廃校が決まった母校の名前を、高校野球史に刻め!

加藤 佑一

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第四章 準決勝 甲子園常連校

第8話 聖居学院猛攻

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『打ったー、ライト線フェアー、長打コースになったぞー、2塁回って3塁向かうー、ヘッドスライディングー、セーフ、ノーアウトランナー3塁、聖居学院、反撃の狼煙を上げるスリーベースヒットが飛び出しましたー』

『ノーアウトランナー、3塁で打順1番に戻ります。同点に追いつく絶好のチャンスが訪れましたー』


「柳澤ー、1点は構わないぞー、ノープロブレムだー、アウト、一つずつ重ねていくぞー」

「切り替え、切り替えー」

「バッター集中ー」

 やってしまったー、完全にコントロールミスだった。2ストライクと追い込んでいたのに勿体無い失投だった。西口君が言っていた通りここは切り替えだ。

 僕がヒットも打たれず、得点もされずに試合を終えることなんてないんだから、最小失点で切り抜けるために今できる事を全力で頑張ろう。

「打たせていくんで、よろしくでーす」

「おー」

 確か1番バッターにはサードに強い打球を飛ばされて、キャプテンがナイスキャッチしたんだったよな?左打ちで足が速いバッターって言っていた気がする。

 久保君と同じく流し打ちが上手いのかもしれない。

 極端な前進守備はしていない。同点にされても問題ないということなのだろう。とにかくバッター集中だ。

 流し打ちさせないように、外角のボールを活かすためには内角攻めが必要だろう。

 スクイズを警戒し1球大きく外した後、松井君は内角に構えた。

 キャッチャーミットに向かって魂のこもったボールを投げ込むため、肩に力が入らないようにし、集中力を高め1球を投じた、、。


『ストライーク』


 よし、胸元を抉るような良いボールを投げ込むことができた。今のイメージが残るうちに次を投げ込みたい。そう思っていると次に出されたサインに驚いてしまった。

 次も内角!?松井君強気だなー。


『ストライーク』


 よし、良いボールが今度は膝下に行ったぞ、良い感じが続けられている。

 ランナーが動く気配もないし、スクイズにくるような気配も無い。ここは勝負ということなのだろうか?

 次は外角にボール球か。これを空振りしてくれるか、打ち損じてくれれば、、。


『打ったー、レフトに上がったぞー、レフト定位置、3塁ランナーこれはどうする?』

『タッチアップー、いや、止まった、止まったー、ランナー止まりましたー、そしてレフトから好返球が返ってきて球場内からどよめきが起こります』

『今日のレフトはエースナンバーの太田選手ですからねー。先ほどもセカンドでタッチアウトにしましたから、ここは帰れませんでしたねー』

『耶麻高校一つアウトを取り、内野前進して来ました』

『耶麻高校は打のチームですからねー。今まで打たれても打ち返して勝ち上がって来ましたから、前進守備は珍しいんではないでしょうか?』


「ちぇっ!突っ込まないのかよ、根性無しめ!僕の見せ場、台無しじゃん」

「それだけ警戒されてるってことでしょうが!」

「会場どよめいてたんだから、十分目立ったろーが!」

「まぁーそれほどでもー」

 太田君は好返球後、勢い余って内野の方まで走り寄ってくると、藤井君、キャプテンとそんな会話を重ねていた。

「おーい、気抜くなよー、強い打球いくぞー、締まってくぞー」

「おー」

 さすが太田君だ、コントロール抜群の返球だった。1点取られてもおかしくない場面だったのに封じてくれた。

 しかし本当に油断ならない相手だ。きっちり内角に投げ込んでからの外角だったのに、簡単に外野フライ上げるんだもんなー。

 次の2番も同じく左打者で、1打席目はショートに強い打球を飛ばしていたんだったよな。

 似たタイプなのかもしれない。攻め方は同じ感じになるだろう。でもここは是が非でも同点にしておきたい場面だ。スクイズの可能性が高いだろう。問題はいつ、どのタイミングで来るかだ。

「柳澤ー、守備は任せとけー」

「天才良ちゃんに任せろー」

 初球また大きく外した。バッターはバットを寝かせる素振りを見せたが、ランナーは無反応だった。

 サインは出ていないのだろうか?次は速球を投げ込んでやった。またバッターはバットを寝かせてきたが、ミットに届く前にバットを引いていた。ランナーも動く様子が無かった。

 スクイズをする気はないのだろうか?それとも無いと見せかけているだけなのだろうか?

 ふぅー、緊張のせいか汗がいつもの倍噴き出している気がする。

 2ボール、1ストライクとなった後の4球目だった。バットを寝かせているかと思ったら、引いてヒッティングに来た。

 強い打球が僕の頭の上を越えていった、、。


『ヒッティングー、ショート捕ったー、甘く入ってきたストレートをセンターに打ち返したと思いましたが、ショート藤井選手、素晴らしい反応をみせ弾丸ライナーを掴み取りましたー。ランナー動けずツーアウトー』


「うりゃーっ!!任せとけっていったろー!」

「ショートストッパー、サイコー!」

「翔ちゃん、ナイスプレイ!」

「先輩、痺れるー」

 皆んなありがとう。一難さった感じなんだけど、プレッシャーからなのだろうか?汗が止まらない。


『フォアボール』

『うーん、いけませんねー、ツーアウトになってピッチャー集中力が切れたのでしょうか?このフォアボールは勿体無いですよー』

『魂のこもった投球を続けていた柳澤投手ですが、3番打者に対してストレートでフォアボールを出してしまい、ツーアウトランナー1、3塁で前打席あわやというセンターフライを打った主砲を迎えます。この回ノーアウト3塁となりましたがツーアウトまできました。0点で終われる事ができるでしょうか?』


『カキーーン』

「!!」


『打ったー、レフト1歩も動けません。ホーームラーーン、逆転です。逆転スリーーランホーームランが飛び出しましたー。聖居学院なかなか最後の一本が出ず重苦しい雰囲気でしたが、主砲が試合をひっくり返す値千金のホームランを放ちましたー。逆転で1対3としましたー』


 打たれた瞬間それだと分かった。完璧に捉えられた。

 マジかー、ツーアウトまできてたのにー、皆んながせっかくアウトをもぎ取ってくれてたのにー。

「大丈夫、大丈夫、想定内、想定内」

「まだ3回だよー、攻撃は沢山残ってる。切り替え、切り替え」

「柳澤ー、もう一回組み立てるぞー、集中力切らすなよー」

「ういーっス」

 またやってしまったー、なんで大事な場面で投げ急いじゃうんだろ!

 でも終わったことを悔やんでも仕方がない。次のバッターに集中だ。次も強打者だ。前回はレフトにヒットを打たれたんだよな。

 太田君がレーザービームでアウトにしてくれたけど、上手く打たれてしまったんだ。

 もう打たれる訳にいかない。ホームランを打たれた後の第一球は注意だ。大きく息を吐き集中力を高め1球を投じた、、。


『ストライーク』


 よし、切れ良く落ちてくれた。バッターの打ち気を逸らす、絶好球のフォークを投げる事ができたと思う。

 何球かファールで粘られた後、フォークにタイミングが合わない感じでバットを出し、勢いのないボールがファーストに飛んでいった。

 僕はベースカバーに入りアウトとなりスリーアウトチェンジとなった。

 やっと終わったー、しんどい回だった、、。

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