廃校が決まった母校の名前を、高校野球史に刻め!

加藤 佑一

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第四章 準決勝 甲子園常連校

第5話 山下、西口の奇襲

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「しゃー、今日も良太様のオンステージにしてやるー」

「今日もってそんな日、1日もねーわ」

「オンじゃなくてオフだろー、寝坊助、早く起きろー!」

「人が気持ち良くバッターボックスに向かおうとしてるのに、ゴチャゴチャうるせーぞ!」

「オメーが訳の分かんねーこと言うからだろ!」

「あれ?そういえば俺の時、応援ないの?」

「疲れたから止めた」

「急に止めんなよ!なんかショックだろ!」

 くっそー、大活躍中の良太様に向かって相変わらず無礼な奴らだ。ホームラン打って一泡吹かせてやる。

 そう意気込んでバッターボックスに立ったのだが、、。

 えっ!何これ?メッチャ速いんですけど!?

 しかもただ速いだけじゃなくて、圧迫感がメッチャクチャ凄いんですけど?こんなの打てんの?

 ちっくしょー、あれだけ啖呵切って出てきたのに、このまま帰ったらキャプテンとしての威厳が、、。


『さんしーん、バッターアウトー』


「良ちゃん、何やってんだよー」

「うっ!」

「祐希先輩、話が違うじゃないですかー、君達なら打てるって言ったじゃないですかー」

「オメーの実力不足だろ!」

「人のせいにしてんじゃねーよ!」

「僕は君を信じてたのに、、」

「いや、そういう言い方されると、なんか、、」





「祐ちゃん、でもあんなボール打てないよ」

 皆んなの対戦を見て野球を始めて間もない僕と智ちゃんは、とても打てそうにないと思いアドバイスを求めた。

「そうだねー、隼ちゃん、智輝君にはあのストレートは難しいだろうねー」

「ならフォーク狙ってみる?」

「フォークってあのストンと落ちるボールでしょ。余計無理だよ」

「大丈夫、フォークは変化しないで、すっぽ抜けることの多いボールなんだ。プロの選手でも見てると結構すっぽ抜けてること多いんだよ」

「そうなの?」

「そう、ストレートは当てることに集中して、すっぽ抜けを期待してフォークに照準合わせていきましょう」

「それって、向こうの投げミス期待しとけって事でしょ。大丈夫なの?」

「大丈夫、うちは1~5番まで強打者が揃ってるから、神経擦り減ってるはずだからきっと来ると思うよ」

「それって要するに僕等は舐められているってこと?」

「まあ、そうとも言えるね」

「何ー!あの木偶の坊!ふざけんな!」

 祐ちゃんのアドバイスはよく分からなかったが、取り敢えず舐められているということは分かった。

 このまま怒り任せに振り切ってやる。


『カキーーン』

 あっ!当たった!


『打ったー、右中間ー、ライト回り込んで間を抜けるのは阻止したがー、セカンド間に合わないー、ワンナウトランナー2るーい、山下選手、ライトの捕球体勢を見て快足を飛ばし2塁に到達しましたー』


「どーだー!隼人様を舐めるとこーなるんだー!」

「メッチャかっこいいでーす」

「耶麻校の韋駄天がー」

「抜けてるくせに、抜かりない走塁しやがってー」

「何ー、誰だ!今変な事言った奴はー!」





 流石、山下君だ。ストレートを粘りに粘ってファールし、落ち切らないフォークを引き出し、狙い撃ちしていた。

 本当に祐希君の言った通りのことを実践するとは。

 何球粘っていただろう?8球くらい粘っただろうか?

 凄いなー、僕だったら途中で絶対空振りしてるよ。

 今度は僕の番だ。祐希君に秘策を授けられているのは君だけじゃない。山下君、祐希君に視線を送り、『やるよ』の合図を送った。


『ランナースタートー、バントしたー、サード捕ってファースト送球、、』


「バッカもーーん!ランナー回ってるぞーー!!」


『ああっとー!ランナー躊躇せずホームに突っ込んで来るー!滑り込んでホームイン、先制ー、耶麻高校、先制のホームイン、なんという事でしょう。あっという間の先制劇でしたー、聖居学院唖然としていまーす』

『いやー、見事なバントエンドランでしたねー。完全に虚を衝かれたようでしたねー、まだ何が起こったか分かってないんじゃないでしょうか?』


「何だ!今のー!?」

「やりやがってこんちくしょー!」

「スゲー、スゲー、なんかスゲーっ!!」

「見せてもらったぞ祐希、見事な奇襲攻撃だったな。あれが二人と特訓していた秘策か?」

「はい、二人とも完璧にこなしてくれました。あれだけ綺麗に決まると気持ちいいです」

 隼ちゃんが盗塁の要領でスタートを切る。盗塁だと思ったサードはベースに入ろうとする。そこへ智輝君がバントをして打球をサード方向に転がす。
 虚を衝かれたサードは焦りながらこの打球に対応しようとし、ファーストが間に合いそうと思い、思わず罠だとも知らず投げてしまう。

 投げた瞬間、隼ちゃんが加速しホームに突っ込む。

 向こうの監督だけは気づいていたようだが、選手はホームに突っ込んで来るなんて、まるで頭に無かったようだ。

 完全に裏を掻くことが出来た。奇襲作戦大成功。

 隼ちゃんはホームイン後、智輝君に向かってガッツポーズをし、智輝君は拍手しながら隼ちゃんに近づき、抱き合ってひとしきり喜びあった後、こちらに向かって両手を突き上げながら走ってきた。

 この奇襲作戦は智輝君の言葉から始まった。ウチのチームはクリーンナップの得点力は物凄いが下位打線になるとそうでもなくなる。

 原因は自分、僕の打率が悪いからどうしても得点力が下がってしまう。何か策は無いか相談され始まった。

 隼ちゃんの走塁力とスライディング力は、2回戦のサヨナラホームインした時で証明されている。

 智輝君は人並み以上の打撃練習をした上に、更に人一倍のバント練習をしていた。彼らの努力を活用する方法はないかと思案していた。

 本当に見事だった。サイコーのバントエンドランだったよ。まだ興奮して胸が高鳴ってるよ。





 あの筋肉バカどもが!筋トレばっかりしてるから、脳にちゃんと栄養いってないんじゃないのか?あれくらいのことで、あたふたしやがって。

 一つの事しか出来んのか、単細胞バカが。

 しかしあの腐れ青二才が!小生意気にバントエンドランなんて小細工使いやがって、ムカつくやつだ。

 下位打線の山猿どもは確かに小細工が上手い器用な選手だとは思うが、裏を返せば打てないから小細工を使わざるを得なかったとも言える。

 正攻法は無理だと言ってるようなもんだ。次から小細工に注意させればいいだろう。

 まあ1点くらいいいだろう。今のうち喜んどけ、ひよっ子の下っ端風情が。





「やっぱりスゲーなー、ウチのチームの先輩方は。皆んな勝つために最善の努力をしている」

「そうだねー、キャプテンがしっかりしてないから自主性が生まれるんだねー」

「そうだねー、キャプテンが本当にただのお飾りだよってオイ!そう言うこと、はっきり言うなっ!」


『さんしーん、バッターアウトー』


「三振だった」

「三振だったじゃねーよ!今日もかよ!」

「ホントこれから盛り上がっていきそうな時、いっつも三振だな」

「もう次から、さん死んだな」

「そうですね。太田先輩、さん死んでゲームオーバーですね」

「僕はアプリゲームか!!」

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