廃校が決まった母校の名前を、高校野球史に刻め!

加藤 佑一

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第三章 道のり

第13話 やられたらやり返す

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「やーい、うすノロー、僕のことアウトに出来ないようじゃ、源工業アウトに出来る訳ないんだからなー」

「分かっとるわボケ、うすノロ言うなー、竜ちゃんのクソがー」

「たっかちゃーん、そんなんだから豚足の亀って言われんだよー」

「えっ!俺そんなこと言われてんの?」

「今思いついたからこれから流行らせる」

「変なの流行らせんなって言ってんだろー、今に泡吹かせてやるからな!覚えとけタコ!」

 照れ屋さんで自分の素直な気持ちを言葉に表現することが出来ない貴ちゃん、君が汚い言葉を吐くときは大体感謝の気持ちの裏返しだよね。 

 自分の盗塁阻止練習に付き合ってくれてありがとうと思っているんだろうけど、それは違うよ。

 僕達の盗塁練習にもなっているんだからね。

 第一打席はライトフライだった。感覚は掴んでいる。次は絶対に打つ!必ず塁に出てやる。出ないことには何も始まらない。

 将大君が言ったように今日はストライクゾーンが幾分高い。バッターにとって有利な状況なんだ。

 ボールを引きつけ思いっきり叩くんだ。


『打ったー、ライト前ヒットー、この回の先頭バッター、久保選手見事ライト前に弾き返しましたー、追いかける耶麻高校、ノーアウトでランナーを出しましたー』


「久保くーん、ナイバッチィー」

「久保せんぱーい、一番好きだよー」

「良ちゃーん、そうだろうと思ってたよー」

「オメー等、試合中になに愛の語らいしてんだよ」

「なんで今のが愛の語らいなんですか?」

「普通そう聞こえるだろ、お前の言いたかったのは竜ちゃんの一番打者が一番しっくりくるって言いたかったんだろ?」

「はい」

「一番好きだよー、なんて言葉、背景知らなかったら普通にコクってる様に聞こえるだろ」

「あはは、まぁそれはそれでOKということで」

「OKなんかい!」


 よし、まずは第一段階クリア、何とかランナーに出ることが出来た。大きくリードしセカンドベースに意識を持っていきながら、投球すると分かった瞬間スタートだ。

 ピッチャーのクセは掴んでいる。やってやる!


『ランナー走ったー、バッテリー完全に意表突かれたかー、キャッチャー投げることもできませーーん。余裕の盗塁成功でーす』


「初球から!」

「狙ってやがったなアイツ!?」

「うぉーー、何してくれてんじゃ、お前ー」

「カッコイイぞー、向こうのお株奪いやがって!」


『ランナー、また行ったー、3盗は無いと思っていたかー、キャッチャーまた投げることできませーーん』


「マジっすか!?」

「いやー、鳥肌たった!」

「やっぱ久保せんぱい、一番好きでーす」

「バッキャロー、俺も大好きだぞー」





 かっこいい、メチャクチャかっこいい。いつでもお前等と同じこと出来るんだぞと言わんばかりのあの態度、元々抜かりない奴だとは思っていたけど、ここまで見据えた上で俺の練習に付き合ってくれていたのだろうか?

 その後、翔真がきっちりスクイズを決め1、2番コンビで1点取ってきた。あっという間だった。あっという間の同点劇だった。

 向こうも何が起きたか分からないまま、足が地につかない状態のまま点を取られた感じだった事だろう。

 さっきまでの俺と同じ気分になっている事だろう。

 すげーよ!マジすげー!何なんだよお前等!

「おぅーーっ!サイコーだぜお前等ー」

 俺はそう言って1、2番コンビを迎えた。

「この試合勝つために最善の努力をしているのは君だけじゃないんだよ」

 竜ちゃんは俺に向かってそう言ってグッドのポーズをしてきた。

 君がしてやられたとしても僕が仕返してやるから大丈夫だよ、とでも言いたいのか?

「このヤロー、お前までかっこいいセリフ吐きやがってー、憎たらしい奴だなー、このヤロー、このヤロー」

 俺は中村の時以上に竜ちゃんを揉みくちゃにしてやった。

 皆んなすげー、本当に頼もしい仲間だ。それに比べ俺だけダセー、くっそー、負けていられないじゃないか。

 そう思っていた時、また快音が響き渡った。


『打ったー、センターの頭を超えてフェンスに到達ー、石橋選手2塁到達ー、2ベースヒットー』


「うっしゃー、康誠ー、でかしたぞー」

「康ちゃーん、今日は目立ってなかったから打てて良かったねー」

「康誠ー、大した活躍出来てなかったから打てて良かったなー」

「コラー、一言多いわー!褒めるんならちゃんと褒めやがれー」


『打ったー、レフト線ー、フェアー、2塁ランナーホームイン、中村選手、タイムリー2ベースヒットでーす。逆てーーん、耶麻高校逆転に成功でーす。3対4でこの試合ひっくり返しましたー』


「コラー、お前は逆転打打ったんだぞー、もっと喜べよー」

「だからスカしてんじゃねーよ。爽やか青年気取ってんなー、ブー、ブー」

 セカンドベース上で軽くガッツポーズしただけの中村に、ナインからヤジが飛んでいた。逆転打を打ったというのに酷い言われようなのだが、笑って流していた。

 続く良太はセンターフライだったが、隼人はレフト前にヒットを打っていた。

「どーだー、役立たずなキャプテンと打順入れ替えだな」

「何ー!!」

「そうだなそうしよう」

「えー!!」

 当たりが強すぎて打球は直ぐにレフトまで到達していたので、中村はホームに帰ってくることができず、ツーアウトランナー1、3塁の状態で俺に打順が回ってきた。

 よし、絶好のチャンスだ、今度こそバットでチームに貢献してやる!


「さんしーん、スリーアウトチェンジ」


 ああ、、ダメだった、、今日の俺、全然ダメ、何で打てないんだろ?

「コーチ何で打てないんでしょうか?」

「お前はしばらく休んでいたからな、今のバットスイングのスピードと頭の中の感覚のスピードにズレがあるんだろう、しばらくすると元に戻るよ。焦るな」

 ということはこの試合の俺の打撃は期待できないっていうことか?

 ならやっぱり今日の俺の仕事は盗塁阻止か。ならばやるしかないと俺は腹を括った。

 皆んなに負けていられない!

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