーん。盗塁成功ー』

『バントエンドランがあったせいでしょうね。キャッチャー3塁ランナーの動きに注視して投げることができませんでしたねー。耶麻高校の序盤の思いっきりの良い攻撃がプレッシャーになってますよー』

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